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第5話 スライムクッキー

 アリオスは、私のクッキーをマジマジと見ていた。


 綺麗な丸いクッキーは、部下のベスターニャが作ったクッキー。

 歪な、スライムのような形をしているのが、私が作ったクッキーだ。


 でも、味は確かなんだ。

 なにせ、材料と作り方は全てベスターニャが用意をしたのだから。


 彼は丸いクッキーを口に入れて咀嚼した。


「うん。甘くて美味しい」


「そ、そう」


「このクッキー。部下と作ったって言ってたよね?」


「え、ええ。まぁね。部下のベスターニャは料理が上手なの」


「じゃあ、どれが君が作ったクッキーなの?」


ドキッ!


「ははは……。当ててみてよ」


「そうか。じゃあ、こっちも食べてみよう」


 わ、私が初めて作ったクッキー。

 スライムの形の……。もうスライムクッキーと名付けよう。


 彼がスライムクッキーを咀嚼する。



ドキドキドキ……。



「うん。美味しい」



 やった!

 やったわ!!


 大成功!!


「そ、そう、それは良かった。ま、そんなに変わんないだろうけどさ。どっちが美味しいとかあるかしら?」


「うーーん」


 と、彼は私の方をチラリと見て、


「こっちかな」


 スライムクッキーを指差した。


 うは!


「本当?」


「うん。こっちのクッキーが好きかな」


 やった!

 初心者がお菓子作りのベテランに勝ってしまった。

 一応、心を込めて作ったのよねーー。うふふ。きっとそこに味の差が出たんだと思うわ。


「ふふふ」


「で、どっちが君が作ったの?」


 う……。

 それを言うのは照れるわね。

 

「えーーと。そ、そっちよ。その形がスライムに似てる方」


 そう言うと、彼は満面の笑みを見せた。


「そうか! やっぱり!」


「やっぱりって?」


「いえ。良いんです。とにかく、このスライムクッキーは僕が全て貰います」


「え? なんでよ? 私だって食べたいわ」


 そういえば味見してなかったもの。


「ダメですね。せっかく君が作ってくれたんだから。全部いただきます」


「そんなに美味しかったの?」


「ええ」


 んもう。仕方のない奴。

 結構、可愛いところもあるのね。


 私はベスターニャのクッキーを食べ、彼は私のクッキーを食べた。


 会話は弾む。

 彼は博識でなんでも知っていた。

 少しでもわからないことがあれば優しく補足してくれるのだ。

 

 こうして、楽しいお茶の時間はあっという間に過ぎていった。


 気がつけば夕方である。


 彼は夕食を食べるように勧めてくれたが、私は勿論、断った。


 男の家で夕食を食べるなんてもう懲り懲りだ。


「これ。お土産です」


 と、彼はガラス瓶をくれた。

 中には緑の塊が入る。


「何? これ?」


「苔です」


 苔を女にプレゼントするのか。

 変わり者だな。


 でもおしゃれかもしれない。

 インテリアには丁度いい。


「部屋の空気を綺麗にしますしね。日光に当てて、適度に水を差してくれればずっと綺麗な緑のままですよ」


「花は咲かないの?」


「苔は隠花いんか植物だからね。胞子で増えるから花は咲かないんだ」


「ふーーん」


「この苔は土の代わりになってね。花を植えると綺麗な花が咲きますよ」


「へえーー。んじゃあ、好きな花を植えちゃおうかな」


「そうしてください」


 と彼は太陽のように明るい笑みを浮かべた。


「ごちそうさま。今日はありがとう。楽しかったわ」


「僕もです」


 私は馬車に乗って、彼の屋敷を去った。




  薔薇(ローズ)騎士団の寄宿舎に帰った頃には日が暮れていた。


「ロォサ様! お泊まりにならなかったのですか?」

 

 と、部下たちが目を丸くする。


「あのねぇ。私とアリオスはそんな関係じゃないの」


「「「 まぁ! もう伯爵様を呼び捨てになさっているのですか!? 」」」


 い、いかん。

 団長としての威厳を保たなければ。


キリリ〜〜。


「彼とは友人関係でしかない」


「まぁ! 友人ですか!」

「友人から発展してということはよくありますからね。クフフ」

「アリオス様は相当なイケメンです。しかも伯爵なんて、玉の輿ですよ!」


 やれやれ。

 うちの団員は、男関係の話題には凄まじい食いつきを見せるんだよな。

 コミュニケーションは団の結束を強くするというからな、言いたいように言わせといてやろう。

 

「それはなんですか?」


 とベスターニャが目を輝かす。

 どうやら、私の持っている物が気になっているようだ。


 ふふふ。きっとわかるまい。


「苔だ」


「「「 苔ぇえ? 苔を伯爵様からプレゼントされたのですか?? 」」」


「そうだ」


「伯爵様のプレゼントにしては変わってますね」

「お金ないのかな?」

「そんなの貰っても嬉しくないですよね?」


 ふふふ。

 アリオスは変わり者だからな。


 でも、私にはわかる。

 彼にとって、この苔は大事な物。

 あの屋敷にびっしり生えていたスギ苔だ。


 大切にしよう。


「夕食はみんなと食べるから準備してくれ」


「「「 はい 」」」


 この寄宿舎では、部下たちが食事係になって、代わり番子で作ることになっている。

 団長の私は作らない。昔、一度だけ作ったことがあったのだけど、部下たちは私のことを気遣って、作らなくてよくなった。

 良い部下に恵まれたものである。


 食堂で、みんなで楽しく食事をする。


「まぁ、オバケエビを食べたのですか!?」

 

「ああ。こんなに大きかったぞ」


 部下たちは大はしゃぎ。

 伯爵の豪華な料理を想像してうっとりとしていた。


 食事が終わるとお茶の時間。

 ベスターニャが焼いたクッキーが出された。

 その横に並ぶのはスライムクッキー。


「あれ? 私が今朝作ったクッキー。まだ残っていたのか」


 みんなはベスターニャのクッキーばかり食べるので、スライムクッキーは残っていたのだ。


 ふふふ。

 形は悪くてもアリオスは夢中で食べていたからな。


 どれ、一つ食べてみるか。


パクリ。


「う!!」


 何これ!?

 小麦が玉になってるし、中は半焼けだぁあああ!


 はっきり言って、不味い!!


 アリオスはこんなクッキーを食べていたの!?


 あ、謝らないと……。






◇◇◇◇


〜〜アリオス視点〜〜


 僕は夕食を食べていた。


 中年のメイド、マーナの声が頭に響く。

 

「旦那様。スプーンを持つ手が止まっております」


「へ?」


「さっきからずっとですよ。もうシチューが冷めているじゃありませんか」


「あ、ああ。そうだった」


「温め直しましょうか?」


「いや、いい。大丈夫」


 と言って、シチューを掬う。


 ロォサも今頃、夕食を食べているのかな?


「旦那様。また手が止まっております!」


「え? ああ……。ははは。おかしいな」


「わかりますよ。ロォサ様のことをお考えになっていたんでしょう?」


「え? いや……。別に……。そんなことはないよ」


「ふふふ。わかりますよ。私は、旦那様が赤ちゃんの頃からここに使えてますけどね。大事な苔を誰かにプレゼントするなんて初めてのことじゃあありませんか」

 

「だから、なんだというんですか?」


「ふふふ。好き、なんですよね? ロォサ様のこと」


「……ふーーむ。僕の気持ち知りたいですか?」


「ええ! 是非!!」


「じゃあ、耳をこちらへ」

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