第八話 ひと時の安らぎ
「違うわ、もっと相手の行動を読んで先回りして攻撃を当てに行くの。予備動作や視線、相手の行動まで自分で操作していくの。そうすれば自分がけがを負うことなく相手を制圧できるわ」
私は空と実戦形式で戦いながら剣の扱いを教えた。
「んなこと言ったって、あんた相手じゃ速すぎて何もできねぇよ」
木で作った剣を交わせながら空は言った。必死に私の動きについて来ようと動きを速める。
私が空の剣を上にはじいたとき、私は小石に躓き前のめりに倒れかかった。
「あ………」
空は私が作ったすきを逃さずに上から剣を刺しに来る。
「もらった!」
空の剣が触れる瞬間私は剣を足元に捨て、体を半身にして右手を地面に着いた。
その手を軸に左足を振って空の足を刈る。空は宙に舞い仰向けに倒れた。
「え?」
すかさず私は左手で剣を拾い、空に馬乗りになって喉元に剣を添わせた。
「どういうこと?」
仰向けに寝ている空は茫然とした顔をしていた。私は空から降りて剣を腰にしまった。
「さっき言った相手の行動をコントロールする。それを私がやったの。私が躓いたときあなたはどう思った?」
空は起き上がり私を見て言った。
「チャンスだと思ったよ。上から振り下ろせば当たるって」
「そう、そうやって思わせるために私はわざと躓いたの。あなたが上から剣を振り下ろすしかなくなる状況をわざと作るために。あなたは私に剣を振らされたの」
私が説明をするとその時の状況を思い返すように空は目を瞑って考えた。
「なるほど、言われてみるとそうだ。俺はあの時上から振り下ろすことしか選択肢がなかった。剣を上にはじかれたけど、手には持っていたから振り下ろせば行けるって思ったんだ。でも俺はそうしないといけない状況にさせられていたってことか」
納得したように私に顔を向けた。
「えぇ……そこまで誘導できればあとは簡単。くる場所が分かっている攻撃なんて少し体をずらせば当たらなくなるわ」
「すげぇなそこまで考えて戦ってたのかよ」
空は感心していた。けれど私は空には戦いの才能があると感じていた。
私が半分ぐらいの力で手合わせをするときも、普通なら十秒も持たない。
実際、鳳仙花のメンバーでも私とまともに手合わせできる人は限られていた。
しかし空は戦闘経験のなさはあるが私に対抗できるほどの能力は持っていた。
「あなたは戦闘の経験が無いからこればっかりは仕方ないわ。でもあなた、たまにいい動きをするわ」
私は空にそう言った。
「え?まじ?自分じゃ全く気付かなかったな」
空は少しだけ驚いた顔をしていたがうれしそうだった。
「じゃあ今度は私の弓の練習を見てもらおうかしら」
私がそう言うと空は
「おう、やられたお返しにビシバシしごいてやるからな」
と張り切っていた。弓は扱ったことが無かったから初めは苦労した。
だが数時間練習すれば普通に扱えるまでは上達した。
「なぁ物覚え良すぎて教えがいが無いんだけど」
空にそう言われたが一度言われたことは覚える、が基本だった私にはどうすることもできなかった。
「紅花はなんでそんなに戦闘に関して天才的なんだ?」
空は不思議そうに私を見て言った。
「そんなこと言われても私にも分からないわ。昔から戦場に見を投じていたことぐらいしか思い当たらないわ」
私は空にそう答えた。すると空はあきれた顔をして
「いや、絶対それだろ」
とツッコミを入れた。でも空は少し考えて
「いや、でもそれだけであんな動きが出来るようにはならないはずだしな……」
とつぶやいた。そのあと
「う~ん……わかんね」
手を広げて地面に横たわった。
「おっ、やっぱいつ見てもすげぇな」
空が上を見上げながら言った。
「なんのこと?」
私が空に聞くと笑顔を浮かべながら夜空を指さした。そこには満天の星空が明るい月とともに輝いていた。私はその星空を見ると涙を一粒零した。
「なんだ紅花、泣くほどきれいだったか?」
空は私を茶化すように言った。私はこんなに鮮やかできれいな夜空を見たことが無かった。
戦場で血に染まる夜空しか見ることのなかった私には今日の夜空はまぶしすぎた。
今まで死んでいった仲間たちはこんなきれいな場所に行けたのかと思ったら涙があふれていた。
「えぇ、きれいよ」
私はそう言って今日の夜空を目に焼き付けた。