表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/17

第6話 アリオスの気持ち 【アリオスside】

 中年のメイド、マーナは興味津々だった。

 ぼくがロォサのことをどう思っているのか。

 知りたくて仕方ないといった感じです。


「で、どうなんです? 早く教えてくださいよ」


「秘密です」


「え?」


「今は言えません」


「そんなぁああ! ご主人様のいけずぅ!」


 僕は食事を終えると研究室に篭った。

 そこは本と苔に囲まれた部屋。

 僕にとっては憩いの場所である。


 伯爵の業務はここで熟してしまうのだけれど。

 今日は手が止まる。


 近隣諸国の淑女から、お誘いの手紙が山のように積まれているのですけどね。

 その返事を書くことが煩わしいです。

 どうせ、いつものごとく、丁寧にお断りの返事を送るだけなのだから。


 異性と時間を過ごすなんて時間の無駄だ。


 それならば苔の研究をしていた方が100倍有意義に過ごせるだろう。


 それが、本来の僕の姿。


 この研究室で、苔と会話をしながら、新しい発見に心躍らせる。

 ただ、それだけが生き甲斐だった。


 それなのに、「はぁ〜〜」。


 どうしてしまったんだろう。僕は?


 こんなことは初めてです。


 ロォサのことが頭から離れない。 

 彼女の笑い声が、頭の中で響き渡る。


 ロォサ……。

 君は不思議な女性です。

 

 初めて彼女を見た時は、その険しい顔に興味津々だった。

 だって、いつも眉を寄せているしね。ふふふ。

 彼女、怒っているみたいなんだ。


 でも、なんていうか、全然憎めなくて、なぜだか声をかけたくなる。


 それに、とびきり美人です。

 輝く、サラサラの赤毛。白く透き通った肌。

 猫のように釣り上がった瞳は、とっても魅力的で、目が合うと吸い込まれそうになる。

 太い眉は高貴な空気を感じられて、より一層、彼女の魅力を引き立てているだろう。


 でも、その時は、それまでの人なのだと思った。


 ただ綺麗なだけで、僕に寄って来る淑女の一人にすぎないと。

 そんな風に思っていた。


 だから、ゴブリン討伐会議では、彼女のことを探るように見ていました。

 奇妙な魅力がある人だ、と。


 その後の議論は、驚かされましたね。


 僕以上に戦略を立てれる人間がいるなんて、それが、まさか女性だなんて、本当に驚きです。


 彼女とのやりとり……。ふふふ。


『この丘にゴブリンが登ったらどうするのです?』


『そこはアーネストの尖兵がいるので占拠されません』


『では、ここは?』


『そこはこうして、兵を移動させれば解決します』


 エキサイティングでした。

 あんなに楽しい会議は初めてです。

 

 僕が戦略に加わったら、誰も僕の質問に答えられないんです。

 僕の戦略は常に優位で、完璧だ。

 それを彼女は上回る答えを用意していたんだから、頭が下がります。


 それに、彼女は温かい人です。

 城内にいる誰よりも優しい。

 いや、きっと、僕の人生で初めてかもしれない。

 あんなにも、他者の命を守ることで必死になれる人は。


『待ってください!! 村人を犠牲になんかできません!』


 美しく、聡明で、優しい。そしてとびきり……可愛い。

 そう、彼女、めちゃくちゃチャーミングなんだ。


 オバケエビを僕と一緒に食べてくれた。

 素手で、被りついて……。


 彼女、物凄く気位が高そうに見えて、全く気取らないんだ。


 それに、スライムクッキー……。

 ふふふ。彼女、きっと料理は苦手なんだろうな。


 もう、彼女の反応ですぐにわかったよ。

 あの歪な形のクッキーは彼女が作ったって。


 不得意なのに、僕の為に一生懸命に焼いてくれたんだ。


 ああ、本当に、あのクッキーは美味しかったな。

 世界に存在するどんなお菓子より、最高のスイーツ。


 僕だけのクッキーだ。

 

 ロォサのことを考えると胸のドキドキが止まらないんです。

 笑うと、本当に、とびきり可愛い。


 この世の、どんな宝石よりも美しい。

 そして、愛おしい。


 太陽みたいな人。


 そう、君は僕の太陽だ。


 僕は研究所に篭る、地味な男です。


 家督を継いで伯爵になったけれど。

 本当になんの魅力もない。

 まるで花の咲かない苔のよう。


 僕はスギ苔のように地味なんだ。

 でも、太陽がないと育たない。




「ああ、ロォサ。僕を照らしておくれ。僕だけの太陽」

 




 彼女にプレゼントした、スギ苔。

 あれは、友情の証。


 でもなぜか、友情と言い出せなかった。


 友達と言うのが嫌だったんです。


 きっと、彼女はそれ以上の存在だから。


 こんな気持ちは初めてです。


 彼女を想うと胸が苦しい。


 ああ、逢いたい、彼女の側にいたい。


 逢ってこの気持ちを確かめたい。


 

 



 それから程なくして。

 アーネスト城にて貴族会議が行われた。

 

 100人を超える、貴族ばかりが集まる、大きな会議である。

 当然、僕も呼ばれたので参加した。


 褐色のイケメン。国防大臣のゼムトオさんが議会長として声をあげる。


「先のゴブリン戦は非常に狡猾で、記憶に新しい。このままでは魔物の強さに人間が追い越されてしまう。よって、武力の向上を目的とした会議にしたい」


 ということで、各貴族らが、自分の領土を守るべく議題を提出することになった。


 そうして決まったのが武闘会だった。


 各貴族らが武術で競い、優位を競うのである。

 目立ちたがり屋の貴族らしい考えです。


 僕は興味はないのだけれど……。


 ゼムトオさんは野太い声を張り上げた。


「参加者は、6組ある王都直属の騎士団と10人の選ばれた貴族だ」

 

 場内は沸きました。

 武闘会は大きなイベントとなる、観客の動員数は万を超えるであろう。

 自分の力を世に知らしめるチャンス。


「おお、10人か! これは是非選ばれたい!」

「母国、アーネストの為ならば是非!」

「こんな名誉なことはない!!」


 目立ちたいだけじゃないか。

 

 やれやれ。

 本当に興味がないです。


 粛々と、スギ苔の研究に専念していたいよ。


「では、10人の貴族を発表する」



 




◇◇◇◇





〜〜ロォサ視点〜〜




「武闘会?」


 と目を丸くしたのは私だ。


 国防大臣のゼムトオが鋭い眼光を光らせた。


「国王直下の騎士団と、貴族の派遣する騎士団とで力比べをするのだ」


 つまり、王都アーネストの兵力を高めるイベントが発足されたということ。


 王都6騎士団の選手と、10人の貴族らの選手。

 それらが、それぞれ2人1組の代表選手を出して戦う。

 合計16組のトーナメントだ。


「女の参加者は 薔薇(ローズ)騎士団のみになってしまうが、流石にこれは不利ですかな? 参加は自由だ。あなたがご自身で決めてくれ」


 まさかぁ、私たちはどんな敵にも背中を見せたことがないんだから。

 

「敵が誰であろうと 薔薇(ローズ)騎士団は全力で戦います。負けることはありません」


「うむ。では登録しよう」


「名簿があるのですか?」


「ああ、これは全参加者に配る物だ。参加はあなたで最後だ」


 一体誰が出るのだろう?

 

 名簿を見て驚愕した。


 見覚えのある名前が載っているのだ。


「げっ! カベル・ゼデルナード!」


 男爵のカベル。

 私を弄んだ男。


「コイツも参加するのか……」


 顔を見るのも吐き気がする。


 でも、これはチャンスかもしれない。

 大衆の面前でカベルをやっつける良い機会。


 見てなさいカベル!

 あなたを完膚なきまでに叩きのめして、男の尊厳をぶち壊してやるわ!

 私にした仕打ち、後悔させてやる!


 そして、貴族枠にはもう一人知っている人物の名前が載っていた。


「え? 嘘でしょ?」


 そこにははっきりと明記されていたのだ。



 伯爵、アリオス・アポロンダル。と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

広告下にある↑↑↑の



☆☆☆☆☆評価欄を



★★★★★にしていただけると作者の創作意欲が増します!

面白いと思っていただけましたらご協力お願いします。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ