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第8話 決着

 私とアリオスは決闘することになった。

 

 ベスターニャの開始の合図で戦いが始まる。


 使うのは木の剣。

 大きな木製剣を両手で持つ。

 

 長さは同じ。

 つまりそうなると、打ち数とパワーで勝負が決まる。


 例え女の私でも、練習をしている分、全てにおいて彼を超えているはずだ。

 彼は苔の研究が趣味。研究室に篭っているような男が、私の剣技に勝てるはずもない。


 アリオスの剣を飛ばして勝負をつけよう。

 体には当てないわ。


「やぁあーーッ!!」


 と、私の剣撃がアリオスに向けられた。


 彼の剣を、弾く!


 しかし、私の思惑は初手で裏切られた。


 彼の剣捌きが私の剣を受け流したのである。


「え!?」


 この剣技!?


 私は連続で木の剣を振るった。


「はぁああッ!!」


 彼はその全ての攻撃をいなした。


「アリオス。あなた剣ができるの?」


「ええ。父に仕込まれました」


 なるほど。

 参加するにはそれなりの自信があったわけね。


 でも、やはり甘いわ。

 彼の受け太刀は弱い。

 そんな剣じゃ弾くのは簡単。


「はぁああッ!!」


 あなたの剣を、弾く!!


 私の剣撃は更に激しさを増した。


 そして、ついに、彼の剣は真上へと、空高く舞い上がった。


「やった!!」


「あらら。飛ばされてしまいました」


 ベスターニャが私に向けて勝利宣告をしようとした、その時。

 アリオスは私を抱きしめた。


 ちょ……。




「危ないッ!!」




 え!?


 2人は地面に倒れ込む。


「ちょっとぉ!?」


 グサッっと、飛ばされた木の剣が地面に突き刺さった。


 彼が防いでくれなかったら、今頃は私の脳天に直撃していただろう。

 

 彼はほっとしたようにニコリと笑った。


「危なかったね」


 彼の顔が近い。


「どどどどどどどどどどどど、どいてよ!!」


「ああ、ごめん」


 場は騒ついた。


「この勝負どうなったの?」

「剣を弾いたのはロォサ様よね?」

「でも、勝利判定の前に剣から身を救ったのはアリオス様よ?」


 みんなはベスターニャを見つめた。


「この勝負! 引き分けとします!!」


 大歓声。


「わぁあああ!! 引き分けよ!!」

「よかったーー!!」

「どちらも凄い剣技でした!!」


 うう、アリオスから石鹸の匂いがした。

 いい匂いだったな……。

 それに……あんにゃろう。意外と鍛えてやがる。

 服を着てるとわからないけど筋肉質なんだ……。

 うう、部屋に篭って苔の研究してるんじゃないのかよ!


「ははは。ギリギリセーフ。なんとかなりましたね」


 ぬぐぐ。

 それに、私にはわかる。


「アリオス! あなた手を抜いていたでしょう!?」


「な、なんのことかな?」


「剣を片手で持っていたわ! 普通は両手で持つものよ!」


「さぁ〜〜。なんのことだかわかりません」


 と、ニコニコと笑う。


「しらばっくれて!」


「剣技では君に敵わない。それでいいじゃないですか」


「ううーー!」


 納得できない!

 私のために手を抜いたなんて!!


「あ、でも高原に行く約束は決行しようよ。野花が綺麗だしさ」


「なんでそうなるのよ!!」


「ふふふ」


 彼は、まるで散歩を期待して待っているような犬のように私を見つめていた。


「真っ白いエーデルワイスがさ。見ものなんです。ふふふ」


 ぜ、絶対に行くもんか!


「帰って!! 練習の邪魔よ!!」


 彼はしぶしぶ馬車に乗り込んだ。


「君だって、手を抜いていたじゃないですか」


 その言葉に目を見張る。


「わ、わ、私は全力よ!!」


「ふふふ。君の剣は僕の体に当たりそうになかったけどね」


「そ、そ、そんなことないわよ!!」


「おや? この議論は白熱しそうだね。やはり、高原の野花を見ながらだね……」


「帰れ!」


 彼の馬車は去っていった。

 団員たちは悲しそうに見送る。


 ええいッ!!

 士気が乱れるぅううう!!


「素振り千回だ!!」


「「「 ええーー!? 」」」


 私は凄まじい力で木製剣を振り下ろした。


「やぁあああああああッ!!」


 忘れるんだ!


 あんな奴のこと!!


 あいつのことを考えると混乱する!!





 夕方。

 練習が終わると、みんなはクタクタになって倒れ込んでいた。


 私だけが木製剣を振り回す。


「たぁああああッ!!」


「「「 ロォサ様ぁあ。もう終わりにしましょうよぉ〜〜 」」」


「私はもう少し練習していく。お前たちは先に帰って夕食の準備をしておいてくれ」


 くそ!

 気を抜くとあいつの笑顔を思い出してしまう!!


 なんだなんだまったく!!


 男なんてぇ!


 男なんて嫌いなんだからぁああ!!


「やぁああああッ!!」


 ベスターニャが呆れる。


「ロォサ様。武闘会の前に無理をされてはお体を壊しますよ」


「放っておいてくれ。はぁーーーーッ!!」


「あ、そうだ! アリオス様と高原に行くのは良い休養になると思います!」


「 放 っ て お い て く れ ! 」


 うう!

 誰が行くもんか、あんな場所!!


 絶対の絶対に行かない!!


 絶対の絶対の絶対の、


 ぜーーーーーーーーーたいッ!!








ーーアーネスト高原ーー




 ああ、来てしまった……。


「あはは。ほら見てよロォサ。エーデルワイスが綺麗です」


「そ、そうね……」


 私とアリオスは馬に乗って綺麗な野花が咲くアーネスト高原に来ていた。


 これは違うのよ。

 別に楽しむために来たんじゃない!


 クッキーの謝罪。

 あの歪で不味いクッキー。スライムクッキーを全部たいらげてくれた彼に謝罪をするために来たのだ。


 この前は武闘会の話になってそれどころじゃなかった。


 そう、単なる謝罪だ。デートじゃない。


 アリオスは伯爵である。彼に何かあれば大変だ。

 一応、 薔薇(ローズ)騎士団の部下たちを100メートル以内に待機させている。本当はもっと近くにいて欲しいのだけど……。

 彼が、「2人っきりのが、落ち着いて楽しいじゃないですか」と言うので距離を置いたのだ。

 うう、違う意味でも2人っきりは困るのよね……。


「あはは。ほら、王都があんなに遠い。最高の見晴らしです」


「ええ……」


 この場所はカベルと来た場所だ。

 ここに来るとアイツのことを思いだすから嫌だったんだけどな……。


「ふふふ。風が気持ちいいですね」


「……ええ、本当」


 風が緑の匂いを運ぶ。

 その中に混ざる野花の香り。


 本当に、気持ちがいい……。


 ん?


「どうかした?」


「え?」


 私の顔なんかマジマジと見てさ。


「顔に何かついてる?」


「う、ううん。な、なんでもないよ。ははは」


 不思議だな。

 もっと、嫌な場所かと思ったけど。

 彼と来ると素敵な場所に思える。




 お昼。

 私たちは、エーデルワイスに囲まれた草原で弁当を食べることにした。


 このバスケットの中にはサンドイッチが入っている。

 

 私が作ったサンドイッチ。

 ベスターニャが美味しいレシピを教えてくれたのだ。


「うわぁあ。ロォサが弁当を作ってくれたなんて感激だなぁ」


 うう……。

 このサンドイッチは謝罪の品なんだ。クッキーの謝罪。

 別に、彼に手料理を食べさせたいとか、そういう思惑は一切ない。


 クッキーのことを伝えないと……。


「あ、あの……」


「早く食べようよ」


「え、ええ……。そうね」


 うう、言いそびれた。


 サンドイッチはベスターニャと私が作った物が並ぶ。


 こっちがベスターニャのやつ。


キラキラキラーーーーン。


 とても美しく、チラリと見える具材が食欲を掻き立てる。


 そしてこっちが私の作った方。



ベチャァアアアア〜〜〜〜。



 具材ははみ出て、パンは具の汁を吸ってグチャっとしている。


 どうして、こう、なんかイメージと違うのだろうか?

 料理というのは本当に奥が深いと感心してしまう。


「こっちだ! こっちがロォサの作ったサンドイッチでしょう!!」


「え? どうしてわかったの?」


「へへへ。わかるよそれはぁ〜〜」


 ……私の視線でバレたのかな?


「僕は君が作ったのを食べますよ」


「え? でも、なんか……」


 気の毒だな。

 流石にこれは。


「ははは。いいからいいから」


 そう言って、彼は私のサンドイッチを口一杯に放り込んだ。


「モグモグ……。なんか甘いね。ふふふ」


「あ、わかった? 隠し味に蜂蜜を入れたのよ」


 ベスターニャは少しだけって言っていたけど、大量に入れてしまったのよね。


 彼は嬉しそうに食べていた。


「ふふふ……。僕だけのサンドイッチだ」


 ああ……。

 こういう所は素直に嬉しいんだよなぁ。


 私の料理って彼に合ってるのかな?

 じゃあ、あの不味かったスライムクッキーは、彼にとっては美味しかったってこと?


「ねぇアリオス。この前作ったクッキーだけどさ……」


「ああ、あれね。凄く美味しかったですよ! また作って欲しいな」


 やっぱり、そうなのか……。

 私の料理は彼の胃袋を掴んでしまったということか……。


 部下たちは私の料理に良い印象は持っていないようなのだけど、彼とは味の相性が良いみたいだ。


 ふふふ。

 なんか自信ついた。


 クッキーの謝罪は、別にしなくてもいいかな……。


「ははは。ロォサ。ほっぺにチーズが付いてます」


「ア、アリオスだって、ほっぺに蜂蜜が付いてるわよ?」


「「 あははは! 」」


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