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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
五章
109/111

3話 久しぶり! というほどのものではない。

優先順位を見誤るなという俺の言い分に対し、一応の納得はしたものの、未練タラタラな様子を隠しきれていないところを見るに、彼はかなりの確率で新調した機体に何かしらのギミックを加えてくるものと思われる。


いや、一概にそれを悪いと言っているわけではないのだ。

特大型を仮想敵とした場合、火力が足りていないのは事実だし、俺だって、新しい武器に興味がないわけではないからな。


だけど、慣熟訓練をしっかりと行える時間があるかどうかわからない中で、新兵器を造ろうとするのは勘弁してほしい。


暴発で自分が死ぬのはもちろんのこと、誤射で味方を殺すとか絶対に嫌だぞ。


問題は事故だけじゃない。継戦能力が落ちることだ。


だって、新しい装備なり新しい機構を加えたら、絶対に重くなるだろう?

火力と重量が比例するのはわかるが、それだって限度ってものがある。

機体の積載量ではなく、俺の体力という点でな。


機士の負担を軽減するために少しでも重さを減らすのが常識とされている中、なぜそれに逆行しようというのか。


彼らは一度三五㎏の重りを付けて生活してみるべきだと思う。


とはいえ、彼らは研究室や安全な実験場しか知らない頭でっかちの技術者ではなく、戦場の厳しさを知る技術者なので、趣味に走っていい時とそうでない時の区別くらいは付く……はず。


「まぁ、考えてもどうしようもないか」


どうにも不安は残るものの、これ以上は一介の兵士に口出しできる問題でもないため、一抹(というには些か以上に大きすぎる気がするが)の不安を胸に秘め、クールな俺は大人しくガレージから立ち去ることにした。


「さて、これからどうしたもんか」


いつもであればシミュレーターで訓練をするところだが、御影は今記録されている能力値と新調した後の能力値に差異があると調整に手間取るから最低でも能力値の入力が終わるまでは控えるべきだろうし、量産型での訓練は変な癖が付くから止めておけと言われている。


残すところは強化外骨格を纏っての訓練か、生身での訓練、もしくは尉官用の座学カリキュラムを消化することなのだが、はてさて。


「大尉殿。お暇なようでしたら、少々お時間をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「ん?」


どうしよっかなーと考えている俺に声を掛けてきたのは、我らが世代の首席、武藤さんであった。


彼女は教導大隊に所属していないため、授業が終わった後の訓練やブリーフィングでは一緒になることがなく、さらには警戒対象として目を付けられていた旧第三師団に所属していたせいで、あまり突っ込んだ話をしないようボスから釘を刺されていたこともあって、少し前まではお互い意識して多少距離を置いていたのだが、旧第三師団が第一師団に編入されたことや、教導大隊が第一師団の管轄になったことから、今ではそれなりに会話をする仲に戻っている。


もちろん、大尉の俺と准尉待遇である彼女との間には大きな階級差とそれに伴う情報量の差があるので、なんでもペラペラと喋っていいわけではないが、クラスメイト兼同僚として接する分には何の問題もない相手であると言えよう。


ちなみに小畑くんと笠原くんについては、いまだに警戒対象のままだったりする。


これは、彼らの普段の生活態度もさることながら、武藤さんの実家が旧第三師団閥の面々から距離を取ったのに対し、彼らの実家がいまだに旧第三師団閥の連中と縁を切っておらず、それどころか第一師団内で新たな派閥を形成しようと画策していることが判明しているからだ。


当然、第一師団の上層部は、自分たちにとって獅子身中の虫となった彼らが、妙な方向で策動していることを把握している。


そもそも、組織の内部で行われる権力争いや、それに伴う腹芸は、貴族やら華族で形成されている第一師団にとって十八番とも言っても過言ではない。


長らく実戦の場から離れたせいか、ほんの数か月前には腑抜けた判断をしたことはあるものの、こういった策謀にはめっぽう強い第一師団を相手に、地元企業や地元名士の集まりでしかない第三師団閥――それも多くの主力となる人物を欠いた状態の彼ら――が立ち向かえると考えるほうがおかしい。


それらを全部知った上で、彼らの行動を放置しているのは『いつかその派閥を中心にして第三師団を復活させる』という、没落した同僚に対する温情……などではない。


国内外に蔓延る虫を一か所に纏めるための餌として利用しているのである。


自分たちが置かれている状況に気付き、距離を取るならそれでよし。

気付かずに第三師団閥に迎合するなら、それもよし。


後者は潰し、前者は使い潰す。


それが、第一師団が選んだ旧第三師団閥に対する扱いであった。


やりすぎ? やりかたが陰湿? 

生き残った者は関係ない? 

極東ロシアで貴種を助けたからチャラ?


それ、前の防衛戦で死んだ軍人の前で言えるのか?

大きな人的被害を受けた第二・第六・第八師団の面々の前で言えるのか?


言えるなら言ってみろ。

次の瞬間には脳天をカチ割られているだろうが、な。


結局のところ、これは見せしめであり、禊なのだ。


ここまでやって初めて、彼ら旧第三師団閥の面々は、当時大型の魔物に対する切り札と認識されていた俺を国外に放出したことや、戦場で犯した敵前逃亡にも等しい行為を赦されるのである。


もちろん、例外はある。


生まれた地域が第三師団の管轄である中部地方だったために、半自動的に第三師団に所属していた一般家庭出身の兵士や、武家であっても政治的な決定権を持たない末端の家出身の兵士。

そして、彼らと同じく政治的決定権を持たない子供たちだ。


特に戦場で最も必要とされる優秀な下士官は末端の家を出自としていることが多いため、彼らに関しては早急に戦力化が急がれているとか。


このように、感情に任せて、権力争いに巻き込まれただけの彼ら彼女らに責任を負わせようとするほど、軍は愚かな組織ではない。


逆に言えば、いまだにその愚かな組織ではない軍から警戒対象とされている小畑くんと笠原くんは相当危ない立場なのだが……まぁこれに関して俺からできることはないので、頑張って自分で気付いて行動を改めてほしいと思っているところである。


旧第三師団閥の面々が置かれている状況はさておくとして。

せっかく声をかけてくれたのだ。今は武藤さんの相手をしよう。


「時間はありますけど、どのようなご用件で?」


「そうですねぇ。可能なら他の人に聞かれないところでお話したいところなのですが……」


「んー」


正直に言うと、微妙。

いや、できたら遠慮したい。


だって、なにされるかわからないもの。


それも、ハニトラとかじゃなく、物理的な襲撃という意味で。


というのも、だ。


親御さんが旧第三師団閥から距離を置くことを選択した上、本人も政治的な決定権がない子供ということで、今のところ第一師団が策定している警戒対象リストから外れている武藤さんだが、彼女が置かれている状況は決して良好と言えるものではなかったりする。


それを象徴する最たるモノが、俺と彼女の間にある待遇の差であろう。


片や一般家庭出身の子供、片や名家出身の子供。

片やいくつもの戦場で活躍した英雄で、片や戦場に出たことすらない学生。

片や新兵器を任された俊英で、片や旧式を与えられた機士見習い。

片や第三席にして話題の教導大隊の主力メンバーで、片や首席でありながら今話題の教導大隊に所属していない訓練生。

片や大尉で、片や准尉待遇。


箇条書きにしただけでもこれだけの差があるのだ、彼女の面目は丸潰れと言ってもいい。


この上、前回のベトナム遠征に関するあれこれが加わると、彼女の扱いはもっと悪くなる。


なぜか。


俺と担任にして直属の上司であるボスは例外としても、五十谷さん、田口さん、橋本さん、綾瀬さん、合計四人もの同級生がベトナムに渡り、戦場を経験しただけでなく、一定の戦果を上げているからだ。


具体的には、今回の遠征で五十谷さんは少尉に、田口さん、橋本さん、綾瀬さんは正式な准尉となった上、それぞれに勲章が授与されている。


対して首席である武藤さんはどうかというと、なにもない。

昇進も、勲章も、なにもない。

普通の学生のままだ。


いや、もちろん、これらのことに関して、武藤さんに瑕疵はない。

むしろ彼女は極めて勤勉で優秀な生徒である。

それこそ例年なら『十年に一人の秀才』と持て囃されていたほどには優秀な人材だ。

少なくとも、ボスはそう評価している。


五十谷さんらは結果的に昇進してはいるものの、そもそも教導大隊そのものが賭けみたいなものだったし、なにより俺たちがベトナム遠征に帯同すること自体がイレギュラーだったのだ。


そのことを考えれば、五十谷さんらは運に恵まれた結果賭けに勝っただけであって、武藤さんが負けたわけではない。


また彼女は、賭けに乗ることを拒否したわけでもない。

彼女には、賭けに参加する権利すら与えられなかったのだ。


それだって、彼女の能力が足りないというわけではなく、新兵器を集めて運用方法を探るという秘匿性の高い試みに、旧第三師団閥所属である彼女を参加させるわけにはいかないという政治的な理由があったが故のこと。


結局彼女は、彼女自身ではどうすることもできない、いわば周囲の環境のせいで賭けに乗り損ね、結果的に『普通に優秀な生徒』として無聊を囲っているわけだ。


そんな彼女に対する周囲の目は、決して良いものではない。


もともと首席であり、旧第三師団閥出身であった彼女の足を引っ張りたいと思っている人間は多かったが、今はそれが輪にかけて多くなったように感じられる。


派閥に所属していない俺にさえ『首席なのに、なんで彼女は昇進しないんだろう?』という嘲りや侮蔑の声が聞こえてくるくらいだ。


標的である本人にはもっとキツい言葉が投げかけられている可能性は極めて高い。


もちろん、Aクラスの中ではそんなことはしていないぞ。


俺もそうだが、五十谷さんらも『自分がいつ戦場に呼び出されてもおかしくない』ということを自覚しているが故に、自己鍛錬に余念がないし、藤田くんや福原くんはある意味で武藤さんと同じ立場なので、そんなことをする余裕がないからな。


小畑くんと笠原くん? まぁ、彼らは、ね。

少なくとも直接的ないじめはしていないと思うぞ。


存在自体が足を引っ張っているから、万が一にも手を出そうとしたら、武藤さんはこれ幸いと反撃するんじゃないかな。多分。


ともかく。あくまで俺の主観で申し訳ないのだが、精神的に余裕がなさそうな人と二人っきりになるのは避けたいんだよな。


反撃した際に過剰防衛とか言われても嫌だし。


「そんなわけで、話をするなら第三者がいるところで頼む」


「……正直ですねぇ」


「隠してもしょうがないからな」


社交辞令? 知らん。

そもそも俺の考えなんてバレてるだろうしな。


「では、久我中佐に間に入ってもらいましょう。それならどうです?」


「うん。中佐なら問題ない」


問題ないどころか、担任で直属の上司である彼女にさえ秘密にしなきゃいけないような話をするつもりなら拒否してるわ。


「それは良かった。では行きましょうか」


「ん?」


中佐の許可は……あぁ、いや、もう取ってるのか。


つまるところ、武藤さんは最初から中佐を交えて話をするつもりだった、と。


まんまと誘導されたわけね。


けどこれ、もし俺が二人っきりでの話するって言ったらどうするつもりだったんだ?


素直に二人で話をしていたのか、そこにボスを呼ぶつもりだったか、はたまた俺がそんな選択をするはずがないと確信していたのか。


それ以前に、俺に時間の余裕ができることまで予想してないと、この段取りは組めないよな。


どこまで読んでいるのか、そしてここまで準備して話す内容とはなんなのか。


んー。わかんねぇなぁ。


妹様もそうだが、本当に地頭の良い人ってのは、俺みたいなチートを上乗せしただけの凡人では見えないナニカが見えているんだろう。


だからこそ彼女みたいな人とは下手に敵対したくないんだが……はてさてどうなることか。


ま、今回はナニがあってもボスに丸投げするから問題ないけどな!

閲覧ありがとうございました



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