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第2話 太陽の印象は最悪です

「10023、10024、10025回……」


 私たち 薔薇(ローズ)騎士団は腕立て伏せをしていた。


 団員は全部で20人。女だけで構成されている、王都では唯一無二の団体だ。年齢は様々で、上は27歳から、下は14歳までいる。


「だ、団長! もう無理です!!」


「通常は500回までだ。お前たちは付き合わなくて良い」


「「「 で、でもぉ…… 」」」


 あれから1ヶ月が経つ。


 婚約破棄を受けた私は傷心していた。


 今は訓練という形で全てを忘れようとしている。


「ロォサ様ぁ。あまり無理をなさるとお体に悪いですよ?」


「来るべき魔物との戦いに向けて精進せねば、いざという時、みんなを守れないからな! 10033回……10034回……」


 沸き立つ怒りは全て訓練に費やす。


 それが騎士団長としてできる責務だろう。


 男に振られたからといって、情けない態度など見せれるものか。


「ふーー。少し休むか」


 みんなはホッとしていた。


 そんな中、部下のソニアが私の前に立った。


 彼女は14歳。騎士団最年少者だ。


「あ、あのぅ……。午後から用事があるので出かけてもよろしいでしょうか?」


「ああ。事前に申請は受けている」


 確か、私用になっていたな。


「どこかに出かけるのか?」


「え……。あ、いや。そのぉ……」


「ちょ、ソニア! しぃ!!」

「ソニア!! わかってるでしょ!!」


 部下の空気が重い。


 やれやれ、男か。


「私に気を使うな。楽しんでこい」


「あ、はい! す、すいません!!」


 ソニアは嬉しそうにスキップをしながら帰って行った。


 可愛いな……。

 あれが男に恋をする女の姿か……。


 急に、頭の中にカベルがよぎる。

 


『プハハ! 無様だな!! それでも騎士か!? まさか失禁してんじゃないだろうな! ギャハハ!!』



 クソ!

 男なんて最低な生き物だ!


「うぉおおおッ!! 10457! 10458! 10459!!」


「ああ! ロォサ様がまた腕立て伏せを始められた!」

「いい加減にしませんと腕がもげますよ!」


 クソクソ!

 クソォォオオオオ!!


 私は 薔薇(ローズ)騎士団の騎士団長として生きる!

 私に男は必要ないんだぁあああああ!!



◇◇◇◇


 数日後。

 ゴブリンの侵攻を止めるべく、城内の会議室で作戦会議をすることとなった。


 国王を始め、大臣、貴族と各騎士団長が集まる。女は私1人だけである。


 そこには見慣れない男が1人来ていた。


 最近、父親から家督を継いだアリオス・アポロンダル伯爵。

 彼の領土がゴブリンの侵略にあっており、その関係で会議に参加したのである。


 巷ではもっぱら変わり者として有名な人物だ。

 なにやら、怪しい植物の研究に没頭していて、その筋の人には知られているらしい。凄まじいイケメンなので女にはモテモテなんだとか……。

 ま、私は興味はないけどね。

 

 随分と身長のある男だ。180センチの後半はあるだろうか。

 私がヒールを履いても、きっと彼の方が高いだろう。


 黒髪でシュッとした鋭い眉をしている。

 目は優しそうなタレ目で、私と目が合うなり、


「やぁ」


 と笑顔を見せた。

 

 なんだか馴れ馴れしい男だ。

 初対面の異性にこの感じか……。


 なんとも、人懐っこい、まるで太陽のような明るい笑顔を見せてくる。

 伯爵の威厳なんて微塵も感じさせない。変わり者といえばそうなのだろう。

 例えるなら犬気質とでも言おうか。きっと私は猫気質だから、正反対に違いない。


 会議室の男たちには、そこまで笑顔を見せていないようだし、きっと女の私だけに、優しい笑みを見せるのだろう。


 つまりアレだ。こいつも、あの私を振ったカベルと同じタイプ。女の体が目的の遊び人に違いない。要するに女の敵だ。

 

 あんな笑顔に騙されるもんか!

 むしろ、その素敵さ加減に嫌悪感すら覚える。無視だ! 


ぷい!


 と顔を逸らした私だったが、会議の最中、ふと目が合うと、彼はニコリと微笑むのだった。


 他の女は、その笑顔で堕ちたかもしれんがな。私はそうはいかんぞ!


 いやらしい男め! 

 私の態度で察しろよ!

 嫌な奴!


「ゴブリンの進行は明日にでもアポロンダル伯爵領に攻め入るだろう」


 第一騎士団長の言葉に、会議室は重苦しい空気に包まれた。


 ゴブリンは頭が良く、地の利を使って侵攻を進めていた。


 みんなはその巧妙なやり口に頭を抱える。

 進行が明日なら時間がない。そんな中、最も効率的な戦法を思いついたのは私だった。


「つまり、ここと、ここ。この谷と川を使えばゴブリンたちを追い詰めることができます」


 みんなは私の説明に釘付けだった。

「おお、そんな方法があったのか!」という驚きの声が湧き上がる。


 フフン。

 完璧な作戦だ。

 誰も考えつかなかった作戦を私が提案したんだぞ。フフフ。


 私は勝利を確信して、アリオスを見た。


 どう?

 これでも笑えるかしら?


 彼は地図を見つめて難しい顔をしていた。


 プフゥッ。ご自慢の笑顔はどこへ行ったのかしら?

 残念ながら、戦略に関しては私の方が上なのよ。屋敷の中でぬくぬくと育ったあなたとは実績が違うのだから。


「少しいいですか?」


 あらあら。

 まさかの反論ですか。

 やめておいた方がいいわよ。

 きっと恥をかく。

 でも、チャンスは必要よね。


「遠慮なくどうぞ。アリオス伯爵」


「ここの高台からの攻撃にはどう対応するのです? ゴブリンは弓を使うタイプもいると聞きますよ」


 ほぉ。

 温室育ちの癖によく気がついたな。

 その死角は他の騎士団長でも気が付かなかったのに。

 でも、私が考えてないと思ったら大間違いよ。


「尖兵をここと、ここに陣取って配置しています。ゴブリンがこの高台を占拠することはありません」


「では、ここは? ここの林は隠れるには最適です」


 やるじゃない。

 でも、甘いわね。


「ここいら一体は魔法壁を張っていますので遠距離攻撃、及び、奇襲には全て対応できます」


 大臣たちから「おお、流石はロォサ騎士団長だ 隙がない」という絶賛の声が湧き上がる。


「では、この川の中はどうですか? 水の中に隠れる可能性もありますよ」


「それはこうやって──」


「では、このパターンなら?」


「そこは──」


 という風に、彼の質問には全て答える。

 場内は私とアリオスの言葉が行き交った。


 次第に、アリオスの戦略の高さまで評価され始めた。


 確かに、彼はよくわかっている。代替えする戦略案もしっかりと用意していた。

 きっと、並の軍師ならば敵わないだろう。

 しかし、私は、そんな彼の疑問を完膚なきまでに回答した。

 ぐぅの根も出ないとは、正にこのことだろう。


「────つまり、剣士の配置をこうすれば全て対応できるのです」


 ふふん。

 勝った。


 場内からは感嘆の声。


「「「 おおーー! 完璧ですな 」」」


 アリオスは少し考えて、


「では、最後の質問です」


 と、地図を指差した。


「この地域には村があります」


 え?

 そこは森のはず。

 地形は全部把握しているんだ。


「そんな村、聞いたことありませんよ?」


「村と言っても名前はありません。大きな樹木のウロに3世帯。20人ほどの人間が暮らしているのです」


 木のウロに人が住んでる?

 し、知らなかった……。


「ですから、この戦略ではこの村が巻き込まれてしまいます」


 う、流石にこれはわからないわ。


 私レベルで回答できないなら、他の者が答えられるわけもない。

 

 みんなは黙り込む。

 

 そんな中、アリオスはサラリと答えを出した。

 前線に出ている部隊を経由して兵を送り込むというのだ。

 複雑なパズルを解くような見事な回答だった。


「……つまり、兵を100人ほど増員していただければ解決するということです。是非ご検討をお願いします」


 確かに、彼の言うとおりだ。

 兵の補助を受ければ無事に避難はできるだろう。


 悔しいけど、これは認めざるを得ないな。

 村民の命の方が重要だ。


 しかし、大臣は難色を示した。


「ふん! たった20人の村民を助けるのに100人の増員だと? バカを言うな」


 いやいや。

 人の命を守るための会議なんだから。


「私は伯爵の意見に賛成です。100は無理でも50ならどうでしょうか?」


「はん! たかだか20人だろう? 自力で避難すればよろしい。村民に兵を割くなんて1人でも惜しいわい」


 アリオスはタレ目を細めた。


「では、今から知らせを出してください。明日の戦火に巻き込まれる前に」


 うんうん。大賛成!

 今夜のうちに避難できればいいものね。


「もう夕方だぞ? その村までどうやって夜道を行くのだ? 馬を出しても半日はかかる距離。もう無理だ」


 そんなぁ。

 それじゃあ見殺しになってしまうわよ。


「ロォサ騎士団長の戦略はこのまま遂行する。明日の決戦に備えよ」


 議会長は締めの言葉を述べた。


 ちょっと、それはないって!


「待ってください!! 村人を犠牲になんかできません!! 私の案は却下でいいので、新しい戦略を立ててください!!」


 しかし、その意見は大臣たちによって却下された。

 

「もう時間がない。できんと言ったらできんのだ。このわからず屋が」


 どっちが!?


「わからず屋で結構です! それより村人の安全を考えてください!」


「小さな犠牲に気を取られていては国は守れんて。やれやれ。これだから女は……」


「人の命を救うのに、女も男も関係ありません!!」


「ははは。今度はヒステリか」


 みんなは私を嘲笑した。


「少し褒めるとつけ上がって困る」

「所詮、女に戦略は無理だな。ふふ」

「感情豊かなのも困りもんですな。ははは」


 な、な、なんですってぇえええええええ!!




「私は怒ってなんかいません!! それより村人の命を助けたいのです!!」




 私の叫びは虚しく響いた。


 議会長は冷静に会議を締め括る。


「では、会議は終了する。 薔薇(ローズ)騎士団は明日の準備に備えるように。決して通達の人など出さぬようにな。軍規違反になりますぞ」


 ああ、そんなぁ……。

 終わっちゃったぁ。

 しかも、私の部下を動かせないように釘まで刺されて。


 私はしょんぼりと項垂れて会議室を出た。


 そこに、


「やぁ」


 と、笑顔を見せたのはアリオス伯爵だった。


 今はこの笑みに殺意すら覚える。

 きっと私をあざ笑っているのだろう。

 もう話すのは疲れた。


「明日の準備がありますので。失礼します」


 と、通り過ぎる私に、彼は声をかけた。





「下手だなぁ」





 へ、下手って何が?

 

 私が下手を打ったと言いたいの?


 私はすぐさま振り返り、彼を凄まじい形相で睨みつけた。


「あんなやり方じゃあ、大臣はうんと言わないよ」


「なら、あなたになら説得できたのですか!?」


「もう少し、話しはできたかもしれませんね」


「ならば、そうしてくれれば良かったのに!!」


「君が大声を出して怒鳴るからですよ。あれでは交渉の余地がない」


「怒鳴ってなどいません!!」


「怒ってるじゃないですか」


「怒ってません!! 真剣に議論をしたいだけです!!」


 会議から戦いは始まってんのよ!

 外野は黙ってて。


「そうは言っても、先方はそう思ってくれませんよ。もっと落ち着いて話さないと」


 何を呑気に!

 村人の命がかかっているのに!


「会議に関しては僕に任せてくれても良かったですよ」


 呆れた自信家だ。

 

 戦場がどれほど恐ろしい場所か、何もわかってない癖によく言う。

 

 ぬくぬくと屋敷に篭っているだけの癖に!


 命を賭けているのは、私の方なんだ!






「あなたは黙っていてください! どうせ戦場には行かないんだから!!」





 

 ふん。最高の嫌味を言ってやった。

 気分を害すならそうなればいいわ。

 私はいくらでも嫌われたっていいんだから。


 彼は目を見開いて私を見ていた。


 そして、




「なるほど」




 そう言ってニコリと笑った。


 何こいつ!?

 バカにしてるの!?


 大嫌いなんだけど!!


「失礼します!」


「あ、まだ話しは終わってないです」


「結構です! 明日の準備がありますので!!」


 ああ、こんな奴と話すのは時間の無駄だった。

 本当に、噂通りの変わり者だ。


 こんな奴のことは忘れて、明日のことを考えよう。


 なんとしても村人を助けないと!


 でも、私は後悔することになる。


 彼の言った「なるほど」には、きちんと意味があったのだ。

連投します。

ブクマしてお見逃しなく。

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