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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
1章・入校~夏休みまで
18/111

18話。それから少しして

俺が「量産型の試作機ができたらしい」と聞いたのは試作機が接収されてからわずか2か月後の7月中旬のことであった。


「え? もうできたんですか?」


「らしいな」


「らしい?」


アンタが造った機体の量産機だろ? そう思って聞いてみたのだが、どうやら俺が思っていた以上に面倒そうな感じになっているらしい。


「俺らは最初にいくつか質問されただけで解放されたよ。あとは連中が『自分たちの手で造った』ってことにしたかったんだろうよ」


「あぁ。なるほど」


聞けば、確かに2か月で試作機ができるのは早いことは早いのだが、元々最上重工業という一企業が持つ能力と、国家ぐるみで物資や人材を動かせる軍という組織が持つ――接収を強行したのは第三師団閥だが、量産化は軍の上層部も望んでいたことなので、協力は惜しまれなかった――生産能力の差が出た結果なので驚く程のことではないらしい。


まぁ1か月で1隻の空母を造るよりは簡単なのだろう。多分。


しかしながら如何に生産力に差があろうとも、手に入らないものは存在する。

その最たるものが、最上重工業が持つ技術的なブラックボックスである。


素体に使われた魔物と機械の混合比率に始まり、上半身と下半身を繋げる疑似神経や全体を覆う人工筋肉の加工方法。反動を吸収しやすいように作られた関節駆動部の材質など、様々なもので敢えて特許をとらずに最上重工業だけが持つ特殊技術という形で秘匿されている。


もちろん試作機を解体して細かく調査すればある程度は判明するだろう。だが、職業倫理や今後の企業との関係を考えれば――それが許されるのであれば、今後財閥系大企業が造った兵器もコピーされることになるので、反発は必至となるため――大っぴらにできることではない。


それでもこんな形で量産機を造られたら不機嫌になりそうなものだが、最上さんからはそういった雰囲気は伝わってこない。むしろ喜んでいるような?


「確かに連中は量産に成功した。だがな、連中が造った機体は動かなかったんだ」


「へぇ」


やっぱり通常型や獣型に慣れてしまった普通の機士には難しいのだろうか。


「動かない理由を考えた結果、まず小型にしようって考えたらしい」


「ほほう?」


重いから動かないと考えたかそれとも神経を巡らせる為には小柄な方が良いと考えたかわからないが、一概に悪い意見ではないんだろうな。


「まず体高は5メートル。重量は20トンまで減らされた」


なんて?


「それでは大型を一撃で仕留める重砲を使えなくなるのでは?」


混合型の30トンという重さは、機体コンセプトである『大型を一撃で仕留めることができる重砲による長距離射撃』を行う為に必要と判断されたが故の重さだ。


成長や最適化によって軽くなるというが、それはあくまで機士の体感する重さが軽減されるだけであって、機体そのものが軽くなるわけではない。(むしろ重くなる)


つまり軽くしたらその分だけ攻撃力が落ちるわけだ。


攻撃力がない狙撃手とは一体……。


「まぁ動かせないんだから仕方がねぇ。重砲に関しても一撃で仕留めることに拘らなければいいだけだ」


「そんなもんですかね?」


まぁ、20トンでも通常型よりも重いもんな。それだけ反動が強い武器を持てるようになると考えれば悪くはない、のか?


「それでも動かせなかった。いや、一応上半身は武器を持てたし、下半身も這いずる程度の動きはできたらしいな」


「はい?」


獣型の動きはハイハイが基本だから這いずる動きってのは納得できなくもない。だが俺や他の機士がそれに納得できるからといって敵が容赦をする理由にはならないわけで。


「それ、反撃で死にますよね?」


そもそも狙撃手が攻撃を行った後に移動するのは、相手からの反撃を回避するためだ。

魔物が放つ不思議ビームは見た目に反して光速や雷速よりも遅いが、それでも通常の砲弾なんかよりは早い。その上、着弾地点から数メートルくらいを吹っ飛ばす余波が存在する。


このため『射撃直後に魔晶へ収納して徒歩で移動する』という裏技的な手段も使えないのである。


つまり混合型でスコアを稼ぐためには、撃ったと同時に横っ飛びで十メートル近い距離を稼ぐという挙動が必要不可欠となる。


それなのに這いずる程度? 死ぬだろ。


「そうだな。だが連中はまず動くことを第一にしただけだからな。少なくとも動くことはできたんだから、今はそれで納得してるんじゃねぇか?」


「そんなもんですか」


「そんなもんさ。まずは段階を踏んでやるってのは間違っちゃいねぇよ。尤もこれに関してはお前さん以外に動かせる奴を見つけられない俺らも同じだから本当は笑えねぇんだけどな」


「ははは」


俺は笑うしかねぇけどな。


しかし元は自分が造った機体だというのに妙に他人行儀な……いや、最上さんにしたらそれを奪った軍の連中は赤の他人よりも憎い相手なのか。だから最上さんは軍の技術者たちが造った劣化品を見て喜んで……いや、愉悦(よろこ)んでいるのだ。


悪趣味とは言えまい。むしろ気持ちはよく分かるまである。


圧力をかけて自分たちから試作二号機を奪ったものの、その相手が四苦八苦しており、かつ成功する見込みがない。


うん。紛れもなくNDK(ねぇ。どんな気持ち?)案件だな。

最上さんには軍の連中を指差して嗤う権利があるわ。


で、そうやって軍の技術者を嘲弄したことで、ここ最近溜まりに溜まっていた溜飲を下げることができたらしい。


元々が試作機を持っていった連中のせいだからプラスマイナスゼロなんだが、少なくとも機嫌が悪いよりはいいことだ。


「お、そうだ」


そう思っていると、愉悦部員を彷彿とさせる悪い笑みを浮かべていた最上さんが真顔になって俺に声を掛けてきた。


「前にも言ったがな、今回の件で第三師団閥の連中が嫌がらせをしてくる可能性が高まった。お前さんも気を付けろよ」


「なんでそうなるんですか……って、あぁ。そうですね」


第三師団閥が主導した量産計画が現状うまくいっていないということは、第三師団閥の面子が丸つぶれになっているということでもある。


元々量産化計画が成功したら利用するが、失敗したら責めるだけという方針を取っていた他の師団にとっては痛くも痒くもないだろうが、試作機を駄目にした挙げ句最上重工業から敵意を買っただけに終わったことを省みれば、試作二号機の生産を急いで欲しいと依頼した第二師団閥にとっては面白いことではないだろう。


つまり、これからしばらくは第二師団を始めとした面々からの追及が第三師団におそいかかるわけだ。


そして軍学校における俺の立ち位置は第二師団()()の一般人。


Q・これから導き出される答えは? 

A・第三師団閥の所属している面々から八つ当たりされるでしょう


嬉しくもなんともない予想だが、恐らく大きく外れることはないと思われる。


ちなみにAクラスの中だと主席の武藤さんと5席の笠原さんと9席の小畑さんが第三師団閥なんだとか。10人中3人である。さらにBクラスにも5、6人いるらしい。


もうこの時点で、な。


さらに俺が一般人なのもよくない。元々軍閥に所属している彼らと比べ、後ろ盾がまったくないくせに無駄に目立ちまくっている俺は虐めの対象になりやすいのだ。


今までは俺から試作機を分捕ってやったという優越感もあって見逃されてきたのだろうが、これからは違う。一般人に負けているという劣等感とストレスに第二師団に対する逆恨みという負の感情が加わった時なにが起こるかなど、考えるまでもないことである。


最上さんはそれを警告してくれているのだ。なればこそ無駄にするわけにはいかない。


身内の嫉妬は醜いが考えて然るべきことでもある。まして相手は学生だ。警告を貰っておきながら『まさか学友がそんなことをするとは思っていなかったので何も準備をしていませんでした』などと抜かそうものなら、一気に価値が落ちるに違いない。


自分の身も護れないような奴がまともな軍人になれるはずがないのだから。


(面倒だが対処法を考えるか)


唯一の救いはこれから夏季休業、つまり夏休みになるってことだな。


ちなみに本来軍学校にはGWと同じ理由で長期休暇など存在しない。


しかし、一般の学生と扱いが違い過ぎると世間が五月蠅い。故に名目上の夏休みは存在する。だが一般の学生と違い戦場に近い我々にとって『長期で休む』という行為は文字通り自殺行為である。


よって軍学校に通う学生にとって夏休みとは『勉強しなくていいからずっと訓練ができる期間』の事を指す。


尤も、受験戦争という戦争に挑む生徒たちにとっても夏休みとは『体育だの美術だのと言った余計なことをしなくていいから勉強に集中できる期間』なので、大きな違いはないかもしれないが、それはそれ。


少なくとも夏休み期間中はクラスに顔を出す必要はないので、彼らからの嫌がらせも受けないということだ。


ちなみに俺の机に傷をつけるとか落書きをするとか汚物をまき散らすとかといった低俗な嫌がらせをされることについては心配していない。


何故? 机は俺の私物ではなく軍学校の備品だからだ。


そのためそんなことをしようものなら必ず誰がやったかを調査されるし、なにより軍という組織に於いて備品を無駄にする奴は評価されないというのは常識だ。学生とはいえ軍人を志望している連中がそのことを知らないはずがない。故に備品をどうこうされる心配はしていない。


また同じ理由で寮にも危害が加えられることはない。向こうはさらに監視が厳しいからな。


なのでもし俺に嫌がらせをしようとする場合、対象は直接俺か妹を狙ってくる可能性が高い。


流石に守るべき子供に手を出すとは思えんが、馬鹿ってのはどこにでもいるもんだし、何より特殊な性癖を持つ男にとって優菜は最高の獲物だからな。


「うん。夏休み中には出来るだけ一人で外出しないように伝えておこう。それと怪しい奴が来たら連絡をするようにして。あぁもし警備の連中が買収されたり、連中の家の権威に阿って素通りさせるってパターンもあるか。その場合はどうする? まず俺に連絡させるのは確実として、避難場所を作っておく必要もあるな。ついでに侵入できないよう罠も仕掛けておくか。あぁいや、むしろ侵入する隙を作って、そこに殺意マシマシな罠を仕掛けた方がいいな。寮に不法侵入するようなやつなら死んでも問題ないだろ」


「(心の声が漏れてるぞ)……警戒するようにって言ったのは俺だが、程々にな」


「ん? えぇ。もちろんです。ちゃんと問題が発生しないようにしますよ」


訴える被害者が居なければ問題はあるまい。まさか『不法侵入したら仕掛けられていた罠で怪我をした! 責任を取れ!』なんて言ってくる阿呆はいないだろうしな。


「……本当に程々にな」


最上さんがナニカ言っているが、大丈夫だ問題ない。一番いい罠を用意して待ち構えてやるさ。

軍がV作戦を主導した結果、ジ〇の代わりに量産型ガン〇ンクができました。

これにはギ〇ン総帥も思わずニッコリですね。


閲覧ありがとうございました。



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