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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
1章・入校~夏休みまで
21/111

21話。魔族や魔物についてのあれこれ

『コツを教えて欲しい』という要望に対して『考えるな。ボタンで動かせ』という、筋肉モリモリマッチョファイヤードラゴンもびっくりするような回答をしてからはや数日。


コマンドシステムを搭載することによって量産型がぎこちないながらも戦闘機動をとれたことが確認できたことで、軍はコマンドパターンの構築や簡略化、つまり今まで機士の能力頼みであったが故に結果的に軽んじられていたOSの開発に乗り出すこととなった。


これにより、最初は『赤いボタンを押したら右に飛ぶ』程度のシンプルな挙動しかできなかった量産型も、より複雑に動くことが可能になるだろうと期待を集めているらしい。


ここまではいい。啓太にとって肉壁……もとい、頼りになる仲間が増えるのだから、なんの問題もない。


しかしながら現実とは非情なもので、ハンサムな啓太が良いアイディアを提供しても魔物の数が膨大であることに違いはなく、日本も国土の防衛が精一杯である現状では『量産型が複雑に動くことができる=俺の活躍の場が減る』などということにはならないのだ。


むしろ量産型の問題が片付いたことで「量産機についてはよくやった。次は貴様だ」と言わんばかりに出撃要請が来ていた。


今までは機体の整備や成長の度合いを確かめるという理由があったため隆文が庇っていたのだが、今回はその隆文も戦場での試験を心待ちにしており、夏休みに入ると同時に九州行きが決定した啓太の行動を阻むものはない。


せめてもの救いは第三師団閥の連中も機体の制御訓練にあけくれることになるため、啓太が不在の間、妹の優菜が襲われる可能性が極めて低くなったことくらいだろうか。


(まぁ俺にすればそれが何よりの報酬なんだけどな)


ある意味で非常に安上がりな男である。


前回は一度戦闘を行った後、即座に帰投して各種のチェックを行い、レポートなどを纏めた後で東京に帰還したが今回は少なくとも半月の軍事行動を予定されている。


(逆に言えば半月働けば残りは休めるってことだよな。前半頑張って残りは優菜と遊ぶんだ!)


事情があるとはいえ、急な引っ越しで友人と切り離された挙句、夏休みだというのに唯一の肉親とも切り離され一人での生活を強いられている妹のことを考えれば『身の安全は確保したんだからそれでいいだろ』などと口が裂けても言えることではない。


よって啓太は自分が『戦場から生きて帰ったら〇〇と○○するんだ!』という、所謂死亡フラグを踏襲していることを自覚しないまま、常時魔物が襲い来る九州へと飛び立つことになるのであった。


―――


そもそも魔物とはどのような存在なのか。


これについては第一次救世主計画に協力してくれた悪魔や、第二次救世主計画の要となった少年が粉骨砕身の文字通り、その身と骨が粉になるまで頑張ってくれたおかげで意外と判明していることが多い。


といっても十年以上前の情報なので今もそうである確証はないのだが、それでも全くないというわけではない。


まず魔族とは、悪魔から謎の因子を植え付けられた人間が因子に呑み込まれなかった場合になる種族である。外見的には肌の色が紫っぽくなったり、目が赤くなったり、黒い羽を生やしたりと、まぁ人間が『悪魔っぽい』と想像するような外見になる場合が多い。


これは因子を植え付けられた人間が悪魔や魔族に持つイメージが反映された結果らしい。また魔族は魔物とは違って知性や人間だったころの記憶もある。基本的に力を持った人間はそうでないモノに対して非常に残忍になる性質があるが、魔族もその例に漏れず非常に残忍な性格をしている。


彼らによって支配されている地域では人間は奴隷兼食料とされており、まともな人権など存在しない。現地の人間は、時に狩りの獲物にされたり、時に面白半分で魔法の的にされたりと、非道の限りを尽くされている。


その様子はアメリカ大陸やオーストラリア大陸に欧州人が入植したときの状況と同じくらいと言えば、彼らの酷さがわかるだろうか。


人間の枠を外れたことで調子にのった魔族がどれだけ傍若無人な存在なのかはさておいて。


彼らの主戦力である魔物とは、悪魔や魔族が生み出した謎の因子に呑み込まれた人間や小動物が変化することで誕生するモノである。


魔族と違い知性も記憶もなく、己に因子を与えた上位者の命令に絶対服従するが、命令がない場合は何処にでもいる野生動物のような感じで生きている。


この性質があったおかげで、第二次救世主計画に於いて協力してくれた少年の命令に従って死ぬまで微動だにしなかった魔物を調べることができたのだが、それらの情報はまた別の機会に語るとしよう。


与えられた因子の濃度によって形を変えることや、その大きさによって小型・中型・大型・特大型の4種類に区分されることは前にも記した通りである。


多くの魔物はその背景から、単体で海を渡る能力を持っていない。泳ぎが得意な生物を基にして誕生した魔物が『やろうと思えばできる』程度だ。そんな彼らがなぜはるばる海を渡って日本に攻めてくるのか? 


その理由は、もちろん魔族や悪魔からの命令をうけたからだ。


ではなぜ悪魔や魔族がそのような命令を出すのだろうか?


それはもちろん日本を制圧して土地や資源を奪うため……ではない。


第二次大戦から100年以上経過した現在、数多の国が滅びたし、それに比例して地球上の人口も減っている。なのでわざわざ海を泳いで極東の島国へ渡らなくとも、その辺の土地を開拓すればそれで済む話である。故に彼らの狙いは土地や資源ではない。


偏にそれが悪魔の方針だからだ。


もう少し細かく言うと、悪魔たちの共通認識として『ニンゲンは余裕があると碌なことをしない』というのがある。そのため継続して魔物に襲わせることで『貴様のいるところも安全ではないのだぞ』と危機感を煽り、ニンゲン側に余裕をなくそうとしているのだ。


窮鼠猫を噛むという言葉があるが、悪魔が望んでいるのは正にそれ。


元々安全な所から一方的に攻撃を加えて悦に浸るという、ある意味ニンゲンよりもニンゲンらしい思考を持つ魔族とは違い、その上位者である悪魔は血で血を洗う闘争を好んでいる。


だが闘争とは、双方の力関係がある程度釣り合っていなければ発生しない。


そのため、悪魔は敵である人類に一定以上の質を求めている。つまり、反攻作戦を主導している国の一つである日本に対し適度な圧力をかけて技術開発を急がせているのである。


舐めているといえばそうなのだろう。


だがそれが許される程、現状悪魔とニンゲンの間には隔絶した差があるのだ。


そういった悪魔の方針の他にも魔族の事情が存在する。


先に挙げたように、闘争を望む悪魔と違い。安全な所から一方的に攻撃をしたいという思考を持つ魔族はニンゲンと互角の戦いをすることなど望んでいない。まして大陸系のニンゲンを基にしてできた魔族からすれば、日本人は自分たちを裏切った連中――実際は日本が弱ったところで独立をしたり、援助を拒絶したのは彼らなのだが、彼らにとって日本人とは『無条件に自分たちに尽くすべき存在』であり、それをしなかった時点で裏切り者となる――なのだ。


よって自分たちを滅ぼすための技術開発を行っている日本を滅ぼしたいのだが、本格的な攻勢に出ることは上位者である悪魔からストップがかかっている。


ある意味で板挟みとなった彼らは、悪魔の命令に逆らわない上に日本を苦しめるための――あわよくば滅ぼせるような――策を考え、実行に移すことにした。


それが『継続して襲撃を行うこと』だ。


これにより日本は常時防衛戦を余儀なくされることになるので、精神的な余裕と物質的な余裕を失うことになる。それに加えて『共生派』という内部協力者が後方で不協和音を奏でることで組織の力を弱め、抵抗力を削ごうというのが魔族の計画であった。


事実、魔族との戦争に疲れた者や、大陸から流れてくる物資に目がくらんだ者など、後先考えずに共生派に鞍替えする者が後を絶たないのが日本の現状である。


今はまだ軍が強いので――第三師団の崩壊はあくまで遠征先のことであり、国防軍が負けたという印象は薄い――共生派も表立った動きを見せることはできないが、少しでも不利になれば彼らは『無駄な戦いはやめろ』と声を上げることになるだろう。


護るべき国民に足を引っ張られることになる軍がどう動くか。


戦争に反対する国民を捕まえるか? 

それはそれでいい。軍の横暴として広げてやろう。


国民の声を無視して悪魔との戦争に集中するか? 

それでもいい。味方に足を引っ張られながら戦う無様さを嗤いながら眺めてやろう。

そして軍を潰した後は、軍の足を引っ張って満足している民衆に現実というものを教えてやろう。


どちらに転んでも詰んでいる。それを理解しているからこそ魔族たちは悪魔から与えられた『本格的な攻勢は抑えるように』という、自分たちにとって到底享受できない命令にも我慢できているのである。


尤も、抑えるのはあくまで本格的な攻勢であって、今もなお行われている継続した攻勢が緩むことはない。


また、もし日本の国防軍がこの攻勢に耐えられなくとも、たとえ九州や中国地方を失陥することになろうとも、魔族に攻勢を緩めるつもりはなかった。悪魔には『日本は継続して攻めていたら滅ぶような国でした』と報告すればいいと考えていたからだ。


後に彼らは驚愕と共に己の失敗を悟ることになる。


大したことはないと考えていた日本の国防軍が投入した新兵器の存在に。


機士であれば誰もが『なんだアレ』と呆然とせざるを得ない不気味な新兵器の存在に。


機体や魔晶について詳しいはずの悪魔でさえ『なんでそうなった?』だの『意味が分からん』だのと頭を捻ることになる、上半身が標準型で下半身が蜘蛛のような、敵味方問わず見る者すべてに名状しがたい不快感を与える新兵器の存在に。


――世界が【黒い変態】を知る日は、すぐそこに迫っていた。



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