30話 決戦兵器同士の最終決戦・後
鳥が単独で距離を詰めてきたこの状況。
移動速度も戦闘速度も相手の方が上回っているため、選択肢はあるようで無い。
即ち、突っ込むしかねぇってことだ!
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『!?』
今まで距離を取って戦っていたことを鑑みて威圧をかければ俺が退くと思ったのだろうが残念だったな!
こちらが警戒していたのは鳥と魔族による挟み撃ちであって、一騎打ちができるならそれに越したことはない。
というか、ここにしか活路がないともいう。
意表を突けたおかげか一瞬硬直した鳥。
その鼻面に砲弾をぶちまける!
……なんて無駄なことはしない。
もちろん、この一撃で戦いが終わるのならば撃っていたかもしれないが、これまでの戦闘で狙撃が当たる相手ではないことはわかっている。
なので俺が狙うのは鳥の頭、ではなく、鳥の進行方向のさらに上。
「翼を広げれば一〇〇メートルを超える巨体は確かに脅威だ。だがそれは同時に的が大きいってことでもある!」
榴弾砲から放たれる一発の焼夷榴弾は空中で一二発の子弾を生む。
その子弾がさらに空中で分散するため、最終的に発生する火種の数は一〇〇以上。
結果、この榴弾砲が齎す燃焼範囲は半径一〇〇メートルを優に超える。
これだけの広範囲に降り注ぐ火炎弾を、鳥が通過するであろう地点に上から降らせれば、鳥の構造上完全に回避しきることは不可能!
敵を燃焼させて継続ダメージを誘うのなんて、基本中の基本だよなぁ!?
『ギュア!?』
自分から炎の雨に突っ込む形となった鳥が悲鳴に似た声を挙げた。
思った通り、翼や背中の部分に火が着いている。
さらに交差して鳥の後ろに回ることに成功した俺は、連続して榴弾砲を打ち込む。
「羽毛は燃える。ナパーム弾なら尚、燃える! 自然に消えることがない火に焼かれて死ね!」
鳥が後ろを向くためには旋回するしかない。
しかし旋回するにしても、火種が降り注ぐ場所で旋回するわけにはいかない。
畢竟、火種がないところまで移動して旋回しなくてはならないのだが、その動きは後ろに回った俺から丸見えである。
「砲身が、焼け付くまで、撃つのを、止めないっ!」
旋回するであろう場所ではなく、旋回した後に留まるであろう場所に火の雨を降らせる。
あれだけのデカさだ。
少しでも翼が損傷すれば飛行能力に影響が出るだろう。
機動力と気流を生み出す源である翼を潰せばこっちのもんだ!
なんて、数発当てただけで決め台詞が吐けるような相手なら”特大型”なんて持て囃されたりはしないわけで。
『ギュォォォォォ!』
火種が降り注ぐ中無理やり旋回を終わらせた鳥が放った叫び声を合図に、散弾のような攻撃が発射される。
その目標は当然、俺。
それも、どういう原理かは不明だが、焼けた羽を攻撃に利用してくるオマケつき。
敵さんからしたら消火と攻撃を同時に行う妙手だろう。
回避してもフィールドが炎に包まれるというのが厭らしいところだ。
元は動物なんだからもう少し自然環境に配慮した戦い方をしろと言いたい。
尤も、これに関してはバカスカと焼夷榴弾を撃っている俺がどうこう言えたことではないが。
なんにせよ”勝てばよかろう”の精神で鳥と向き合えば、向こうの目には隠し切れない怒りの感情が宿っているのがわかる。
まぁな。向こうからすれば六メートルの機体なんてそれこそ餌みたいなものだろう。
その餌が自分の攻撃を散々回避した挙句、翼まで燃やしてきたのだ。
怒りを覚えるのも無理はない。
しかし、向こうにはその怒りに任せて襲い掛かってこないだけの理性がある。
こうして俺を正面に捉えたことで『敵を捕捉した』と、確信できる程度の知能がある。
「だからこそ、だな」
”賢い敵”なんて面倒なだけだが、”少しだけ賢い敵”ほど楽な相手はいない。
なにがなんでも勝ちたいなら、鳥はなにも考えずに散弾をばら撒いていればよかった。
上空からそれをされていたら俺にはなにもできなかったし、俺がなにもできないことを知れば、鳥は少し離れた場所にいる第四師団を狙っていた可能性もあった。
それをやられた時点で俺は詰んでいた。
そう、鳥の失敗はただ一つ。
「お前は俺に関わり過ぎた」
ただの餌に怒りを覚える獣はいない。
怒りを覚えた相手を目の当たりにして、仕留めない獣もいない。
「燃焼している羽を武器にすることで周囲を焼き払い、俺の行動範囲を狭めた。その結果、こうして俺を正面に捉えることに成功した。正面に捉えることができれば自分が負けることはない。そう考えているのだろう?」
ある意味では正解だ。
燃えた羽を飛ばしてくることを予測していなかったのは事実だし、それによって行動範囲を狭められたことも確かだ。翼を広げれば一〇〇メートル以上、畳んでいても四〇メートルを超える巨体を相手に、正面からぶつかればこっちが死ぬ。それも事実だ。
あぁそうだ。お前の考えはなにも間違ってはいない。
『ギュォォォォォォォォォ!!』
勝利を確信したのか、翼から散弾を放ちながら俺に向かって襲い掛かってくる鳥。
回避に専念しようにも散弾すべてを回避しきることは不可能。
かといって散弾を防御すれば、動きが止まって鋭利な爪に抉られるという必殺の型。
四〇メートルを超える猛禽類の爪にかかれば、魔物の素材を加工して造られた機体なんて少し硬いだけの木の実も同じ。
一度捕まれば二度と解放されることはない。
それどころか、爪よりも固い嘴によって中身を啄まれることになるだろう。
こうして向き合ってしまった時点で、俺に助かる術はない。
鳥の目に勝利の確信が宿るのもわかる。
「……だがそれも、上下で挟むことができればの話だ!」
散弾を防御しながら、俺を目掛けて襲い来る爪に向かって滑腔砲の照準をつけて、発射!
『ギュ!?』
握力だろうが爪握力だろうが、上下で挟むからこそ意味がある。
鷹の爪でいえば上の三本と下の一本で挟んでこそ、猛禽の爪は凶器としての意味をもつ。
ならその下の爪を砕けばどうなる?
「答えは『ただの鋭利な刃物に成り下がる』だ!」
爪が機体の頭を掠るも、それだけだ。
『キュァァァァァァァ!!』
ハハッ。痛みで怯んでいる場合か?
「掴まえた」
この距離になるのを待っていた。
大きさの関係上、向こうは両方の爪で俺を掴むことはできない。
爪で捕まえていないので、位置をずらせない。
つまり引っ掛けたモノを啄むこともできない。
故に、爪を破壊した今、この超がつく至近距離こそ唯一の安全地帯!
「さぁ。死んでもらうぞ!」
『自爆シークエンス、起動。カウントダウン開始三十・二九・二八……』
下の爪が破壊された足にワイヤーアンカーをひっかけて動きを封じる。
これで逃げられん。
『ギュ……オッ!?』
やばいと察したのか飛び立とうとするも、鳥はバランスを崩してその場に倒れこんだ。
当たり前だ。
「空を飛ぶため、鳥はその大きさに見合わないほど軽い」
翼を広げれば二メートル四〇センチにもなると言われるクロハゲワシだって、重さは一〇キロあるかどうか。
二メートル弱の鷹や鷲に至っては二~四キロ程度。
ならば翼を広げたときに一〇〇メートルを超える鳥の重さはどのくらいだろうな?
筋肉や骨の密度の関係上、単純に大きさと重さが比例するわけではなかろうがクロハゲワシの五〇倍なら五〇〇〇キロくらいか?
一〇〇倍にしても一〇〇〇〇キロ、つまり一〇トン。
一〇〇〇倍なら一〇〇トンだが、一〇〇トンあったとしてもって話だ。
「三キロある鷲でも一キロあるウサギを持ち上げて飛ぶのは難しいとされている」
浮力が足りなくて建物にぶつかることだってあるくらいだ。
それだけ鳥にとって獲物を捕まえたまま空を飛ぶことは難しいこと。
翻って、この機体である。
『二〇・一九・一八……』
「本体のみでも五〇トン超え。装備込みで六〇トン近いこの機体を持ち上げるには力が足りん」
言いながら盾を除くすべての装備を出し、撃つ。撃つ。撃つ。
『ギ! ガッ! グォッ!』
「やはり特大型を葬るには火力が足りないか」
だが問題ない。この攻撃はあくまで鳥に穴をあけるためのモノなのだから。
「うらっ!」
『ゴァ!?』
巨体に空いた穴に向かって機体の腕を突っ込んで固定する。
これで準備完了だ。
『十三・十二・十一・一〇。コクピット部分、放出します』
ボンっと音を立てて外に出される。
「ぐっ!」
想像よりもGが掛かったが、これは俺が自爆の威力を甘く見積もっていたからだろう。
このGは、これだけのGが掛るくらいの威力で外に出さないと爆発に巻き込まれると最上さんが判断したからこそ。
ただでさえかなりの爆発が想定されるというのに、今回はその爆心地にすべての弾薬を置いてきたのだから、爆発の威力は推して知るべし……。
「ってやば!」
通常よりも爆発の威力が大きいということは、普通に飛ばされただけでは爆発の効果範囲から脱することはできないということ!
とっさに盾を出して魔力で全ガード。
『ギュォォォォォォォォォォォォン!』
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
――結局、ギリギリ防御が間に合ったかどうかというところで尋常ではない爆発音と衝撃波(ついでに鳥の断末魔)に襲われた俺は、歯を食いしばりながら「爆破オチなんて……最低だ……」と呟きつつ、意識を失ったのであった。
自分で爆発させた男の台詞である。
閲覧ありがとうございました。
書籍が五月一〇日に発売となります。
何卒よろしくお願いします。













