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第一話 残酷な世界

 この世界は残酷だ。理不尽なほど簡単に命が失われていく。


毎日一緒に食卓を囲んだ家族も昨日まで一緒に笑いあった友も、地獄の業火に焼き尽くされた。


ここにはもう何もない。


私の帰る場所も私の帰りを待つ人も。


この地獄に私は抗おうと銃を拾い、爆炎と轟音が響く街を駆けた。


私は必死に燃えさかる炎の中を駆ける。


角を曲がると二人組の真っ黒い軍服を着た男にぶつかった。男は私を見るなり声を上げた。


「なん……このが……」


 響き渡る銃声と轟音で耳がマヒしていてよく聞こえない。彼らは私に銃を向けた。怖くて怖くてたまらない私は銃を構え考える間もなく、引き金を引いた。


銃声が響き、私の体は銃の反動で後ろに転げまわった。


「はぁ……はぁ……」


 胸の鼓動がスピードを増していく。男がいた場所が、雨上がりにできる水たまりのように赤く染まっていく。


「この……よくも俺の……を」


 もう一人が私に向かって引き金を引こうとした瞬間、彼の頭から血が噴き出し前のめりに倒れた。


「?」


 私は何が起こったのか分からなかった。私の銃は引き金を引いても弾は出てこない。


(私じゃない……)


そう思っていると打たれた男の背後から深紅の羽織を着た一人の男が立っていた。


私は弾の入っていない銃を彼に向けた。彼は自分の銃をしまい両手を上げてこちらに近づいてくる。


帽子を深くかぶっていて表情が見えない。私は銃を向けたまま彼を見上げた。


彼は銃が触れられるところまで来たとき、片膝立ちになり自らの額を銃口にあてた。鋭い眼光で見つめられた私は指一本動かすことが出来なくなった。


「っ……」


 青く澄んだ瞳で私を見る。私は撃とうという気が起きなかった。たとえ弾が入っていても引き金は引かなかっただろう。


私は銃を降ろし彼の目を見つめる。すると彼はすぐに戦場には似合わない優しい笑みを浮かべ、私に対して手を差し出した。


「……?」


 銃声が飛び交う中で私にはこの男が何を言っているのか聞こえなかった。


だがこの手は今私を救ってくれる手だと私は思った。これから先、私を待ち受ける地獄を知らずに私は彼の手を取った。

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