第44話 制限解除
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ユースティアが放ったのは必殺の一撃。『刻限』の持つ加速の効果により射撃速度を上昇させ減速の効果により空中に撃ちだした弾丸を停滞させる。さらに加速しているユースティアはまるで分身しているかのような速度で斬撃を放つ。言ってしまえばただそれだけの技だ。しかし単純なだけに強い。
ユースティアが撃ちだした弾丸の数は千を超え、斬撃は百に到達していた。そしてユースティアが減速の効果を解除したその瞬間、空中に停滞していた弾丸が一斉にシオンへ襲いかかる。魔力を込められた弾丸は自動追尾の効果を付与されている。レインは【罪弾】を使って自動追尾の効果を発動していたが、ユースティアはその効果を自分の力のみで再現することができた。
襲い来る銃弾と斬撃に対し、シオンはその笑みはさらに深くなる。
「あぁ、良い攻撃だよティア。一つ一つに本気の殺気を感じる。本気でボクのことを殺そうとしてる。でも——」
シオンの持つ剣が煌めく。縦横無尽に襲い来る銃弾と斬撃をシオンはその右手に持つ【王鋼剣】一本で斬り払う。さすがに無傷とはいかない。しかし、行動に支障が出る部分、致命になる部分。それらを刹那の間に見切り、それだけを的確に処理しているのだ。着実に傷が増えるシオンだが、多少の傷であれば【王鋼剣】の持つ《不死》の能力で再生していく。
無限に続くかと思われた攻撃にも終わりは来る。銃弾と斬撃の雨が止んだ後、そこに立っていたのはほとんど無傷のシオンだった。
「ボクを殺すには……これでもまだ足りないよ。もっとだよ。もっとボクを振るい立たせてくれ。ティア、君の力はこんなものじゃないはずだ!!」
感情の高ぶりを抑えられないシオンは笑顔の裏にある、隠し切れない感情の高ぶりをとうとう表面に押し出す。
「ちっ、やっぱりあの程度の攻撃じゃ無理か」
ユースティアは若干落胆した表情を見せつつも、攻撃を止められること自体は想定の範囲内だった。そもそも『血華銃剣輪舞』は大型魔物用の技だ。対人ではその真価を発揮することはできない。それでも多少ダメージを与えられたならばと思って使ったわけだが、結果はユースティアの想像通りだった。しかし一つ収穫はあった。
「傷の修復。以前よりも速くなってるな」
「そりゃそうさ。ボクだって何もしてないわけじゃない。東大陸で生き抜くためには強くなる必要があったからね。今度はこっちから行くよ!」
シオンの姿が消える。ユースティアは半ば反射的に背後に剣を振る。そこに居たのはシオンだった。ユースティアが背後を取られたのだ。
「わお。まさか反応するなんて。さすがだよティア」
「私の背後とるなんて生意気だ」
「君の美しい髪が至近距離で見れてボクは満足だけどね」
「キモイ!」
「その一言は普通に傷つくなぁ。でも、せっかくだから君の髪を少し貰っていこうかな」
「やるかこのボケ!」
「じゃあ無理やりもらおうかな」
そして再び、シオンの姿がユースティアの前から消える。そしてその姿は再びユースティアの背後に現れた。
「こいつまたっ!」
「どうしたのティア。反応が遅れてるんじゃない?」
「うる……さいっ!」
シオンに向けて引き金を引くユースティアだが、軽く首を傾げるだけで避けられてしまう。そしてカウンターと言わんばかりにシオンの剣が眼前に迫る。
とっさに身を逸らして避けるユースティア。その剣がユースティアの鼻先を掠め、前髪をわずかに斬る。そして散った前髪をシオンは素早く掴んだ。
「ゲット♪」
クルクル空中を滑るように回転しシオンと距離を取ったユースティアは、斬られた前髪を手で押さえる。
「……返せ」
「嫌だよ。これはもうボクのものなんだから。それよりもティア。反応が遅いんじゃないかな? 前までならもっと早く反応してたし。もしかして弱くなった?」
「ん……」
「違うのかな? それともボクが強くなり過ぎたのかな? もしかしてボク、ティアよりも——」
その言葉が言い切られることは無かった。ユースティアがシオンの目の前に突如現れたからだ。
「お前が、私より……なんだって?」
「っ!」
髪を握っていた左手をユースティアは斬り落とし、瞬時に魔法で燃やし塵すら残さなかった。
「私はこの世界の誰よりも強い。誰よりもだ。私以外の全人類、全魔人は私の下にひれ伏すだけの存在だ。お前もそれは例外じゃない」
「あぁ、そうだ。その目だよティア。やっと少しずつボクの理想の姿に戻りつつある。もっとだよ。もっと引き出せるはずだ。ボクが求めているのはあの頃の君だ」
「そんなに見たいなら見せてやる。死んでから文句言うなよ」
ユースティアの背中の十二枚の羽が大きく開く。その羽はさきほどまでよりよりも大きく、しかしその羽は少しずつ黒く染まり始めていた。まるでその心を映しているかのように。しかしそれとは対照的に、ユースティアの表情に浮かぶのは笑みだった。
「【失楽聖女】【聖天明星】。制限を一段解除だ」
ガキン、と音を立てて『零閃』と『刻限』がその姿を変形させる。『零閃』は長剣へと『刻限』は一つだった銃口が二つへと。戦闘聖衣は漆黒の服に純白のラインが浮かび上がる。
「来いシオン。格の違いを見せてやる」
ユースティアから放たれる威圧にシオンはブルっと身を震わせる。それは東大陸でも感じたことがないほどのものだったからだ。しかしシオンの身の震えは怯えから来るものではない。まさしく武者震い。
今のユースティアに対して自分の力を試せるのが嬉しくて仕方なかったのだ。
「行こう【王鋼剣】。成長したボク達の力を見せる時だ。いや違うね。超える時だ」
剣を構えたシオンはその頬を撫でる風に気付いた。
「っ、違う。これは」
「少し速く動いただけでついてこれないのか」
その瞬間、シオンの右腕が吹き飛んだ。しかし先ほどまでとは違う。今度は大量の血が噴き出している。しかも再生しない。
「怖いなぁ。まさかこんな風に再生を阻害してくるなんて」
ユースティアは右腕を斬り飛ばすと同時に、その傷口に対して減速の効果を付与したのだ。
「減速は『刻限』の能力じゃなかったのかい?」
「そう。『刻限』の能力だ。でもそれを『零閃』で使えないなんて一言も言ってない」
「……なるほどね。それも道理だ。面白い」
「お前の力だってそんなもんじゃないだろ。もっと見せろ。もっと私を楽しませろ。じゃないと……もう終わらせるぞ」
「それは申し訳ないなぁ。ボクだって強くなったんだ。そのことを君にもちゃんとわかってもらわないと」
シオンは血が吹き出ているというのに笑顔を崩さないまま、さらに傷口を深く抉る。
「うん、やっぱり付与されたのは傷口だけか。もっと深くまでいかれてたらまずかったけど——再生」
シオンの傷口が急速に再生していく。ユースティアが付与したのは傷口だけ。もう少し時間がかかればもっと深くまで浸透させることはできるが、シオンは浸透しきる前に傷口を斬ったのだ。まともな精神をしていれば自分で自分を斬るなどできない。それができるのがシオンという男なのだ。
「『帝剣技——竜閃』」
シオンの剣が一瞬煌めく。ユースティアは『零閃』を一振りしてシオンの剣を受け止める。しかしその余波で背後に僅かに残っていた木も軒並み斬り倒されていく。
「今度はボクのターンだ。ボクの速さは……君を超える」
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