第32話 夢を抱くこと
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その後もしばらくイミテルと他愛のない話をしていたレインはロゼから言われていたことを思い出す。
「あ、そうだ。一つ伝えとかないといけないことがあったんだ」
「私にですか?」
「あぁ。実は今ユースティア様が帝都に戻ってるんだ。詳しい理由は俺も聞いてないけど……たぶん、イミテルの能力を調べるための道具を取りに行ってるんだと思う」
「そんな道具があるんですか?」
「俺の知り合いに発明家の人がいるんだけど、その人が何か使えるものを持ってるのかもしれない……たぶん」
「自信なさげですね」
「まぁ、なんていうか不思議な……独特な人だから。作る道具もいつもピーキーっていうか、偏ったものばっかりだから」
自身の持つ《紅蓮・双牙》ですらかなり偏った性能なのだ。ユースティアがルーナルの所に行ったのは間違いないだろうが、いったい何の道具を受け取りに行ったのかレインには皆目見当もつかなかった。
「でも、優秀な人なのは確かだよ。俺もユースティア様も助けられてるしな」
「そうなんですね……私の能力に関することでしょうか」
「たぶん。そうだと思う。それでそう。ユースティア様が自分のいない所では力を使わないようにって。何かあっても俺達じゃ対処しきれないからな」
「……わかりました。どっちにしても使いたくはなかったですし」
「使ったら記憶が戻るから……か?」
「……はい。レインさんの言葉のおかげで元気は出ました……ですが、それと記憶を取り戻したいかどうかは別の話です。少なくとも今は……記憶を取り戻したくはありません」
「そうか。まぁ無理に思い出す必要もないさ」
「む、ずいぶん軽く言いますね。私にとっては一大事だというのに」
「そう聞こえたか? なら謝るけど。でも……俺はそう思ってるよ。記憶を取り戻すのがツラいなら別に取り戻す必要はないと思ってる。記憶があってもなくても、イミテルはイミテルだからな。俺の大事な友達だ」
「よくそんな恥ずかしいことを平気で言えますね」
「恥ずかしい言うな。意識してなかったけど、俺まで恥ずかしくなってくるだろうが」
「ねぇレインさん。一つお願いがあるんですけど……いいですか?」
「お願い?」
お願いがあると口にしたイミテルの表情はどこか硬く、そして決意に満ちていた。
「俺にできることか?」
「えぇもちろんです。他の誰でもない……私の友達であるレインにしか頼めないことです」
「改まって言うなよ……それで?」
「もし私に何かあったら……私が私で無くなってしまうようなことがあったらその時は……レインさん、あなたの手で私を終わらせてください」
「……は?」
レインは一瞬、イミテルが何を言っているかわからなかった。否、理解することを頭が拒否した。イミテルの願いの示すところはつまり、レインの手で殺してくれと言っているのだ。そんなことを受け入れられるはずがない。
「ふざけるなよ! そんなこと認めるはずないだろ!」
「レインさんならそう言うと思ってました……ですが、私の意思は変わりません。私の意思は伝えました。後はレインさん次第です。酷いことを言っているのは自覚しています。でも……これが紛れもない私の願いなんです」
「イミテル……」
「お願いしますレインさん。私は他の誰でもなく、レインさんがいいんです」
「……いや、ダメだ。受け入れられない」
「レインさんっ」
「言っただろ。俺はお前のことを助ける」
「それが私の救いだとしてもですか」
「そんな救いを俺は認めない」
「……わがままですね」
「あぁ、わがままだよ。俺はそういう奴なんだ。だから諦めろ。お前の願いは受け入れられない」
「……酷い人です」
「なんとでも言ってろ。そんなこと願うくらいなら、もっと先のことでも考えろよ」
「先の事……ですか?」
「そうだ。この先の人生をどうやって生きていきたいかとか、そういうのだよ」
「そんなこと……考えたこともありませんでした」
過去というものに執着してきたイミテルにとって、未来とは想像のし難いものだった。イミテルにとって未来とは、過去ある人のものであったから。過去のないイミテルにとって未来とは一番縁遠いものだったのだ。
「なら考えてみろ。自分はこんな風に生きてみたいとか、こういうことをしてみたいとか。いわゆる夢ってやつだな。それがあって人は初めて生きる意味を見出せる。ただ漫然と生きるだけじゃ……死んでるのと同じだからな」
「レインさんにはあるんですか? 未来を生きるための夢が」
「俺か? あるよ。俺にも夢はある。途方もない夢だけどな。でも……子供の頃からずっとある」
「どんな夢なんです?」
「それは……秘密だ」
「なんでですか。そこまで言うなら教えてくれたっていいじゃないですか」
「さすがに恥ずかしすぎるから言えないって。まぁ、また機会があったらな」
「むぅ……」
レインが夢を教えてくれないことに少しだけむくれる。しかしこればかりはレインも言うわけにはいかなかった。なにせユースティアにすら言ったことのない夢だ。叶えられるかどうかもわからない、大きすぎる夢。しかしレインはこの夢を一度も捨てたことはなかった。小さな子供が英雄に憧れるのと同じ頃に抱いた夢を、レインはずっと抱き続けているのだ。
「とにかく、意味のわからないことを俺に頼むくらいなら、未来のために夢の一つでも見つけるんだな。っとこれ以上話してたら遅くなりすぎるか。またティーチャルさんに怒られる」
「もうそんな時間ですか?」
「もういい時間だよ。日付が変わる前に帰ろうぜ。今日はちゃんと送るからさ」
「わかりました。名残惜しいですが仕方ないですね。ではお言葉に甘えて、送っていただくことにします。でも送り狼にはならないでくださいね」
「なるかっ!」
「ふふ、冗談です。レインさんはそんなことしないってわかってますから」
「わかってるならそういうこと言うなよ」
「では、家にたどり着くまでの僅かな時間ですが、最後の時間を楽しむとしましょう」
「ちなみに、明日は何か予定はあるのか?」
「はい。明日はウダンさんと仲良くしている猟師さんのお手伝いです。最近また畑を荒らす獣がいるそうなので」
「狩りに行くってわけか。できるのか?」
「できるかどうかと問われれば、どうなんでしょうね。猟師の方からは褒められたりしますけど」
「そうか。できれば明日も俺達の目の届く所に居て欲しいんだけど……」
「お断りした方が良いですか?」
「……いや。手伝いがいるって言うなら行ったほうがいいと思う。ただやっぱり誰かは近くにいるべきだからな。俺が一緒に行くよ」
「レインさんが?」
「あぁ。嫌だったか?」
「いえ。私はそれで構いません。それじゃあ明日もレインさんと一緒に居られるんですね」
「そうなるな」
「ちなみにレインさんは獣を狩ったことは?」
「あるよ。実は昔に山に放り出されたことがあってな。あの時も死ぬかと思ったなー」
「それはそれは……大変でしたね」
「いや、大変なんてもんじゃないからな。あれはまさに真冬のことで——」
そしてレインはイミテルに過去の思い出を語る。家に着くまでの間、イミテルのそんなレインの話を楽しそうに聞くのだった。
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