第40話 聖騎士レオン
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「……聖騎士? あなたが?」
「あぁ、そうだぜ。今はまだ十二席だがな。いつか必ず俺は聖騎士の頂点を取ってみせる。未来の第一席になる男、レオン・ロミデス十六歳だ!!」
自信あり気にそう言い放つレオン。断罪教は完全な実力主義。力があればレオンの言うように聖騎士の第一席を目指すことすら可能だった。レオンの言うことは大言壮語とは言い切れない。ユースティアと一つしか違わぬ年齢で末端とはいえ聖騎士に名を連ねるならば、その実力は確かなのだろう。
(いや待て。十二席は初老のじいさんだったはずだ。それはつまり……)
「前の十二席の方は?」
「あん? あの爺か? はっ、俺に十二席は渡せねぇとか言うからよ。〈聖奪戦〉してやったよ。したら笑えるくらい弱ぇの。だから殺して奪ったんだよ。こいつをな」
「……【罪剣】」
レオンが取り出したのは紛れもなく【罪剣】だった。つまり、レオンの言葉は嘘ではないということになる。
聖騎士になる方法は大きくわけて三つ。聖騎士本人から受け継ぐ、教会に実力を認められる。そして最後の一つがレオンの言った〈聖奪戦〉だ。
この〈聖奪戦〉は聖騎士の座をかけて戦うものだ。お互いの全てをかけることになる。もちろん命も。〈聖奪戦〉は聖なる戦いとされ、たとえ相手を殺したとしても罪に呑まれることはない。なぜならその罪は【罪剣】が吸収するからだ。
詳しいシステムをユースティアは知らないが、〈聖奪戦〉が行われていたのは過去のことで近年では無くなったと。そうユースティアは聞いていた。
「あの人は……良い人でした」
前の十二席のことならばユースティアも知っている。何度か話したこともなる。まさしく好々爺という印象だった。ほとんど敵対しているに等しい聖女であるユースティアにも分け隔てなく接してくれる。魔人と戦う仲間だとそう言ってくれる数少ない人だったのだ。
「んだよ。お前もそういうつまんねぇこと言うのか? 【罪剣】は魔人ぶっ殺すための力だろ。だったら強ぇ奴が持つのが筋だ。あの爺は弱かった。そんだけだろうが」
レオンの言うことも間違ってはいない。魔人と戦うための【罪剣】。それをより強い者が持つ。そうすればより多くの魔人を倒すことができる。そして間違っていないことを示すように【罪剣】はレオンのことを拒否していないのだから。
「間違っていないだけですよ。それは。時には彼のような人が必要だったのです。強いだけでは、解決できないこともありますから」
「ねぇよ。強けりゃ全部なんとでもなんだ。っていうかよ。てめぇ誰だよ。さっきからごちゃごちゃと。俺がそいつ殺す邪魔もしやがるしよ。いい加減うぜぇぞ」
「私ですか? そういえばまだ名乗ってませんでしたね。私はユースティアです。贖罪教の聖女をやってます」
「あ? 贖罪教の聖女だぁ? ……あぁそういや見たことある気がするな。テメェがそうか……なんでこんなとこに居やがんだよ」
「それを話す道理はありません。むしろそれはこちらの台詞ですね。なぜあなた達はここに居るのですか」
「んなもん決まってんだろ。魔人なんいうクソ共を崇拝するクソ野郎どもをぶち殺しにきたんだよ」
「……なるほど。話が通じないということがよくわかりました」
レオンの言葉にユースティアは呆れたようにため息を吐く。そんな二人の様子を見計らって、部屋の中にいた男は逃げ出そうとしたが、それにユースティアが気付かないわけがない。
「あなたは逃げないでください」
「んぐぅ!?」
「勘違いされては困りますが。あなたを助けたわけじゃありません。聞くべきことがあるだけです」
『傀儡操』で男の動きを止めたユースティアは、そのまま部屋の端へと移動させる。
「てめぇ聖女なのか……聖女ってあれだろ。罪に落ちたクソ共を助けるとか言うわけのわかんねぇことほざくいかれ集団だろ。だからそいつのことも救うってか? は! 反吐が出るな、聖女様の優しさってやつにはよぉ」
「助けたわけじゃないと言ったんですけど。人の話を聞かない人はこれだから」
「んだとごらぁ!」
「この程度の挑発で怒ると。猿ですかあなたは。いえそれは猿に失礼ですね。猿でももう少し賢いでしょう」
「あぁそうか。喧嘩売ってんだなてめぇ。いいぜだったら勝ってやるよ。聖女だかなんだか知らねぇがちょうどいい。目障りだと思ってたんだよ贖罪教とかいう奴はよぉ。ぶち殺してやる」
「残念ですが、あなたでは無理ですよ。あなたでは私に勝てない。これは絶対です」
額に青筋を浮かべて怒り狂うレオンとは対照的にユースティアは冷静な表情のままだった。
ここまで来ては戦わないという選択肢は存在しない。二人の対立は決定的なものへとなっていた。
「一瞬で終わらせてやるよぉ」
「できるものならどうぞ」
レオンは右手に剣を持ち、ダラリと全身の力を抜いて脱力する。それは非常に奇妙な構えだった。一見隙だらけのように見える構え。しかし、その実レオンは全方位からの攻撃に対応できるように気を張り巡らせていた。
(こいつに普通に勝っても意味はない。勝利するなら圧倒的勝利。ならやることは簡単だな。レオンの全力を引き出す。そのうえで叩き潰す)
そう決めたユースティアはあえて手出しせず、仁王立ちで迎え撃つ姿勢をとる。その姿勢すらレオンに怒りの火に油を注いでいる。
「舐めやがってよぉ……おらぁっ!!」
脱力からの加速。魔力を使って全身を強化し、その身体能力を何倍にも引き上げている。元から高かったレオンの身体能力と溢れんばかりの魔力が合わさって、常人では到底たどり着くことができない領域にまで至っていた。
その魔力の流動の速さも、並みではない。レオンが自分のことを強いと自負するのも納得できるほどの技量を見せていた。
(口だけじゃないと。でもまだ甘い)
レオンが常人を超えているならば、ユースティアもまた常人を超えた力の持ち主だった。それも、常識をはるかに逸脱したレベルで。
迫りくるレオンの剣。剣にも魔力を張り巡らせていて、その切れ味を通常時よりもはるかに上がっている。人体など紙のように容易く切断できるだろう。これを使ってレオンは建物の中にいた人々を殺していたのだ。
そんな一撃を、ユースティアは指一本で止めて見せた。
「なっ!?」
「どうしたんですかそんなに驚いて。私はただ指で剣を止めただけですよ。さぁ、早くご自慢の一撃で終わらせて見せてください」
「このっ!」
ギリギリと剣を押し込むレオンだが、ユースティアの指を切断するどころか傷一つつけることができない。
ユースティアのしたことは単純だ。ただ指先を魔力で覆っているだけ。ユースティアの溢れんばかりの魔力を指先に集中させただけだ。しかしその効果は絶大だ。今のユースティアの指先は鋼鉄をも軽く凌駕する硬度を誇っている。
一度剣を引いたレオンは、もう一度ユースティアの首めがけて剣を振るが結果は同じ。ユースティアの指先で止められる結果となった。
「一瞬で終わらせる」
「っ!」
「あなたそう言いましたよね。でも……あなたの一瞬って、ずいぶんと長いんですね」
「て、めぇえええええええっっ!!」
ユースティアに嘲笑されて、レオンの我慢が限界を超えた。人に対しては使う必要もないと、そう思っていた【罪剣】をレオンは抜き放った。
「起きやがれ【獅子閃】!!」
「っ!」
鞘に納められていた【罪剣】。その銘を呼び、抜き放った瞬間に部屋の中に暴風のような魔力が吹き荒れる。【罪剣】を使用したことによる副次効果の一つ。魔力量の上昇だった。
「後悔してももう遅ぇぞ。死んで死んで、死につくせやぁああっ!!」
そしてレオンはユースティアに飛び掛かった。
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