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プロローグ

 心臓がうるさいほどに暴れている。しかし、止まるわけにはいかない。

 走っている足の感覚はとっくの昔になくて、残酷な未来ばかりが頭を過ぎる。


「あっ…!」


 足元にあった木の根に足が引っかかる。体勢を戻すことができないと自覚した。

 同時に自分の死をはっきりと自覚した。



 私は眼を疑った。

 自分が森の中に寝ていたからだ。

 トラックに轢かれたはずなのに体のどこも痛くない。


「どういうこと?」


 ただ、ポツンと森の中に寝転がっていた。

 轢いた犯人が犯罪を隠すために私を森に捨てたのかと思ったがそれにしては擦り傷一つないのはおかしい。


 ガサッ。

 草むらが動いた気がした。

 振り向いたのが良かったのかはわからない。でも、その光景が自分を一気に現実に引き戻したのは確かだった。


 視界に映ったのは緑の塊。人間の顔をくしゃくしゃにしたような顔に、小学生高学年くらいの身長を持つ体の肌は緑色。腰に申し訳程度に布切れをまとった姿はまさに物語の中に出てくるゴブリンだった。

 それが、見えた部分だけで3匹。


「いやぁぁぁああ!」


 判断は早かった。いや、判断なんてものじゃない、反射的に逃げ出したのだ。

 恐怖が体を支配する。興奮したような荒い息がゴブリンたちが私を追いかけていていることをはっきりと伝えてくる。


 止まったら終わる。コケたら終わる。

 もしも、彼らが物語のような強い生命力を持ち人間を犯す生物であったなら、私は殺されることはないだろうが死ぬよりもひどい目に遭うことなんてわかりきっている。


 段々と息が上がり、地面を踏み締める足に力が入らなくなっていっているのを感じる。ハッキリ言って走る速度も少しずつ落ちている。

 そして、ゴブリン達が何を考えているのかがわかる気がした。

 奴らは遊んでいたのだ。

 必死に逃げている私なんていつでも捕まえられたのではないかと思う。でも、体力を使わせ抵抗できないようにしなければ自分たちの棲家へと連れ帰るのが難しくなると考えているのではないか。全て憶測ではあるが。

 でも多少はそういう理由があるのではないかと思う。なぜなら、もっと前に奴らは追いつけたはずなのだ。ぴったり後ろを追いかけて来るなんてありえるだろうか?


 諦めてしまおうか。

 自分で命を絶ってしまおうか。

 逃げきれないことなんてわかりきっているではないか。

 そんなことを考えていたからだろうか、私は木の根に躓いてしまった。

 体が浮き、体勢を戻せないことをハッキリと感じる。


 胸を地面へと打ち付けた。肺の中の酸素が圧迫され口から溢れた。

 頭を打つのはなんとか手をつくことで避けた。

 だが、立ち上がるのは無理だ。

 喉はひゅうひゅうと音を立てていて、とてもではないが体に力が入らない。


 何よりも奴らの足音が私の足元で止まった。

 初めてくらいは好きな人としたかったな。

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