1話。妹の視点から
2章スタート。むしろ1・5章?
一番脳をヤられている人の話
私こと川上優菜にはお兄ちゃんがいる。
というかお兄ちゃんしかいない。
両親だった人たちは実は血のつながらない研究者で、私たちの情報を売ろうとして粛清されたし、自称親戚の人たちとはお兄ちゃんが距離を取ったから、私たちは二人で暮らしている。
それは別に良い。
むしろそれが良い。
お兄ちゃんは私と自分に血の繋がりがないことを知らないから、一緒に寝ても問題ないと思っているのも良い。
……最近は一緒にお風呂には入ってくれなくなったけど、まぁお兄ちゃんは紳士だからしかたない。
そんな紳士のお兄ちゃんは天才でもある。
私たちは第三次救世主計画の被験者だけど、そういうのは関係なく天才なのだ。
実際軍学校に入学したと思ったらすぐに出世したし、夏休みに九州へ出張に行ったと思ったらまた出世して帰ってきた。
半年で二回も出世するお兄ちゃんが天才でなくてなんだというのか。
それに、お兄ちゃんの活躍が見たくて戦訓っていうのが纏められた資料を覗いてみたけど、本当に凄かった。
大型の魔物を狙撃でバッタバッタとなぎ倒したかと思ったら、中型以下の魔物をたくさん焼夷榴弾で焼却してたからね。あれだけの戦果を挙げたならそりゃ昇進するよ。
帰ってきたときに「ボーナスが出たぞ!」って言いながら見せてくれた満面の笑みは本当に尊いと思いました、マル
ただ、その額が二〇〇万円ってのはねぇ。あれだけ働いて二〇〇万円? って思っちゃった。
だってお兄ちゃんの活躍を見たでしょ? 大型の魔物一〇体と中型、小型がたくさんだよ? それもお兄ちゃん一人で。どう安く見積もっても数十億円以上の価値はあるでしょ?
まぁそれだけの活躍ができたのは軍が用意した機体の性能あってのことだから、単純にお兄ちゃん一人の功績ってのは言い過ぎかもしれないけどさ。
軍の上層部の方でも色々考えているのはわかるんだけどさ。
それでも「もう少し高くても良いんじゃない?」って思うのは決して悪いことじゃないと思う。
お兄ちゃんに「安くない?」なんて言っちゃったせいで「お前にはまだわからんかぁ」ってしょんぼりさせちゃったけど、多分お兄ちゃんよりわかってると思うよ?
気分を良くして帰ってきたお兄ちゃんには言わないけどさ。
私は私でそこそこ稼いでいるからね?
下手に貯金の額を言ったせいでお兄ちゃんがやる気をなくしてしまうのは嫌だから言わないけどさ。
どんな理由であれ、これまで『目立ちたくない』って言って自重していたお兄ちゃんが楽しそうに全力を出しているんだもん。妹としては応援するしかないじゃない。
……そのせいで変な虫が寄り付いてきそうなのはどうかと思うけど。
私のクラスでさえ今まで遠巻きに眺めてた男子がいきなり「お前のお兄さん凄いんだって!?」とか話しかけてきたり、今まで距離を取っていた女子も「ねぇ。お兄さん紹介してくれない?」とか言ってくるくらいだもん。
お兄ちゃんがいる学校だと尚更大変なんじゃないかな。
尤も、お兄ちゃんがモテるのは良いことだと思っているし、当たり前だとも思っているよ?
優秀なメスに惹かれないオスがいないように、優秀なオスに惹かれないメスもいないからね。
だから正妻である私としては、お兄ちゃんが複数人と関係を持つこと自体はやぶさかではないのです。
ただしそれが最初から打算塗れの関係なら話は別。
お兄ちゃんは種馬じゃないからね。
今のところそういう気配はないけど、注意は必要だと思う。
あと、もしお兄ちゃんがハニトラに引っかかっちゃって複数の女性と爛れた関係を望むように思考誘導されちゃったとしても、私が断固として修正する所存ですので悪しからず。
それはそれとして。
「お兄ちゃーん。ご飯できたよー」
「おーう。いまいくー」
九州への出張も終わって帰ってきたお兄ちゃんをねぎらうのは私の仕事なのです。
報酬として夏休み中は構いたおしてもらうつもりだけど、それもまた妹にして正妻の特権でしょ。
「おいしい?」
「おう! やっぱり優菜が作る御飯が一番だな!」
「えへへへへ」
ストレートな賛辞が一番うれしいです。でもご褒美は別腹だよね。
「でさぁ。今度結構いい評判があるお店に行きたいんだけど、暇があったらついてきてくれない? ……一人で行くのは怖いし、友達と行くにしても子供だけだと怖いしさ」
通常軍学校に通う生徒に暇なんかないんだけど、お兄ちゃんは違うんだよね。
機体の成長と最適化の為に休みすら訓練なことを私は知っているのです。
だからこうしてお願いをすれば、優しいお兄ちゃんは必ず……。
「ん? あぁ。もちろんいいぞ。優菜に何か変なことをしそうなやつがいたら、機関砲でハチの巣にしてやんよ」
ヨシ!
「あははは。ハチの巣はやりすぎだと思うけど、お兄ちゃんが一緒なら安心だね」
「おうとも。何があっても護ってやるからな」
「ありがとう! お兄ちゃん大好き!」
感謝に加えて好き好きアピール! お兄ちゃんは死ぬ!
「ハハッ。お兄ちゃんも大好きだぞー」
「……っ!」
ぐはっ! まさかこんなストレートな反撃がくるなんて!
あぁ。幸せ過ぎてツライ。でもこれからもっと幸せになるんだから、これくらい慣れないと駄目だよね。
(差し当たってはこのデートを必ず成功させる!)
そのためには絶対邪魔が入らないよう、私のクラスメイトとかお兄ちゃんのクラスメイトが来ない場所をねらいつつ、お兄ちゃんが楽しめるところをピックアップしなければ……。
(あぁ想像するだけで楽しい!)
――こうして私は夏休み明けに接触してくるであろう虫たちのことを頭の隅に追いやりつつ、残った夏休みの間、最高にお兄ちゃんとの生活を満喫するために様々な計画を練ることにしたのでした。
閲覧ありがとうございます。
 













