15話。おや? クラスメイトの様子が……
焼夷弾を撒き散らして撤退に成功した後のこと。
ワイヤーアンカーのような『あったらいいな』的な装備に対する意見を上げたり、各種装備を実際に使ってみた感想を伝えたり、さらには何度も飛び跳ねたことによって生じたであろう駆動部に対する負担の調査や、上半身と下半身の結合部分のチェックなど様々な調査を行うこと2日。
なんやかんやあったものの、最終的に今回の任務は無事に幕を下ろすことができた。
問題があるとすれば、俺が帰還する前から次回の試験日程が決められていたことくらいだろうか。
それを聞いたときは思わず「あ、おい待てぃ。(江戸っ子)」って言っちまったよ。
俺の都合については正式に任官された以上この際除外するとしても、機体のアップデートや新規装備の開発。さらには今ある装備の慣熟訓練(特に再装填系)をしないことには次も何もねぇだろ!
それにどれだけ時間がかかるかわからねぇのに勝手に日程を決めるんじゃねぇ! と強弁した結果、最上のおっさんは渋々折れてくれた。
ただその際に「良いのか? 戦場に出た方が昇進できるぞ?」とか言ってきたが、あのオッサンは俺をなんだと思っているのやら。
もしかして、両親の復讐をする為に出世して権力者に近づこうとしている反骨精神の塊かなにかだと勘違いしているのではなかろうか?
確かに将来いい女になるであろう妹はいるが、共通点なんかそれだけだぞ。マザコンでもなければファザコンでもないし、宇宙に適合したわけでもないからな。
まぁ当の妹様には、家に帰ったあとで機体についてを聞かれたんで詳細を説明した際に重量の話になり、常に35キロを背負うことについて心配されたから「大丈夫。お前より軽い」なんて答えたら包丁投げつけられた上に熱々の餡掛けをかけられそうになったがな。
熱々餡掛けと牛蒡を武器にしてはいけない。(戒め)
「さて。今日も一日がんばるぞい……ん?」
そんな家族とのハートフルな触れ合いを終えて学校に登校してみれば、向けられる視線になにやら変化があるような気がしないでもない。
何だ? もしかして数日学校を休んでいる間に何かやったのか?
職場見学の班とか。学級委員長とか。
もし俺が何かしらの委員にされていたら断固として拒否する所存である。
俺じゃなきゃどうでもいいけどな。
「あら。やっときたの? 随分と余裕があるみたいでなによりだわ。しょ・う・い・ど・の」
「『やっと』って言われてもな。HR10分前だぞ?」
向けられる視線の意味が分からず困惑していたところに声を掛けてくれたのは、やはりというかなんというか、現状唯一の友人である沙羅……五十谷さんである。
(あぁ。なるほど。そういうことね。完全に理解したわ)
開口一番『少尉殿』呼ばわりされたことで周囲から向けられている視線の意味も理解できた。こういうさりげないところでフォローをしてくれるのが五十谷さんのいいところだと思う。
俺が感じた視線の内容は、いきなり昇進した俺に対してどう反応すればいいのかわからなかったのと、どうやって昇進したのか知りたいっていう好奇心が合わさった視線だったのだ。
俺からすれば、ボスから命令を受けて空軍基地まで行ったらそのまま戦場まで連れ出された挙句、情報を取るという名目で実戦まで経験させられた厄ネタでしかないのだが、戦場に出たい。戦場で活躍したい。昇進したい。と思っている彼らにしてみれば大前提からして違うのだろう。
(代わって欲しければ代わってやる。そう言えたら楽なんだがなぁ)
ただまぁ、彼らの気持ちは理解した。
そしてそれがわかれば話は簡単である。そう、五十谷さんに合わせればいい。それだけだ。少なくとも彼女は俺が一方的に不利になるようなことはしないだろうからな。
しないよな? 信じているぞ。
「あら? 普通は早く来て自慢すると思うんだけど?」
自慢という名の情報漏洩を望んでいたんですよね。わかります。
「自慢と言われてもな。別に俺一人でナニカをしたわけじゃない。それに少尉云々は、まぁ例外に例外を重ねた結果だし。自慢できるようなことなんかないぞ」
事実、俺が特務とはいえ少尉になったのは戦果を挙げる前だし。そして実戦で戦果を挙げることができたのは、偏に機体の性能と最上のオッサンが武装やら根回しやらの下準備を怠らなかったからだ。間違っても俺が威張るようなことではない。
「へぇ? 私としてはその辺詳しく聞きたいんだけど」
だが例外とはいえ昇進は昇進。俺とは違って武功を上げて昇進することを目的としているクラスメイトとしては、学生の身分で昇進できるという『例外』の存在こそ見逃せない情報なのだろう。
だから少しでも知りたい。そう思う気持ちは理解できる。理解できるのだが、それを伝えたところで俺になんの得があるのかということだ。
「これ以上は別途情報料を頂きます」
俺としてはこれ以上の情報を開示する気はない。と伝えたつもりだったのだが、五十谷さんは『金さえ払えば情報を売ってもらえる』と受け取ったようで……。
「いくら?」
食い気味に被せてきやがった。
つーか値段なんて考えてねぇよ。かと言って一度口にした以上『やっぱりやめた』なんて言ったら顰蹙を買うのは確実。せっかくの友人をこんなことで無くすのも惜しい。
(はてさてどうしたものか)
そう考えていたら、唐突に脳内に浮かび上がってきた紳士が名案を教えてくれた。
――逆に考えるんだ。情報をあげてもいい。ただしすぐに払えないような金額を要求するってね――
(確かに!)
元々商品の価格とは需要する側と供給する側双方の価値観の擦り合わせによって生まれるものだ。よって最初の段階で適正な価格が生まれることはない。
つまり? 俺が『この情報の価値は100万だ』と言った際、向こうが『それは高い』と言ったとしよう。そこで俺が『じゃあ売らない』と言ってしまえば、そこで話は終わるのである。
俺は情報を話さないとは言っていない。ただ向こうが買えなかっただけなのだから。
これなら俺が嘘を吐いたことにもならないし、向こうが諦める理由にもなる。多少の不満は残るだろうが、そもそも情報を秘匿するのは軍人として当たり前の話なので、恨まれるということはないだろう。
けだし名案である。
問題は俺が情報の適正価格を知らないため、いくら吹っ掛ければ相手が諦めるかを知らない点だろうか。
あまり高すぎれば『卑しいやつ』と思われてしまい友情が途切れてしまうし、安すぎれば買われてしまう。相手との友好関係を維持しつつ情報を漏洩しない。
両方やらなくっちゃならないところが軍人であり学生でもある俺たちのツライところだな。
覚悟はできたか? 俺はできている。
「……50万円くらいだな」
五十谷さんだし。咄嗟の語呂合わせで決めたにしては中々いい数字なのではなかろうか。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「買ったわ」
「早ぇよホセ」
軍人ならそこそこ高く、学生の身分であれば間違いなく高額な値段だと思うのに。『高い』って言われたら「少尉の給料を考えればこんなもんだろ」と鼻で笑う予定だったのに。
それなのにあっさりとお買い上げなんて、いくらなんでもあんまりじゃあないですかねぇ?
「ホセが何かは知らないけど確かに買ったわ。そうね。次の実習の時間にでも教えてもらおうかしら。あ、私が聞くまで他の人には売らないでよ? もちろんアンタが誰彼構わず情報をばら撒くような考えなしの阿呆じゃないってことはわかっているけど、一応ね」
言質を取った以上は絶対に逃がさないし、自分が聞いた後で売っても良いけど50万以下では売るなって話ですね。わかります。
「……了解」
こうして俺は、自分が持つ情報の価値と五十谷さんの経済力を見縊っていたことを自覚しつつ、話していい内容と駄目な内容の吟味と、多く貰った分を返金するという交渉をすることまで想定し、陰鬱な気分になりながらこの日の授業をうけることになったのであった。
―――
おまけ。
「……聞いてのとおりよ。情報が欲しいなら私のあとになるけどいいわよね?」
「まぁ、最終的に情報を貰えるのであれば構いませんわ」
「五十谷さんに話したことでハードルが低くなるかもしれないしねぇ」
「それはあるかもな」
「私としては普通に紹介して欲しいんだけど?」
「ん~。さすがにそれは自分でやってくれない? 今更クラスメイトを紹介するってのもなんか違うと思うし。まぁ私の近くにいれば自然と距離は縮まると思うけどね」
「「「「確かに」」」」
「……女は怖いな」
「何を今更」
おまけは
4・1・6・7・10・4・全員
それから2・8の順番になります。
閲覧ありがとうございました。















