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罪喰らいの聖女  作者: ジータ
第二章 最強聖女と偽りの聖女
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第51話 イミテルと魔人の邂逅

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 夜の山というのはイミテルの想像している以上に恐ろしいものだった。この先に待ち受けるのが魔人であるということもイミテルの恐怖を増長する要因の一つとなっていた。


「……よ、よし」


 闇に呑まれそうな恐怖を押し殺しながら、イミテルは山の中へと一歩踏み出す。しかし、山に入って少し歩いてから気付いた。


「私、レインさんがどこにいるか知らない……」


 手紙に書いてあったのは山に来いという文だけ。どこに来いというのは何も書かれていなかった。言われた通りに漆黒の腕輪はつけているものの、それが道を示してくれるということもない。


「どうしよう」


 あてどもなく歩いた所で意味などない。むしろ迷ってしまうだけだ。それでも今さら引き返すわけにもいかず、イミテルは困り果ててしまっていた。


「あまりにも不親切……仕方ない。なんとなくで歩くしかない」


 キョロキョロと周囲を見回しても目印になるようなものもない。とりあえず直感に従って歩き出そうとしたイミテルの前に突如現れたのは一匹の小さな魔獣だった。

猫のような姿をしているが、一目見ただけでわかった。その小さな体からは考えられないほどの威圧感があったからだ。

 とっさに逃げようとしてその身を翻したイミテルだったが、魔獣に素早く回り込まれてしまう。


「っ!」


 襲われる、と反射的に目を瞑ってしまうイミテルだがいつまで経っても予想していたような衝撃も痛みもない。恐る恐る目を開けば、そこには変わらず魔獣の姿。しかしイミテルに襲い掛かるような気配は無かった。

それどころか、腰を抜かしてしまったイミテルを見て早く立てと言わんばかりに小さく鳴いている。

 イミテルがゆっくり立ち上がると今度はついて来いとその尻尾を動かしてイミテルに背を向ける。


「ついていけばいいの?」


 その問いかけに魔獣が答えることはなく、そのままスタスタと歩き出してしまう。


「あ、ま、待って!」


 ようやく見つけた手掛かりを見失うわけにはいかないと、イミテルは慌てて魔獣の後を追いかける。

 恐ろしいほどの静けさが周囲を包む中、魔獣とイミテルの歩く音だけがやけに鮮明に鳴り続ける。

 そうしてどれほど歩いただろうか。正確な時間はわからなかった。短かったような気もすれば、とても長かった気もする。夜の闇がイミテルの時間間隔を狂わせていた。

 その時だった。森の奥から誰かの話し声が聞こえてきたのだ。そしてその中にイミテルは探し求めていた人の声を見つけた。


「レインさんっ」


 魔獣に先導されていたことも忘れ、イミテルは声のした方へと走りだす。視界を塞ぐ藪を無理やり押し通った時、そこに居たのは縛られた姿のレインと、見知らぬ二人の男だった。しかしその黄金色の瞳を見て、二人が魔人であるということにすぐに気付いた。

 そしてイミテルは恐怖に慄きそうになる心を叱咤して、意を決して告げた。


「約束通り来ました……だから、レインさんを解放してください」





□■□■□■□■□■□■□■□■


 イミテルが来てしまった。それはある意味、最悪の事態と言っても良かった。


「どうして……なんで来たんだイミテル!」

「わかってます。私が来たって何もできないことくらい。でも……それでも動かずにはいられなかったんです。だってこの事態を引き起こしたのは私自身なんですから」

「違う! こうなったのは俺が不注意だったせいで、イミテルのせいじゃ——」

「そもそもは私です! 私の存在が……この魔人達を引き寄せてしまったんですから」

「くだらん話しはそこまでにしてもらおうか。どっちのせいだとか、そんなことには我々は欠片も興味が無い。大事なのはそう……ここにお前がいるということだ。それだけで目的の大半は達成したことになる」

「そうだな。これでようやく最終段階へと移行できるのだからな」

「まだ記憶は完全に戻ったわけではなさそうだが……それでも問題は無い。さぁ、こっちへ来い」

「う、動かないでください!」

「? 何をしている」


 怪訝そうな顔をする魔人の兄弟。それもそのはずだ。イミテルは懐から取り出したナイフの切っ先を魔人達……ではなく、自分自身の首へと向けていたのだから。


「あなた達にとって私がどんな存在なのかは知りません。でも、少なくとも利用価値がある存在であるということは理解しました。ですから取引です」

「取引だと? そんなことが要求できる立場だと思って——」

「自殺します」

「……なに?」

「私からの要求はただ一つ。レインさんを無事に解放すること。それだけです。もしそれができないと言うなら……私はこの場で自分の命を絶ちます」

「ふん、そんなことできるわけがない」

「できないと思いますか」


 イミテルは躊躇なくナイフを自分の首に近づけ、その刃先がイミテルの首に触れる。ツーッとイミテルの首筋を伝う血。後少しでも力を入れればそのナイフが首を斬り裂くことは明白だった。


「私は本気です」

「やめろイミテル!」

「すみませんレインさん……でも、これしか思いつかなかったんです」


 強い意志を込めてイミテルは魔人の兄弟を睨みつける。その瞳には一片の迷いも無かった。イミテルは本気で自分を殺すつもりだった。

 これが僅かな時間でイミテルに思いつくことができたレインを救い出すたった一つの策だった。


「なるほど。そうなると我らは手出しできない……とでも言うと思ったか」

「あっ!?」


 イミテルの背後に居た魔獣がその尻尾を伸ばしてイミテルの手からナイフを弾き落とす。慌てて拾おうとするが、それよりも早く魔獣がナイフをくわえて魔人の元まで駆け寄る。


「よくやった。全く、油断も隙もないとはこのことだな」

「まだです。私はその気になれば舌を噛み切ってでも——」

「“動くな”」

「っ!」


 魔人がそう言った瞬間、イミテルはまるで金縛りにあってしまったかのように体が動かなくなる。


「クハハハ、何も疑うことなくその腕輪をつけてきてくれて助かったぞ」

「まさか……この腕輪のせいで」

「まぁそれだけではないがな。しかし博士のことだ。もしかするとここまで予想していたのかもしれん。さすがだな」

「う、く……」


 必死にもがくイミテルだがその体は言うことを聞かない。


「安心するがいい。この男にはまだ利用価値がある。そう簡単には殺しはしない。さぁ、改めて言うぞ。こっちへ来い」


 魔人が改めてそう言うとイミテルのその体がゆっくりと動き始める。それは明らかにイミテルの意志とは反する動きだった。


「っ……」


 魔人の前までやって来たイミテルは魔人のことをキッと睨みつける。レインも必死に動こうとするが、やはり鎖は強固で擦れる音がむなしく響き渡るだけだった。

 そんなレインのことを嘲笑した魔人の兄弟は、イミテルの頭へと手を翳す。


「さぁ、最終段階だ。まずは貴様の記憶の全てを呼び起こす。そして知るがいい。己の存在意義を、その理由をな」


 魔人がイミテルの頭に触れる。そしてその瞬間に流れ込んでくる膨大な情報。


「あ……あぁああああああああああああああっっっ!!!」


 頭が狂いそうになるほどの情報量。視界がチカチカと瞬く。

 そしてその先でイミテルは自分の記憶と、力と——その罪を思い出した。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!

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