表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極東救世主伝説  作者: 仏ょも
2章・二学期~
31/111

4話。模擬戦(前)

後半の数行が全てです

軍学校に於いて普段啓太たちが行っている訓練は、走り込みや筋トレといった生身の肉体を鍛えるものが主なものとなっている。


これは機体の操作に関してそれぞれの進捗が違うことや企業の都合などがあるためだ。


例えば9席で入学した小畑健次郎と首席で入学した武藤沙織では、同じ学年、同じAクラス、同じ型の機体を用いているにも拘わらず大きな差が存在している。


そのため両者の間では射撃戦でも近接戦でも戦いが成り立たない。


この場合、小畑の方は上級者と戦えるからそれでいいかもしれないが、武藤の方には一切得るものがないという形になってしまう。


こういった不公平を抑えるため、機体を使った訓練は放課後、各自で行うことになっていた。


もちろん上記の場合は小畑健次郎と武藤沙織という例が悪いだけであって、実力が近い者同士が戦うことは悪いことではない。それは機体という、己の手足の延長線上にあるものを操る機士にとっても同じで、彼ら彼女らにとって至近距離で他人の動きを見るというのは意外と大きな意味を持つのである。


もちろんそれは()()()()()()()()()()()()()()()()、の話ではあるが。


―――


軍学校に置かれているシミュレーターには、お互いの整備士が許可を出せば他の生徒と対戦ができる機能がついている。イメージとしては令和日本のゲームセンターなどにある筐体を使用したオンライン対戦そのままだと思えばいい。


使用するデータはリアルタイムで更新されている最新のものが使える他、更新前のデータを使用することも可能である。これにより成長の度合いを測ることができるというわけだ。


もちろん最新のデータは社外秘などに分類されることが多いのでそう大っぴらに対戦では使用しない。


今回双方の整備士の意見を聞く前に対戦を決めてしまった両者であったが、そもそも五十谷サイドは最新型の情報を欲していたし、最上重工業としても対人戦闘のデータは欲しかったという理由があったので許可が出た形ではあるものの、一歩間違えば問題になる可能性もあったため啓太は『事前に話をしろよ』と釘を刺されることになった。(ちなみに五十谷は「よくやった!」と褒められた)


彼我の整備士の対応についてはさておくとして。

とりあえずシミュレータの話を続けよう。


シミュレーターには大きく分けて3つのフィールドが用意されている。


まずは半径5000mの最も実戦に近いとされるもの。

ストレートに【広域戦場】と呼ばれるフィールドだ。


これは主に複数の生徒が共同で行う場合や、全体訓練を行う際に使われるフィールドで、実戦さながらの挙動が求められるため難易度は高めに設定されている。


正規の軍人も同じタイプのフィールドを利用するので、教員たちはこちらを勧めるのだが、生徒たちからの人気はない。ちなみに普段啓太が一人で訓練しているのもこのフィールドである。


次が半径500mのフィールド。こちらは単純に【戦場】と呼ばれている。


さすがに普段から半径5キロのフィールドを利用して匍匐前進をしたり遮蔽物を利用して接近したり、相手の動きを予想して展開、しかるのち合図と同時に攻撃……なんて本格的かつ複数の人員が必要な訓練などできないため、一定以上の距離を詰めた場合に必要とされる挙動の訓練を行う際に利用される。


通常生徒たちがチームプレイなどを行っているのはここだ。


最後が半径50mのフィールドで、生徒たちからは【闘技場】と呼ばれているフィールドだ。

主に近接や中距離での戦闘技能を磨く場で、機体同士の連携訓練も可能なフィールドなので生徒からの人気は高い。


尤も、実戦を知る軍人たちから『こんな状況で戦闘になるなんてありえん』と一蹴されてしまっているので、このフィールドは軍では採用されていない。


これはあくまで他のフィールドに於いて接近する前に脱落してしまったり、長期の訓練を面倒臭がった生徒たちなどから『面倒なことをせずに戦闘ができるフィールドが欲しい』と言われた開発陣が学生のお遊び用として作ったフィールドである。


この中で翔子が最初に選んだのは、もちろん半径5000mの【広域戦場】である。


普通に考えればここは長距離射撃専用機である御影型が有利なフィールドであり、普通の草薙型を操る翔子には1%の勝機も存在しないフィールドである。


そもそもこれまでこのフィールドで訓練した際も、翔子は毎回まともに接近することもできず、魔物から放たれる魔力砲撃によって一方的に敗北を喫することを繰り返している。


それなのになぜこのフィールドを選択したかと言えば、啓太が全力で敵を葬る際の挙動を体験するためであった。


(大型を一撃で葬る狙撃手との戦い。これを経験しておけば、実際の戦闘でも必ず役にたつからね!)


基本的に草薙型の戦闘方法は、距離を詰めての白兵戦か中距離での射撃戦である。

そのため全力を出すためにはある程度距離を詰めなくてはならない。


戦場であればそのために砲士や八房型による援護があるが、今回は対戦を目的としたシミュレーションのためそう言ったものは存在しない。


五十谷は啓太という狙撃手を相手に、味方の援護がない場合での距離の詰め方を学ぼうとしていたのだ。


少しでも軍事的な常識を持つ人間であれば『そんな状況あるか?』と首を傾げたくなるような前提条件ではある。


だがしかし、彼女の対戦相手は砲士や八房型だけでなく、誰の援護も受けていない状態で戦端を開き、大型を含む大量の魔物を単騎で蹂躙した男である。


実際にできる人間がいるのだから、敵にもそう言った輩が現れないとは限らないではないか。


もし自分がそんな相手と向き合うことになったらどうする? 

援護がないから戦えません。とでも言うか?

経験がないから戦えません。と言って逃げるか?


(どっちもありえないでしょ!)


五十谷翔子は武家である五十谷家の令嬢である。

これまで武門の人間として両親から厳しく躾けられてきたし、当然のごとく武術や戦術を学んできた。

その結果がAクラス。それも4席での入学という事実だ。

それは五十谷翔子は百数十万人いる同い年の子供の中で、4番目の実力を持つという証。

そこまでして己を鍛えたのは、偏に有事の際に率先して戦に赴くため。

それをするからこそ武家は武家足りえるのだから。


自分たちが一般人家庭にはない権益を持ち、贅沢な暮らしができるのも、その義務を果たしているが故のこと。それなのに、いざ実戦となったら戦えない? それは一体なんの冗談か。


特に今年は例年とは違い、3席に現役の軍人でさえ不可能なことを成し遂げた変態が、9席には大した実力もないくせに偉そうにしているクソガキがいるのだ。


そのせいで自分たち全員が、上級生や軍の人間に『今年の新入生は全員下駄を履いているのか?』などと揶揄されているのかと思うと、想像しただけで神経が苛立つ。


(私でさえそうなんだから、武藤沙織や藤田一成は猶更でしょうね)


自分が望んだわけでもないのに家の都合で啓太よりも上位にされた二人が常に感じているもののことを思うと、さしもの翔子とて可哀想に思う。


(だけどそれはそれ。よ)


下駄を履かされた上で啓太に負けた自分に彼らのことをどうこういう権利などない。


(だから、まずは現時点での私の力がどのくらいなのかを把握する!)


エースに勝てるなどと自惚れてはいない。いい勝負ができるとさえ思っていない。


経験をその身に宿す。まずはそれから。

覚悟を決めた翔子は己のハンガーに備え付けられているシミュレータに入り【対戦】を選択すると、体が沈み込むような感覚と共に自分が機体に乗っているような感覚に包まれる。


意気揚々と――内心では緊張しながら――広域戦場へと降り立つ翔子。


(対戦開始ね。まずは遮蔽物を探さないと……)


狙撃手を相手にした場合の基本は隠れることにある。故に最初に翔子が遮蔽物になりそうなものを探すのは決して間違っていない。


だが現実は非情である。


『見つけた。ちゅどっとな』


『きゃ!? ……え?』


「あ、あらぁ~?」


一戦目、終了。

所要時間、3秒。

五十谷機、大破。

機士、死亡。


『10万ゲットだぜ!』


『え? は?』


「う~ん。この結果はさすがに想定していませんでしたねぇ」


こうして啓太と翔子の模擬戦は、覚悟を決めていた翔子も、少しでもデータを取ろうとしていた田口那奈も想定していなかった結末ながら、彼我の差を考えればあまりに順当な結果で幕を開けたのであった。


まぁ、そうなるよね。




閲覧ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ