夢を見る青年
以前からよく夢を見ることが多かった。
俺は誰かに手を引かれて逃げる。
相手の顔は見えないが、相手には傷ついてぼろぼろの羽がある。
俺と相手の種族はどうも違うらしい。
後ろから追いかけてくる声は皆、俺と相手を引き留めるのだ。
「若様」「待ってください」「そのような者と」「不釣り合いです」
俺と相手の少なくともどちらかは立場が上の者らしい。
引き留める声は敬語を使い、若様と呼ぶ。
二人で駆け抜け目の前が崖になったとき相手は俺に問うのだ。
「覚悟はあるか?」
俺は必ずうなずく。
相手は血だらけの手で俺を抱きしめると崖から飛び降りるのだ。
そこでいつも目が覚める。
反町睦は時折変な夢を見ることとある事を除けば至って普通の17歳の青年であった。
今日も起きると学校へ行く準備をし、自宅を出ると自転車で坂道を下る。
自宅から5分ほど下ったところに人影が見えてきた。
女のようなきれいな顔立ちをしているが来ている制服は男物の学ランである。
ショートカットの金髪をなびかせる彼の名は春原弥生という。
睦と弥生は軽く挨拶を交わすと、学校へと向かった。
しかし道中の弥生の足取りが重い。
「弥生、なんか今日歩き方変じゃないか?」
「そうか?いつも通りさ」
「…まさか、また喧嘩か?」
弥生は綺麗な顔立ちをしている分ほかの男に言い寄られることや、なめられて喧嘩を吹っ掛けられることが多い。
そのような売られた喧嘩を弥生はすべて買ってしまうのだ。
睦が弥生の足を見ると足は軽度に腫れていた。
「おい睦、見るな。お節介が過ぎるぞ」
「だったら俺にバレないよう喧嘩してきてほしいね。こんなに腫れてるじゃないか」
そういいながら睦はカバンの中からペットボトルを取り出す。
そのペットボトルは氷と間違うくらいの冷たさをしていた。
睦は冷たいペットボトルをタオルにくるみ、弥生に渡すと自転車の後ろに乗せた。
「何か言うことは?」
「…悪かった」
「よろしい。とりあえず学校に着いたら保健室に向かおう」
「あぁ、それにしてもこんなに冷たいペットボトル、よく持ってたな」
「たまたまだよ。ほら最近暑くなってきただろ?」
たまたま、睦はそういったが、これは睦の持つもう一つの特殊な力である。
睦は水の温度を操ることができるのだ。
地味な力であり、それが生活に影響するわけでもなかったため、今まで誰かに自分の力や夢の話をしたことはなかった。
睦は学校につくと自転車を止めて弥生を保健室へと送り届ける。
もう大丈夫だから、と弥生から返されたペットボトルは、今冷やしたかのように冷たい状態であった。
睦はペットボトルを持つと弥生にバレないよう元の温度へと変える。
バレていないと思っていた弥生が鋭く睦を見ていた事も知らずに、睦は弥生に一声かけると自分の教室へと戻っていった。