第34話 サレンの能力
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「うははははは!! 待つですよーーーっっ!!」
山に入ってから約一時間。畑に被害を出す大猪と熊を狩りにやって来たレイン達だったが、その狩りはほとんどサレンの独壇場となっていた。熊はまだ見つかっておらず、猪は数頭見つけたが、問題となっている大猪はまだ発見に至ってはいなかった。しかし、見つけた猪も畑を襲う危険性があるということで狩ることになったのだ。
そこで発揮されたのがサレンの驚異的な身体能力と聴覚、そして嗅覚だ。木が鬱蒼と生い茂る山の中にあって、動きは一切鈍ることはなく、むしろその小柄な体躯を生かして木々の間を縦横無尽に動き回っていた。それはレインやイミテル、山に慣れているダムステンすら目で追えないほどの速さだった。
まさに今もその身体能力を生かして見つけた猪を目標地点まで追い立てている所だった。
「猿かあの子は……」
贖罪教の人間に聞かれれば不敬ともとられかねない言葉を呟くダムステン。レインもサレンの暴れっぷりを見て驚くことしかできなかった。
頭では聖女だということを理解しているつもりだった。それでもどこか子供だという印象を拭いきれずにいたのだ。サレン自身がレインのことを「お兄ちゃん」と呼んで懐いて来たことも要因の一つかもしれない。だがその印象ももう残ってはいない。
あの常識外の動きっぷりは紛れもなく聖女のそれだ。サレンの恐ろしい所は、あれほどの動きを魔力を使うことなくなし得ている所だ。魔力を使用して体を強化すればどうなるのか……レインには想像もできなかった。
嫌というほど痛感した。サレンもまたユースティアと同じ、常識の範疇をはるかに超えた聖女なのだということを。
「そっちに行ったですよ!」
「おう! 嬢ちゃん、やってくれ!」
「わかりました」
サレンが追い立てていた猪が目標地点にまで到達する。弓を構えていたイミテルがそのタイミングで矢を放ち、吸い込まれるように猪の脳天に突き刺さる。
弓矢の腕に自信はないと言っていたイミテルだったが、それもまた驚嘆すべき腕前だった。動き続ける獲物に狙って当てるのはそう簡単なことではない。しかも一撃で仕留めるとなればなおさらだ。
ダムステン曰く、弓矢の腕前ならばイミテルには敵わないとのことだった。
「また一発か。すごいなイミテル」
「いえ、それほどではありません。偶然です。今も狙った位置よりは少しずれてしまいましたし」
「ずれてても一撃で仕留めれたら十分だろ。俺なんかこの距離じゃ当てることすら難しいぞ」
「そんなことありませんよ。練習すればレインさんでもすぐにできるようになります」
「でもイミテルはほとんど練習なんかしてないんだろ?」
ダムステン曰く、イミテルは二、三発矢を放っただけで今とさして変わらないほどの腕前を披露したらしい。
「実は記憶を無くす前は弓使ってたりしたのかもな」
「……そんな記憶はありませんけど。かもしれませんね。過去のことは何もわかりませんけど」
イミテルが思い出したのは凄惨な記憶だけ。それ以外のことは何も思い出せてはいなかった。だからレインの言葉を否定することはしなかった。
「お姉さんすごいのです~。また猪一撃だったのです。ズビシッと刺さったのです」
レインとイミテルが話していると仕留めた猪を引きずってサレンが戻って来る。いとも簡単に引きずっているサレンだが、猪の重量は百キロ近い。そう簡単に引きずれるものではない。サレンの怪力の垣間見える瞬間だった。
「いえ、サレン様のおかげですよ。サレン様が狙った場所まで誘導してくれたから狙い通りに撃てたんです」
「え、そうですか? そう言われると照れちゃうのです」
「でも本当にサレン様の力はすごいと思いますよ。サレン様も聖女なんだなとあらためて認識しました」
「お兄ちゃんまで……もっと褒めてくれてもいいですよ?」
「おい何ぼさっとしてんだ。まだ目標は狩れてないんだ。このままじゃ日が暮れちまうぞ!」
レイン達が話していると、ダムステンが遠くから声を張り上げる。
「あ、はい! すぐ行きます! 行きましょうサレン様」
「むぅ、せっかくお兄ちゃんに褒められるチャンスだったのに……まぁいいです。楽しみは後にとっておくのです」
狩った猪はまとめて回収するため、一か所に集めてある。すでに狩ってあった猪も含めて、サレンが状態維持の魔法をかけているため、すぐに血抜きをする必要もない。こんなことに聖女の力を使っていいのかと思わなくもないレインだが、サレンが何も言わないのであればレインが口を挟むことではない。
「聖女の嬢ちゃんのおかげでだいぶ狩り自体はすんなり進んでるが、肝心の大猪と熊が見つからねぇなぁ。もっと山の深くにいるのかもしれねぇ。そうなったら面倒だな」
「そうですねぇ。この近くには臭いも音も……ん?」
「どうしたんですサレン様」
「……血の臭いがするです」
「血?」
「はい。でも人じゃないです。猪の血の臭いです」
「そいつは妙だな。森の奥の方には罠なんて仕掛けてねぇが……喧嘩でもしてんのか?」
「違うです。猪の血の臭いだけじゃないです。もう一つのこの臭いは……あ、こっちに気づいたです」
「気づいた?」
「はいです。こっちに向かってくるですよ」
「向かってって……大変じゃないですか! イミテル、ダムステンさんも下がってください!」
「ん? どうしたってんだ?」
「魔獣がこっちに向かってるそうです」
「あん? 魔獣だと? なんでそんなもんが」
「わかりません。でも嘘ではありません。すぐにこの場から離れないと」
「お兄ちゃん、もう遅いです」
バキバキと木を圧し折るような音がレイン達に近づいて来る。レインはイミテルとダムステンの前に立ち、《紅蓮・双牙》を構える。音のした方向を注視するレイン。しかし、その音は不意に止まる。
レインは周囲を警戒するが、どこに魔獣がいるかまるでわからない。レイン達の間に緊張が走る。自然体でいるのはサレンだけだ。
「来るです」
サレンがそう言った直後、バキバキと木を圧し折りながら飛んでくる物体。それは魔獣……ではなく、巨大な猪だった。
「猪!?」
レインは慌ててその場に伏せて巨体を避ける。後ろにいたイミテル達も同じようにして避け、その頭上を猪の巨体が通り過ぎる。その猪は自分の意思で飛んだわけではない。正確に言うならば、飛ばされて来たのだ。
「こ、こいつは……オレが今日探してた大猪じゃねぇか。なんでこいつが……」
大猪の死体を見てダムステンは驚嘆する。通常の猪をはるかにこえるサイズ。三倍以上の大きさはあろうかという体躯だ。もし人里に降りてきていれば暴れば甚大な被害で出ることは間違いないだろう。
「なんでも何も理由は単純です。魔獣に投げ飛ばされたですよ。サレン達の意識を逸らすための囮です」
「投げ飛ばしただぁ!? この大猪が何十キロ、いや、何百キロあると思ってんだ! ありえねぇだろ!」
「それが魔獣なのです。おじさん達はお兄ちゃんの言う通りさがってるのです。ここは……サレンがやるのです。お兄ちゃん、おじさん達のことお願いするのです」
「わかりました。でも大丈夫ですか?」
「あはは! 何言ってるですかお兄ちゃん。サレンは聖女です。魔獣程度に後れを取ったりはしないですよ。さぁ、そこにいるのはわかってるですよ。サレンの不意を衝こうとしても無駄です。全部聞こえてるし、殺気が臭ってるのです。出てくるです」
大猪が飛んできたのとは別の方向に向けて声を掛けるサレン。すると、その方向からズシン、ズシンという地鳴りと共に魔獣がその姿を現した。
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