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第1話 そこにある絶望

新作です。

よろしくお願いします。

 事件が起こった。


 とても、信じられないような大事件……。




 それは貴族が集まる舞踏会の日。


 私は、参加に乗り気ではなかった。


 なにせ、私の身長は174センチもあるのだ。


 そんな女がヒールを履けば、その背丈は更に高くなるだろう。


 部下たちからは「カッコイイ」と持て囃される始末。


 そんなことだから、華やかな貴婦人の中で、私だけが浮いて見えるのだ。


「はぁ……」もうこのパターンは飽きた。



 気張って新調したドレスは、大胆に肩から露出して見せた。


 もうこれが私の中では精一杯。


 下はスカートに似せたパンツルックだし、やはり、部下たちの言うとおり、カッコイイというのが打倒な評価なのだろう。


 それに、私は眉をキッと寄せている。


 ずっと眉間にシワを寄せているものだから、よく怒っているものだと勘違いされてしまうのだ。


 こんな女を誰が良いと思うのだろうか?


 きっと、殿方からは陰口を叩かれる対象になっているに違いない。


 だから、私は早く帰りたいんだ。


 ただ、時が過ぎるのを待つ。

 舞踏会の隅っこで、人知れず目立たないようにして。


 しかし、視界に入ってしまうのだ。


「私と踊ってくださいますか?」

「ええ、喜んで」


 若い女が、ダンスに誘われる姿。


 やっぱり羨ましい。


 しかし、騎士団長は戦うことが使命だ。


 そんな私に甘い話など来るものか。


 そう思っていたのだが、


「踊っていただけますか?」


 まさか、そんな。


 ありえない。




 大 事 件。




 こんなデカイ女をダンスに誘うなんて正気だろうか?


 ヒールの高さ分、私の頭は彼を抜いていた。


 そんな女とダンスをしてみろ。


 きっと、いい笑い者だ。


「いえ、しかし……。私などは」


「僕はカベル・ゼデルナード」


 う! 眩しい!!

 キラキラ輝いて見える!!

 

 鋭い目、端正な顔立ち。

 す、凄いイケメンだ……。


 勇気ある男性は男爵様だった。


 挨拶をするとパンツルックというのがバレてしまうのだが、まぁ仕方ない。


 色気の無さには定評があるんだからな。フフン。


 嫌なら別の人に当たれば良いさ。

 どうせ、こんなイケメンが私を本気で誘うことはないのだから。


 パンツの両端を摘んで広げる。


「私はアーネストの 薔薇(ローズ)騎士団長、ロォサ・ルビキノーサ」


「お噂は予々」


「ははは……。強さには自信があります。王都アーネストを守ることには誇りを持っているのです」


 女は捨てているがな。


 だから、そんな女とダンスなんてやめといた方がいい。


 嘲笑の的だ。


 しかし、カベル様は、やや強引に、私の手を引いた。


 心臓が破裂しそうだ。


 こんなにもドキドキと、嬉しいことはない。


 本当に大事件なのだ。


 彼は私とダンスを踊ってくれた。


 ダンスなんていつ以来だろうか。幼少期、学校のイベントであったような……。


 もう、それほどまでに記憶がない。


 だから、動きなんかギクシャクで。

 デカイ女が何をやっているのやら。


 でも、カベル様はとっても優雅にエスコートをしてくれた。


 男の人の手って硬い……。


 女として生まれてきて20年。


 こんなに素敵な夜は過ごしたこどがない。


 正に大事件である。




 しかも、事件は続いた。


 魔王軍との戦の間。


 ゴブリン共を蹴散らして、ほんの少しの休日をもらえた時。


 また、彼から誘いがあったのだ。


 馬に乗ってアーネスト高原を走ろうという。


 こ、これはデートというヤツなのだろうか?


 今ならば真っ白いナルシスの花が見ものだ。


 しかも、乗馬ならばスカートを履かなくて済む。


 まさか、彼の気遣いなのだろうか?


 楽しい時間は秒の如く過ぎた。





 それは3回目の誘いだった。


 初めてディナーに誘われたのだ。


 思い切って、女らしい格好をすることに決めた。


 部下のベスターニャは、私なんかよりも女の子らしくて羨ましい。

 化粧にいたっては立場が逆転する。


「ベスターニャ。おかしくない?」


 鎖骨を出すなんて、なんだかスースーして落ち着かない。


 彼女はうっとりとして、良い笑顔を見せてくれた。


「そのパールのネックレス。とってもお似合いですよ。甲冑姿も良いですけど、こちらもとても素敵です」


「やっぱり、カッコイイ?」


「まさか。お綺麗ですよ」


 綺麗?


 私が?


 そうかな?


 えへへ。


 鏡に映る私は別人のようだ。


 こっちの角度、良いな。


 こっちも捨てがたいフフフ……。


 長い赤茶の髪は結って上げた。


 赤茶と同じ目の色は気に入っているんだ。


 まつ毛はボリュームがあって長いしな。


 だが、少し鋭すぎるきらいはあるか。


 いかにも騎士って目付きだ。


 うーーむ。


 それに、父親譲りの太くて凛々しい眉も少しネックかもしれない。


 特に眉間のシワがなぁ。


 私は、女だけで構成される 薔薇(ローズ)騎士団を束ねるリーダーだ。


 死線を潜り抜けた分、厳しい顔が根付いてる。


「ロォサ様。笑顔です。笑顔」


 ベスターニャは16歳だというのにもう結婚をしていた。


 子供はいないのだが、胸は私より2回りも大きい。ややポッチャリ体型なのだが、男にはモテモテだ。


 なんでも、13歳から男性と付き合っていたそうで、騎士団の中でも恋愛マスターなのだとか。


 そんな彼女が言うのだから、間違いはないだろう。


「ニヒャ……」


 と、笑って見せたが、眉間のシワは取れなかった。


「ははは、こうです、こう。ニコォ」


「う、うむ。ニヒャァ……」


「……愛嬌があればモテますよ」


「うむ! 愛嬌だな! キリリ!」


「……は、ははは」


 よし。

 笑顔の練習はバッチリだ。


 今日はとっておきの香水を付けることに決めた。


 ローズヒップの香水。


 魔王軍との戦いでも、大きな戦になる時は必ず付ける香水だ。


「ロォサ様、もう完璧ですよ」


 いざ、出陣。




 カベル様は大きな屋敷に住んでいて、たくさんのメイドたちが出迎えてくれた。


 馬車から出た私を見た彼は、満面の笑みで声を出した。


「ロォサ。綺麗だよ」


 き、き、綺麗……。


 私が?


 もうそこから記憶があやふやだ。


 全身は薔薇のように真っ赤。


 歩く時は手と足が同時に動いていた。


 ディナーの味などしなかったかもしれない。


 夢のような食事を済ませて、紅茶を飲む頃には夜が暮れていた。


「君さえよければ、泊まっていくと良い」


 来た。


 ついに来てしまった……。


 ベスターニャから事前に聞いていたので一命は取り止めた。


 知らなかったら心臓が飛び出ていただろう。


「ロォサ様。3回目のディナーなら。あるかもしれませんよ」


「あるとは?」


「アレですよ! アレ♡」


 殿方の家で一夜を過ごす。


 もう、それはそういうこと。


 ど、どうしよう……。


 旧友たちは17にもなれば結婚をしている。


 このチャンスを逃したら2度と来ないかもしれない。


 私は飛び込んだ。


「で、では……。よ、よよよ、よろ、よろしくお願いします」


 




 一夜が明けて、日が昇ると、別世界が広がっていた。


 なんでもない風景もキラキラと輝いて見える。


「ああ、生きてるって素晴らしい」


 ベッドの横には、裸のカベル様がぐっすりと眠っていた。




 朝ご飯をいただいて、寄宿舎に帰る頃には昼を回っていた。


「「「 団長! おめでとうございます!! 」」」


 部下たちが熱い出迎えをしてくれる。


 休日だというのに、わざわざ集まってきたのだ。


 ここは団長の威厳が必須である。


 消えていた眉間のシワはグッと深くなって、眼光は鋭い。


 キリリ〜〜。


「うむ、ありがとう」


 ニヤケた顔で感想なんか述べれるもんか。


「どうだったのですか?」

「痛くありませんでしたか?」

「カベル様はお優しいお方でしたか?」


 部下たちは私に詰め寄った。


「「「ロォサ様! ロォサ様ぁ!」」」


 ええい!

 騎士団の士気に関わる!


 女だけの組織とはいえ、馴れ合いは危険なのだ。


「みんなには感謝している。しかし、疲れたのでな。少し休ませてくれ」


「「「 キャーー! 疲れたですってぇ♡ 」」」


 私は自分の部屋に入って、鍵を閉めたことを厳重に確認してからベッドに飛び込んだ。



「んきゃーーーー♡ 」



 ゴロゴロと転がる。



「カベル様カベル様カベル様ぁーーーー!!」



 カベル様カベル様カベル様ぁあ!!



「しゅき♡」



 キャハ!

 言っちゃった!


 あはぁーー!

 言っちゃったぁああ!!


「好きって言っちゃったぁーー!!」


バタバタバタバタバタバタ!!





 幸せは続く。


 翌週には告白をされて婚約をした。


 そうして1ヶ月が経った頃。

 彼のことを呼び捨てにできる仲になった。


 そんなある日。

 貴族が集まるパーティーが開かれることになった。


 カベルの仲の良い貴族だけが集まる会らしい。


 その日は戦の帰りだった。

 

 魔王軍のガーゴイルが強くて手こずってしまったのだ。


 ドレスを着ている暇がない。


 しかし、カベル主催のパーティーだ。


 婚約者の私が参加しない訳にはいかない。


 騎士ならば甲冑は正装である。


 汚れを落として、そのままで参加をすることにした。


 会に参加できたのは中盤を入った頃。


「あ! カベル!」


 愛しの彼を見つけて近寄った。


 信じられない光景が広がる。


 彼の横に、小柄で可愛らしい女がいるのだ。

 しかも腕を組み、大きな胸を押し当てる。


 えっと……。


 何、これ?


 あ、いや、誰だ、あの子?


 その子は、私とは全てが真逆だった。


 華奢な体で、ローズクォーツのように美しいピンク色の髪をしている。


 日焼けを知らない肌はパールのように白い。


 自分の武器を知っているのだろう、大胆に露わにしたその胸の谷間は、小さな体に似つかわしくないほど大きかった。


 その瞳は大きくクリクリとしており、鋭い目付きの私とは月とスライムだ。


 髪の色と同じ瞳は、やはりローズクォーツのようで、シャンデリアの灯りに反射してキラキラと輝いて見えた。


 め、めちゃくちゃ可愛い。


 女の私でも、可愛いと思えるほどの美少女だ。


 親族? 


 でも、カベルに妹はいなかったはず。


 それに、あの距離感は何?


 私、何を見させられているのだろう?


 少女は子猫が甘えるような声を出した。


「カベルゥウ。厳つい女がこっち見てるんだけどぉ」


 彼は見下すように笑った。


「やぁ、ロォサ! 今日もモンスターをバッサバッサと斬り殺して来たのかい?」


 そ、そんなこと言わないでよ。


 私は王都アーネストのために命をかけているんだから。


 それに、そうだ……。


 嫉妬していいんだ!


 私は彼の婚約者なんだから。


「その子、誰?」


 彼はニヤリと笑った。


「新しい婚約者さ」


 あ、新しい婚約者?


 て、


「どういうこと?」


「ははは、お前のような野蛮な女に本気になると思ったのか?」


 や、野蛮って……。


 いや、


 えーーと……。


 わ、私は……。


 そう、


「王都のために戦っている。それが私の職務だ」


「プフゥッ! だから、そんな野蛮な女を本気で好きになるわけがないだろうと言ってるんだ」


 え?


「それにバカみたいに背が高いしな」


 それを今になって言うの?


 しかし、そんな疑問をも払拭する言葉が飛び出した。





「お前との婚約は破棄する! 俺はここにいる小柄で可愛らしいミィネルと結婚することに決めた!」





 はいーー?


 横の女はカベルに体をくっつけた。


「みんなの前で婚約破棄を宣言したのには理由があるのよ。あなたは随分と腕が立つそうじゃない。だから、逆上して殺されないようにしたの。それに、逆恨みで闇討ちされても嫌だからね。キャハ!  これだけ目撃者がいるんだもん。私たちには手を出せないわよねぇ?」


 ひ、人なんか殺すもんか……。


 そんなことより、婚約破棄って何よ……?


「ハハハ! まだ信じられないって顔だな。遊びだったことがまだわからんのだな」


 あ、遊び……?

 こ、婚約までしたのに?


「まぁ! カベル様ったらおいたが過ぎますわよ。私のことは遊ばないでくださいませね」


「フフフ。君のような可愛い女を誰が遊ぶもんか。本気なのは君だけさミィネル」


「ウフフ。カベル様♡」


 私は全身の力が抜けてヘナヘナとその場に座り込んだ。


 脚に力が入らないのだ。


「プハハ! 無様だな!! それでも騎士か!? まさか失禁してるんじゃないだろうな! ギャハハ!!」


「プフゥ! ウケるんですけど!!」


「お前みたいな、野蛮でノッポの女と誰が結婚するかよ!」


 部下が寄ってきて声を掛けた。


「ロォサ様、大丈夫ですかロォサ様ぁああああ!?」


 もうその声も聞こえなくなった。


 目の前の視界が真っ白になって、ただ、シャンデリアの光りだけが明るい。


 なんだろう、このフワフワした感覚。



 なんだこれ?


 これ、現実?


 私、生きてる??



 ただ気が遠くなっていく……。





 気がついた時には寄宿舎のベッドで寝ていた。


 どうやら、部下が連れ戻してくれたようだ。


 ベッドのシーツを握ると生きていることを実感した。


 手に……。




 感触がある……。





 これは……、







 現 実 な ん だ !




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

完結保証です。

連投しますので、

ブクマしてお見逃しなく。

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