第41話 乱入者
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
【罪剣】。世界に十二本しか存在しない強力無比な力を持つ剣だ。ユースティア達聖女の使う【罪姫】と同じ、対魔人用の最終兵器だ。しかしそれは人に対して使えないというわけではない。むしろ対人兵器としても【罪剣】と【罪姫】は有効だった。その兵器を使う決意をレオンはしたのだ。
【獅子閃】を引き抜いたレオンの頭にあったのはユースティアに勝利することだけ。【罪剣】を引き抜くということの重要性を何一つ理解していなかった。そこにいるのは聖騎士という強大な力に溺れた人間だ。
「ぶち殺す!!」
「何度も言うけど、あなたには無理」
「関係ねぇよ……俺がやるっていったらやるんだよ! 死にやがれ!!」
【獅子閃】は獅子の装飾が施された剣だ。それ以外に大きな特徴はない。しかし、その剣はそこにあるだけで異様なほどの存在感を放っていた。
(【獅子閃】……一度見たことはあるけど、こうして対峙するのは初めてだ。さてどんな能力を持ってるか。どう対処するからはそれ次第)
【獅子閃】にどのような能力があるかはユースティアも全く知らない。ユースティアも【失楽聖女】の能力を無闇に話さないのと同じだ。
先に能力を見極めることができれば戦いは有利に進めることができる。しかしだからと言って受けに徹するわけにもいかない。消極的過ぎる動きは隙を生むだけだからだ。
「今度はさっきみてぇに受け止められねぇぞ!!」
レオンの剣は先ほどまでとは比べ物にならないほど魔力が込められている。さすがに指で受け止めることはできないと判断したユースティアは大きく後ろに後退して避ける。すると、数瞬前までユースティアが立っていた場所は大きく抉られ、それだけにとどまらず壁を粉砕し、『降魔救罪』の屋敷を大きく損壊させた。
「わ、私の屋敷がっ!?」
『傀儡操』で部屋の隅に張り付けていた男が崩壊した屋敷を見て絶望したような声をあげるが、ユースティアもレオンもそんなことは歯牙にもかけない。
「どうしたんだよビビッてんのかぁ!」
ユースティアが後ろに下がったのを見て恐れたと判断したレオンは調子づいてさらに攻撃を仕掛ける。一振りするたびに部屋だけでなく屋敷全体が崩壊していく。明らかに込められている魔力以上の威力が発揮されていた。
(剣が魔力を増加させてるだけじゃなくて魔力での強化値も上昇してるのか? いやでもそれだけじゃなさそうだな。この破壊力は明らかに普通じゃない……もしかしてそれか?)
ユースティアは【獅子閃】の能力について一つの可能性に思い当たり、それを確かめることにした。
「おらぁっ!!」
「『魔障壁』」
再び突っ込んできたレオンの進行方向に【防御魔法】を使って障壁を作る。それもできる限りの魔力を込めて、硬度を限界まで上げた障壁だ。【獅子閃】を抜く前のレオンであれば傷一つつけることはできない硬さだ。
しかし、
「邪魔なんだよぉ!」
ユースティアの展開した『魔障壁』は紙を斬るように容易く斬られた、否、破壊された。剣の触れた先端から崩壊していったのだ。
それを見てユースティアは【獅子閃】の能力に確信を得た。
「【獅子閃】の能力は『破壊』ですか。剣身に近ければ近いほどその効果は高くなると」
「あん? なんで知ってやがんだてめぇ」
「ここで素直に認めるとは……あなた、やっぱりバカですか」
「んだとゴラァ!」
剣の能力を認めるというのは自分の手の内をさらけ出すに等しい。この段階であればまだまだ誤魔化しようがあるのに、それすらしない、できないのはユースティアからすれば問題外だ。
「能力を教えるのは敵に塩を送るおようなもの。こんなこという義理もありませんが。はっきり言って論外です」
「はっ! んなもん関係ねぇんだよ。能力がわかろうが、そのうえでぶっ潰す。そんだけの話だろうが」
「それができるのは格下相手だけです。同格そして……私のような格上を相手にそれは愚策に他ならない」
「格上だと?」
「そうですよ。私はあなたよりもはるかに格上の存在です。と言っても……あなたは納得しないでしょうね。あなたのようなタイプは言葉よりも体にわからせる方が楽です。さぁ、かかってきなさい」
ユースティアはレオンのことを指で挑発する。そしてそれに乗らないレオンではなかった。
「ぶっ潰す!」
「殺すとか潰すとか。それ以外の言葉を知らないんですか? であるならば、あなたは戦う前に基礎的な教育から受け直すべきでは?」
「うるせぇ! 黙りやがれ!」
レオンは何度も何度も攻撃を繰り出すが、どれもユースティアにはかすりもしない。ただ背後にある山が破壊されていくだけだ。ユースティアが避けるたびにレオンの苛立ちは加速し、それに呼応するように攻撃速度も上がっていく。
(怒りで攻撃速度が上がる……それに精度も上がってる。はぁ、面倒なタイプだ。怒りで精度を失うどころか潜在能力を引き出すタイプなのか)
怒りは人から冷静さを奪う。冷静さが奪われれば人は動きの精細を欠き、大雑把になる。動きが読みやすくなるのだが、レオンはそうではなかった。怒れば怒るほどに動きが早くなり、体も動きも魔力の動きも洗練される。その怒りやすい性格も相まって非常に厄介だと言える。
「どうしたぁ! 避けることしかできねぇのか! 格上だとか大口叩いてたのはなんなんだよ!」
「避けてるだけじゃないですよ。そろそろ終わります」
「あん? 終わる——っ!」
そこでレオンは、周囲の木に魔力が張り巡らされていることに気づく。しかし気付いた時にはすでに遅かった。
「『魔縛鎖』」
魔力の鎖がレオンに襲い掛かる。近づいて来る鎖を全て斬り払うレオンだが、いかんせんその数が多すぎる。
「くっ」
「ほら、鎖はまだまだありますよ。いつまで耐えられますか」
「こんのぉ!」
「目の前にばかり集中しすぎて足元への注意が疎かになってますよ」
「っ!?」
気付けばレオンの足元には巨大な魔法陣が展開されていた。ユースティアにその地点まで誘導されていたのだ。
「この——」
「遅いですよ」
レオンが動くよりもユースティアの方が速かった。鎖がレオンの腕や足、体に絡みつく。
「う、動かねぇ……」
「剣がどれほど優秀でも使い手が未熟では意味がない。全ては使い手次第なんですよ」
「黙れぇ! 卑怯な戦い方したできねぇくせによぉ! 正々堂々戦いやがれ!」
「はぁ……これでも普通に戦い方の一つなんですけど。そこまで言うならいいでしょう」
ユースティアがパチンと指を鳴らすと、レオンに絡みついていた鎖が解除される。
「どういうつもりだよ」
「正々堂々戦いやがれ、なのでしょう? だから戦ってあげますよ。正面からね」
ぶちぶち、という音が聞こえそうなほどにレオンは怒り狂い、そして今度は一転して無表情になった。
(怒りが臨界点に達したら無表情になるのか。面白い)
レオンの動きはこれまでにないほどに向上している。さっきまでとは比べ物にならない。
「斬る。斬る。斬り倒す」
「速いですね。それでもまだ……私の方がずっと速い」
数多の剣閃を潜り抜け、ユースティアはレオンに肉薄する。
「必殺——デコピン」
ユースティアにデコピンをされたレオンはまるで玩具かのように吹き飛ぶ。何度も地面をバウンドし、ゴロゴロと地面を転がって木にぶつかって止まる。
すぐさま起き上がったレオンの前には銃を構えたユースティアがいた。
「どうですか。これが格上というものですよ」
「っ!」
「動かないでください。その気になればいつでも撃ちぬけるんですよ」
「……黙れ。俺は……俺は誰にも負けねぇ!」
レオンが動き出すより、ユースティアが引き金を引く方が早かった。銃声が鳴り響き、レオンは額を撃ちぬかれる……ということにはならなかった。
「困るなぁ。ボクの部下を殺されるのは」
「っ?!」
ユースティアの放った弾丸が止められたからだ。銃口とレオンの間に挟まれた剣によって。ユースティアは剣が差し込まれるまで、その存在に気付けていなかった。
「連絡が途絶えたから何事かと思って来てみたら。まったく、君はいつも厄介事を招くねレオン」
「うるせぇ! 邪魔すんじゃねぇ!」
「その折れない意思は見習うものがあるけどねぇ。格上相手にはもっと慎重になるべきだ」
「あぁ? てめぇもあいつの方が格上だって言うのかよ!」
「そうだね。彼女の方が格上だ。そして、ボクは彼女と同格の存在だ」
「あなたは……」
「久しぶりだね。ティア」
その男の名前はシオン・ペンドラド。断罪教の聖騎士、その第一席を担い続けている男だった。
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