3話 最強による家宅探索
「引っ越しを手伝ってもらって悪いな、学人」
「全くだよ。まぁ、君の頼みなら断らないけどね」
チームをクビになり、別部門に移動した以上チーム単位で与えられているゲーミングハウスから出なければいけなかった。
幸いと言ってもいいのか、新たな引っ越し先となる場所がすでに決まった。なので幼馴染である武久学人に手伝って貰って引っ越しを進めていた。
「でも、驚いたよ。君がExP3部門をクビになるなんてね」
「……俺様もだよ」
ExPentagon3。
オーディンの運命が大きく変わったあの日、行われていた大会に使用されていたゲームがExPentagon1。
学人はその続編にあたるExP3にオーディンが大きな執着を見せていることも知っていた。
とはいえ、ほかのスポーツと大きく違う点として時代が変わればルールも変わる。
執着こそあるが、拘るつもりもなかった。
だからこそ今回の話を受け入れられたのである。
「なに、アレスバトルロワイアルオンラインで結果を残せば戻れるかもしれないだろう? きっとたっちゃん達に『俺達だけじゃだめだ。お前に戻ってきてほしい』って言われるように頑張るさ」
「そうだね。それを言わせる為にも1か月後の大会頑張らないとね」
新しいゲーミングハウスに段ボールを運びながら二人は視線が合わせて微笑み合う。
とは言え、勝負する舞台の変更は自分の意志で行ったことではない。
未練が残っているのも、また事実であった。
メガネの位置を直しながら「あ、そうそう」などと学人が切り出す。
「なんでも妖ゲーミングがサバゲ出身者の3人でチーム組んだみたいだね。これもVRだから現実での立ち回りが重要になると踏んだのかな? 後は個人規模の大会だけど、それに優勝したマザーズラブも参戦すると発表してたよ。そして何よりロンダディオースも選手募集してたしね」
最後のゲーミングチーム名を聞いた瞬間にオーディンの手が止まった。
10年以上続く強豪。
あの日、王者を敗北寸前まで追い詰めたゲーミングチーム。
「恐れたかい?」
学人が楽しそうにオーディンに向かってそう尋ねる。
だが、学人の方からは見えないその顔は獰猛に笑っていた。
「いや、燃えるね」
「だよね。君ならそう言うと思ったよ」
二人は笑い合う。
オーディンに、新たな舞台で戦うための燃料が追加された。
RondaDios。きっとそこは新しい舞台でも力を見せつけてくることを確信して。
元より寮のようなゲーミングハウスからの引っ越しだ。
荷物はそう多くなく、すぐに荷ほどきを終える。
なので、余った時間は家を探索しながら雑談を続けることになった。
「そう言えばそのVライバーの子はここには来ないの?」
「そいつは女子みたいだし、ここには住まねぇとさ。自宅にはちゃんとうちのチームが指定した高性能なVRカプセルが送られてるみたいだし、元より配信する予定だったんだ。回線も問題ねぇとおもうぞ」
「へぇ、女の子なんだ。君にいじめられないかちょっと不安だね」
「よりによって切り抜くところは女の子って部分だけかよ。別にいじめねぇよ。本気で強くある意思があるなら性別なんてどうだっていい。稀ではあるけど世界大会に女が出てた時もあったからな。そこらへんはお前の方が詳しいんじゃないのか?」
「まぁね」
風呂が計3つ存在することに驚く。
1階はバスタブ付きが一つ。2階はシャワーのみが二つだ。
また、1階と2階にある二つずつ、計四つのトイレ。その数にも再び驚く。
そんなことがありながらも会話は進んだ。
「明日はそいつと午前に初顔合わせだ。午後はそののままコラボって形で配信するんだと。俺様も一応ライバーとしてそこそこ人気があるし、まだゲーラの事は発表せずに新人Vライバーに教えるって形でプレイする予定だ」
1階と2階には同じ間取りの小さめの部屋が計六部屋存在した。
1階は二部屋。2階には四部屋存在している。
個人部屋として想定されたものだった。
オーディンの荷物も、2階の一室に置いてある。
また、2階には大きめの部屋が存在した。
大部屋にはホワイトボードと、大きめのモニター、コピー機などがある。
打合せや作戦会議などミーティングをするためだろう。
「Vライバーの子は武器どうするの?」
「スナイパーをやらせるつもりだ。本来なら初心者にはARをやらせるべきなんだろうが、大会が近いし居るだけでも脅威になるSRにさせる。賭けだがな」
ベランダもあった。
結構な広さがあり、ベンチと物干し竿がある。
基本は洗濯物を干すためになるだろうが、ちょっとしたバーベキューぐらいなら出来そうなぐらい広かった。
星も見えるので、夜にベンチに座って見上げるのも良いだろう。
「君自身はどうするんだい?」
「変わらねぇよ。AK-47だ」
「初心者込みで勝てる?」
「勝てるじゃねぇ。勝つんだよ」
他には、1階にリビング・ダイニング・キッチンがある。
冷蔵庫や炊飯器も2台存在しており、大人数でも対応できるようになっていた。
廊下に直接設置された状態で洗濯機も2つあるようだ。
「結構広かったね。最初からここまでお金かけてくれてるのなら、それだけ期待されてるのかな?」
それですべての部屋を見終えた。
もう見るところは無いと結論付けた二人は2階の大部屋。
再びミーティングルームに行く事にした。
「俺様が出るんだから当たり前だ。……って、言いたいがどうなんだろな? 俺様はExP3のチームから追放されたしスポンサーが金持ちなんかもな」
「君にしては珍しい。結構弱気の発言だね。」
「ん、まぁ強がっていても結構堪えてるのかもな」
長い沈黙。
学人にもオーディンの心の傷が伝わるようなそんな嫌な沈黙だった。
何十分そうやっていただろうか?
やがてゆっくりとオーディンが口を開いた。
「学人、いやHeer。またプロシーンに戻ってこねぇか?」
「僕に戻って来いか……。君はどうやら相当にまいっているみたいだね……」
かつて、RevolucionGamingに所属するよりも前。
オーディンがプロゲーミングチームではなく、アマチュアチームに所属していたころだ。
二人は同じチームに所属していた。
「本気で勝ちに行くなら俺様はVライバーのやつを面倒見なきゃならねぇ。そうするともう一人には指示を出せん。だからと言っても俺様と意思疎通が取れねぇと困る。お前なら俺の考えを読み取って動けるだろ?」
小学生の頃からの付き合い。
オーディンをE-Sportsの世界に引き込んだ人物。
かつて同じチームに所属して、動きもお互いによく知っている。
だがーー。
「ごめん」
帰ってきたのは断るための言葉だった。
「僕は力不足だ。それは君もよく知るところだろう?」
顔を伏せ、か細い声で続ける。
誘われたのは嬉しい。だが、学人にはそれを素直に喜べない過去があった。
「あのチームを破綻させたのは僕だ。君を最強と勝負させれなかったのは僕だ。だから僕は君とこうしてるのも罪なぐらいなんだよ」
髪が目を隠して表情は分からない。
声は落ち着つき感情は分からない。
それでも、その言葉は二人の間では重いものであった。
だが、過去を乗り越えようと決めたのだろう。
オーディンの顔が上げられた時、その目は力強く前を見ていた。
「俺様は待ってるぞ。お前は俺様の片目何だろ? なら俺様と一緒に居ろ! 俺様の役に立て!」
しかし、その思いは学人を動かすには至らなかった。
オーディンから顔を隠すように立ち上がる。
「ごめん。今日は帰るよ」
心のもやを忘れるために、下唇を噛みながら。
拒絶するようにオーディンに背を向ける。
「大会頑張って」
そう言い残して学人は立ち去った。
オーディンは追いかけない。
追いかけるための言葉を持たなかったのだ。
本来なら共同生活をする筈の家。
そこにオーディンは一人で居た。
Tips
【ゲーミングチーム】
ゲームの大会を目指す集まり、組織の事。
その中でもスポンサーが存在するチームなどはプロゲーミングチームなどと呼ばれる。
単一のゲームのチームを持つものから、複数のジャンルのチームを持つゲーミングチームを存在する。
この小説では大きな枠をゲーミングチーム、それぞれのゲームに結びつけられた小さな枠組みをチームと記載している。