4話 最強とVliber
「どもども。えーと、貴方がオーディンさんで大丈夫ですか? 私がV3Creation所属、新人バーチャルライバーのHitomiです。よろしくお願いします」
オーディンは西部劇や、ファンタジー世界に有りそうな酒場居た。
とは言っても現実ではない。
その証拠として、木のテーブル窪みを触ろうとしても見えない何かにぶつかる。
更に言えば客は疎か、店員すら居なかった。
それはそのはず。ここはちゃんとしたお店ではない。
お店をイメージして作られたバーチャル上の空間だからだ。
VRカプセルに入っているソフトの一つ、【VRメッセ】。
それは不特定多数の人と会ったり、会話することが出来るバーチャルSNSだ。
そして、このソフトには特定の個人間で会話できるDMモードがある。
その機能を使うことでオーディンはこの美少女、ひとみと待ち合わせしていたのだ。
彼女は緑色のベレー帽を被り、腰まである長い茶髪をそのまま下ろしていた。
白いシャツに、緑迷彩のジャケットとハーフパンツ。
胸は控えめで、全体的に引き締まっているスレンダーな印象だ。
人懐っこい笑みを浮かべる彼女こそRevolucionGamingGuerraの2人目の人物、スポンサーが運営するクリエーターグループ所属のVliberだ。
「えっと、ひとみさんでいいのか? 俺様がゲーラのリーダーになることが決まってるオーディンだ」
Vliber。
それは配信サイトにて動画投稿や生放送などを行い、収入を得るライバーの発展形だ。
アニメやゲームのような姿、アバターを通してライバーと同じように配信などを行う。
一人のVliberが話題になり、それに次ぐVliberが多く表れたことにより大きな話題になったのが大分前の話だ。
そして一過性のブームで終わらず、VRが世間に浸透してくるにつれて再びVliberが増えてきたのである。
このひとみも最近デビューしたVliberの一人だった。
「あ、さん付けじゃなくってもいいですよ。言っちゃ悪いけど、さん付け慣れて無いの丸わかりだし。それにしても、それでオーディンって読むんだねぇ」
そう言って、オーディンの頭の少し上を指さす。
そこには目の前の少女の上に【Hitomi】と表示されているのと同様に、オーディンの上には【0d1n】と表示されていた。
「あぁ。アルファベットを似たほかの文字に置き換えてるやつな」
細かく言えば違うが、日本語で言うと【ネ】と【申】で神と読むようなネット用語の海外版ようなものだ。
Aを4、O を0と書いたりなど色々存在している。
Leet文字などと言われ、一部界隈のネットゲーマーが好んで使われていた。
「俺様もよく知らんし、カッコつけの為にやっているだけだから気にするな」
とはいえ、オーディンの居た界隈ではよく使われてる手法だ。
この事を知らないと言うことはやはり彼女はオーディンの住む世界が違うのだろうと認識する。
「りょーかい」
オーディンにとってこの顔合わせの目的は大きく分けて3つの意味があった。
一つは単純にお互いを知ることだ。
二つ目は午後の配信のための打ち合わせや、チームとしてやって行く上での情報のすり合わせ。
「ひとみ、まず最初に言っておくと俺様は本気で世界一を狙ってる。毎日のようにこのゲームをプレイしてもらうし、時間も無いからお前には偏った練習をしてもらうつもりだ」
そして、3つ目はチームとしてやって行けるのかの見定めだった。
「やれるか?」
彼女がチームに入るのが確定事項としても、彼女次第では方針を変えなくてはいけなかった。
もし彼女がやる気が無ければ彼女に割く時間を最小限に、個人技や3人目との連携を強化するべきだろう。
彼女がやる気を持って出来るのなら既に高い実力のオーディンよりも、ゼロからで伸びしろが多い彼女を育てた方がチームとして強くなるだろう。
オーディンにとっては仕方なく変更したゲーム。
それでも手を抜く気も、最強を目指す目標も変わってなかった。
「正直ね、私はマネージャーさんに急にプロゲーマー系バーチャルライバーでやって行くぞって言われたんだ。私は未経験で、FPSって物も詳しくない。だからなんで私が選ばれたんだろうと思うよ。迷惑じゃないかとも思う」
いきなりの弱音。
自分の意志ではなく他人の意志で決められたことだと口にする。
オーディンは外れかと思った。
無理やりやらされてる人間は大きく伸びないことを知っているから。
それなら3人目やオーディン自身に力を入れた方が良いだろうと判断する。
「それでも、やるからには本気でやるよ」
だが、彼女の眼を見ればその考えは変わった。
「私はね、自分じゃ何にもできない人間なの。これじゃダメだって、何かやるって決めても三日坊主なのが多かったりするからね」
「でも」と、彼女は続ける。
「だからこそ芯がある人間が強いことを知ってる。ならばこそその人たちがそのことに集中出来るように支えたいと思ってる心に偽りはない」
彼女の眼は真っ直ぐだった。
それでいて彼女の眼はオーディンを観察するようであった。
「貴方のが口にした世界一が本気なら、迷惑はかけるかもしれないけど私は必死について行くよ」
同時に自覚する。
試していたのはオーディンだけではないのだと。
「最高だ」
気が付けばそう口にしていた。
ExP3に戻りたいとは未だに思っている。
しかし、それ以上にこのABOの手は抜けないと改めて思い知らされた。
彼女を認めよう。そして、鍛えようと思えた。
「あぁ、口先だけじゃねぇよ。勿論本気だ」
そうやって宣言したオーディンの顔は明るかった。
昼食を食べて午後。
ABO内のロビー部屋に居た。
ただし、壁際の棚に置かれていたトロフィーなどは存在していない。
何故ならそこはオーディンのロビー部屋ではなく、ひとみのロビー部屋だったからだ。
「どもども、V3Creation所属、新人バーチャルライバーのHitomiです。どうぞ、よろしく。今日はね、スペシャルゲストに来てもらってます。ってことで早速どうぞー」
現在ひとみのRevolucionGamingへの加入は発表されていない。
大会直前に発表したほうが注目度が上がるなどの理由だそうだ。
なので、今回は配信者としてのコラボという名目でアレス・バトルロワイアル・オンラインを教える事になっている。
「俺様がRevolucionGaming所属のプロゲーマー0d1nだ」
「なんと、このオーディンはこのゲームのポイントランキングが100位以内。えーあーる? キル数が日本で9位なんですって。そんなすごい人とプレイ出来るんですよ!」
コメント欄も大盛り上がりだった。
とはいえお互いの視聴層はあまり被ってないので、ひとみ側の視聴者にとっては肩書的に凄そうな人が来た程度の認識だ。
「始める前にこのゲームについて簡単に説明してもらいましょう」
ひとみには午前中に説明はしたが、視聴者向けの説明が必要だろう。
このゲームはVライバーの中でもやってる人が多いとはいえ、ひとみが初めてするゲームなのだから。
「このゲームは3人20チーム、最大60人が一つの無人島に降り立って戦う」
説明用に舞台となる島の映像を出す。
そこに表示されるのは三日月型と言うにはちょっと歪なの大きな島と、欠けた部分にハマるような小さな島。
その中には街や、山。砂漠に大きな施設など多種多様な地形が存在していた。
「最初は指定した場所の上空に、開かれたパラシュートと共に出現する。持ち物は事前に選択した100種類以上から選択した武器のみだ」
連射速度、威力、射程などバランスの良い【AR】
長い射程と、高い威力。但し一発ごとの発射感覚の多い【SR】
ARとSRの中間的な性能の【DMR】
射程は短いが、高い連射速度を誇る【SMG】
同じく射程は短く、そして発射感覚も長いが分裂する弾により大ダメージを与えられる【SG】
持つと足が遅くなり、再装填時間も長いが多くの弾を撃ち続けられる【LMG】
そして、これらのメイン武器とは別に持つことのできる拳銃【HG】
「今回は事前に相談して、私はSRに分類される武器【バレットM82A1】って銃にしました。なんと、このゲームにて最高クラスの威力を誇るみたいです」
ひとみがそう付け加えた。
オーディンがスナイパーライフルの中から選べと言って、全く分からないままにひとみが見た目で選んだものとなっている。
「弾も最初に装填されてた分のみ。それでどうやって戦うのかと言えば、建物の中に落ちてる弾や防具などを拾って自分自身を強化しながら戦っていく」
落ちてるアイテムには何種類か存在する。
武器の強化パーツ【アタッチメント】
装備する部位ごとに受けた弾からダメージを減少させる【防具】
自分の体力ゲージを回復する【回復アイテム】
投げた後に煙を噴出することで視界を封じたり、爆発することで周囲にダメージを与えるなどの効果のある【投擲アイテム】
そして、複数種類の【銃弾】だ。
「まぁ、これ以上はやって行きながら解説していく。最初のマッチでは俺様も【バレットM82A1】を使ってやって行くぞ」
そう言うと、部屋に設置されたタッチパネルから自分たちの初期出現地点を操作する。
オーディンもひとみもぽつぽつと家が存在するだけの西端に出現する設定した。
二人が直ぐ近くに出現する設定になっていることを確認し、ゲーム開始ボタンを押す。
次の瞬間には視界は黒く染まり、カウントダウンが行われ始めた。
オーディンの耳には「わぁ真っ暗になった」、「すごい」などのひとみの声が聞こえている。
このゲームでは距離が離れていても、同じチーム内の声は聞こえるようになっているのだ。
カウントダウンが0になった時、唐突に浮遊感に包まれる。
実際に設定した上空に出現したのだ。
パラシュートがあるので落下はゆっくりだ。それでも3秒もすれば地面に着地できるだろう。
ドォンッ!
だが、その前に大きな銃声が聞こえた。
オーディンが振り返ればそこには驚いて引き金を引いてしまったらしい青い顔をしたひとみが、発射の反動で横に吹き飛ばされていた。
オーディンはパラシュートを外すと無言でひとみの方へ歩き始める。
「じゃあ、これから色々教えるわけだが」
そして目の前に立ち、ようやく口を開いたかと思いきやひとみにバレットM82A1の銃口を向けた。
「そうだな、まずは死んでくれ」
「ごめんなさーいぃ!!」
二人の出会い。
ひとみにとっての初めての対戦。
それは銃声と叫び声から始まった。
Tips
【プロゲーマー】
明確に定義は決まっていない。
プロゲーミングチームに所属してればプロゲーマーだと言う人もいれば、ゲームの大会に出てればプロゲーマーと言う人もいる。また、ゲームで生活できなければプロゲーマーじゃないと言う人もいる。
この小説では「プロゲーミングチームに所属する」をプロゲーマーと定義している