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男は黙って日常なんだよ!  作者: 大天使 翔
3/5

第3話 ショタコンについての新しい認識

 栄えある男子高校生が放課後やることといえば ・・・そう!部活である!


 わが主人公、田中も部活に所属している。


 そして今、授業終了を知らせるチャイムが鳴り響いた!


 今日は火曜日。掃除がない田中は、クラスメイトと談笑しながらダラダラと机を下げると、ロッカーからスマホを取り出し、部室を目指す。部活がある火曜日と木曜日はこれがルーティンだ。田中は、廊下の賑わいから一人遠ざかり、生徒部室や実験室がある北館の校舎へと足を運ぶ。


 突き当たりを右に曲がり、茶道班の班室である茶室を横目に階段を上る。上った先の短い廊下に三つの小さい部屋があるが、その中の一番奥の部屋が田中の目的地である。


 ドアには「文芸班へようこそ!」と書かれた紙がテープで雑に貼られている。そう、田中はあらゆるアニメでも現実でも馬鹿にされてしまう文芸班に所属していた。


「チッ、鍵開いてねぇな」


 部室の鍵は顧問の先生が持っている。普段は班長がその先生から受け取り、開けにくるのだが、班長が掃除だったり、先生が見つからない場合、部室が開くのが遅くなってしまうのだ。・・・この先生も文芸班の顧問だけあって独特なのだが、その話はまた今度。


「ういーっす」


「お、きた」


 班長の佐伯さえきが鍵を持ってやってきた。


 佐伯は元陸上班で、爽やかな出で立ちと後輩想いの優しい性格である。文芸班といえば、放課後に居場所を求めるぼっちか、ただのヲタクくらいしか来ないイメージだが、佐伯のようなイケメンが入ることもあるのだ。


「今日、俺明日の家庭科で使う材料の買い出し行かないといけんから、あとは高1でやっといて」


「あ、ういっす」


「く・れ・ぐ・れも遊ぶんじゃないよ」


 佐伯は笑いながら言った。佐伯の代になるまでの文芸班は、ただの遊び場だった。スマホゲームで遊ぶのは日常茶飯事で、少し前の時代だと電子辞書のケースにDSを入れて持ってきたり、パソコンで普通にゲームをしていたらしい。


「分かってますって」


 しかし、真面目な佐伯を筆頭に、いい後輩に恵まれた最近の文芸班は、いちおう活動らしい活動をしていた(今回はちょっと違うけど)


 佐伯は田中に鍵を渡すと、その場を去った。田中は部室に入り、部屋に入ると畳の上に寝転がった。


 広さおよそ8畳の細長い部室の奥には、2畳分、畳のスペースがある。文芸班は毎年2万円弱の活動費が支給されるが、使い道が無かったので「なんか畳とかで執筆したらアイデア出るんじゃね?」という浅はかな理由で買われたものだ。ドアから入って右側の壁には長机と本棚が置かれており、机の下には数個の椅子やゴミ箱と、なぜか赤本が入ったダンボールが積まれている。もう一方の壁には、過去の先輩が残した遺産(文化祭用の文集や小道具)が乱雑に置かれていた。


 田中は「うおおおお~~~あはっ、うぐっ」と今にも何かが生まれそうな声を発しながら伸びをした。ぼーっと天井を眺めていると、ドアがドンッと開いた。


「みっくみっくにしーてあげる!」


 そういいながら入ってきたのは田中と同学年の木元だった。


「古いな」


「そうか?わいの中ではバッキバキのブームだけど。あれ?他のやつは?」


「班長は今日家庭科の買い出しで来れんって。他は知らん」


 木元きもと 大次郎だいじろうは細身の体で、坊主頭に眼鏡という姿であり、典型的なオタクである。昔はバレー班にいたが、高校生になると同時に文芸班に入った。


「そうか。・・・あー早く天思ちゃん来ないかなー」


「今日何する?」


「そうだなー、BLショタ論争でもしとくか?」


「は?お前だけでやっとけ」


「おいおい大草原協会じゃなかったのかよ」


 木元がいう「大草原協会」とは、「ホ○系日本大草原協会」の略である。前回、山下先生が学生時代に「即火唖生活ショッカーライフ」という族をやっていた時の話をしたが、実は田中もその類の組織を岡田と一緒に作っており、ホモとしてYouTube活動を行っている。だが、それはまた今度のお話し。ちなみに創設者である岡田が会長で、田中が副会長という設定だ。


 その時、またまたドアが開いた。入ってきたのは中学2年生で、天然パーマにあどけない顔、小柄な体型を持つ、文芸班のアイドルと言っても過言ではない二葉ふたば 天思てんしだった。


「こんにちは・・・」


「天思ちゃん!?」


 天思だと分かるやいなや、木元は起き上がった


「先輩、近寄らないで下さい」


「まぁまぁいいじゃないの~ね?あー今日もいい匂いだねぇ。あ、荷物持つね、うん」


 木元は天思のバッグをするすると肩から外すと、バッグのチャックを明け、匂いを嗅ぎ始めた。天思は糞でも見るような眼で木元を見下ろす。


「お前ホモだろ」


「何を言うか!わいはただのショタコンであって、断じて腐ってはおらん!お前と一緒にするな!」


「田中せんぱーい、今日は何するんです?」


 天思は木元を無視し、田中の方へと駆け寄る。


「そうだな・・・今日班長がいないから特にやることもないんだよなぁ」


「そうなんですか・・・。あの、じゃぁちょっと、その・・・相談に乗ってくれませんか?」


「うん?いいけど、何の?」


「ここでは言いたくないです。あの寄生虫がいるんで」


「な!天思ちゃん・・・それを言われたらちょっと傷くなぁ・・・。まぁ普通の人だったらだけど。天思ちゃんなら逆にウェルカーム!・・・あーこれ部分によって匂い違うんだな」


 木元はリュックサックをまんべんなく丁寧に匂い始めた。


「おいおい、お前それはやりすぎだって」


「シャー!!!」


 田中がリュックサックをとろうとすると、木元は獲物を横取りされまいと守る肉食獣のごとき形相で田中を威嚇した。田中もあまりの必死さにドン引きである。


「おい二葉、コイツにこのままヤラセておいていいのかよ!」


「いいです。もう疲れました」


「え、じゃぁわいと結婚してくれるの!?」


「死ね」


 天思の顔は笑っていなかった。


「え、ちょっとひどいよー。今までどんだけ蔑まれたとしても死ねはなかったじゃん・・・死ねは・・・ヌフフ」


 気持ち悪い笑みを浮かべながら木元は言う。


「さ、先輩こんなのほっといて行きましょう!」


 天思は机の上に置いてあった班室の鍵をとると、田中の背中を押した。


「行くってどこに?」


「決まってるじゃないですか・・・。コイツのいないところですよ」


「え?、っちょっちょ」


 天思は田中と一緒に班室の外に出ると、班室の鍵をかけた。木元は天思の仕掛けた甘いトラップに引っかかっており、閉じ込められたことに気づいていない。


「あの・・・先輩、僕のこと、その・・・二葉じゃなくて、天思って呼んでくれませんか?」


 上目遣いでモジモジしながら恥ずかしそうにしゃべる天思。


「おう、いいぞ」


 天思は心の中で大きくガッツポーズをとった。


「ありがとうございます!じゃぁ、行きましょうか!」


「だからどこにだよ」


「図書館の横にある広場です。あそこなら誰も来ませんし、会話の内容を聞かれることもありません」


「そんなに聞かれるのが嫌なことなのか?」


「・・・とにかく、行ってから話します!」


 天思は顔を赤くして言った。田中の手を引き、図書館までいそいそと歩く。


「お前さ、最近大次郎に言うこときつくない?」


「当然です、あんな変態。まともに付き合ってたらきりがないです」


「あいつどんどん耐性ついていくぞ」


「・・・その時はその時です」


 二人は目的地に着いた。そこにはいくつもの太い丸太の椅子がローテーブルを囲んでいた。二人はそのうちの一つに適当に座ると、向かい合った。


「で、相談ってなに?」


「僕、実は・・・告白しようか迷ってるんです」


「へー、誰に?・・・ってまさか、男じゃないよね!?」


「違います!同じ塾の人で、よく話すんです。勉強教えてもらったり、趣味も合ったりして」


 天思は顔を真っ赤にして話す。恥ずかしすぎて、田中に目を合わせることができない。


「そうかぁ、ええなぁ。じゃぁ早いとこ告りゃぁいいじゃん」


「そんなにやすやすと告れたら苦労しませんって!」


 天思は無責任な田中に若干腹が立って、早口で言った。


「すまんすまん。・・・で、俺にどうしろと?」


「一応・・・告白の手紙を書いてきたんで、読んで感想下さい」


 天思は、ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。


「紙かー、今どきはLINEとかで告白する奴いるらしいけどねぇ。てか、口頭で伝えればいいんじゃないの?」


「嫌です。・・・絶対緊張して、まともに喋れないんで。それに、紙に書いた方が、思いがちゃんと伝わる気がするじゃないですか」


「なるほどね、どれどれ?」


 田中は書いてある内容を音読し始めた。


「ずっとあなたのことが好きでした。授業中、あなたのことばかりを見てて、集中できないくらいに。どんなことがあってもブレないその気高い心、凛々しい姿、僕がどんなに分からず屋でも勉強を教えてくれる優しい心。あなたのことを考えるといつも胸が締め付けられます。どうか付き合って下さい」


 田中はあまりに普通のラブレターだったので、一瞬どう言おうが迷ってしまった。


「いいんじゃね?」


「なんですかそのどうでもいいって態度は!人がこうやって恥ずかしいのに相談してるのに~」


 天思はほっぺを膨らませ、ぶーたれた。


「いやさぁ、俺こういう経験が全くないんだよ。だから、どうアドバイスすればいいかも分からん」


「え!?先輩ならてっきり経験豊富なものかと思ってました」


「なんでだよ。俺がモテるように見えるか?」


「はい。優しいし、キモくないし、何よりオモシロいですし・・・」


「そうか?俺は告られたことも告ったこともねぇぞ?」


「本当ですか!?・・・あー、先輩ってもしかして、嫌われることもないけど、誰からも好かれることもないってタイプですか?」


「かもしれんな・・・」


 田中の小学校は、非常に稀有な学校だった。色恋沙汰などとんとなく、バレンタインデーも友チョコくらいで、六年生になってもなお、「女子と遊んだら仲間外れになる」というあの意味の分からん風習が残っていたほどである。その中で育ち、男子校で隔離された田中は、誰かを好きになるという気持ちを喪失していた。


「こういうのは木元の方が経験豊富だぞ。あいつに相談しろよ」


「嫌です。絶対ちゃかすに決まってます。それに、経験豊富って言っても木元先輩だったらフられ方しか教えてくれそうにありません。キモイし無理です!」


「まぁそうかもしれんが・・・」


 天思の心はどす黒く沈んでいた。自分の周りにはマトモに恋愛をしたことがない人ばかり。普通の人の、普通の恋愛経験を聞いて、ある程度シミュレーションができれば少しは不安も解消されるかと思ったが、このままでは無理そうである。しかし、内気な性格から交友関係の狭い天思は、2年生の新クラスでの友達作りに失敗しており、頼れるつてはもう文芸班しかなかった。


 天思が絶望に打ちひしがれていたその時、田中がそうだ、と何かを思いついたように言った。


「俺が告白するっていう体であいつに今から電話すればいいんじゃないか?そうすればお前のことだとはバレないし、うまくアドバイスを引き出せるかもしれない」


 天思はしぶったがもうできることもないので、ゴミの中からマシなゴミが拾えればいいか、くらいの気持ちで田中の提案承諾することにした。田中はそれを受け、電話をかける。


「なんだよ・・・人がせっかくブツ吸って気持ちよくなってたところによぉ」


「お前は女を二人両側に侍らせて、舎弟をいいようにこき使って、最後には主人公にヤラレるか舎弟に裏切られちまう若頭の弟分か」


「今のでそこまでツッコミを入れられるとはな、さすがだ。・・・フ、今度はもうちいと難しいのを出さんといかんな。で、要件は?」


 田中は天思の事情を、自分に見立てて話した。塾に行っていない田中は、毎朝同じ電車で偶然話すようになった女子の設定を作る羽目になり、ちょっと虚しくなった。 


「フ・・・そういうことか。ならばラブレターマイスターであるこのわいに任せるがいい!では田中よ、これを受け取った子は最終的にはどうする?」


「そりゃぁ・・・シュレッダーにするか、ヤギのえさにするか・・・」


「うんうん、尻拭きにも使われるかもしれんな・・・ってそれはわいのことや!」


「なんで関西弁・・・」


「いいか、そういうことが言いたいんじゃない。もちろん、受けとった相手は、最後に返事を返すにきまっているだろう?だが、相手もどんな風に返事したらいいのか悩んだり、冗談と捉えてしまっていたり…または受験や大事な仕事などで多忙な時期だったりすると、忘れたりするかもしれん。だったら、きちんと、どう返事を返してほしいか、また、それはいつごろまでかをきちんと書いておいた方がいいってことだ」


「ふーん、なるほどねぇ。けっこうまともなアドバイスくれるんだな」


 田中は天思の方を見た。天思もなるほど、といった感じで自分のラブレターを真摯に読み返している。


「しかし、しかしだ。告白で最も重要なのはそんなことじゃない!言ってみれば、ここまでは小手先のテクニックに過ぎん!ショタでいえばそれが褐色かどうかの違いで、人によっては好みが別れてしまうようなもの。分かるか、告白で最も重要で欠かせないこと。そう、それは、「勇気」だ!ショタでいえば「小さい男の子で、純真無垢であり、愛らしく、お姉さんがいいこと教えてあげると言わせんばかりの、清き故の壊してしまいたいという衝動」これがなければショタは成り立たないんだ!それと同様に、告白も、伝える「勇気」がなければ成り立たない!田中、お前はきちんと渡すことができるのか!?「○○ちゃんにさ、俺が好きって伝えといてくんない?」とか、「直接渡すの恥ずかしいから、○○ちゃんにこれ、渡しといて」とか言うやつらは、告白する以前の問題だ!そんなやつらは想い人を好きになっていい土俵に立っておらん!・・・しかし、しかしだ、田中 真希男よ。お前はもうそこはクリアしている。なぜって?お前には告白を恐れる理由はないからさ。フられたらどうしよう?、気まずくならないかな、嫌われるかも・・・。フ、フフフフ・・・、笑わせるな。もし告白が失敗してもなぁ、お前はそれを小説として書けばいいんだよ!この世にフられたことのある奴なんて星の数ほどいる。皆人知れず涙を流したことだろう。そんなやつらが共感とカタルシスをお前の小説に求めないはずがない。そうだろ?」


 告白して成功したらハッピー、失敗したとしても小説のネタにできてハッピー。この新たな理論は田中の心を揺さぶった。


「あぁ、そうだな。木元、いや、大次郎!」


 田中は途中から天思の代わりであることを忘れ、木元の熱弁に自分のことのように感動し、涙を流していた。天思はあきれたようにその姿を眺めていた。


「早くお前に会いたいよ!だけどなぜだか部室の鍵が閉まっててな・・・。出られないんだ」


「お、そうだった。すまなかったな。天思、鍵を・・・」


 田中はまずい、と思った。


「おい、お前まさか今天思ちゃんといるのか?」


「え?いや、聞き間違いだよ・・・。そうだ、今精子って言ったんだよ」


「んなわけあるか!天思ちゃんを独り占めしやがって。早く開けろ!そうしないとお前とは絶交だ!」


「あーわかったよ。だって、天思」


 田中の涙は一瞬で乾ききった。


「なに?天思だと!?貴様、天思ちゃんを下の名前で、呼び捨てにするなど言語道断!今から叩きのめしてくれる!」


 芽生えた男同士の友情はあっけないく散ってしまった。田中は、天思になんとかしてくれとスマホを手渡す。


「あの、先輩になんかしたらもうリュックサック吸わせてあげませんからね」


「天思ちゃんそれはひどいよ~。しょうがない、田中はコチョコチョの刑に処するとしよう」


 そんなこんなで二人は部室に戻った。しかし、部室の前にいたのは・・・


「二人とも、これはどういうことかなぁ?」


 佐伯先輩が引きつった笑みを浮かべて立っていた。薄暗い廊下でも、顔面のシワはくっきりと表れ、先輩の放つ底知れぬ怒りを如実に物語っていた。ドアに埋め込まれているガラスからは、木元が顔をガラスにこすりつけ、血走った目で天思を凝視していた。二人がこのあと佐伯先輩にきっつい説教を受けたのは言うまでもない。






☆★☆






 そして、2日後。田中と木元の二人は、部室の畳の上で寝転がって、69(sixty nine)の形になり、抱き合っていた。激しく交わり、求め合うその姿はさながら、宇宙の根源、陰と陽を表す2つの勾玉。欠けている部分を補うように、二人は奇声を発しながら森羅万象に着実に近づいていた。


 その二人を見下すのは、憔悴し、寝不足で目の下に大きな隈ができてしまった天思。ただのホモプレイにしか見えないその様子を見て、この世の終わりだと悟った天思は、涙を浮かべる。


「二人とも、そんな関係だったんですね!田中先輩、見損ないました!」


 天思は思わず駆け出した。


「ん?天思?」


 天思の声で冷静になった田中は、股間を木元の顔面に押し付け、自分は木元の足で首を押さえられているという自分の状況に、寒気が走った。


「待て!違うんだ!これは・・・」


「先輩のバカ~!」






☆★☆






「柔道の寝技ぁ?」


 天思が椅子に座り、疑うように言った。田中と木元は、反省して正座していた。


「だから、誤解なんだって。俺らは断じてそういう関係ではない!」


「そうだよ!・・・てか天思ちゃんさ、なんでわいのこと見捨てなかったのよ!田中は違うくて、わいはゲイだって言うの!?そこ重要よ!」


 木元が唾を飛ばしまくりながら叫ぶ。ガン無視を決め込み、溜め息をつく天思。それを見た田中は、そういえば、と思い出したように言った。


「天思、コクったのどうなったん・・・」


「バカ!」


 天思が止めようとしたが、もう遅い。木元は、ズレてもない縁なし眼鏡をゆっくりと上げた。木元の眼鏡は、今世紀最大に光を反射していた。


「どういうことかな、田中!」


「いや・・・それはその・・・」


 誤魔化すのは無理だと悟った天思は、事情を説明した。その間、木元の表情は変わることはなかった。


「なるほど、そういうことか。で、天思ちゃん。どうだったんだ?」


「・・・降られました。」


「そうか・・・」


 木元最愛のショタであるはずの天思に、好きな人ができたのだ。嫉妬でもしそうなものだが、木元は全く動じない。しかも、天思はフられたのだ。木元ならばフった相手を3度は殺しそうである。しかし、木元にはそんな様子は全く無い。立ち上がると、田中には木元が、殺気立った阿修羅というより、むしろ慈愛と包容と気高き心を併せ持った、菩薩のように見えた。何人をも救おうとするその深い懐に、改めてフられたことを実感した天思は、泣きじゃくりながら、吸い寄せられるように体を預けた。


「木元・・・お前、怒らなくていいのかよ!大事なお前の天思が、他のやつに取られるかもしれないんだぞ!」


 田中は立ち上がって言った。


「田中よ、何を言っているのだ。俺はそんな野蛮なやつじゃない」


「でも、でも・・・お前はショタコンじゃないか!そんなんでいいのかよ!」


「フ・・・田中、お前はショタコンを勘違いしているようだな。ショタコンとは、ありふれた性欲にまみれ、発散する場所を幼い男の子にしか求めることができない猿でもなく、清らかな心を汚して楽しむような邪心を持った、腐った輩でもない。


「そ、それじゃぁショタコンって!」


「・・・そう、ショタコンとは言わば、「母」なる存在。愛する我が子を見守り、その成長の中でどんな困難があろうとも、決して投げ出したりはしない。酷い言葉を浴びせられようとも、裏切られて傷つけられようとも、それでも最後には暖かい抱擁をもって許す。たとえ自分の下から離れていこうとも、束縛などせず、ただただその成長を喜ぶ。それこそが・・・・・ショタコン!」


「木元・・・お前はショタコンだよ!れっきとしたショタコン、・・・・・いや、ショタ神様だ!」


 田中は涙ぐんでいた。木元のショタに対する愛情。それは、田中が想像していたよりもずっと深いものだった。偏見や先入観に縛られて生きていた自分が、みじめで、どうしようもなく愚かな存在に思えてきた。


「ショタ神様・・・。俺は、俺はどうすればいいんだ!」


「案ずるな、田中よ。お前も元はショタだった。どれだけ汚くなろうとも、お前がショタだったことに変わりはない。お前もわいの息子だ。さぁ、胸に飛び込んでおいで!」


 田中の顔は、天地が開けたような喜びに満ちていた。


「ありがとう、ショタ神様!ありがとう~」


 田中がショタ神様に向かって飛び込もうとしたそのコンマ数秒の間、木元は大きく息を吸った。


「あぁ~いい匂い」


「この猿がぁ!」


 天思のアッパーが炸裂した。ベロを噛み、「へぶしっ」と言いながら木元は、宙に舞い上がった。さらに、田中の体当たりも炸裂。木元は、壁にめり込むくらい激しくぶつかると、仰向けになって倒れた。ピクッピクッと痙攣すると、意識を失った。


「はぁ~スッキリした。先輩、ありがとうございました~。って寝てるか」


 天思が、気持ちよさそうに体を伸ばしながら言った。田中は、伸びている木元をまじまじと見つめ、知らんぷりをした。これも、当然の報いである。


 木元のショタコン道はまだまだ続く。頑張れ、木元!負けるな、木元!変態、木元!




                Good luck

 いや~3話目にしてけっこうキツいです。自分のギャグがつまらなく思えてきました。全てのギャグ漫画家に尊敬の念を捧げます。

 

※下にスクロールして☆マークを漆黒に染めていただけると、作者の励みになります。なお、ブックマークで有頂天、感想で失神、レビューとかまでになると死んでしまうので、ぜひ殺して下さい。

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