34話 妹の視点から(後)
実のところ、私はお兄ちゃんに内緒でとある仕事をしている。
その内容も『疚しいことはしていない!』……と断言できないのが微妙なところ。
少なくともお兄ちゃんには内緒にしなくてはいけない。
いや、別に体を売っているとかそういう系統ではなくて、私たちの生活様式を国の研究機関に報告しているってだけの話なんだけどさ。
元々この仕事って、私たちの両親を名乗っていた研究者たちが担当していたんだけど、その二人はちょっと前にスパイ容疑で処されちゃったんだよね。
で、本来であれば私とお兄ちゃんは親戚を名乗る別の研究者の下に送られるはずだったんだけど、お兄ちゃんが親族を名乗る連中の世話になるよりも私との同棲を選んだことと、二人っきりで暮らすための資金を得る方法として軍への就職を選んだことでその計画は白紙になった。
まぁね。そもそも第三次救世主計画は魔晶との高い適合率を持つ軍人を量産するための計画だし、軍の施設でも必要なデータは取れる。なにより被検体であるお兄ちゃんが自分の意志で軍人になるなら、国としてもデータ収集の時期が早まるだけで損はしていないからね。
そんな事情があって私たちの二人暮らしが認められたわけだけど、研究者が傍にいないからといって研究素材としての価値がなくなったわけではない。
むしろお兄ちゃんが九〇%以上という異常に高い適合率をたたき出したことで、その秘密を探るためにより詳しいデータが必要になったらしい。
ちなみにこれに関しては、この前やった検査で適合率が八九%になっていた私も無関係ではない。
聞くところによると、現在確認されている第三次救世主計画の被検者の中で、目標値である適合率七〇%を超えているのは半数に満たないらしい。その中で八〇%を超えているのは私とお兄ちゃんを除けば僅かに一人という有様なんだとか。
こんな状況なので、研究者たちはお兄ちゃんと私が高い適合率を誇る理由を探りたくてたまらないってわけ。
頭がアレな研究者たちとしては私たちを捕獲して秘密裏に分解でもなんでもしたかったと思うけど、お兄ちゃんが予想以上の結果を出して【英雄】に祭り上げられてしまったことでそれもできなくなった。
分解は駄目。それどころか下手に干渉して数値が下がっても困るということで、せめて普段の生活がどんな感じなのかってのを調べて、次代の育成に繋げようとしているんだとか。
なので私には、国から派遣されてきた研究者を家庭内に入れない代わりに、私たち夫婦の私生活がどんな感じなのかを事細かく報告するよう、命令が出されている。
具体的には『普段はどんなものを食べているのか』とか『睡眠時間はどれくらいとっているのか』とか『訓練や食事、睡眠以外の時間はなにをしているのか』とか『好きなこと、もしくは趣味はなんなのか』とか『年下の妹キャラが大好きなのは知っているけど、それ以外はどうなのか』とか『お洗濯する前のシャツや下着に怪しい液体が付着していないかどうか』とか『支給されている端末に同級生以外の女のデータが入っていないかどうか』とか『ベッドの下にも机の中にも押入れの中にも携帯端末にもそういうのがないけど、いったいどこに隠しているのか』とか『ハーレム願望はあるのか否か』とか、様々なことを調べては日々報告することが義務付けられている。
そう。私とお兄ちゃんの関係は国家に公認されているのだ!
最初は私が挙げた報告書を見て「その情報、本当に必要か?」とか「個人情報はどこへ?」ってよくわからないことを言っていた研究者連中がいたらしいけど、私とお兄ちゃんの適合率が今も上昇を続けていることを知ってからはそんな疑問は吹き飛んだようで、現在の彼らは報告書に書かれている内容を真剣に熟読しているとかいないとか。
そんなわけだから、近いうちに彼らも私とお兄ちゃんの関係を祝福するようになると思う。
間違っても彼らおすすめの『遺伝子学的にお兄ちゃんと相性がいい相手』なんて紹介させないようにしないとね。寛大な私はお兄ちゃんが望むなら側室だろうとお妾さんだろうと愛人だろうと〇奴隷だろうと侍ることを赦すけど、種付目的で近寄ってくるメスはお断りだから。
国の研究者のことについては後でお話するとして。
結局なにが言いたいかというと、お兄ちゃんのことを調べて報告することが――ナニカあったときにいつも通りのお兄ちゃんでいられるようアフターフォローするのも――仕事に含まれている私は、お兄ちゃんのことに限れば、余程のことでない限り普通なら家族であっても知りえない情報を教えてもらえるということ。
いつもはその権利を利用してリアルタイムで戦うお兄ちゃんを観てうっとりしていたんだけど、今回はそれができなかった。
途中までは観れていたんだけれども、魔族が三体現れた時点で観測班がお兄ちゃんから離れちゃったから、リアルタイムでの観戦ができなかったの。
だから私がそれを知ったのは、全部終わったあとのことだった。
――確かに『戦場ではなにがあっても不思議ではない』なんていうけど、こんなの想定外過ぎるでしょ。
「まさか、あの、究極無敵銀河最強のお兄ちゃんが……」
今回だっていつも通り普通に大型の魔物を討伐して、笑顔で「大漁大漁!」って言いながら帰って来るって信じていたのに……。
「あの、常識をどこかに置き忘れてきた代わりに存在しない記憶を植え付けられたようなお兄ちゃんが……」
ナニカするとしたら舐めた口を利いたベトナム帝国の貴族に往復ビンタするくらいだと思っていたのに……。
「あの、常日頃から『もー、優菜はほんっとに可愛いなぁ。お兄ちゃんはお前みたいな妹に恵まれて超嬉しいゾ~! あ、彼氏とか作っちゃ駄目だぞ!? 作ったらお兄ちゃんが退治してやる!』なんて言っていた義妹が大好きすぎる理想のお兄ちゃんが……」
私が見守れなかったせいで!
「全治二日の大怪我を負うなんてっ!」
こんなのって、ないよ!
あまりのショックで、その報告をしてきた研究職の人に怒鳴り散らすところだったよ!
「でも大丈夫。今の私は冷静なんだから」
悪いのは全部魔族だもんね?
特大型の魔物を呼び出すなんて卑怯な真似をしてきた魔族が悪いんだよね?
「悪い子には、お仕置きしないと駄目だよね?」
今の私ができることはたかが知れているから実際にお仕置きするのはお兄ちゃんになると思うけど、それはそれで愛の合同作業ってことだから問題なし! むしろヨシッ!
「差し当たっては研究職の人にデータを貰って、お兄ちゃんの機体に乗せる武器を考えよう!」
私が考えた武器をお兄ちゃんが肌身離さず持つってことは、私とお兄ちゃんはいつも繋がっているってことだからね!
……あれ? これ、もしかしなくても最優先でやらなきゃ駄目なことじゃない?
なんで今までやらなかったんだろう。
え、最上社長?
知らない人ですね。
最強の機体! とか言っておきながら特大型ごときに勝てない機体を造って喜んでいる人はさておくとして。お兄ちゃんには誰よりも早く私が考えたさいきょーの武器を使ってもらいます。これは決定事項ですのであしからず。
「というわけで、武器なんだけど……どういうのがいいのかな? お兄ちゃんの機体のことを考えると、形状は砲だよね。もちろん射程は長いに越したことはない。それでいて特大型を相手にするなら連射性能とか子弾をばら撒くみたいな小賢しいタイプではなくて、単発で全てを焼き尽くすくらいの火力が欲しい。速度もそれなりにないと回避されちゃう。そうなると、砲の形状は多薬室砲でかなり長くしないと駄目だよね。あと弾頭はやっぱり……核かな! うん、国内では使えないけど、他所なら問題ないはず!」
これもすべてはお国のため。魔族や特大型を倒すため。なによりお兄ちゃんのためなんだから、多少の汚染は我慢してね!
……そう思って第三次救世主計画の被検者が乗るための機体を開発している工廠に「これ造ってください」って武装プランを提出したら、真顔で『核は駄目』って言われたんだけど……なんでだろう?
不明なユニットは接続されませんでした。
閲覧ありがとうございます。
=以下宣伝=
去る5月10日に、拙作 極東救世主伝説 の書籍版が発売されております。
けっこうな加筆と修正をした結果、WEB版をお読みの方にも楽しんでいただける内容となっておりますので、興味のある方はお手に取っていただければ幸いです。
何卒よろしくお願いします。















