第42話 シオン・ペンドラド
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「久しぶりだね、ティア」
シオンは見る者を魅了する魔性の笑みを浮かべてユースティアに声を掛ける。しかしユースティアはその微笑みに心を動かされることはなかった。むしろ心に浮かんだのはこれ以上ないほどの嫌悪の感情だ。
「そんなに嬉しそうな顔をしてくれるなんて。君もボクとの再会を喜んでくれてるんだね」
「これが喜んでる表情に見えますか」
「うん。もちろん」
「素晴らしい節穴ですね。そんな使えない目ならいっそ無くしてしまった方がいいんじゃないですか」
「それは困る。君の美しい表情を見れなくなったらボクの心は闇に包まれて咎人に堕ちてしまうかもしれない」
「そうなったらまっさきに殺してあげますよ」
「ま、目が見えなくなったとしてもボクの目に映るのは君だけなんだけどね」
「気持ち悪いです。死んでください。目の前から消えてください」
「あぁ、相変わらず素直じゃないなぁ。そんな所も愛しいけどね」
全力で拒絶するユースティアに対し、シオンはそんな態度すら愛おしいと笑顔を浮かべる。そんな二人を見てわけがわからないという表情をしたのは完全に置いてけぼりにされているレオンだ。
「ちょ、ちょっと待て! テメェとシオン知り合いなのかよ」
「えぇ。非常に不本意なことに。知り合いですね」
「知り合いだなんて冷たいこと言わないでくれよ。君とボクの仲だろう」
「ただの、知り合いです! それ以上でもそれ以下でもありません」
知り合いという部分を殊更強調してユースティアは言う。少しでもシオンとの距離を取ろうとしていることが明白だった。
「つれないなぁ。まぁそうだね。簡単に言うと幼なじみかな。ボクが六歳の頃……ティアが五歳の頃からの付き合いだよ。昔はよく一緒に遊んだなぁ」
「あなたに付きまとわれた、の間違いでしょう。私は一度だってあなたと仲良くしたいと思ったことはありません」
ここまで全力で拒絶されているのにシオンはずっと笑顔のままだった。むしろこうしてユースティアと会話できることが嬉しいと言わんばかりだ。
しかしユースティアはその逆だ。これ以上シオンと同じ空間にいるのすら嫌だと嫌悪の表情を隠そうともしない。
「あなた達がそうしてここにいるかなんてことには興味ありません。私は私の目的を果たしたら帰るので、もう邪魔しないでくださいね。後、そこの彼にはしっかりと教育しておいてください」
当初の目的通り、捕らえた男に他の魔人崇拝組織についての情報を聞き出し帰ることを決めるユースティア。これ以上シオンと同じ空間に居たくなかったのだ。
「ちょっと待ちなよ」
背を向けたユースティアの背にシオンは剣を突きつける。しかしその表情は先ほどと同じまま、笑顔を浮かべたままだ。
「……なんのつもりですか」
「新人でまだ未熟とはいえ、彼は仮にも聖騎士。ここまでいいようにされてはいそうですかって君を帰すわけにはいかないんだよね。ほら、断罪教にも面子ってものがあるだろ」
「これは別に公式な戦いじゃないですよ。無かったことにすればいいじゃないですか。ここで私達は出会わなかった。それだけです」
「はは、そういうわけにもいかないんだよ。ボク達にも立場があるからさ」
「お、おい待てよ! 俺はまだ負けたわけじゃ——」
「黙っていてくれるかなレオン。これ以上負けを素直に認めることも大事だよ。成長したいならね」
「だから俺は!」
「ボクは、黙れと、言ったんだよ」
「っ!?」
シオンから発せられるのは濃厚な殺気。それは最早形となってレオンに絡みついていた。これ以上の口答えは許さないと、その目は訴えていた。シオンの殺気に呑まれたレオンは何も言えなくなっていた。
「さぁ、これで邪魔者が黙らせた。それじゃ仕切り直して——って、ティア!? どこに行くんだい!」
「あなた達の我儘に付き合う義理はありませんよ」
ユースティアにこれ以上戦わなければいけない理由はない。戦うだけ無駄だと判断してユースティアはシオン達に背を向けて歩きだす。
「逃げるのかい?」
「どうとでもご自由に言ってください」
「はぁ、君の美しさは変わらないけれど。その心のありようは少し変わってしまったみたいだね。臆病になった。これも全てあの男……レイン・リオルデルのせいかな」
「……どういうことですか」
「あの男と出会ってからだろう。君が変わったのは。あの何もできない男のせいだ」
その言葉にユースティアが初めてピクリと反応を示す。
「……何もできない?」
「そうだろ。君の従者でありながら大した力も持っていない。別に折衝が得意というわけでもない。むしろ君の足を引っ張ってばかりじゃないか。だからボクは反対だったんだよ。彼が君の従者になることにはね。そう言えば今日は彼の姿が見えないけれど……どうしたんだい。もしかしてクビにしたのかな? だとしたら賢明な判断だと思うよ。彼のためにも、何よりも君のためにもね。どうせ居たって邪魔なだけで——」
「黙れ。それ以上喋るな」
ユースティアから放たれる濃厚な殺気がシオンにぶつけられる。それは先ほどシオンはレオンに向けたものと同じようでまるで違う。本気の殺気だった。これ以上シオンが余計なことを言えば、ユースティアは本気で殺すつもりでいた。
そんなユースティアを見てシオンはニヤリと笑う。
「あの時救わずに家族と一緒に死なせてあげた方が彼にとっても幸福だったんじゃないかな」
その一言でユースティアは限界を迎えた。
「——『血雨銃奏』」
目にも止まらぬ速さで【失楽聖女】を顕現させ、発砲する。ユースティアが放った弾丸は全てシオンの体へと吸い込まれる。腕、足、額、心臓。急所という急所に命中していた。明らかな即死攻撃だ。
「っ!? おいてめぇ、いきなり何を」
「お前も黙ってろ」
声を上げかけたレオンをユースティアは足で蹴って昏倒させる。そして仰向けに倒れたシオンに向けて声を掛ける。
「おい起きろ。死んでないことくらいわかってる」
「…………」
「そのまま狸寝入り決め込むならもう一発ぶち込むぞ」
そう言いつつ、ユースティアはシオンに向けてもう一発撃ち込む。
普通であれば即死の攻撃。しかしシオンは何事もなかったかのように起き上がった。その体には傷一つ残っていない。
「あぁ、その表情だよ。その全てを見下す表情……懐かしい。ボクが好きになった表情だ」
「言葉を理解してないのか。私は黙れって言ったんだ」
「ふふ、そうつまらないことを言わないでくれ。せっかくなんだ。存分に愛を語り合おうじゃないか」
「キモイ。失せろ」
シオンの言葉をユースティアはにべもなく切り捨てる。
「さぁ、君の愛を——」
「死ね」
言葉の途中でユースティアはシオンの首を斬り落とした。ごろりと地を転がるシオンの頭。しかし、血が噴き出すようなことはなかった。少しすると、まるで時間が巻き戻るかのように落ちた頭が元の位置へと戻る。
「ちっ、素直に死ねよ」
「それは愛しい君の言葉でもできない相談かなぁ。ボクにはまだやるべきこともあるからね」
それはあまりにも奇妙な光景だった。殺されたはずのシオンが死んでおらず、そして殺した側であるユースティアもそれを当たり前のこととして受け入れている。
「ふん、面倒な能力だな。相変わらず」
「お褒めにあずかり光栄だよ」
「褒めてない」
「さぁ、もっとティアの愛を見せてくれ。そしてボクを満たしてくれ!」
「さっきから言おうと思ってたけどな。お前が私のことをティアって呼ぶな!」
苛立ちと共に駆け出すユースティア。そしてシオンは【罪剣】を抜き放ち、ユースティアを迎え撃つのだった。
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