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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
2章・二学期~
29/111

2話。プロローグ

沢山ポイント頂けたので、本日3話目の更新です

それはとある街にある、とある屋敷の中での出来事であった。


『グギャォォォォォ』

「ひ、ひぃぃ!」


屋敷の主であった男の一人娘である少女は、突如として現れた魔物から逃げていた。


いや、少女の視点でみれば突然の出来事ではあったものの、実のところ魔物たちは普通に街に接近したし、普通に街の防御を破ったし、普通に街の中を襲っているだけなのだが、今まで街の中で暮らしていて魔物など見たこともなかった少女からすれば、この襲撃はやはり突然のことであった。


少女の認識はさておくとして。現実問題として彼女は魔物に追われていた。


『ゲギャ! ゲギャ!』

「う、あ、」


魔物はニンゲンを襲う。

魔族からの命令でもあるが、なにより彼らの空腹感や本能を満たすためにニンゲンを襲う。


基本的に小型の魔物は中型以上のそれとは違い魔力障壁を持たないので通常兵器でも対応できる。

そのためその脅威度は中型以上の魔物と比べて低く設定されている。


だがそれは『脅威ではない』という意味ではない。


戦う術を持たない人間が森で野生動物に襲われれば生死の危険があるように。

力のない子供が武器を持った大人に襲われたら抗うことができないのと同じように。


まして小型は数が多い。中型1体に対し20体近くいる。

そして彼らは罠にかからないだけの知恵があり、残忍だ。


故に小型は怖い。中型や大型のように一思いに殺してくれないから。

場合によっては食事だけでなく繁殖に利用する為に連れていかれてしまうから。

だから小型の魔物こそ、力を持たない人間から一番恐れられていると言っても過言ではないかもしれない。


『ギャギャギャ』

「あぁぁぁぁ!」


その少女の目に映るのは非力な自分を見て嘲笑う魔物の顔。

耳にこびりつくのは非力な自分を見て嘲笑う魔物の声。


『グギャ。グギャ』

「いやぁぁぁぁぁ!」


まるで狩りを楽しむかのように嗤いながら、獲物をあえてゆっくりと追う魔物たち。

それから必死で逃げ惑う少女。その姿が彼らをより一層喜ばせていることなど知らないだろうが、反対にそういった部分を煽っているからこそ一思いに殺されていないという一面も否定はできない。


しかしそれとて限界がある。


「あっ!」


体力が尽きたのだろう。少女は何もないはずのところで転倒してしまう。


「いや……こんな……」


泣きながら、それでも魔物から距離をとろうとして必死で這いずる少女。


「助けて……だれか……」


助けを呼ぶも誰も来ない。

父も、母も、兄も、爺やも。家を護っていたはずの兵隊さんたちも。誰も来ない。


それもそのはず。

だってここにいたみんなはすでにしんでしまったのだから。


抗った者たちはその場で魔物たちに殺された。

逃げた者たちは遠距離からの攻撃ではじけ飛んだ。


そこまで詳しいことは知らなくとも、少女は泣いても叫んでも自分を助けてくれる存在がこの場にいないことを理解してしまっていた。


それでも、それでも少女は叫ぶのだ。

死にたくない。殺されたくない。だから助けて。と。


生存本能に従って。ここで力を出し切らないともう出すところはないと理解しているから。


「だれか。たすけて!!」


救いがないとわかっていても、少女はそう口にするしかなかった。


『ギャッギャッギャッ』


必死で、涙を流しながら無駄なことをしている少女を見て悦に浸る魔物たち。


彼らは自覚しているのだろうか。

自分たちも魔物にされる前はあんな風に泣いていたことを。

自分たちを苦しめる魔物たちに対して恐怖と、殺意を抱いていたことを。


いや。もしかしたら覚えているのかもしれない。


自分がニンゲンであったときのことを覚えているからこそ、まだニンゲンでいられている少女が羨ましく、妬ましいのかもしれない。


わざわざ恐怖心を煽るように追い詰めているのも、その感情の発露なのかもしれない。


「だれか。だれかぁ!」


誰もいない屋敷に泣き叫ぶ少女の声が響く。


『グギャ』


力なく助けを求める少女を見て魔物たちも満足したのか、これまでのようにわざとゆっくり歩くのではなく、普通に少女に接近し、泣き叫ぶ少女の頭を掴んで持ち上げる。


「あうっ!」


小型と言われようとも少女よりは大きい。己よりも大きな魔物に捕まってしまえば、非力な少女に抵抗なんてできやしない。


このまま食われるのか。それとも魔族が運営する牧場に連れていかれるのか。


「た、たす……」


一縷の希望を掛けて最後の声を上げる少女。

もし魔物が話せたならば『助けなんてこねぇよ!』と嗤いながら告げただろう。


事実、この期に及んで少女に助かる術など存在しない。


このまま誰にも知られずに殺されるのか。

一思いに殺してくれるのか。

それとも生きたまま食べられるのか。


彼女がまだ【繁殖】という言葉を知らなかったが故に最悪の想像はしなくて済んだが、それが何の救いになるというのか。


『ギャッギャッギャッ』


「あぁ……」


いい夢は見れたか? と言わんばかりの醜悪な笑みを浮かべた魔物たちの前に投げ捨てられた少女は、その絶望のあまり考えることをやめようとした。


――その直後のことであった。


『ラヴィィィィ!』


『ドアッ!?』


「え?」


『ダッヴァイ!』


『シコッ!?』


「えぇ?」


『多対1? 一向に構わんッ!』


『レカッ!』


「えぇぇ?」


『貴様らはニンゲンを舐めたッ!』


『ドルッ!?』


「えぇぇぇ?」



謎の掛け声と共に現れた一陣の風が、少女を囲んでいた魔物(絶望)を薙ぎ払ったのである。


風が吹けば魔物が弾ける。


(すごいなぁ)


そんな非現実的な光景を前にして、少女は呆然としながらも本能で「自分は助かったんだ」と認識した。


「……あ」


元々体力の限界だったことに加え、張りつめていた緊張が解けたこともあるのだろう。


少女が吹き荒れる風の正体を認識するまえにその意識を落としてしまったことを誰が責められようか。


『少女よ、よく頑張ったな……って寝てるぅ!?』


少女を助けた風が何やら叫んだ気もするが、それとて別に少女を責めたわけではない。


『恰好つかねぇなぁ。ってかこれ、俺が運ぶのか?』


たとえ自己紹介の前であろうとも、たとえ意識を落とした少女を担ぐことになろうとも。


魔物から逃げるために全力を尽くしたが故に、疲れて眠ってしまった少女を責めるニンゲンなんてどこにもいなかったのである。


謎の風。一体なにものなんだ?(迫真)


閲覧ありがとうございました。

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