12話。実地訓練……訓練?
目標をセンターに入れてシュート。
『ゴボッ!』
別の目標をセンターに入れてシュート。
『ギュバッ!』
またまたセンターに入れてシュート。
『ハギャッ!』
砲の種類を変えてシュート。
『チヴァッ!』
味方がいないのを確認したうえで群がっている小型に対して焼夷弾をシュート。
『『『『オババババババババ』』』』
海岸線から接近してくる魔物に対して撃つ、撃つ、撃つ。
反撃がきたら避ける。というか反撃が来る前に避ける。
「よっと」
魔物とはいえ、遠距離から一方的に放たれる攻撃に対し無抵抗ということはない。
石を投げてきたり原理は不明だがビームのような光線を放ってくる。
当然それが向く先は、砲弾が飛んできたところ。つまり俺がいるところだ。
だから狙撃の後に横っ飛びする必要があるんですね。
「はっ」
そこに俺はいない。眠っているわけじゃないからな。
やってみて思うのは、普通に横軸移動もできるけど、やはり飛んだ方が早いってことだ。
駆動部に衝撃がいかないような着地方法を学ぶ必要がある。
それと滞空時間を調整するためにワイヤーアンカーみたいなのがあったら楽かもしれんね。
あとでお願いしてみようと思う。
こういうのが実戦でしか得られない経験ってやつなんだろう。
それはそれとして。
「とりゃ」
隙があったら一心不乱に撃つべし撃つべし撃つべし。
『バォォォ!』
攻撃をしてきたところに反撃として砲弾を打ち込めば、そこにいた中型の魔物が消し飛んだのが見えた。中型とはいえ6メートル近くあるからな。それなりに遠くても見えるのだ。
色々シミュレーション通りと言えばその通りなんだが……あのさぁ。
これって実地訓練の域を超えてるよね?
普通に実戦だよね? 上陸阻止作戦に参加してるよね?
後方で訓練するんじゃなかったの?
いや、敵とは距離をおいているからここも後方と言えば後方かもしれんけどさ。
ただ、普通『後方』ってのは距離じゃなくて『味方の後ろ』って意味だと思うんですがねぇ?
あ、狙える。
「はっ」
『ウボゲッ!』
いちいち口に出している暇がないから言わないけどさ。
後ろで待機している第二師団の中隊の皆さんがドン引きしている気がするんだけど、気のせいだよね?
『このまま君一人で戦っていると距離をつめられそうだな。あとは第二師団の皆さんにお願いしよう。一度焼夷弾をばら撒いて後退してくれ。……両手で撃てるかい?』
「できます」
そりゃ遠距離狙撃用の機体に単独で戦闘させたらそうなるよね?
危険な状態になる前に後退させてくれるのはありがたいんだけどさ。
実際問題これって訓練で済まないでしょ?
どういうことなの?
接近されたら面倒なことになるのは確かだから遠慮なく撃つけどさ。
「そら!」
目標をセンターに入れ……ないで、あえてばら撒く感じでシュー! エキサイティン!
『『『『『ボァァァァァァ!』』』』』
よし。燃えた。
「着弾確認。後退します」
着弾する前から下がっているけど、後退命令は出ているからヨシ! 後ろに向かって全力前進だ!
……やっぱり四脚で走るのは難しい。
全力疾走する際は上半身の制御を諦めるしかないようだ。
うん。これも要報告だな。
―――
『着弾確認。後退します』
そう宣言すると同時に、混合型はまるで黒〇号に乗って驀進する世紀末覇者が如く堂々と腕を組みながら後退を開始した。(なお堂々としているのは上半身だけで、下半身はわちゃわちゃと気持ちの悪い挙動をしている)
戦闘開始から撤退まで凡そ30分。その一部始終を確認していた第二師団の関係者たちは、新型機の性能と戦闘方法について議論を始めていた。
「この短時間で大型4。中型6。小型を20以上撃破。さらに最後の焼夷弾で数十体の敵に多大な損害を与えた、だと?」
「信じられん。なんだあれは」
「というかなんだあの動きは」
「四脚で横っ飛び? 可動部の負担はどうなっている!」
「砲を変えるのはいい。だが飛びながら射撃? 何故あれが当たるのだ?」
「120mm滑空砲とテルミット徹甲弾を用いて大型を沈めた直後に片手で一丁ずつ80mmの榴弾砲を持って焼夷榴弾をばら撒く? あれは一体なにと戦うための機体だ?」
(ふはははは。そうだろうそうだろう! 驚いただろう! 信じられんだろう! あれが俺たちが造り上げた新型機【御影】だ!)
異常な戦果に第二師団の面々が慄く中内心で喝采を上げていたのは、言うまでもなく新型機の製造元であり製作責任者である最上隆文その人であった。
つい先ほどまでゲテモノ呼ばわりしていた連中が掌を返したように良い評価を下していく様はまさしく製作者冥利に尽きるというもの。
(ま、さすがにこれだけの戦果を挙げられるのは今回だけだろうけどな)
自分達の作品が評価されていることに浮かれつつも、隆文は今回のケースが例外中の例外であることを誰よりも理解していた。
啓太が見せた変態的な挙動は、今回の試験があくまで試運転という扱いであったため、いくつかの裏技が介在する余地があったからこそできた挙動だったのだ。
まず移動。本来であれば機体はデバイサーである啓太が魔晶に収容して運ばなければならないが、今回は空輸という形で運んでいる。よって機体を収納して移動したのは空軍基地から前線までのわずか数キロしかなかった。
そのため啓太の身体にかかる負担は通常配備された際に生じる負担とは比べ物にならないくらい軽減されている。
次いで武装。こちらも今回用意したすべての武装について最初から砲弾を装填しており、あとはセーフティを外してトリガーを引くだけで発射できるという状態で啓太に収納させていた。当然予備の弾薬などはないので再装填はできない。
もし再装填ができたとしても、啓太自身に再装填の経験がないので、かなりの時間がかかることになるだろう。
(そんなところを見せたら評価が落ちるからな。まぁ同業者の中には気付いている連中もいると思うが、それでも初期の準備だけでこれだけの戦果を挙げられるのであれば文句も言えねぇだろうよ)
そもそも機体が運用されるのは何が起こるかわからない戦場だ。そうである以上、常に万全の状態で送り出すことは不可能となる。故に軍が機体に求める最大の機能は、突発的な事案にも対応できる応用力であった。
よって今回のように万全の状態で送り出せた際の戦果というのはあまり参考にならない。
……普通であれば。
「乗り手に再装填や補給についての経験がない。整備スタッフにも実戦で損耗した機体をメンテナンスした経験がない。指揮官に運用の経験がない。その他、様々な問題があるのはわかる。諸々の洗い出しはこれからだろうしな。だが新型に乗って一か月も経っていない学生がこれだけの戦果を挙げることが可能となると……」
(そう、これだ!)
隆文にとって最大の誤算にして最高の役得は、啓太という色々と発想がおかしいデバイサーと巡り合えたことにある。
上半身で武器を使用しつつ下半身を動かす。言葉だけ聞けばそれほど難しいことではない。だが上半身が人間で、下半身が獣型となるとその難易度は限りなく跳ね上がる。機体を知る者ほど「動かすことさえ不可能」と断言するレベルの難易度だ。
当然そのことを自覚していた隆文は、自社製品の最大の欠陥ともいえる構造上の問題をものともせずにシミュレーターで異様な戦果を挙げ続ける啓太に「どうやって運用しているのか?」と尋ねたことがあった。
その際啓太はこう答えた「TPSの要領でやればなんとかなりますよ。いや、正確には視覚情報をいじっているので少し違うかも? でもまぁアレに近い感じです。ちょっとラグが出るし、近接戦闘はかなり怪しくなるけど、そこは慣れていけば何とかなりそうですね」と。
(あのときはちょっと何を言っているのか分からなかったが、いまなら少しはわかる。彼は優秀な狙撃手が備えていると言われている、自分を俯瞰視できる特殊なセンスを持っているんだろう)
所謂鷹の目と呼ばれるスキルだ。
(つまり彼はカメラから得られる情報に加え、元々の能力で己の位置情報を俯瞰して観測できる。これを利用して戦場を立体的に捉え敵の動きを捕捉しているんだろう)
敵の動きを捕捉していればこそ攻撃の瞬間が見える。
攻撃の瞬間を見切れるのであれば余裕を持って回避ができる。
余裕があるからこそ冷静に照準を合わせることができる。
そして照準を合わせることができたのであれば、あとは引き金を引くだけ。
着地や跳躍の際に生じる反動でブレが発生することがあるが、元々あの機体はその反動を抑えるために重くしているのだ。また最初からそれを見越して照準装置を調整していれば大きな問題にはならない。そしてすぐ後ろに精鋭である第二師団が控えているという安心感も忘れてはいけない要因だ。
そう言った諸々の要因があってこその戦果なのである。
ちなみに啓太はそんな便利なスキルなど修得してない。彼がしているのはアイカメラから得られる映像を思いっきり引いて視界を広く持ち、できるだけ例のゲームのような感覚を再現している程度の小細工だけだ。
尤も、それだけであの動きができる時点で啓太が重度のフ〇ム脳患者であったことがわかるのだが、当然この世界にはフロ〇なんてゲーム会社は存在していないので、啓太の脳が例の粒子に汚染されていたという事実が他人に知られることはない。
啓太が他人に理解されない病気を患っていることについてはさておくとして。
(今は彼の持つ特殊なスキル頼りではある。だが、第二師団から資金の提供を受けると共に、実戦の場を用意してもらうことでもっとデータを集めることができれば、多少劣化したとしても十分以上の性能を発揮できる機体を量産することが可能になるぞ!)
変態の脳内にだけ発令されていたV作戦が現実味を帯びた瞬間であった。
もし当の啓太がこのアイディアを聞いていればツッコミを入れつつ具体的な計画を練ることになるのだろうが、あいにくこの場には往年の名作ロボットアニメの知識を持つ人間はいなかった。
ツッコミが不在であり、弱点を知る隆文がそれを伝える気がない。そうなると何が起こるか。
「ときに最上殿。あの機体はまだ一機しかないのですかな?」
話が進むのである。それも変態が望む方向に。
(きた!)
「えぇ。今のところアレだけです。ただ予備パーツなどを流用すればすぐにでももう一機くらいなら造れます。しかしながら、ご覧いただいた通り今の段階ですら問題が多々ある上に非常に乗り手を選ぶ機体です。それらを改善する前に二号機を製造した場合、皆様にご迷惑をおかけすることになりますが……」
「試作機ですからな。問題が生じるのも当然でしょう。ただ、それを踏まえた上で言わせていただく。あの単騎で大型を仕留めることができる火力はもちろんですが、何よりも回避性能を備えているというのが良い。棺桶砲などと呼ばれている機体に乗せられている機士たちからすれば垂涎ものでしょう。我々からも上申いたしますので、是非二号機の製造を急いでいただきたい。無論テストパイロットや試験会場の用意を含めた運用試験にも協力させていただきます。いつでもお声がけください」
「是非お願いします!」
これまで誰からも見向きもされていなかった最上重工業が造った新型が脚光を浴びた。
まさしく製造者冥利に尽きる瞬間であった。
それだけではない。国防の最前線を担うが故に武器弾薬の消費が激しい第二師団との伝手ができたということは、会社の社長として見ても大きな意味を持つ。
(ヨシッ! これで従業員を食わせてやれる!)
製造者として浪漫を追い求めた試験機を造ったものの、会社としてみた場合、浪漫の塊なぞ売れなければただのゴミでしかない。
(これから試験を重ねていく必要はあるし、二号機がどうなるかはわからんが、一号機は間違いなく第二師団でお買い上げだ。当然一号機が使う武器や弾薬もな! 今はそれで充分!)
今回のお披露目に成功したことで、試験機の評価があがった。これにより試験機以外の商品を売りこむこともできるようになったのだ。まさしく啓太サマサマである。
(よくやってくれた。しっかり恩は返すからな! たくさん功績を重ねて同期の誰よりも出世してくれ!)
「それでは、次回以降に行う試験の日程と場所なのですが……」
これまで妻や娘。さらには会計職員にまで冷たい視線を向けられてきた隆文は、会社の利益と啓太に恩を返すという二つの目的を果たすため、試験に前向きになった第二師団の担当者と共に次なる試験日程の打ち合わせを行うことにした。――なお、隆文は啓太の望みが『戦場で華々しく戦い出世すること』などではなく『テストパイロットとして適度に働いた後で、安全安心な事務方に配備されること』であるということを理解していない――
とにもかくにも。後に味方からは【告死の死神】と呼ばれ、敵からは【黒い変態】と呼ばれることになる英雄、川上啓太の初陣はこうして幕を下ろしたのであった。
なぜ啓太くんが変態呼ばわりされるかわからない方もいるでしょうから一応解説。
ACの機体ではなく、ゴーゴン大公(獣魔将軍でも可)がぴょんぴょん跳び跳ねながらロケランを撃ちまくっている様子を想像してみましょう。
閲覧ありがとうございました。















