表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極東救世主伝説  作者: 仏ょも
5章
112/112

1話 プロローグ

「大尉、おはようございます! 私は坂崎恵美っす! 階級は准尉待遇っす! Bクラスからこっちに来ましたっす! 教導大隊に入隊する予定っす! あ、お嬢がいつもお世話になってるっす! 結婚式には必ず呼んでくださいっ!」


「はい、おはよ……ん? 結婚式?」


次世代型の生産に関するあれこれや、装備に関するあれこれの話を終えて迎えた四月上旬。


入学式に参加するためぞろぞろと講堂へ向かう新入生らを横目に眺めつつ、二年A組の教室へと足を踏み入れた俺を待ち構えていたのは、妙にテンションの高い少女であった。


身長は一六〇センチ弱くらい。

体形はやや細身。

サイドテールにした明るめの茶髪と、見るからに闊達そうな表情が特徴的な少女の名は、自称坂崎さん。

俺の記憶が確かならば、まごうことなき初対面である。


正直なところ「初対面でこのテンションが高い挨拶はどうなんだ?」と思わなくもないが、この程度のことであれば彼女が軍人の卵であると考えれば納得はできる。

去年やったことをプロパガンダ的な意味も込めていろいろと弄繰り回された結果、今の俺は一部から(実態はさておくとしても)英雄として認識されていたり、それなりにファンが付いているらしいからな。

そうでなくとも、上官に対して怠惰な挨拶ができるはずもなし。

なので、初対面の相手から元気な挨拶をされるのは当たり前と言えるだろう。


また、この場に初対面の人物がいることに対しても、先日ボスから二年次に追加の人員が入ることを聞いていたので、それだと思えば特に問題はない。


問題があるとすれば、そう。

彼女が挨拶と一緒に口に出した”お嬢”が誰なのか、ということである。


上の学年はそうでもないのだが、俺の学年には軍の未来を担うことを嘱望されている若手がぞろぞろと入学している。


そういった人たちは幼少期から軍事関係のあれこれに携わることが多いとかで、必然的に一般の人たちと比べて魔晶との適合率が高くなる傾向があるとか。


そのため、機体との兼ね合いで高い適合率が求められるAクラスやBクラスに所属している生徒のほとんどがそれなり以上の家格を有した軍閥関係者となっている。


こうなると、当然そこに所属している女生徒は俺からすれば全員がお嬢様と言えるような世界の住人なのである。


よって”お嬢”と言われても誰のことかわからないし、結婚式云々に関しても、言質を与えたが最後、種馬のような扱いを受けることになるかもしれないため、あいまいな返答をすることは許されない。


かといって、遠慮なくぶった切るには相手の家柄が気になるわけで。


最初から俺を敵視している派閥の人間ならまだしも、現時点で俺を取り込みたいと考えている軍閥まで敵に回す心算はないので、どうにか穏便に切り抜けたいところなのだが……はてさてどうしたものか。


「……」

「……」


俺からの返事を待つ自称坂崎さんと、返事を悩む俺。


「朝っぱらからなに馬鹿なこと言ってんのよ!」

「ふぎゃっ!」


妙な膠着状態に陥りかけていた俺たちを救ってくれたのは、いつの間にか『俺担当』という役職を得ていたらしい同期の少女、五十谷さんであった。


「アンタねぇ。面倒ごと起こすなら所属を変えてもらうわよ!」

「いやいやいや、そんなことお嬢にできませんよね?」

「本当にそう思う? ベトナムでそれなり以上の戦績を叩き出して少尉に昇進して、部隊内で副官待遇を受けている私に拒否権がないって本当に思ってる?」


ん? いつの間にか五十谷さんが副官になっていた、だと?


あぁ、いやまぁ、試作三号機を任されているし、部隊内でも俺の次に討伐数が多いから実績もある。


なにより現時点で俺に指揮官の適性があるかどうかが不明である(適性以前に、まだ指揮官としての教育を受けていない)ことを考えれば、幼少期から軍事関係の教育を受けていた彼女が副官として現場指揮を執った方が部隊としてはやりやすいのかもしれない。


大隊の中には、ぽっと出で後ろ盾のない俺の命令に従うことを嫌がる人もいるだろうしな。


で、彼女がそういう待遇を受けているのであれば、確かに大隊へ参加する人間を選べるかもしれない。

正確には、彼女のコネで誰かを入隊をさせることはできなくとも、特定の人物の入隊を拒否することは不可能ではない、と思う。


第三師団の人たち……はボスが弾くだろうから最初から考慮するに値しないとしても、彼らと似たような思想をする人間は少なくない。


よって五十谷さんから「その人の思想的に、入隊させたら面倒ごとになると思う」と伝えられたら、ボスも無下にはしない。

いや、無下にしないどころか、積極的に採用して不穏分子を排除していくだろうことは目に見えている。

なにせ我々には、ドラマなどであるような”根気よく話し合う時間”もなければ”仲良くなるためのイベントを乗り越えるまで待つ時間”もないのだから。


時間は有限であり、その限界は極めて近くにある。


そのことを重々理解しているがゆえに、今は少しでも不穏なところがあれば排除するよう神経を使っているはずだ。


もちろんその進言が、私怨や派閥の利害からくる誹謗中傷の類であればその限りではない。

しかし、今の五十谷さんがそんな無駄なことをするとは思わないので、彼女の意見が採用される可能性は極めて高いと言えるだろう。


つまり? 

彼女が「こいつはダメです」と言えば、ボスは「そうか」と言って彼女の入隊を取りやめるということだ。


そして現在、教導大隊への入隊志願者は極めて多いらしく、自分の不手際でその席を失ったとなれば彼女の立場は極めて危なくなるわけで。


「すみませんでした!」

「まったく。最初から素直に謝りなさいよ」


結果として自称坂崎さんは、五十谷さんに対して綺麗な土下座を披露することになったとさ。


……いや、なんで土下座?

普通に敬礼じゃ駄目だったのか? 


「ダメよ。誠意が足りないわ」


そうか、駄目か。

厳しい世の中だな。


土下座の是非はさておくとして。

ここまで親しげに話をしているところを見るに、どうやら自称坂崎さんとやらは五十谷さんの知り合いらしい。

五十谷さんは近畿地方に根を張る第六師団の人なので、自称坂崎さんも同じなら彼女は第六師団の関係者となる。


第六師団とは特に接点はないものの、逆に言えば争うような関係性ではないので、下手なことを言わなくて正解だったと思いたいところ。


「ほら、大尉にも謝罪」

「お嬢と同じクラスになれると思って舞い上がってました! 申し訳ございませんでした!」


もちろん派閥の垣根を超えた気の置けない友人という可能性もあるので、現時点で彼女の所属まで断言するのは危険だが、少なくとも五十谷さんと友好的な関係を育んでいるのは間違いないようだし、俺としても仲良くすることに否はないので、謝罪は受け入れる。


「そうか。まぁそういうこともあるよな。今後は気を付けてくれ」


「ありがとうございます!」


言葉の裏に隠された『罰則はなし』という言葉に気付いたか、元気な声で返事をしてくれる自称坂崎さん。


常日頃からこのテンションで生きているとしたら、かなりメンタルが強いと言わざるを得ない。


あと、やはり彼女が言う”お嬢”とは、五十谷さんだったようだ。

最初に結婚式がどうこう言ったのは、俺の反応を見て派閥に取り込めるかどうかの確認をしたかった、とかだろうか?

それとも、若者にありがちな色恋ごとを絡めた冗談だろうか?

……両方、と考えた方がいいかもな。


もし結婚に肯定的な意見を述べていたら、彼女の派閥が動いていた可能性も無きにしも非ず。


まぁこんな世の中で、それなり以上の成果を上げてしまったのだ。

今後、自由に過ごして、自由に恋愛して、自由に結婚して、自由な老後を迎える、なんてある種『当たり前』のことは望めなくなったのだろう。

それは仕方がない。

しかし、望まぬ相手と無理やり繋げられるようなことを唯々諾々と受け入れる心算はない。


そんなわけで今回の件、五十谷さんは彼女の突飛な言動にお怒りのようだが、俺としては「自分の立場を再認識できたという意味では決して悪いものでもない」と思うことにしたのであった。

閲覧ありがとうございました


拙作、極東救世主伝説の四巻発売中です

よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ