第53話 イミテルの罪 後編
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
両親に会うため、ドートルの出した条件を呑んだイリス。
檻から出されたイリスはそのままドートルの後について歩き出す。恐怖に震えそうになる足を、両親に会いたいというただその一心で。
しかしイミテルは知っている。その先に待つものが何なのかを。
(ダメ……ダメ、行っちゃダメ!!)
しかしどれだけ必死にイリスのことを引き留めても、ここは記憶の中。起きた事象を変えられるはずもない。全てはただ、最悪の方向へと進んで行く。
「うーん、今日は本当にいい日だねぇ。嬉しすぎて踊りだしたくなっちゃうくらいに」
上機嫌に呟くドートルに連れられてやって来たのは、見たこともないような機器がたくさん並ぶ場所。檻の中に閉じ込めらた獣もいれば、ぐったりとしたまま動かない人のような姿も見える。
恐怖でどうにかなりそうな気持ちを必死に抑えて歩き続けるイリスはやがて奇妙な部屋の前で立ち止まった。その部屋の中心には椅子が置いてあり、その椅子に繋ぐようにして様々なケーブルが伸びている。
機器に聡くないイリスでもわかるほどに明らかに危険な場所だった。
「とうちゃーく」
「こ、ここは?」
「んー、言ったでしょ。私の開発したいもののために君が必要なんだって。時間ももったいないからさっそく始めよっか。さぁ、ここに座って」
「…………」
「怖い? でも大丈夫。殺したりするわけじゃないからさ。むしろその逆だよ。君は可能性を開くことができるんだ。わたしの手によってね。君は人の身で人を超えることができるんだよ」
ドートルが何を言っているかわからない。理解したくもないイリスだったが、そういうわけにもいかない。しかし逆らうこともできないのだ。
そうしなければ両親に会うことはできないのだから。
意を決して椅子に座るイリス。それを見たドートルはニヤリと笑う。
「いい覚悟だよ。君が実に両親想いの良い子だってことがよーくわかる。だからこそ利用しやすいんだけどさ」
「え?」
「さぁ始めよう。生まれ変わる時間だよイリス」
逃げられないように手足を固定されたイリスの頭に装置をつけるドートル。そして次の瞬間、イリスは今までの人生で感じたことがないほどの衝撃を受けた。
「あ、あぁああああああああああああああっっ!!!」
体の中を直接まさぐられるような不快感。頭の中が塗り替えられていく感触。逃げ出そうとしても手足が縛られているせいでそれも叶わない。
「いや、いやぁあああ!! やめて、やめてっっ!!」
「ダメだよ。協力するって言ったじゃない。だからまずは、邪魔な君の記憶と人格を消す。そんなのあっても邪魔なだけだからね。ただ従順に言うことを聞く人形でいい。あぁでも安心して。ちゃーんと約束は守るから。ご両親には会わせてあげるよ。全部終わった後でね」
「おと……さ……おかあさ……」
チカチカと視界が明滅するなか、イリスは両親の名を呼ぶ。それだけに縋って己を保とうとした。しかし、記憶の中に確かにあったはずの両親との記憶が消えていく。砂の城を崩すように簡単に、ボロボロと消え去っていく。
もはやイリスは両親がどんな顔をしていたかすらわからなくなっていた。
「さようなら、イリス」
最後にドートルの言葉を聞いて、イリスはイリスとしての記憶を完全に抹消され、意識を失った。
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そしてそこから始まったのは口にするのもおぞましいほどの人体実験。体の隅から隅までを弄られ、イリスはイリスの姿をしたまま、全く別の何かへと変貌してしまった。
しかし記憶のない、抜け殻となったイリスは人形も同然。どんなに非道な実験が繰り返されようとも口答えすることなく従順に従うだけの存在になっていた。
時には魔獣を、また別の時には人をドートルに言われるがままに殺めながら。
「んふふ、いい数値が出てる。データも揃ってきたし、もう少しで完成かな。最後はやっぱり……うん、そうしよう。イミテル。こっちにおいで」
「はい」
イミテル。それがイリスに与えられた新しい名だった。イミテーション……『偽物』という意味を込めてつけられた名だ。
幾度も実験を繰り返されたイリス——イミテルはドートルの従順な僕となっていた。
「君に与えた能力はちゃんと理解してるよね」
「はい」
「その力は使えば使うほど体に馴染む。君の完成は間近だよ。おめでとう」
「ありがとうございます」
「だからそう、ご褒美としてね。君との約束を果たそうと思うんだ」
「約束……ですか?」
「そう。約束。まぁ君は覚えてないだろうけど。だからって約束を果たさないのは不義理ってもんだしね。そういうのは嫌いなんだ」
イミテルはドートルの言っていることをほとんど理解できていなかったが、それでも『約束』という言葉だけが嫌に胸に響いた。
「だから今日会わせてあげるよ。君の両親にね」
「りょう……しん?」
「そう。さぁ行こうか」
楽しそうな表情のドートルの後についていくイミテル。連れて来られたのは魔人に反抗する組織、レジスタンスのメンバーが収容されている場所だった。イミテルの実験に使われた人も全てここから選ばれている。
なぜそんな場所に連れてこられたのか、イミテルにはわけがわからなかった。そんなイミテルの胸中に気付いたのか、ドートルはクスリと笑って言う。
「言ったでしょ、両親に会わせてあげるって。まぁ、覚えてないだろうけどさ」
やがてたどり着いた檻の前。その檻の中には二人の男女がいた。薄汚れた服を着て、ひどくやつれている。
「やっほー、元気にしてる?」
「貴様っ!」
「おぉ怖い怖い。今日はせっかくいいものを持ってきてあげたのに」
「なんだと」
「博士。危険です。下がってください」
見知らぬ人間が敵意を持ってドートルに近づいたのを見てイミテルが庇う様にその前に立つ。
驚きに目を見開くのは檻の中にいた男女だ。
「イリ……ス?」
「イリス……あなたなの!」
「?」
驚きと喜びの入り混じった声を上げ、涙を流しながら二人はイミテルに近づこうとするが檻に阻まれてそれは叶わない。
当のイミテルはといえば、突然わけのわからない名で呼ばれ戸惑うしかなかった。
「イリス? 違います。私の名はイミテル。博士の道具です」
「イリスお前何を言って……貴様、イリスに何をした!」
「さぁ、なんだろうね。ただわたしは、両親に会いたいという彼女の願いを叶えるために条件を出しただけだよ。そしてそれを呑んだのはこの子。君達が口を出すことじゃない」
「貴様ぁっ!!」
ガンッ、と檻に頭をぶつけて血を流れるのも気にせずドートルのことを睨む男。女の方も同じように厳しい瞳でドートルのことを睨んでいた。これほど殺気にこもった視線をイミテルは見たことがなかった。そしてなぜこの二人が怒っているのかもイミテルには理解できていなかった。
「そんなに怖い目で見られても魔眼を持ってるわけじゃないんだから、わたしは殺せないよ。それよりイミテル、約束は果たした。最後の仕上げといこう」
パチンとドートルが指を鳴らすとどこからともなく魔人が二人現れる。
「あの二人を拘束して檻の前に出してくれる?」
「「はっ」」
魔人は檻の中に入ると、素早く男女を拘束する。必死に抵抗していたが人間に身で魔人に抗えるはずもなかった。
そしてドートルは、引きずり出された二人を見て酷薄な笑みを浮かべながらイミテルに命令した。
「イミテル。君の力をこの二人に使ってあげるんだ」
その命令を聞いた瞬間、なぜかイミテルの心臓が跳ねた。理由はわからない。そしてそれは一瞬のことですぐに心は平静を取り戻す。そういう風に調整されていたから。
「イリスの力? 何を言ってるんだ」
「この子に何をしたの!」
「何をしたって? 素晴らしいことだよ。彼女は人の身で人を超えた力を手に入れた。そう……『罪を植え付ける』力をね」
「罪を……植え付ける?」
「正確にはばら撒く、かな。こうしてここにいるだけで彼女は自分の中にある罪を周囲の人にばら撒くことができる。それも普通の罪じゃない。濃縮された、素晴らしい罪をね。もしこれを人里に放ったらどうなると思う? 人は気付かないうちに罪をため込み、そしてある時急に罪に呑まれる。想像するだけで素晴らしいよね。しかもそれだけじゃない。直接植え込むことだってできるんだ。まぁこれには耐えれる人と耐えれない人がいるみたいだけどね。そして罪を直接視認できる力。これはまぁ実験の副産物だけど、役にたつことには変わらない。彼女は人の身を超えて、罪を操る力を得たんだ! このわたしの手によってね!」
子供のように無邪気にドートルは自身の作りあげた『イミテル』という作品について自慢する。
「というわけで……さぁ、やるんだイミテル。これが最後の実験だよ」
「……はい」
「イリス……」
「お願い、やめてイリス。思い出して、私達よ」
懇願するような瞳でイミテルのことを見る二人だが、イミテルは止まらない。その両腕を漆黒へと変化させ、直接罪を注ぎ込む。
「あぁあああ、っが……イリ……ス……」
「イリス……」
二人は絶望に染まった瞳でイミテルのことを見つめ、そして……事切れた。
「ありゃ残念。二人は耐えられなかったか。せっかくお仲間になれるかもしれないって思ったのに。まぁいっか。失敗はしたけどそれは二人の問題だし。力事態は滞りなく使えてた。うん、もう大丈夫かな」
「わた……私……」
「? どうしたのイミテル」
「おと……さん……おかあさん……わたし、私っ」
「あぁ、また思い出しちゃったか。また消さないと……うーん、何度もってなると流石に面倒だな。実験も区切りがついたし……そろそろ頃合いかな」
これが、イミテルの罪。そしてその力の真実だった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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