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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
五章
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1話 プロローグ

「どうしたもんかねぇ……」


最上重工業の本社会議室に於いて、社長にして技術部の部長を兼任している最上隆文は頭を抱えていた。


と言っても、彼が抱える悩みは去年の今頃と比べれば真逆のモノであったが。


ちなみに去年の今頃隆文は、己の衝動が導くまま趣味を全開にした機体を製造していたせいで直面することとなった『資金繰り』という単純にして絶対的な問題に頭を悩ませていた。


第三者からすれば自業自得としか言えないが、隆文にとっては非常に深刻な問題であった。


どれだけ考えてもどうしようもなかったので、とにかく動かせる可能性がある人間を求めて賭けに出て、そして勝った。


去年、最上重工業が誇る変態たちが考えぬき、精魂込めて造り上げた『ぼくらのかんがえたさいきょうのきたい』こと御影は、偶然にも川上啓太という野良の変態を得たおかげで彼らが当初想定していた以上の成果を発揮してくれたのだ。


四本の脚が齎す圧倒的な機動力で戦場を駆け抜け、草薙型や八房型では搭載することもできない重砲による圧倒的な火力で以て大型の魔物を喰らい、おやつ感覚で中型の魔物を駆逐する様はまさしく最強。


想定以上の実績を積み重ねることができたおかげで資金の調達にも成功したし、その変態から得られた知見と予算を活用して変態以外でも使える機体を造ることもできた。


極めつけは特大型の討伐である。


自分たちが造った機体が、世界中の誰もができなかったことをやってのけたのだ。

そのことは純粋に誇りに思うし、達成感もある。それは嘘じゃない。


また御影に関しても、機体は失ったものの、一番大事なブラックボックス的な部分は啓太の魔晶に収納されているし、政府から『今後ともヨロシク』と言わんばかりに給付された多額の技術開発費やベトナムで得られた大量の素材があれば、新たに機体を組み立てること自体はそんなに難しいことではない。


ただし、それはあくまで同型の機体であれば、の話だ。


隆文は悩んでいた。


データはある。素材もある。故に同じ機体を、否、素材の質が高いことを考えれば、同じような機体を造ったとしてもより性能が高い機体となるだろう。


また専属の機士である川上啓太も成長している。

それと合わせれば御影はもっと高く飛べるようになるはずだ。


故に、一刻も早く後継機を造れ。

そして変態を羽ばたかせろ。


国が、世界がそれを望んでいる。


それはわかる。

しかし、しかしだ。


「お前らはそれで満足できるか?」


「……できねぇっす! できるわけねぇっす!」

「「「そうだ! そうだ!」」」


隆文の言葉を受けて会議室に集まった変態どもが騒ぎ立てる。


「そうだ。同じじゃ意味がねぇんだ!」


隆文らにとって御影は『最強の機体』だった。

しかし今回、御影の火力では勝てない敵が現れてしまった。


これが使い手の練度によるモノであればまだ誤魔化せた。

もし戦ったのが翔子と彼女が乗る試作三号機であったなら、隆文もそう言えたかもしれない。


しかし御影に関しては別だ。


御影は変態が常時理論値をたたき出していたこともあって『使い手が悪い』なんて言い訳はできない。


川上啓太が乗って勝てない敵がいたのであれば、それは御影の性能が劣っていたからなのだ。


そして今回、御影は特大型を撃破できなかった。

討伐はできたが、相打ちだったのだ。


何故狙撃主体の機体として設計された御影が、至近距離での自爆という手段を取らなければならなかったのか。


啓太が持ち帰ったブラックボックスを解析した結果判明した原因は、こともあろうか火力不足。


そう。方々から散々過剰だ過剰だと言われていた火力が足りなかったのだ。


「こんな屈辱はねぇぞ!」

「「「「そうだ! そうだ!」」」」


相手が何であれ、自爆――しかも持ち込んだ火器弾薬全てを巻き込んだそれ――に頼らなければ一体の魔物にすら勝てない機体のどこが『最強』なのか。


同じモノを造ったとして、敵がまた特大型を出してきたらどうする?

また都合よく自爆に巻き込まれてくれるのか?

脱出した啓太が無事で済むのか?

大型や中型魔物が追撃をしてきたらどうする?

魔族が退却しなかったらどうなる?


そも、特大型が複数出てきたらどうする?


大人しく負けを認めるのか? 

ありえない。

『最強』を造った技術者としての矜持がそれを赦さない。


隆文は考えた。


(『最強』を上回る敵が現れたのであれば、それを上回る『最強』を造ればいい。足りねぇモノはわかってんだ、まずはそれを足せばいい)と。


結論は出ている。自分一人では難しいかもしれないが、この様子であれば部下たち(変態仲間)も協力してくれるだろう。そこに不安はない。


不安材料があるとすれば嫁や娘による横やりだが、今のところ向こうは向こうで強化外骨格の増産計画でいっぱいいっぱいだ。


あちらは特に改良する予定はないので、今は生産ラインの維持やらライセンス契約の確認だけでいい。

それなら嫁や娘の専門分野だ。任せてもいいはずだ。


(金、素材、データ、そして人手。完全無欠の機体を造る準備は整った!)


今の状況は隆文にとって理想的な状況ともいえるかもしれない。


しかし、忘れてはならない。

隆文が先ほどまで頭を悩ませていたことを。


金も素材もデータも人手もあって何を悩むのか? 

簡単だ。


「で、これ以上の火力をどこに、どうやって載せる?」


「「「「……どうしましょう?」」」」


「……だよなぁ」


意外! それは物理の壁!


自爆前、御影の装備品を含めた総重量は約六〇トンあった。

内訳は、本体が三〇トンで、装備品が三〇トンである。


草薙型の重量が装備込みで一〇トン前後であることを考えれば、その重量差は実に六倍もある。


ちなみに試作三号機は素材の軽量化やら装備品の改良やらを駆使した結果、装備を含めて三〇トンという数値に収まっているが、その分御影には火力や敏捷性で劣っているとかいないとか。


魔改造された後継機よりも魔改造されていた一号機についてはさておくとして。


隆文らが頭を悩ませる問題とは、御影にはこれ以上火力を出すための武器を積めないということである。


技術による進歩は多々あれど、物理が歪んだわけではない。


砲弾は大きければ大きいほど中に火薬やら何やらを大量に積み込めるし、砲身が大きければ大きいほど沢山の機構を組み込めるし、砲身にたくさんの機構を組み込めればより威力の高い攻撃が可能になるという事実に変わりはない。


同時に、砲弾を大きくしようとすれば砲身を頑丈にしなければならなくなるし、頑丈かつ大きくするとなればその分重量も増してしまう。これもまた変えようのない現実であった。


(現状で三〇トンの武装を抱える御影にこれ以上の重量を載せることは現実的じゃねぇ。これまでは面白半分に「両方やっちまえ」なんて言ってバンバン載せてきた。その都度あの坊主がなんとかしてきたが、これ以上機士の才能に頼ることはできねぇ)


重さを取るか、火力を取るか。

隆文を始めとした最上重工業の技術者たちは、今になって技術者ならば誰でも経験する懊悩にぶち当たっていた。


(一応の解決策はあるんだが……)


「いっそのこと武装を減らして、一つ一つの武装を強化するってのはどうっすか?」


(そう、それだ。だがなぁ)


比較的若い社員が発したアイディアは、隆文も考えていたことであった。


ベトナムでの作戦前、御影に搭載していた重砲の砲塔は榴弾砲が二門と滑腔砲が三門で計五門あった。

これに砲弾やら大楯やらグレイブやら機関砲やらを加えて三〇トンとなっていた。


この中で最も重いのが、その名の通り重砲である。


確かに当初から「これ、三門も必要か?」という意見はあった。

若い社員や隆文以外にも「砲の数を減らして軽量化を図ればいいのでは?」と考えた者はいるだろう。


しかしそんな簡単な解決方法があるにも拘わらず、今まで誰もそれを提案してこなかった。


何故か? 誰も考えつかなかった? 

そんなはずがない。

選ばれし変態どもが、そんな基本的なことを思い浮かばないわけがないからだ。


では何故誰も議題に上げなかったのか? 


「……私も君の意見は正しいと思う。しかし、それを()が認めると思うか?」


「……ですよねぇ」


(だよなぁ)


溜息をつく一同。


そう、砲の数を増やすことを提案したのが隆文ら技術スタッフではない。

機士、つまり啓太からの要請なのだ。


当人曰く『故障したときの備えでもあるが、単純に再装填の時間が惜しいから』とのこと。


確かに啓太のように最初から複数の敵を狙撃するのであれば、一発撃つたびに再装填するよりは最初から砲弾が装填されている砲が複数あった方が効率はいい。


まして今となっては『大型の魔物を狙撃する際は敵の反撃を受ける前に潰すことが肝要』という啓太のやり方が正しいことがすでに実証されている。


正しい理屈と誰もが認める実績。

この二つがある以上、これを覆すことは極めて難しい。


特大型を倒すための火力が足りない? 

それも確かに問題だが、特大型だけを見て大型を見ないのも違う。


毎回出てくる大型を速やかに討伐できる武装を除いてまで、出てくるかどうかわからない――それも効果があるかどうかわからない――特大型用の武器を持つことに意味はあるのか?


今は自分たちのロマンよりも、国防を第一に考えるべきじゃないのか?


求めるのは理想の武器か、実績のある武器か。

追い求めるのは趣味か実益か。


「どうしたもんかねぇ」


去年までのように、国防に一切責任を負っていない状況であったならば迷わず趣味の一択だった。

だが、ことはそう簡単ではない。


なまじ差し迫る現実に対応できるだけの環境があるが故に、変態の棟梁と名高い隆文であっても、即決はできなかった。


閲覧ありがとうございました。


――以下宣伝――


現在カドカワさんのページは見られませんが、五月に書籍が発売しております。


黒銀さまのイラストに加えて、文章も大幅な加筆や修正をしておりWEB版をご覧の皆様にもお楽しみいただける作品になっております。


あと売れ行きによっては次巻の特典が変わったりする可能性もあるみたいなので、書籍の方も何卒よろしくお願いします。

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