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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
4章 ベトナム遠征
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32話 リザルト的なお話

”一人の英雄が特大型の魔物を堕とした”


間違いなく日本が世界に誇れる偉業である。

これが叶えられただけでも、教導大隊を遠征に帯同させることを上奏した技師たちの立場は守られるだろう。


それを認めた上層部もまた、一安心……とはならなかった。


「……まずいことになったわ」


皇族にして統括本部長である浅香涼子大将は、先だっての式典では決して見せなかった苦渋の表情を浮かべていた。


「えぇ、極めて深刻な問題です」


第四師団師団長伊佐木源心中将もまた、彼女ほどではないが顔を顰めている。


なにが問題なのか。

決まっている。

御影こと混合型の試作一号機が大破してしまったことだ。


人類初の成果? それは素晴らしいことだ。

ベトナムを救った? 実に素晴らしいことだ。

第四師団も助かった? なんとも素晴らしいことだ。


で? 英雄が英雄でなくなった今、誰が日本を護ってくれるのかな?


啓太が動けないということは、今やそういう話にまで発展してしまうほどの一大事であった。


「幸い、と言えるかどうかはアレだけど、今は冬篭りの季節だから大規模な侵攻はない。だけど……」


「例年通りであれば、連中の活動再開は四月からでしたな」


「そうね。で、最上社長がいうには、大尉に次の機体を用意するには最速でも半年は必要らしいわ」


「ほう半年ですか」


民間企業が一から機体を造るにしては早い。


それも川上啓太というエースオブエース(変態の中の変態)のための専用機と考えれば、破格のスピードと言っても過言ではないだろう。


元々御影は量産を前提としていないワンオフの機体であった。

一応同一の部品からなる予備機はあったが、そちらは軍の工廠で買い上げてしまっている。


新たな機体候補としては試作三号機が候補に上がるかもしれないが、そちらはそちらで五十谷翔子が乗って成果を出してしまっているので手は出せない。


その予備機に至っては試作三号機の出来次第ということで、いまだ部品の製造途中。


よって啓太が乗るとすれば以前啓太が魔族を討伐する際に使用した量産型だが、御影と比べて火力や機動力に大きな差があることは否めない。


それでも半年ならなんとかなりそうではある。


防衛に当たる各師団が疲弊していなければ。


「前回の大攻勢に対処した二・六・八の各師団は現状半壊状態。一は首都から動けず、四と五は遠征。七と九は四と五と交代する予定。となると遠征している師団の交代を遅らせるか、帰国した四と五を九州に配備するかしかないのよね」


「我々もそうですが、第五師団も遊んでいたわけではありませんが?」


「えぇ。それはその通り。私だってわかっているわ」


国外遠征から戻ったと思ったら戦地に直行。

兵士が卓上の駒ならそれもできただろう。

遠征に参加する前の第一師団の面々なら。戦場を知る前の浅香であれば『厳しいかもしれないが命令だ。動け』と上から目線で命令したかもしれない。


だが、彼ら彼女らは戦場を知った。

戦場に生きる兵士たちの生き様を見た。

彼らもまた護るべき国民だと理解した。


自分たちがやろうとしていたことがどれだけ無謀で、どれだけ兵士の気持ちを逆撫でしていたのかも理解できる。


遠征部隊を無理やり戦地に派遣するような命令を出したら、後ろから撃たれる可能性があることも理解した。


もちろんどうしようもなければやるしかないのだが、今の浅香には”非情の命令を出す前にできることがあればそちらをやろう”とするだけの意思があった。


その中でも誰もが脳裏に思い描くのが、遠征軍の交代を遅らせたり、遠征を取りやめることだろう。

しかし結論から言えば、これは無理だ。


遠征は国際的な条約に基づく派兵であり、国家の威信が賭かっているため中止はできない。

また、ベトナムを見ればわかるように、遠征軍は各国にとって文字通り命綱である。

その命綱を『自分たちの都合で引き上げる』なんてことをすれば、引き上げられた国がどんな感情を抱くか。想像するまでもない。


加えて、交代時期を変えることに関しても、各師団ともに交代の準備を終えてしまっているため、今更これを変えると予算や労力の無駄となる。


ついでに、予定外の行動を取ると他国の連中が不要な疑念を抱きかねない――煽る連中がいるので尚更気を付ける必要がある――ので、これらに関してはあくまで予定通りに、粛々と行わなくてはならない。


つまり遠征を取りやめることも交代を遅らせることもできない。


では新たな戦力を配備するというのはどうだろうか?


「教導大隊に所属している面々のうち、久我中佐以下数名はすでに【射撃】と簡単な移動が可能になっている。五十谷少尉に至っては機動と呼べるレベルで動くこともできている。でも、言い換えればそれだけなのよね……」


「彼女たちが成長をしたのは確かでしょう。現状でも戦力として数えることはできます。ですが、前回の大攻勢と同じ運用をすれば……間違いなく死にますよ」


「そうね。それに、次がない。彼女らの犠牲で一度は凌げても、再度去年と同じ規模の侵攻があった場合、間違いなく九州は陥落してしまうわ」


「その可能性は高いかと」


軍人とはリアリストでなければならない。

それを忘れたとき、軍とはいとも容易く暴走するし、いとも容易く敗走してしまう。


過去の戦訓――中には極めて最近のもあるが――から自戒を忘れないようにしている浅香や伊佐木は、だからこそ自分たちが置かれた状況が極めて悪いものであることを自覚していた。


「……緒方大将からはなんと?」


「『特大型の討伐を喜んでいる阿呆どもの前で、”次はお前らだ”と伝えて欲しい』って言われたわ」


「それはまた、なんとも」


前回の横やりから魔族との決闘騒ぎ。そして今回のコレである。

国防の要ともいえる第二師団を率いる緒方の堪忍袋の緒は、とうの昔に切れていた。


仕方のないことではあるかもしれない。


元々はベトナム軍の暴走だが、それだって日本から派兵されている国防軍が成果を上げれば、事実上なにもしていない彼らに国民が非難の矛先を向けることなどわかりきったことだし、そこに中華連邦が茶々を入れてくることも想定してしかるべきことではあるし、事実伊佐木も浅香もその点は予想していたのだから。


問題はその反動を予想しきれなかったことだ。


さしもの伊佐木とて『グリフォンを討伐させたらベトナム軍が大挙して北上し、それが瞬殺されたかと思ったら「まだ足りねぇ」と言わんばかりに魔物の大群が襲い掛かってきて、その指揮官として魔族が三体も戦場に現れる』なんて……まぁ想定していなかったとは言わないが、その魔族が自分で戦わずに特大型の魔物を召喚したことに関しては完全に想定の範囲外であった。


また、啓太が撤退をせずにその場に踏みとどまって戦ったことも、伊佐木にとっては想定外の出来事であった。


それはそうだろう。


どこの世界に三体の魔族と特大型の魔物を前にして『一狩りしようか』なんて気分になる学生がいるというのか。


普通は『逃げ』の一択ではないのか。


逃げて本隊や援軍と合流したうえで”なんとかしよう”と努力して、なんともならなくて全滅するか、なんとかして啓太と御影だけを逃がすかを選択する場面ではないのか。


実際その場に伊佐木がいれば、第四師団を犠牲にしてでも啓太と御影を護るよう指示を出したはずだ。


本来であればそういう場面だった。


それを、自爆することで特大型と相討ち?

魔族は消えた? 


意味が分からない。


特大型を討伐したことは素直に褒めるし、死ななかったことも言祝ごう。

だが、できれば啓太は機体と共に生き延びていて欲しかった。


第四師団が全滅しようとも、教導大隊が全滅しようとも、御影と啓太が生きてさえいれば国防は成るのだから、啓太には自分と機体を優先して欲しかった。


贅沢な願いであることは自覚している。

だが、それが彼らにとっての偽らざる気持であった。


だがしかし。

覆した水は盆に返らず、破れた鏡は再び照らすこともない。


本来国防を担当する師団は疲弊して回復も覚束ず。

国防の要として注目していた御影は本来参加する必要のない作戦に参加して壊れ。

代替品はあるが力不足は否めない。

半年後には新たな機体が用意できるというが、それだって希望的観測に過ぎないし、なにより実戦で使えるかどうかの確証がない。


ないない尽くしここに極まれり。


戦力が足りないことで滅ぶことになるのは同盟国ではなく自国である。


これでは国防を担当する緒方がブチ切れるのも当然のことだ。

伊佐木だって同じ立場なら同じように切れただろうから、緒方の気持ちは理解できた。


故に伊佐木は、緒方と浅香の胃に優しい提案をすることにした。


「ウチからは砲戦に向いた部隊を派遣しましょう。第五にも私から働きかければ、内心はともかく否とは言わないでしょう」


国内でのほほんとしている第一師団の面々から言われれば断固として拒否をするだろうが、同じ立場の第四師団から言われれば考える余地はある。


というか、万単位の敵と激戦を繰り広げた第四師団が兵を出すというのであれば、小競り合いに終始していた第五師団では――理屈の上でも感情の上でも――兵を出せないとは言えないだろう。


浅香からすれば実にありがたい提案だ。

ありがたすぎてその裏を疑いたくなるくらいには。


「それはありがたい話ね。で、どういうつもりかしら?」


「国家あっての師団です。それでは納得できませんか?」


「少し前ならそれで納得したかもしれないけど、今は無理ね」


師団の長は、師団に所属している者たちのすべて――それこそ命や財産を含めて、文字通り全部――を背負っている。


そんな師団長が、無償で師団に所属する部下を他所に預けるような発言をするはずがない。


国家のため? それはあるかもしれない。

第二師団が負ければ次は自分だから? それもあるだろう。

浅香が思い浮かぶのはこの二つくらいだが、これでは足りないということは理解している。

他にもあるはずなのだ。 

伊佐木が部下を死地に送り込んでも構わないと思えるナニカが。


そのナニカ次第では伊佐木と敵対することになるかもしれない。

そう考えた浅香だが、結果から言えば穿ち過ぎであった。


「いえね? 来年度から青梅分校の方も募集人数を増やすのでしょう? その中から教導大隊に所属する生徒を募ることになる。違いますか?」


「え? あぁ。まぁそうね」


教導大隊が発足した時点で募集人数の増加は決定していたのだが、ここベトナムの地で彼女らが予想以上に活躍したことを受け、学校全体の人数だけでなく、生徒の中から教導大隊に配備される生徒の数や量産型の数も増えることが決定していた。


「そこにウチの人間を数名入れていただきたい。もちろん試験結果に下駄を履かせる必要はありません。成績が伴っているのであれば教導大隊に所属させてもらいたい」


「……なるほどね」


つい先日までは、啓太以外評価が定まらない怪しい部隊でしかなかった教導大隊。

大隊の設立を提言した翔子でさえ『賭け』だと自覚していたそれは、今や赫々たる戦果を上げた精鋭部隊と認識されている。


そんな実績がある精鋭部隊に所属したいと願う者は多いだろう。

来年度の志願倍率は極めて高くなることが目に見えている。


最先端の技術と戦術を研究する実験部隊。

そこに人員を送り込めるなら、第四師団として損はない。


いや、最上や啓太と繋がりを強化すると考えれば大幅なプラスさえ見込める。


そもそも、援軍を出し渋った結果第二師団が敗れれば、次は自分たちの番だ。

どうせ戦うことになるのであれば他の師団の精鋭が生きているうちに戦うべきだし、なにより最高値で売れる今こそ、恩を売るべきときだろう。


熟慮の上に伊佐木が師団長として下した決断は、浅香にとっても悪いものではなかった。


(別に不正を容認するよう言われているわけでもなし。構わないわよね?)


仮に「不正を認めろ!」と詰められていたなら拒否をしていた。

しかし伊佐木の提案は「能力が基準値に達しているなら教導大隊に入れて欲しい」であって、成績の嵩増しを求めるものではない。


ならばあとは大隊指揮官である久我静香に対して「この人とこの人を大隊に入れてあげて」と告げれば済む話。


それで遠征後の第四師団と第五師団から援軍を引っ張れるのであれば、今も九州でブチ切れているであろう緒方とて納得してくれるだろうし、予定している防衛作戦もより盤石な体制で行うことができる。


第四師団にも第二師団にも、もちろん国家にも損はない。

まさしく三方善しの提案だ。


「……いいでしょう。久我中佐には私から伝えるわ。後で該当する生徒の名簿を送って頂戴」


「了解です」


(これで一区切り、ね。唯一損をするのは伊佐木君に利用される形になる第五師団だけど……その辺はまぁ、自分たちでなんとかして。私はもう疲れたのよ)


遠征から観戦、そして現地貴族や皇帝との折衝など、多岐にわたる仕事をこなしてきた浅香は疲れていた。


疲労の極致にあったうえ、一番の面倒ごとを片付けた気になっている彼女は気付かなかった。


彼女らに現場を知るよう命じたやんごとなき御方が求めていたことはなんだったか、を。


遠征先で若き英雄が己の機体を失うまで戦ったことをどう思っているのか、を。


英雄と共に戦地に赴いた少女たちが命を懸けて戦っているあいだ、司令部で顔を青ざめさせていただけのお偉いさん方の存在を知ってどう思ったのか、を。


なにもしない。なにもできない。

自分で銃を取って戦うなど思いもしない。


自称戦争を知る男たちが無様に狼狽えるだけの映像を送り届けられたやんごとなき御方が、彼らの醜態を見てどう思ったのか、を


この後、なにも知らぬまま帰国した浅香は、なにもしていなかった連中と一緒にお叱りを受けることになるのだが、それはまた後のお話である。

閲覧ありがとうございました。


―――


以下宣伝


このたび、皆様のおかげをもちまして去る5月10日に発売された拙作 極東救世主伝説 が重版されることと相成りました。


約一万五千字の加筆や色々な箇所に修正を加えたおかげか『WEB版よりも読みやすい』と、褒められているのか貶されているのかがよくわからない評価をいただいておりますが、WEB版を既読の方にもお楽しみいただける内容となっていることは間違いないようですので、気になる方はお手に取っていただければ幸いです。


よろしくお願いします


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