第37話 魔人崇拝
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
時はユースティアがロドルを発った時まで遡る。
【戦闘聖衣】を身に纏い、ユースティアはロドルに向かった時とは比べ物にならないほどの速度で空を駆けていた。レインがいないため何にも気兼ねすることなく空を駆けることができるのだ。
その効果もあってか、行くときは半日以上かかった道のりが僅か三時間で帝都までたどりつくことができた。
「……ふぅ。思ったよりも時間がかかったな。もっと本気で飛べば良かった」
帝都に戻ってきたユースティアが向かったのはルーナルの家だ。レインがいないのであれば気にすることもないと、玄関周りに仕掛け直してあった雑な罠を全て無理やり突破し、リリアは家の中へと入った。
ルーナルがいるであろう部屋の扉をユースティアはノックすることもなく開く。
「戻りました」
「はやっ!? いや速すぎないかい君。もう少し時間がかかるものだと思っていたんだけど……ロドルにいたんだろう?」
「えぇ。ですが急いで向かうと言ったはずですが」
「確かに言ったけどねぇ。急ぐにも限度ってものがあるだろう。って、ちょっと待て。もしかしてユースティア。入口に仕掛けてあった罠……どうしたのかな」
「あれですか? 全部壊しましたけど」
ルーナルはあっけらかんと言い放つユースティアに頭を抱えた。
「どうせいつものくだらない罠だと思ったんですけど。違うんですか?」
「はぁ、あのねぇ……いや、まぁいつも君達に対して罠を仕掛ける私が言えた義理でもないかもしれないが、あれはいつもの罠とは違うんだよ」
「?」
「そりゃ君にとってはいつもの罠も今回の罠も同じだろうけどね。今回ばかりは少し事情が違うのさ」
「どういうことですか?」
「これを見てくれたまえ」
ユースティアはルーナルから差し出された手紙を見る。そこに書かれていたのはルーナルに対する殺害予告のようなものだった。
「なんですかこれ」
「見ての通りだよ。差し出し人は……言わなくてもわかるだろう」
ユースティアは手紙を裏返す。そこに書かれていたのは逆十字の紋章。それが表す意味は一つだけだった。
「魔人崇拝……」
「そういうことだ。厄介な連中に目をつけられたものさ」
魔人崇拝。それはこの国に存在する悪しき集団だ。本能を解放し、我のままに生きる魔人こそ人のあるべき姿だと主張し、自ら咎人堕ちしようとする。ユースティア達からすればふざけるなと言いたくなるような存在だ。
魔人崇拝者は魔人達こそを至高の存在としている。そのため、ユースティア達のことは親の仇のように憎んでいた。襲撃されたことも一度や二度ではない。
「でもあなたにこれが?」
「そりゃ決まってるだろう。私と君との関係は広く知られている。あいつらの標的になる素質は十分ということさ」
「なるほど。そういうことですか」
ルーナルがユースティアに協力していることは少し調べればわかることだ。だからこそルーナルが狙われたのだろう。
「実はこれが初めてじゃないんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。もう何回も攻めてきてるさ。その度に撃退してたけどね」
「どうやって撃退してたんですか」
「簡単さ。入口に罠を仕掛けて、戦闘用の魔導人形を配置するだけ。それだけで終わりさ」
「なるほど……って、ちょっと待ってください。それってつまり」
「そう。気付いたかい? 君が今しがた踏み抜いて来た罠は、君用ではなく侵入者用だったというわけさ。全て、見事に、壊されたけどね」
「…………」
「目を逸らすんじゃあないよ」
「えっと……ごめんなさい」
「罠も魔導人形も殺傷能力高めに設定しておいたはずなんだけどね。さすが聖女様だ。呆れてものが言えないよ」
「で、でもあなただっていつも私達に変な罠仕掛けてくるじゃないですか。だから今回のもそれなのかなーと。でも急いでたので面倒になってこう……一気に」
「まぁそこについては私も悪い部分があるから強くは言えないけどね。でもどうしてくれるんだい。今から同じ罠を配置することもできない。私の直接的な戦闘力は皆無に等しい。おなしく殺されろとでも言うのかい?」
「そういうわけにはいきません。今から贖罪教に連絡して応援を」
「冗談だろう? ここにどれだけの機密があると思ってる。こうして君がここにいれるのは君が私のパトロンだからさ。そうでなければ誰だってここに入ることは許さない。同様の理由で私はここを離れるわけにもいかないよ。今開発中のものから目を離すわけにもいかないしね」
「そう言われても……いえ、そうですね。これは私の短慮が招いた事態でもあります。責任は取りましょう」
「ほう。どうしてくれるって言うんだい?」
「私があなたを守ります」
「君が?」
「えぇ。急いではいますが、だからといってあなたを見捨てることなどできるはずもない。いつもあなたの開発には助けられていますからね。あなたの意向も汲みましょう。ここで私があなたを守護する。つまり、この瞬間からここは世界のどこよりも安全な場所へと変わります」
「……くくく、あはははははっ! なるほど、君が守ってくれるというのであればこれほど安心なことはない。確かにこの瞬間、ここは世界のどこよりも安全だ。魔人が来ようが、大災害が起きようが、私の命が脅かされる心配はないということじゃあないか」
「その通りです。ところで頼んでおいた道具の準備は?」
「あぁ。今最終調整中と言ったところさ。でも、正直あまり良いできとは言えないよ。性能は保証しよう。だが使えるのは数回だと思ってくれ。それできっと壊れるだろうね。急な改造だから仕方ないと言えば仕方ないけど」
そう言ってルーナルは事前に作っておいた道具をユースティアに渡す。それは漆黒のモノクルだった。
「【悪魔の瞳】の改造品。名づけるなら【悪魔の心眼】と言ったところかな。それを使えば今まで以上に正確に罪を見れるはずさ。君の言っていた、イミテルという少女に近いものを見れるはずさ。レンズの横についているスイッチを押せば起動するようになっているよ。理論上はね」
「そこはあなたの腕を信じるとしましょう。魔人崇拝の連中はいつやって来るので?」
「さぁね。今までも時間はバラバラだった。ただ、今日か明日中には来るはずさ。いつもこの手紙をよこして来てから三日以内には攻めてきた。その手紙が届いたのは一昨日で、昨日は来なかった。そして今日もまだ来ていない。この後来るか、それとも明日か。どっちかだよ」
「はぁ……早く来てくれればすぐに終わって楽なんですけどね」
「世の中そう上手くいかないものさ。向こうには君以外にも聖女はいるんだろう? だったらよっぽどなことが起きない限り大丈夫さ」
「だといいんですけどね」
「あ、違ったかな。君の心配はそっちじゃなくてレインか。自分がレインの傍を離れているのに別の女がレインの傍にいることが耐えられないのかな?」
「ち、違います!」
「強い否定は時として肯定と同じ意味を持つ。まったく君はわかりやすいね。あぁ、嘘嘘! 冗談だよ。だから帰ろうとしないでくれたまえ」
「次に変なこと言ったら見捨てますからね」
「ふふ、それは善処するよ」
「確約してください」
「それは君次第さ。あ、そうだ。君、夕食は食べてきたのかい?」
「そういえば……まだ食べてませんね。すっかり忘れてました」
「それは良くない。食事というのは活力の源さ。ちゃんと食べないといけない。私も今から夕食なんだ。一緒に食べようじゃないか」
「……変なもの入れませんか?」
「その一言で君が私のことをどう思っているかがよくわかるね。だがまぁ安心するといい。私は食事に関してふざけたりはしないさ」
「そうですか……では、ご一緒させていただきます」
「ふふ、楽しみにしているといい。驚かせてみせようじゃあないか」
結局その後魔人崇拝の組織が攻めてくることはなく、ユースティアはルーナル邸で一夜を過ごすこととなるのだった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!




