16話。おや? 機体の様子が……
最終的に五十谷さんに渡した情報は、すでに既知となっている情報とこれから公開されることが判明しており、最上さんからも「公表しても良い。むしろ宣伝してくれ」と言われた情報に絞ることになった。
即ち、俺が戦場に出ることになったのは、俺が乗っていた機体が新型で珍しかったからデータを取りたかった軍と、自社製品を軍に売り込みたかった最上さんの間で利害が一致したためであり、テストパイロットが俺しかいなかったので、俺が戦場に出ざるを得なかったこと。
特務少尉になったのは、唯一のテストパイロットとはいえ学生を戦場に出すわけにはいかなかったので、身分を用意された結果ということ。
周囲が驚くような多大な戦果を挙げることができたのは、機体性能と下準備が完璧だったからできたことであり、今のところ継戦能力は低いと判断されていること。
これから継戦能力を高めるためのテストが行われること。
上記の理由であるため、通常型や獣型を与えられたクラスメイトが戦場に出るのは難しいということ。
最後に120mm滑空砲の威力や焼夷弾の効果。さらに俺が討伐した魔物のデータを渡して終了である。
この情報に50万の価値があるかどうかは不明だが、五十谷さん曰く彼女の所属する第六師団では大型との戦闘記録自体が少ないうえ、第二師団から最新の情報を得るには時間がかかるらしく、これだけでも50万以上の価値があるとのこと。
ある意味で情報を漏洩した形になるように思えるが、そうではないらしい。
なんでも元々第二師団としても情報を公開したいのだが、各師団に回すためにはしっかりとした報告書という形で編集する必要がある。しかし忙しすぎてその編集をしている時間がないために公開ができていないというだけの話なんだとか。
なので相手が「未編集のままでも良い」というのであれば、情報を流しても良い。むしろできるだけ早く各師団で共有する必要があるので、渡してほしいとまで言われていたりする。
それで金を取るのもどうかと思わなくもないが、派閥の垣根を越えて情報を共有したい第二師団や、自社が造った新型の性能を自慢したい最上さん。さらにそれらの情報を得た五十谷さんが満足しているのであれば俺にとやかく言うつもりはない。
思わぬ臨時収入になったしな。いやはやしかし、こういう副収入があるなら戦場も悪くない。今後もよろしくお願いしたいものである。
―――
さて、五十谷さんからいただいた寸志という名の愛によって懐が暖かくなったところで、放課後である。
九州からずっと、それこそ家に帰ったときも、風呂に入っているときも、妹様と飯を食っているときも、寝ているときも、登校して授業を受けているときも、五十谷さんに情報を渡しているときも、ずっと魔晶の中に収納していた機体を表に出せる時間がやってきたのである。
「おう。来たか」
「はい。よろしくお願いします」
「おうよ。んじゃ、さっさと出してくれ」
「了解です」
専用のハンガーに入れば、俺が来るのを待っていた最上さんとその部下の人たちが一斉に準備を始めた。
彼らは最上さんが信用している部下であり、これから俺の魔晶の中でアップデートされた機体の整備を行うためにここにいる人たちだ。
そんな彼らに仕事を与えるために、俺はさっさと言われた場所に機体を出すことにした。
「さすがに寝ているときと実習のときはきつかったけど……まぁこれも必要なことだしな」
そういいながら魔晶から機体を出すと、今まで俺に圧し掛かっていた重さが一気になくなったのを感じる。
「Foo↑気持ちぃぃ」
気分は天下〇武道会で重りを外した人参さんである。
「「「……」」」
「さて、と。これからアップデートされた分をフィードバックしてからシミュレーターだなって。んん? どうしました?」
取り出した機体を見て一気に静まり返るハンガー。俺としては実戦で成果を上げた自社製品が帰ってきたのだからもっと過剰な反応を示すと思っていたのだが、ナニカサレタのだろうか?
気になって彼らの視線の先を追ってみればそこにあるのは当然というかなんというか、俺の機体である。ただし、どうにも違和感が拭えない。
なんというか、クリスマスプレゼントでサンタさんにガン〇ムのプラモを頼んだはずなのに、起きたら枕元にエルガ〇ムのプラモを置かれていたような、そんな違和感。
(うーん。なんだろうな、これ?)
「「「なんか変わってるー!」」」
背中が痒くなるもにょりを感じていると、再起動を果たした最上さんが大声で叫び声を上げたではないか。というか、変わっている?
「あぁ、そうか!」
そこまで言われてようやく違和感の正体に気が付いた。
元々の混合型は永〇豪や石〇賢作品に出てくるような感じで獣の上に人が乗っているのを装甲で誤魔化しているような感じだったのだが、今の機体はどちらかといえば俺がよく知るACの機体に近くなっているのだ。
具体的には、足が伸びてメカメカしく――動物で言えば蜘蛛っぽく――なり、上半身も鬼の体というよりはもっとこう、ロボット感が強くなった感じである。
比べれば一目瞭然であるはずなのに、なぜ当事者である俺が気付かなかったのか。
それは偏に最初からこの機体をACと同じ感じでイメージしていたからだ。
元々実機ではなくシミュレーターで訓練していたし、その横でずっと改修作業をされていたので機体を見る機会すらなかった。
俺が実際に機体を見たのは、九州に着いてから機体を魔晶に収納する際だけだ。で、戦闘中に視界に映るのは敵影だし。自分を見る場合も主に前脚と武器を持つ腕だけだった。
帰還後には特設されたハンガーに入れられて、駆動部などの損耗度合いをチェックされたあとで、即魔晶に収納させられたからな。
つまり俺は完成した混合型をじっくり見る機会がなかったのだ。
だから魔晶から取り出したときにスタイリッシュでメカメカしくなっていても違和感を抱かなかったのである。まぁ自分の機体を理解していないと言われれば返す言葉もないのだが、それはそれ。
「問題は昔どうだったか、ではない。今どうなのか、だ」
「いや、昔と違い過ぎたら駄目だろ」
「ごもっともです」
力技で誤魔化そうとしたが駄目でした。
まぁ当然ではある。
最上さんからすれば混合型は社運を掛けて製造した宝物である。それがいきなり意図しない方向に変化してしまったのだから恨み言の一つも呟きたくなるだろう。
そう思って軽薄な態度を取ったことを謝罪しようとしたのだが、どうも様子がおかしいことに気が付いた。
「しかしこれは……」
「もしかして……」
「なるほど。確かにそれなら」
「つまりこの機体は……」
「それならもっと……」
最上さんとその部下の人たちは、さっきまで沈黙していたのが嘘だったかのように機体から一切目を逸らさないままそれぞれの所感を述べているではないか。
「あの……」
「ん? あぁ。すまんな。とりあえず仮説だが説明しよう。聞け」
「あ、はい」
目を輝かせながら「聞くか?」ではなく「聞け」と言われたことで、向こうが謝罪を望んでいないことを理解した俺は黙って最上さんの言葉を聞くことにした。
テンションが上がった変態に逆らってはいけない。常識である。
「まず機体に起った変化だが、間違いなく成長だ」
「成長、ですか? 俺が魔晶に収納していたのはほんの数日ですけど?」
確かに機体を魔晶に収納することで、最適化と成長という二種類のアップデートが行われることは知っている。しかしわずか数日でそんなに変わるものだろうか?
「疑問はわかる。だが考えてみればこれは当然の帰結だ」
「と、いいますと?」
素人ではわからない何かがあるのだろうか?
「お前さんが先日討伐した魔物の数は覚えているか?」
ん? キルスコア? さっき五十谷さんに伝えたばかりだから覚えているが……。
「大型4。中型6。小型31。中型の中破が3で小型の中破が25。ですよね?」
直接殺ったのは大型と中型だが、途中や最後の焼夷弾で小型を少し稼いだんだよな。
「そうだ。ちなみにお前さん。エースって呼ばれる連中のスコアを知っているか?」
いきなりなんだ? 話の流れ的に関係あると思うから答えるけど。
「さて? 大型5体くらいですかね?」
確か昔の世界大戦における戦闘機乗りの場合、敵を10機倒せばエースだったはずだ。彼我の能力が均衡してきたことで5機に変わったらしいが、機体と魔物の価値を考えれば中型5体ということはあるまい。故に大型が5体でファイナルアンサー。
「残念。中型5体だ」
「は?」
そんなん誰でもできるのでは? 俺は訝しんだ。
「そんな顔されてもな。知っての通り魔物との戦いは、戦車や艦隊による砲撃から始まる。それによってダメージを受けた魔物を5体倒してもエースにはならないんだよ。あくまで単独で5体討伐した場合に限られるからな」
「あぁ、なるほど」
通常の場合、最初の段階でエースになる条件を満たしていないわけか。
もし完全に単独で5体倒すなんてケースは、砲撃を行えないときに発生した戦闘、つまりは遭遇戦や奇襲をかけられた場合。もしくは砲撃部隊がいない戦場で吶喊を命じられた場合になる。そんな極限状態で同系を5体も倒せたら、そりゃエースだわ。
「話を戻そう。1機で5体もの魔物を狩った機体は著しく成長すると言われている。まぁ通常100人単位で割る経験値を1人で独占するんだからな。成長しなきゃ嘘だろ」
「確かに」
みんなで割る経験値を独り占めしたらレベルも上がりますわな。
「魔晶の中で成長した機体は最適化を果たす。標準型であればより搭乗者の体に近くなるらしい。聞いたことはあるだろう?」
「はい」
授業でも習うしな。最初に最上さんが言った『成長すれば重さが半分になる』というのも最適化に該当する。そういえば35キロを背負っていたにしては普通に眠ることもできたな。おそらくだが、家についた時点で少しずつ軽くなっていたのだろう。
「翻って、お前さんだ。通常であれば中隊規模で砲撃を行ってから戦闘を開始するところを、お前さんは最初から最後まで1機で片付けた。それこそ大型4。中型6。小型はたくさん、な。これだけの経験値を独り占めしたと考えれば、こいつが一気に成長してもおかしくはねぇ」
「……ふむ」
機体が予想以上に成長したのはわかった。この形も俺が思い描く機動を行うために最適化されたんだろう。それもいい。というか元々魔物の死体やら魔晶やらといった不思議素材を使用している以上、深く考えても無駄だ。
重要なのは『こうなった機体をどう使うか』であるべきだろう。差し当たっての疑問は……。
「整備、できるんですか?」
車の整備士の資格を持っているからと言って戦車の整備ができるわけではないように。元は最上さんたちが造った混合型だが、いまのこれは全くの別物だ。
それこそさっき俺が例えたように、ミ〇ーネの遺産からACというある意味180度変化してしまったのだ。そんなとんでも機体の整備が最上さんに可能なのかどうか。それが問題だ。
「……っ!」
もしできないと言われたらどうする? 他の機体を貰えるのか? そう考えたのが顔に出たのだろう、一瞬ひるんだような様子をみせた最上さんだが、次の瞬間には大きな声を上げていた。
「なめんな! できるかどうかじゃねぇ! やるんだよ! 少しくらい形が変わったって、こいつは俺たちが造った機体。言うなれば俺たちの子供だ! 俺ら以外に誰が整備できるってんだ? なぁお前ら!」
「「「おう!」」」
当然最上さんに問いかけられた形となった社員の皆さんだが、彼らは彼らで一切ひるむことなく、一斉に賛同する声を上げた。
そこには『意地でもやる。やれなくてもやる。やれるまでやる』という不退転の決意が見て取れた。
(この調子ならきっと大丈夫だ。せっかく成長したのを廃棄されるとかありえないからな)
気合があれば良いというわけではないが、気合が無ければできないこともある。また、あれだけ気合が乗っていれば『これはもう無理だから2号機に集中するわ』とか言われて整備を投げ出されることもないだろう。
騙されて九州に行った挙句無理やり実戦を経験させられたことや、機体の荷重に耐えながら送ったここ数日間の生活が無駄にならなかったことを確信した俺は、彼らに知られぬよう密かに安堵の息を吐くのであった。
成長することでミケー〇の生物兵器からAC寄りの兵器になりました。
これにより変態機動に磨きがかかるもよう。
試作二号機がどうなることやら……
閲覧ありがとうございました













