第36話 焦りと不安
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山を降りたレイン達はダムステンと別れ、イミテルを連れたまま宿へと戻って来ていた。ロゼに一刻も早く山での出来事を伝えるためだ。
ロゼは二人の話を聞いて神妙な顔をして頷く。
「わかりました。状況から考えるに、お二人の想像する通りで間違いないでしょう。あの山に魔人がいる。そう考えて相違ないはずです。魔獣を従えることができるのは魔人だけですからね。そしてその目的はおそらくあなたでしょう、イミテルさん」
「え、私……ですか?」
「はい。そう考えるのが自然です。獣達による畑被害が出始めた時期と、あなたがこの村にやってきた時期は一致します。魔人の狙いはあなたにあると考えておくべきです」
「でも……どうして私が」
「そこまでは私にも。魔人の考えていることなどわかりませんから。ユースティア様ならばあるいは思い当たるものがあるかもしれないですが……今の段階ではなんとも言えません。あまりにも情報が無さすぎるので」
「でも、魔人がいるなら村の人を非難させないと。いつ襲撃してくるかわかりませんし」
「落ち着いてくださいリオルデルさん。あなたの考えもわかりますが、それは不可能です。魔人の存在を知らせれば大きな混乱を招くでしょう。その混乱に乗じて動かれる方が厄介ですし、何より今からでは避難場所の確保もできません。ここから一番近い村でも一時間はかかります。村人全員を移動させるのは不可能というわけです」
「それはわかりますけど……」
レインの脳裏に過るのはかつての自分の村の姿。不意に襲いかかってきた魔人の手によってレインの村は、家族は一瞬にして失われた。同じ悲劇を繰り返すわけにはいかないのだ。
「そう焦らないでください。レインさんの杞憂もわかりますが、魔人がすぐに襲撃してくるということはないはずです」
「なんでそう言い切れるんですか」
「サレン様がいるからです。魔獣をけしかけるだけで、直接襲いかかってこなかったのが良い証拠。私達が魔人を警戒しているように魔人もまたサレン様のことを、聖女のことを警戒しているのでしょう。全ては可能性の話ですが……大きくは違っていないはずです。今大事なのは、私達が慌てないことです。何があっても対処できるように策を練りましょう。幸いにして魔人があの山にいることはわかっています。この村に常駐している贖罪官達に警戒を促すことにしましょう」
焦りを隠しきれていなかったレインはロゼの言葉に少しずつ冷静さを取り戻す。それと同時に、自分がどれだけ無茶苦茶なことを言っていたかを理解して反省する。
「……すみません。少し冷静さを失ってました」
「いえ、魔人がいるかもしれないとなれば少なからず冷静さを失ってしまうものですから。ですが、ユースティア様の従者であるならばもう少し冷静さを保てるようにしてください。それとも……ユースティア様がいないのがそれほど不安ですか」
「っ!」
「図星ですか」
ロゼに言われてレインは気付いた。ユースティアの存在がどれだけ大きかったかということに。いつもはユースティアがいた。だからこそ魔人が出ても大きく取り乱すことなくいれたのだ。ユースティアがいれば大丈夫だと思っていたから。
「常にユースティア様といたことによる弊害とでも言うべきでしょうかね。ユースティア様がいれば大丈夫だ。あなたは無意識のうちにそう思っていたのでしょう。そしてだからこそ、ユースティア様がいない時に焦ってしまう。今回のような事態はこれからも必ず起こります。その時に取り乱すことのないように心を強く持つということを覚えるべきですね」
「……はい」
「むぅ、お兄ちゃんはサレンのことを信用してないですか?」
「あぁいえ、そういうわけではないんですけど」
「サレンだって聖女なのです。魔人がいたって大丈夫なのです。お兄ちゃんのことはサレンが守ってあげるのです」
「サレン様。これはそういう問題ではありません。子供のように拗ねないでください」
「別に拗ねてるわけじゃないのです!」
「とてもそうは見えませんが。それよりもサレン様、魔導通信機はお持ちですね」
「持ってるですよ」
「ならすぐにユースティア様に連絡を。いつお戻りになるかだけでもはっきりさせておかないと。それによって私達の今後の行動が変わります」
「わかったです」
魔導通信機を取り出したサレンはすぐにユースティアへ連絡する。そしてしばしのコールの後、ユースティアが出た。
『はい、ユースティアです。どうかしましたか』
「あ、ユースティアさん。えっとですね——」
「緊急事態ですユースティア様。魔獣が現れました。魔人もともにいる可能性が非常に高いと私達は睨んでいます」
『え、魔人が? ……そちらの状況は?』
「特に大きな問題は起きていません。イミテルさんもこちらで一応保護しています」
『そうですね。それがいいでしょう。そのまま一緒にいてください。確認しますが、魔人の姿を直接見たわけではないのですね』
「はいです。見てはないですけど、あの魔獣は確実に誰かに飼われているものだったと思うです」
『なるほど……魔人も確実にあなた達が存在に気付いたことを理解しているでしょう。無茶な行動にうって出る可能性もあります。警戒は怠らないように』
「それはもちろんですが……ユースティア様はいつ頃お戻りになられますか」
『それが……少し問題が起きまして。今日中にそちらに戻るのは無理そうです』
「そうですか……」
『明日には必ず戻ります。それまでは不要な行動をしないように。もし私の予想が正しければ、魔人の狙いは確実のイミテルさんです』
「やはりそうですか。でもどうして」
『それは……』
「ユースティア様?」
突如、通信に雑音が混じりユースティアの声が途切れ途切れになる。
『く……かの……ければ……罪を……』
「すみませんユースティア様、雑音が酷くて聞き取れません」
『————』
「……切れちゃってるです」
通信が途切れた後、数度連絡を試みたがユースティアに再び繋がることは無かった。
「向こうで何か問題が起きたと言っていましたが……いえ、私達がそのことを考えてもしょうがないですね。現状打てる手を打つとしましょう」
「何があったですかね、ユースティアさん」
「ユースティア様は明日必ず戻ると言いました。であれば私達はそれを信じるだけです。とりあえずウダンさん達にだけは事情を説明しておきましょう」
「あ、それなら俺が行きます」
「それなら私も……」
「いや、大丈夫だ。それよりもサレン様といるほうが何かあった時に安全だから一緒にいてくれ」
「でも……」
「ここはレインさんの判断の方が正しいです。あなたはここに残るべきですから。魔人の目標があなたかもしれない以上、サレン様の傍を離れないほうがいい」
「……わかりました」
「それじゃあ行ってきます」
「何があるかわかりませんから、警戒は怠らないように」
「わかりました」
「…………」
そうして宿を出て行くレイン。イミテルは嫌な予感を覚えて呼び止めようとするが、それよりも早くレインは宿を出て行ってしまった。
イミテルは不安に揺れる瞳で、レインが出て行った宿の扉をジッと見続けるのだった。
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