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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
1章・入校~夏休みまで
25/111

25話。BOY OF DESTINY

作業用BGM? 

勿論アレですよ

当然というかなんというか。啓太は芝野が勘違いしたように『怖いけど命令に変更がないから仕方ない』と悲壮な決意を固めて出撃したわけでもなければ、恐怖に負けて暴走したわけでもない。


単純に予定された時間になったから予定通りに出撃しただけだ。


「ターゲット確認。排除、開始ぃ!」


『アベッ!』


そもそも絶望しようにも啓太は軍学校に入ったばかりなので、通常魔物がどのくらいの規模で攻勢を仕掛けてくるか? など理解していない。


そのため大型が10体いようと中型が100体以上いようと「そんなもんか」としか思わない。


むしろ中途半端にロボットものの知識があるものだから『一度に万単位(場合によっては億単位)の数で襲い掛かって来る人類に敵対的な地球外起源種に比べたら数も脅威度も少なすぎる』なんて感想を抱いたくらいだ。


「選り取り見取りってなぁ」


『ビブッ』


それでも数の差が脅威であることくらいは知っている。そのため、もし司令部から『一人でアレを全滅させろ』なんて命令が出たら「ふざけんな!」と切れて司令部に流れ弾を叩き込むくらいのことはするつもりであったが、ここには60の機士と100を超える砲士、さらには数百両の戦車と数千人の兵士がいるのである。


敵の方が少なくて味方の方が多いのだ。これで一体何に怖じ気づけというのか。


「楽にしてやるよ!」


『タバッ!』


尤も、事前のブリーフィングでは自分が動く前に一斉射撃を行うはずだった彼らが今も動いていないことには多少の疑問を抱いたが、こちらの試験を優先させたと考えれば理解はできる。


「とぅ~とぅ~とぅ~」


『キャオラッ!』


優先された以上は試験に集中すべき。

そう判断したが故に、啓太は横軸移動を繰り返しながら魔物に襲撃をしかける。


「最新型が負けるわけねえだろ! 行くぞおおぉぁあ!」


『カドォ!』


最初に狙うはもちろん大型。なにしろ混合型のコンセプトは『単騎で大型の魔物を仕留めることができる機体』だ。元々そのために造られた機体である以上、まずは大型から倒さねば無礼というもの。


故に撃つ。撃つ。撃つ。


「オラオラオラオラ!」


『ディオッ!』


大型の特徴は、単純に大きくて硬くて強いことだ。


ただでさえ巨体を支えるための筋肉に覆われているところに、魔力による強化がかかる。その上常時魔力障壁と呼ばれる力場を展開しているため、その防御力は極めて高い。その防御力に加え、一撃で機体や戦車を蒸発させる攻撃力まで有しているのだ。弱いはずがない。


「てめえらに、今日を生きる資格はねぇ!」


『ムギッ!』


弱いはずはないのだが、それでも一方的に狩られていく。


スペック上ではここまで一方的に蹂躙することなどできるはずがないのだが、実際に啓太は無傷のまま一方的に大型を狩っている。


何故このようなことが可能なのかと言えば、偏に啓太と機体が成長しているのに対し、魔物が一切成長をしていなかったせいである。


「狙いが甘い!」


『ウラバッ!』


啓太は前回の戦闘の後もより機体に慣れるためにシミュレーターによる訓練を行っていた。


機体も、整備のとき以外は常に啓太の魔晶の中に収納されており、啓太のイメージ通りに動くよう常に成長と最適化を繰り返していた。


その結果、射撃時の反動の抑え方や、着地の際のバランスの取り方や衝撃の吸収の仕方。さらにはジャンプ中の制動など、さまざまな部分が強化されている。


翻って魔物はどうか。


確かにこちらが射撃を行った際に放たれる反撃の速度は速いし、その精度も極めて正確だ。

しかし、言ってしまえばそれだけだ。


「正確な射撃だ。それゆえ予想しやすい!」


『グフッ!』


攻撃自体に追尾するような効果があるわけではないので、反撃がくる前にその場から移動してしまえば攻撃は当たらない。また、反撃以外の場合は目標を目視してから攻撃を行っているため、急制動に対して反応ができない。


加えてまともな知性がないので、相手の動きを予想した攻撃、所謂『置いてくる』ような攻撃ができない。故に射撃と同時に飛び回ることが可能な啓太に攻撃を当てることができないのだ。


そのため啓太が警戒すべき攻撃は100を超える中型によって行われる『数を活かした弾幕』となるのだが、この状況ではそれも難しい。


というか不可能だ。何故なら啓太によって大型が優先して狙われ、次々と討伐されているからだ。


考えてみれば分かるだろう。中型や小型の魔物たちにしてみたら現状は30Mの建物がすぐ隣で崩落しているような状況である。当然狙撃主を狙うどころの話ではない。


それでも、倒れてくる魔物と同じくらいの大きさがあれば友軍が逃げまどっているのを尻目に攻撃が可能かもしれない。実際大型は啓太に対して反撃を行っている。


だが、味方に邪魔をされないくらいの大きさを持つということは、それだけ射線が通りやすく、的が大きいということでもある。


「とりあえず大型はお前で終わりだ!」


『ドワォ!』


「ヨシッ!」


1体が中型10体に匹敵するとされていた大型の魔物10体が、ものの10分と持たずに全滅した瞬間であった。


「次ぃ」


しかし啓太は止まらない。まだ中型と小型が残っているからだ。


「ん。大物の死体が良い感じに遮蔽物兼障害物となりつつあるな」


基本的に魔物による遠距離攻撃はレーザーのような感じで直線的なものである。故に残っている中型の魔物たちは大型の死体を避けなければ啓太に射線を通すことができない。


もちろんそれは啓太も同じである。大型が目立つからこそ狙えた部分があるが、大きくても10Mに届かない中型相手ではそうもいかない。


そのため啓太の快進撃もここまでと思われた……だがそれは、啓太が平射しかできない場合の話だ。


「これも計算のうちっ!」


なにしろ啓太が操る混合型が持つ砲は平射しかできない120mm滑腔砲だけではない。


曲射を可能とする榴弾砲も当然のように備えている。


それも、元は中型や小型を削るための予備として持たされていたものでしかなかったが、初陣で予想以上の働きを見せたが故に意識改革が成されたのか、それとも前回の戦闘で得た経験値によって機体が大幅に成長したことでより重い砲が持てるようになったが故に悪乗りしたのかは不明ではあるものの、今回最上重工業が用意した砲のサイズはなんと155mm(ちなみに前回は軽榴弾砲に分類される84mm)の押しも押されぬ重榴弾砲だ。


「砲身が、焼け付くまで! 撃つのを! 止めないッ!」


前回でさえ中型を仕留めるのに十分な火力があったにも拘わらず、今回はそれ以上の大きさの砲を使い、さらに砲弾に込められる魔力の量も文字通り桁が違う。そのため大型の死体に囲まれる形となった中型と小型の魔物に襲い掛かる火力は前回の比ではない。


「魔物は消毒してやらぁよッ!」


『『『『グォォォォォォォォォォ!!』』』』


「ヨシッ!」


宣言通り、砲身が焼け付く程に連続して打ち込まれた焼夷榴弾の雨。

己が生み出した紅蓮の炎に焼かれる魔物たちを見やり、満足そうに頷く啓太。


『『……』』


そうこうして、黒い機体が僅か十分もかからずに造り出した地獄のような光景は、一部始終を見ていた兵士全員の度肝を抜いた。


「ん? あぁ、空になったか。司令部。こちら2099特務小隊所属特務少尉です。一度補給のために帰投します」


『……』


砲身が焼け付く前に全弾を打ち尽くした啓太は、補給を理由に帰投しようとした。

一応近距離戦闘用の火器や武器は所持しているし、そちらの試験も必要だとは理解しているものの、さしもの啓太も炎の中に突っ込んでまで試すつもりはなかったからだ。


かと言って勝手に後退しては『敵前逃亡』と取られかねない。故に司令部に帰投――後退や撤退、ましてや逃亡ではない――の許可を得るための通信を行うも、すぐに来ると思われていた『了解した』との返事がこない。


「司令部、聞こえていますか?」


(あれ? ジャンプしすぎて通信機が壊れた? それとも耐熱試験とか近接戦闘のデータを取らせるよう最上さんが騒いでいる、とか?)


前者の場合は、まぁ事故だからしかたがない。今後に活かして貰おう。


だが後者。てめーは駄目だ。


啓太の脳内に、より厳しい試験をさせようとする変態の姿が浮かび上がる。


「司令部。応答願います」


(ここで舐めた命令をだしたら滑腔砲を誤射するぞ)


変態に対する殺意を抑えつつ問いかける啓太であったが、もちろんそのような事実はない。単純に啓太の叩き出した戦果を見て司令部全体が驚愕していただけだ。


そして誰にとってもありがたいことに、如何な驚愕とて、多少の時間と三度にわたる呼びかけを行われれば少しは薄れるものだ。


『……あ、あぁ! 了解した! あとはこちらに任せてくれ!』


「え? あぁ、はい。了解です」


自分達のミスに気付かないまま、司令部は更なる命令を下す。


『全部隊、攻撃開始! ただし通常型は反撃に備えて防御態勢! 獣型は戦場を包囲! 一匹たりとて逃がすな!』


『『おうっ!』』


出番を待っていた迎撃部隊も命令を受けて驚愕を呑み込みつつ動き出す。


テンションが上がった司令部は、補給したら再度出撃しようとしていた啓太に対し『もう出撃しなくて良い』と戦場から離れさせるような命令してしまったことを自覚していなかった。


もし啓太が武功を求める人間であれば『功績を独り占めさせないつもりか!』などと憤るかもしれない危険な命令だ。だが、幸いなことに性根の部分で平穏を望む啓太にそんな殊勝な考えはない。


「あとは任せる。つまり、もう帰っていいってことだよな?」


傍から見れば絶望的な戦いも、啓太からすれば試験の一環でしかない。

また何度も繰り返すが、今回啓太が動き回った時間は僅かに10分前後である。


つまり啓太にとって司令部から出た『あとは任せろ』という一言は、会社に出勤したものの、わずか10分働いただけで『頑張ったな。今日はもう上がりでいいよ』と言われたに等しい。


時給制なら文句の一つも言うかもしれないが、軍は月給制(稀に歩合がプラスされる)である。


「よくわからんけど、ラッキー」


司令部公認でオフになった啓太は、ドンドンドン! と絶え間なく撃ち込まれる砲弾の音と魔物の絶叫を耳にしつつ、魔晶に収納していた水を手に取って「働いている人たちを見ながら飲む水は美味いなぁ」と、中々アレなことを呟きながら余裕綽々に喉を潤すのであった。

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