33話 妹の視点から(前)
短め。
私こと川上優菜は今年の春あたりから血の繋がっていない男性と同棲している。
二人っきりで住んでいるけど籍は入れていないので、今の関係性は内縁の妻ってところになるのだろうか。
簡単に調べたところ三年くらいこの状態が続けば法律的にも認められるらしいので、まずはそこを目指そうと思っている次第であります。
なんてことを亜矢ちゃんに言ってみたところ、真顔で「それはやめておいた方がいい」って言われたから、もしかしたら亜矢ちゃんもお兄ちゃんを狙っているのかもしれない。
まぁね? お兄ちゃんが魅力的なのは事実だから思わず狙いたくなるのもわかるの。
亜矢ちゃんなら私の邪魔をしないだろうし。
なんなら変な虫が付く前に二人でお兄ちゃんを囲い込んだ方がいいのかも?
そのためにはまず亜矢ちゃんをお兄ちゃんに紹介しなきゃ駄目だってことに気が付きました。
「ぐぬぬ」
いくらお友達とはいえ、お兄ちゃんに女の子を紹介するなんて……正直気が進まない。
だけど紹介しなければずっとこのままだし。
そもそも私だけだとお兄ちゃんの周囲に群がる虫をどうにかするのは難しいんだよね。
だから第二師団のコネがある亜矢ちゃんは貴重な戦力なのです。
でもお兄ちゃんに紹介するのはなぁ。
気が乗らないなぁ。
でも紹介しないことには話が進まないしなぁ。
「……致し方なし」
色々考えた結果、亜矢ちゃんについてはコラテラルダメージってことで諦めました。
紹介することが決まったら、次に考えるべきはそのタイミング。
噂によるとこれを間違えると大変なことになるらしいからね。
いや、なにが大変なのかはよくわからないけど。
まぁお兄ちゃんと亜矢ちゃんのスケジュールを合わせれば問題ないでしょ。
時期的なことを考えれば冬休みくらいがちょうどいい感じになりそうかな?
クリスマスは二人で過ごすからその前には絶対に紹介しない。
年末年始も二人で過ごすから無理。
あ、だけど休みの日じゃないとお兄ちゃんだって困るよね。
だったら紹介するのはお正月。それも家にいるのが退屈になるであろう三が日の最終日くらいがベストかな?
買い物先で偶然を装ってバッタリ!
なんてのが一番自然かも。
よし、そうしよう。
なんて考えていたんだけど、なんと肝心要のお兄ちゃんに冬休みなんてモノはなかったみたい。
いや、それ自体は予想していたんだよ?
夏休みもそんな感じだったし。
でも私としては夏休みのときみたく先生が休みをくれるだろうなぁって思っていたからクリスマスとかの計画を立てていたんだけど、今回はそれ以前の問題でして。
「え、遠征!?」
「あぁ。第一師団のお偉いさん方と一緒にベトナムに行くことになった」
「べ、ベトナム!? 冬休みは? クリスマスは? お正月は?」
「……すまん」
「あ、違うの! 別にお兄ちゃんを責めているわけじゃないの!」
クリスマスにプレゼントを用意できないお父さんみたいなリアクションをされちゃったけど、私はお兄ちゃんにそんな顔をして欲しくて言ったわけじゃない。
確かにクリスマスを一緒に過ごせないのは面白くはないけど、それも軍人としての任務ならしょうがない。その程度のことを弁える分別はあるつもり。
だから、今の私にできることは笑顔で送ってあげることだけ。
「友達もいるし、こっちは大丈夫だよ。だからお兄ちゃんも無事に帰ってきてね? それが私にとっての一番のご褒美なんだから!」
「……あぁ」
「あ、あとベトナムのお土産もよろしくね! 楽しみにしてるからね! 忘れたら怒るからね! 空港のお土産とかは駄目だからね!」
「……おぉう」
半分くらい冗談を交えて伝えれば、さっきまで暗い顔をしていたお兄ちゃんの表情は苦笑いに変わっていた。
うんうん。苦笑いでも笑顔だからね。
暗い顔のままでいるよりはずっといい。
単身赴任に赴く旦那さんのメンタルケアも怠らない。
これぞ正妻の務め! 内助の功ってやつだよね!
――数日後。
「行ってくる!」
「うん! いってらっしゃい! お土産忘れないでね!」
「おう!」
クリスマスどころか年末年始にすら帰ってこれないことに対する不満や、大事な人が戦地に赴くことに対する不安を隠しつつつ、明るい笑顔でお兄ちゃんを送り出す私。
その姿はどこからどう見ても正妻そのもの。
誰がなんと言おうと正妻以外に見えることはないでしょう。
そう、私以外にお兄ちゃんの正妻はありえないのです!
うーん。私の正妻力が高すぎて怖いわぁ。
あ、そうだ(唐突)。
正妻なら今のうちから考えておかなきゃいけないことがあるよね。
家を護る正妻にだけ赦された仕事。
それは旦那さんのお出迎え。
「帰ってきたときの出迎えはやっぱり定番のアレだよね?『おかえりなさいア・ナ・タ。ご飯にする? お風呂にする? それとも……』きゃっ!」
なんて、出発したばかりなのにもう帰ってきたお兄ちゃんの出迎えかたを想像をしていた私は、本当の意味でなにも知らない子供だったのだろう。
お兄ちゃんが向かった戦場という場所がどれほど危険なところなのか。
そしてお兄ちゃんが簡単に倒している魔物がどれほど危険な存在なのか。
このときの私は本当になにも理解できていなかったのだ。
閲覧ありがとうございました。
『亜矢ちゃん』は、とらのあな様 限定SSの『妹の友達』にて登場している人物です。
まぁ今のところはそこそこ気を許している友達だと思ってもらえれば大丈夫です。
―――
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このたび、皆様のおかげをもちまして去る5月10日に発売された拙作 極東救世主伝説 が重版されることと相成りました。
約一万五千字の加筆や色々な箇所に修正を加えたおかげか『WEB版よりも読みやすい』と、褒められているのか貶されているのかがよくわからない評価をいただいておりますが、WEB版を既読の方にもお楽しみいただける内容となっていることは間違いないようですので、気になる方はお手に取っていただければ幸いです。
よろしくお願いします













