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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
1章・入校~夏休みまで
11/111

11話。友人? 出陣?

「聞いたわよ。アンタ。ゲテモノつかまされたんだってね」


「ゲテモノいうな」


否定できんけど。


授業が終わると同時にいきなり近付いてきて同情交じりの視線を向けつつふざけた発言をしてきたのは、入試の成績で俺に負けたのが悔しかったとかで突っかかってきたものの、俺が戦争の被害者だとボスに暴露された後で、素直にそのことを謝罪してきた『目つきは悪いが実は素直なお嬢さん』こと、沙羅双樹さん……ではなく五十谷さんだ。


他の生徒が俺との距離を掴みかねている――もちろん俺も距離を掴めていない――中、このお嬢さんだけはあっさりと距離を詰めてきたのだ。


何でも彼女の実家が所属する第六師団は近畿地方を守護しているらしく、俺が世話になるであろう第二師団ともよく連携している仲なのだとか。だから俺とも連携を取れるよう、最低限のコミュニケーションを取った方が良いと判断したらしい。


打算ありきの考え方だが、人間付き合いなんてそんなもんだし、俺としてもこうして会話をする程度であれば拒否するようなことでもないので、五十谷さんの思惑に乗ってあげた結果、こうして世間話をする程度の仲になったというわけだ。


ちなみにどうして俺が第二師団の世話になるのかと言えば、俺が入学するための手続きを行ったのが第二師団の人事担当官だったからだそうだ。


元より卒業後の配属先は上が決めるものだと思っているから、別に俺の配属先が第二師団になるということに文句をいうつもりはない。


ないのだが、できたら後方に配置して欲しいものである。


それはそれとして。


彼女がいうには、同級生は全員別の派閥に所属する関係上軽々しく世間話をすることもできないんだとか。その中で俺は少し毛色が違うらしい。


第二師団の預かりとは言え、正真正銘の一般人であるため派閥関連の面倒な柵がないうえ、上層部の誰もがいきなり現れた俺の情報を欲しているため世間話をしても文句を言われない、むしろ世間話をしているだけで親から褒められるそうだ。


……俺との世間話でどんな情報を得ているのかも知らなければ、どんな情報を流しているのかも知らないが、ここまで明け透けに言われてしまうと逆に警戒が薄れてしまうのだから不思議なものである。


実際彼ら彼女らのような立場であればお互いが競争相手なのだろう。

家でも厳しく躾けられているというのも聞いた。

常に肩肘を張るのも面倒だというのもわかる。


情報を抜くのは流石に少し抑えて欲しいと思わなくもないが、笑みを浮かべながら『アナタのことを話すだけでお父様に褒められるのよ!』なんて言って喜んでいる娘さんに冷や水をぶっかけることもあるまい。


精神年齢がオッサンである俺が少し我慢すればいい。そう判断したが故に、俺は彼女が俺の情報を漏洩していることに目を瞑ることにしている。あんまりにもあんまりな情報を流されたら困るが、そもそも普通の世間話しかしてないしな。そこから情報を得ると言うのであれば、それは彼女の有能さの証だと諦めるべきだろう。


初対面の際に沙羅双樹の華を観賞させてもらったこと? 関係ない。絶対にだ。


そんなこんなで普通に友達付き合いしてみると、彼女は非常に接しやすいタイプの人間であった。


まず、彼女は基本的に嘘は言わない。

性格的に向いていないことも自覚しているだろう。

当然気軽に話せないような内容の場合は黙秘するか誤魔化すが、それだけだ。


初対面のときに突っかかってきたのも、正体不明だった俺の情報を探ろうとしていたから。俺がどんな態度を取るかで接し方を考えようとしていたらしい。


で、その後のHRでボスが情報を暴露したことで、俺が派閥に所属していない一般人であること。つまり武人として守るべき存在だと認識した。


ただしそれは、あくまで入学する前までの俺であって、軍学校に入学したからには軍人、つまりは同僚として扱うことにしたそうな。


正直俺のような異物に対してこのくらいの距離感で接して貰えるのはありがたいことだと思っている。


「上半身が標準型で下半身が獣型なんでしょ? まごうことなきゲテモノじゃない」


あとは思ったことをストレートにいうタイプだ。今回みたいに。


「……使いこなせれば中々のモノになると思うぞ?」


「使いこなせるの?」


俺が整備士のオッサン、いや、最上さんに言ったことがそのまま返ってきたでござる。


「一応、シミュレーターではそこそこの成績を出したけど」


難易度とか不明だったし、所詮はシミュレーターだから大きなことは言えんが。


「へぇ? 少なくとも起動もできずに撃墜ってわけじゃないのね? 回避行動や攻撃もできたの?」


「まぁな」


流石にそれができないのに『そこそこの成績』というのには無理があるのでは? 俺は訝しんだ。


「不思議そうな顔しないでよ。そんなゲテモノ。普通は起動すらできないでしょう? それなのにアンタは起動させた。それだけじゃない。回避や攻撃という基本動作を行うことができた。これは間違いなく良い情報よ。またお父様に褒められるわ!」


「あぁ、なるほど」


抜け目ないとでも言うべきか、それとも俺が間抜けなだけなのか。


(いや、俺が間抜けなだけだな)


使えるか使えないかは別として、新型の情報が稀少で貴重な情報だなんてことは考えるまでもないことじゃないか。


ただし、その稀少で貴重な情報を得て喜んでいる理由が『父親に褒められるから』というのは、気が抜けるというかなんというか。


だが気を抜いてばかりではいけない。俺は学生とはいえ軍人なのだから。


「それじゃ、訓練が有るから」


「あ、そうね。私も行くわ」


(俺個人の情報ならまだしも、機体についての漏洩はマズいよな)


そう判断した俺は五十谷さんとの会話を切り上げ、彼女曰く『ゲテモノ』とそれを造った変態が待つハンガーへと足を運ぶのであった。


―――


そんな会話から二日後。暦の上では四月下旬、世間様ではGW(ゴールデンウィーク)と呼ばれる時期のことである。


まぁ経済を回す必要がある一般の方々と違い、第二次大戦から100年以上にわたって悪魔と戦い続けている軍人にそんな大型連休を取るような風習ができるはずもなく……4月下旬だろうが5月上旬だろうが関係なく週休二日制が維持されている――なお、昔は月月火水木金金状態だったが、さすがに休憩がないと作業効率が落ちることが実証されていることと、休みがなければ金を使う機会がない、つまり経済が回らないということで週休二日制が導入されている――今日この頃。


皆さまいかがお過ごしでしょうか。


俺こと川上啓太は現在、東京から遠く離れた北九州の海辺におります。


いきなりのことでなにがなんだかわからないと思う。俺もよくわかっていない。


簡単に経緯を説明するとだな。昨日急にボス(担任)から『貴様は明日入間の空軍基地に行け』って言われて、空軍基地に行ったら整備士のオッサンたちが待っていて。飛行機に乗せられたと思ったらいつの間にか九州に到着していたのだ。


「いや、なんでだよ!」


説明してもわかんねぇよ! このご時世俺達に大型連休がないのはわかる。百歩譲って民間に大型連休があったとしても、卒業後に戦場に出ることが決まっている俺たち軍人の卵にそんなものはない。あるはずがない。


万が一あったとしても、みんな訓練にあけくれるだろう。だって戦場に出るまでに機体に慣れないと、冗談でもなんでもなく死ぬのだから。


それも死ぬのは自分だけではない。俺たちは幹部候補生だ。卒業と同時に尉官の身だ。つまり小隊長かその補佐になるのだ。そんな俺たちが死ぬときとはどんなときか? 言うまでもない。所属する部隊が全滅しているときだ。


自分一人で死ぬのならまだしも、部下の命まで背負うことになるのである。それを知りながら連休を満喫できる奴がいたとしたら、それは精神的な強者……ではない。ただの社会不適合者だ。


少なくとも軍ではそう考えるだろう。そして今の軍に社会不適合者を幹部候補として育てるような余裕はない。つまり、大型連休だなんだのと言ってサボろうとする奴は、あっさりと放逐されるってことだ。そもそも給料をもらいながら学校に通っている身で授業をサボるとかありえないがな。


尤も、体育・戦史研究・戦術学・戦略学・機体調整といった軍事に関係するもの以外の授業をサボろうとする生徒は一定数いるようだがな。まぁそういった連中も定期試験で赤点を取らなければ許されるのだから随分おおらかと言えるかもしれない。


基本的な価値観としては『授業よりも訓練だ!』と言ったところだろうか。


軍学校ならでは……とは言えまい。スポーツに力を入れている私立の学校にスポーツ入学したらこんな感じだと聞いたことがあるような、ないような。


そんな方針なので、必ずしも平日だからと言って校舎に顔を出す必要はない。必要はないのだが、それでも定期試験の成績によって順位が変わったり、授業態度が真面目か否かというのは内申に関わることが知られているので普通は授業をサボらない。普通は。


上記を踏まえた上で、だが。

軍学校には授業をサボっても評価を落とさないときというのが存在する。


先に挙げたスポーツに力を入れている学校の例でいえば、所属する部の公認で大会や練習試合に出場する場合だ。この場合は公欠扱いになるのだから、サボりとは見做されないのである。


さて、ここで質問です。


問。軍人を育てる軍学校に於いて『大会や練習試合にいく』に相当する場合とはどんな場合でしょう?


答。戦場に行く


はい。そういうことです。


「そういうことです。じゃねぇよ! なんでだよ!」


「どうした急に」


思わず声を上げた俺を見て最上さんが怪訝そうな顔を向けてくるが、不思議なのは俺の方だ。


「いやいやいや。入学したての若造が戦場に出るっておかしいでしょう?」


確かに軍学校のカリキュラムには『戦地での実習』という項目がある。だがそれは三年生、それもAクラスの人間、もしくはBクラスで機体を与えられている生徒。つまり2年以上軍学校で学んだ生徒の中で、さらに上澄みとなる優秀な生徒が対象だ。


間違っても入学から一か月、それもゲテモノを与えられたせいで調整に時間がかかっている問題児にさせることではない。


一体学校側は何を考えているんだ。そう憤りを隠しつつ常識に則った主張をしたところ、最上さんはニコリと音が出るくらいいい笑顔をキメてサムズアップをしながらこう言ったのさ。


「ちょっとばかし無理を通したからな」


「元凶はあんたか!」


初日のシミュレーターでの訓練を終えたあとのこと。帰宅してから妹様に機体のことを報告をして色々と調べてもらってわかったことだが、なんとこのオッサン。ただの整備士ではなく最上重工業という会社の社長でもあったのだ。


それなりに業界の情報を調べていた俺が今まで聞いたことがなかった会社だが、それも然もありなん。これまで最上重工業が造っていたのは、機体ではなく戦車の履帯や重砲。機体が使う武器や部品だったからだ。それが何をトチ狂ったのか、機体の製作産業にまで触手を伸ばしてきたのだ。新規参入だから俺が知らないのも当然だよな。


とはいえ、普通であれば簡単に新規参入ができる業界ではない。なにせこれまで機体の製造や開発は大企業と呼ばれる企業が独占状態にあったからだ。


具体的には、標準型が四菱や水戸立製で、獣型が海崎や木田といった大企業が独占していたので新規企業は入りづらい、というか参入できる状況ではなかった。


だが世界情勢が彼らの独占を許さなかった。アジア諸国での反攻作戦や朝鮮半島の陥落により兵器の需要に供給が間に合わなくなったのだ。


そこで軍が基幹技術のある企業に新規参画を要請したところ、部品の製造だけでなく機体も造りたいと思っていた最上さんのところを始めとした何社かが食い気味に手を上げたらしい。


それから数年。最上さんのところで試作一号機ができたわけだが……通常であればどれだけ金を積んだところでこの短期間に開発、組み上げを行った試験機を金の卵である軍学校の生徒に割り当てるようなことはしない。


しかし、一昨年第三師団が壊滅したせいでそうも言ってられなくなってしまった。


国土防衛と遠征軍への補填で戦力が不足することを確信した上層部は、少しでも使えるなら……ということで、最上重工業が造り上げた試作機を仮運用する決意をしてしまう。


本来であればもっといい機体を貰えたはずの俺がこの機体を割り当てられたのは、まぁアレだ。他の生徒はそれぞれの軍閥の紐付きなので、怪しい恰好をした試作機を割り当てることができなかったからだ。


その点、俺は便利だもんな。頭からつま先まで一般市民なんだもん。


ゲテモノを渡されたからと言って文句をいう家族もいなければ、死んだところで文句を言える家族もいないのだ。そりゃ実験機を回されますわ。


で、最上重工業としても実戦で試験ができるのであれば一刻も早くしたいのだろう。

その内容如何では正式採用が決まると考えれば焦るのもわかる。

会社の運営的なことを考えて、無理を言って戦場に出ようとするのもまぁわかる。


問題なのはなぜ俺がそれに巻き込まれなければならないのか。という一点にある。


そもそも俺の願いは、戦場に出て華々しい活躍をすることではない。


功績を得られると同時に命の危険に晒される主戦場という地獄から離れた後方で、降格や罰を受けない程度の仕事をしていられればそれで良いのだ。


具体的には近畿地方を管轄している第六師団か、四国を管轄している第八師団に配属されれば最高! と思っている程度には戦場に出たくないのだ。


それなのに、何が悲しくて最前線である九州で戦い続ける精鋭、第二師団のお世話にならないといけないのか。いや、聞いてたけど。五十谷さんから聞いてたけど。


それでも学生を最前線に送るのはおかしいだろ。自前の機士を使えや!


第二師団の皆さんだってなぁ、後ろで軍学校に入ったばかりの学生が新型を使って訓練してたら迷惑だろうが!


などと散々言ってみたのだが、残念ながらこの時の俺はまだ本気になった大人の怖さを知らなかった。


「安心したまえ。私とて戦場に学生を連れていくつもりなどない」


「は?」


いや、今、ここにいるんですが?


「君は学生ではないよ。少なくともここにいる間はね」


「は?」


このオッサン。一体何を言っているんだ?


「不思議そうな顔をしているねぇ。まずは自分の生徒手帳を確認してみたまえ。それでわかるよ」


「生徒手帳?」


言わずと知れた、今も昔も変わらず学生が持てる身分証明書の一つである。


といっても西暦2056年現在、昔のように手帳の形はしていない。あくまでデータとして存在しているだけなので、軍学校から支給されているスマホから見ることができる。


それを見ろ、と? よくわからないが見ればわかると言うのであれば見てやろうではないか。


「特に何も……は?」


半ばヤケクソになって確認してみると、まず顔写真と名前と生年月日が記載されている、次いで書かれているのは所属と階級だ。


当然のことだが写真と名前、生年月日に違いはない。違っていたのはその次だ。


「……第二師団所属・特務少尉?」


「おめでとう。少尉」


「は?」


卒業前、どころではない。入学してからわずか一か月で昇進である。


いや、正確には昇進とは少し違うかもしれない。

なにせ少尉は少尉でも特務(・・)少尉だからだ。


特務待遇とは、通常時は元の階級として扱われる(俺の場合は学生なので准尉相当)ものの、特務に当たっている際は少尉としての待遇を与えられるというものだ。


つまり条件付きの少尉というわけだな。その条件はもちろん……。


「士官教育が終わっていない以上、まだ正式な少尉にはなれない。だがここでテストパイロットとして実績を積むことで、君は軍学校を卒業すると同時に少尉、もしくは特務中尉に任官される。重ねてお祝いを述べようじゃないか。おめでとう川上君」


既成事実ってやつですね。わかります。じゃねぇよ!


くそっ! 正直このオッサンと最上重工業を舐めていた。


そりゃ新規参入だろうがなんだろうが軍需産業に参画できる企業に金やコネがないわけがないもんな。それを使えば後ろ盾のない学生を特務少尉にして戦場に出すことくらい容易いってわけか……。


そして、特務少尉とはいえ正式な少尉である。軍に於いて階級は絶対。

こうなってしまっては戦場において『学生だから』なんて言い訳は通じない。


「……俺はここで何のテストをすればよろしいので?」


「うん。切り替えが早いのはいいことだ。まずは移動と展開訓練からだ。早速格納庫から機体を回収して、予定している地点まで移動してもらおうか」


「……了解です」


――こうして俺は、金と権力を持った変態の恐ろしさをわからせられると同時に、後方とはいえ戦場で訓練を行うことになったのであった。



ちなみに、啓太君は勘違いしていますが、通常金やコネがあってもこのような横紙破りはできません。それが許されるのであれば他の生徒も同じようにして既成事実を積み上げようとしますからね。


今回これが通ったのは、啓太君が現在軍が所有している唯一の第三次救世主計画の被験体であること。

最上重工業が送り出してきた機体がこれまでの機体とは全く違ったコンセプトで造られた機体であること。

啓太君が行ったシミュレーターでの成績が常軌を逸していたため、実際の挙動を確認したいと思われたこと。

第三師団が壊滅したせいで軍部が即戦力を欲していること。

等々、たくさんの要因があって初めて成立しております。



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