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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
2章・二学期~
32/111

5話。模擬戦(中)

身体は投稿を求める……

1戦目は誰もが予想した結果ながら、誰もが予想できなかった過程で終了した。

結果は一撃でコックピット部分を潰された翔子の負け。


ちなみにこの対戦で啓太がやったことと言えば、ジャンプして、索敵して、見つけたから撃った。


これだけだ。


3秒かかったのも、上から翔子が操る機体を見つけるのに多少の時間がかかったからで、もし目の前にいたら対戦開始と同時に発砲して終わっていただろう。


エースとの戦いということでそれなりの覚悟をしていた翔子や、第三者の視点から詳細なデータを取ろうとしていた那奈も閉口するしかない結果であった。


「そもそも遠距離射撃を目的として造られた御影に5000mは短すぎるんだよ。こっちとしては近接戦闘がみてぇから、できたら闘技場でやってくれねぇかなぁ」


啓太のガレージにてなぜか後方師匠面する最上隆文の言葉である。

この隆文の言葉はそのまま啓太の認識でもあるのだが、隆文と啓太には明確な違いがある。


それは何か。

この対戦に対する価値観だ。


一撃で10万GETできる啓太と、ただぶち抜いたというだけのデータしか取れない隆文では当然対戦にかける意欲が違う。


闘技場での対戦ももちろん大歓迎だが、そこに至る前にせめて広域で2回、通常の戦場でも2回はこなしたいと思っている。そんなわけで一度で諦められては困る啓太は、一つ小細工をすることにした。


『まだやるかい?』


意外! それは確認と見せかけた挑発っ!


いかにも「私、不完全燃焼です」と言わんばかりのテンションで確認されてしまえば、もともと気が強い翔子がなんと答えるか? など、確定的に明らかなことだ。


(こい。こいッ)


彼女は乗ってくる。そう確信はしているものの、翔子の性格云々ではなく一戦10万は軽くないという現実的な負担が引っかかっていた啓太は、シミュレーターの中で(お願いします! 乗ってください!)と拝み倒していたとかいなかったとか。


しかして翔子の返答は……。


『もちろんよ やるに決まってるでしょ!』


(ヨシ!)


啓太の不安もなんのその。半ば切れ気味に継続を宣言する少女がそこにいたのであった。



―――


田口那奈。


『対戦は続けるわ。続けるんだけど、ちょっと待ちなさい』


『うぃっす』


(う~ん)


川上啓太は五十谷翔子が相手の場合に限り、妙に素直な所を見せる。


五十谷翔子がお金を払っているから……ではないだろう。

恋とか愛とかでもない。

敢えて近いところを挙げるとすれば、妹の我儘を聞いている感じが近いだろうか。


どうやってあの少年の懐に潜り込むことに成功したのやら。

本人に聞いても『知らないわよ』としか言わないけど。


(あの性格だと男に嫌われると思ったんですけどねぇ)


自分でもあざといと思う態度をとっているのは男からの好感度を稼いだり、油断を誘うためだ。

男であれば多かれ少なかれ好感を抱くものだと思っていたし、実際周囲の男たちから好色な視線を向けられたことはあっても警戒されたことはない。川上啓太を除いては。


いや、もちろん大人の中には笑顔で接しながらも目が笑っていない人はいくらでもいたけど、同年代の男性から警戒されたのは初めての経験である。


五十谷翔子が何かを吹き込んだか? とも思ったが、川上啓太は初対面のときから自分を警戒したように思える。


(う~ん)


彼は自分の態度に一体何をみたのか。


有象無象に好かれようと、肝心要の川上啓太に嫌われたのでは意味がない。


(もう態度を変えるべきよね。でもあからさまに変えても駄目。うん。やっぱり五十谷翔子に併せる形で変わったと思わせるのが自然かしら?)


「那奈。なんにもわからないうちに落とされたんだけど、一体私は何をされたの?」


(おっと。態度は徐々に変えるとして、まずは目の前のことよね。五十谷翔子に嫌われたら元も子もないんだし)


「へぇ~頭に血が昇ったように見えて意外と冷静なんですねぇ。てっきり『なんなのよあれは!』って騒ぐくらいのことはするのかと思ったんですけど」


(かと言って露骨にすり寄っても駄目。川上啓太も面倒だけどこの子もそこそこに面倒なのよね)


「冷静っていうか、困惑してるだけよ」


「なるほど~」


あぁうん。納得。そりゃスタートして遮蔽物を探そうとしたらズドンだもんね。

怒るも何もないのか。


「……で? 見てたでしょ? アレは何をしたの? それがわからないと対処のしようもないわ」


「そうですよねぇ」


普通なら感想戦をするところだけど、向こうの方に感想もなにもないものねぇ。


「……」


おっと、あんまり引っ張って機嫌を損ねられると私の時に何もしてもらえなくなるからね。

ここは変に誤魔化さないで真実を伝えてあげましょうか。


「彼がしたことは簡単です。あの四脚だからこそ生み出せるであろう脚力をフルに使って高くジャンプ。高度を利用した索敵で翔子さんの機体を発見。そしてズドン。これだけですよ?」


一連の動作に全く無駄がなかったわね。


「ジャンプ? でもそれだけの高度を出したら着地の瞬間に壊れるんじゃないの?」


「普通ならそうなるでしょう。あの機体はただでさえ30トンという草薙型の倍、八房型の3倍の重さを誇っていますからね」


「装備を入れたら35トンらしいわよ?」


「あら、そうなんですか?」


それでなんであんなジャンプができるんだか。

脚力だけではなく魔力も関係しているのは確実ね。


「それで、あれがそんなに高く跳べるというだけでも驚きなんだけどさ。肝心の着地はどうだったの?」


着地? あぁ。シミュレーターだと設定によっては『敵を倒した時点で状況終了』なんてこともできるけど、普通は残心というか残身というか、相手に勝った後もしばらくは状況が続くのよね。


それで油断して相討ちになるってケースも多々あるし。実戦ならなおさらそう。


だから五十谷翔子が気にしているのは『着地に失敗したんじゃないの?』ってこと。


普通ならそう思うわよね。35トンの機体がハイジャンプなんかしたら、着地の衝撃で壊れると思うのは普通。私もそう思った。でも残念。


「彼、脚と背中から例のアレを出して着地の際の衝撃を緩和していたみたいですよ?」


「……そんなこともできるの?」


「できてますねぇ。正確には、ジャンプの時もアレを放出して推進力代わりにしたみたいだし、着地の前段階でも落下速度を緩めるのにも使っていたように見えました」


「なによそれ!」


「うん。そう言いたくなる気持ちはわかりますよぉ。理不尽ですよねぇ。だけど、それこそが私たちが見たかったモノ。そうでしょう?」


「それは……そうね。その通りだわ」


僅か数秒で10万円を支払った形になるけど、アレが見れただけでも十分すぎるほどの価値がある。


懸念があるとすれば『これでは訓練にならない』と言われて対戦を打ち切られてしまうケースだったけど、向こうから『まだやるかい?』と確認してくれたから、少なくともあと一回はできるわ。


あれが挑発なのか気遣いなのかはわからないけど、本当にありがたい。


『よし! もう一回いくわよ! フィールドは一緒! だけど今度は攻撃をするまで……そうね、10秒待ちなさい!』


『はいよ』


「なるほど~。そうきましたか~」


いきなり狙撃されて終わったのでは意味も何もないから、攻撃開始までに時間を設けること自体は妥当な判断だとは思う。思うんだけど……。


「10秒で足りるんですかねぇ」


何となくどうなるか予想はできたけど、それでも貴重なデータだ。見逃すつもりはない。


そう思っていたんだけど、どうやら私が思っていたよりも川上啓太という男は五十谷翔子に甘いようね。


『とうっ』


『見えた! あれがジャンプかっ!』


開始直後の今、ああやって飛んだところで攻撃できないんだから、飛ぶ意味はない。

つまりあれはわざわざ見せてくれたってことでしょう。


なにせ索敵の為にジャンプするってことは、当然相手からも見えるってこと。

特に御影型は魔力を使ってジャンプ力を増しているから、光を纏っているように見える。

だから遠くからでも見えるのよね。


ただ、ねぇ。


長距離射撃を旨とするが故に射程10キロを超える120mm滑腔砲と155mm榴弾砲を携行している御影型と違い、近・中距離戦闘を旨とするが故に遠距離攻撃手段を持たない草薙型では相手が見えたところで、できることはないわ。


もちろん私も五十谷翔子もそれは知っている。

だから彼と戦うにはどう狙撃を防いで距離を詰めるかが重要になるんだけど……。


『朝はもちろんだが、放課後のナパームの匂いも格別だ!』


『は、はぁ!?』


「まぁ、そうなりますよねぇ」


155mm榴弾砲から放たれる焼夷榴弾。相手は焼け死ぬ。


―――


第二戦目、終了。


所要時間、16秒。


五十谷機、大破。


機士、死亡。


―――



「うーん。あれが件の大攻勢で中型の魔物と小型の魔物を大量に焼き殺した焼夷榴弾の雨ですかぁ」


確かに隠れることで狙撃は防げる。狙撃手が見えるのであれば射線から隠れればいいだけ。

でも、御影型の攻撃は狙撃による単体攻撃だけじゃない。言うなれば範囲攻撃が存在する。


(あたり一面を焼き尽くす一撃を防げないと丸焼きになるしかないって、なんていやらしい戦い方なの。いや、魔物相手にはとても有効的な攻撃なのだから非難するのはおかしいのだけれども)


「う~ん。大型の魔物なら耐えられるかもしれないけど、少なくとも草薙型は無理ね。もう単騎で勝てる相手ではないと認めるしかないのかしら?」


戦場の花形とされている草薙型の乗り手としては思う所がないわけでもないけど、ここまで実力差を見せつけられては認めるしかないわ。ただ、何かしら勝っている点は探したいところよね。

噂では近接戦闘が苦手らしいけど、向こうが乗ってくれるかどうか。


『……まだやるかい?』


(よし。少なくとももう一回はできる、か。よかったわ)


『やってやるわよ! でも、準備があるからちょっとだけ待ちなさい!』


『了解』


「ん~。元気ですねぇ」


『那奈っ!』


「はいはい」


他人事じゃないからね。協力は惜しまないわよ。

できたら私がやるときの為に弱点とかを見つけて欲しいんだけど、さすがに無理かな?


願わくば良いデータが得られんことを……ってね。



閲覧ありがとうございました

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