第29話 レインの決意
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「……あ……」
気付けば眠っていたレインは寝起き特有の倦怠感と共に目を覚ました。
「俺……寝てたのか。あんなこと言われた後だってのに寝れるなんて我ながら図太いっていうか……いや、違うな。現実逃避してただけだ」
嫌なことがあった時、眠ることで逃れようとする人は一定数いる。眠ることで心に安定をもたらそうとしているからなのかもしれない。
レインは眠ってしまったことを自嘲していたが、その効果は確かにあったようで眠る前の憂鬱な気分は少し治まり、頭もすっきりしていた。
「……いつまでもウジウジしていたってしょうがないよな。ティアと会うのはちょっと気まずいけど、話さないと何も変わらない。俺に何ができるかなんてわからないけど、でもこのまま何もしないのは絶対に違うよな。ただ問題があるとしたら、ティアが俺と話してくれるかどうかってことなんだけどな……」
従者に相応しくない、とまで言われたのはレインも初めてだった。そこまで言わせてしまったことがレインとしては情けなかった。
「まずは謝る。そっからだ。そんで、もう一回俺の気持ちをちゃんと伝える。話はそっからだ。ティアの言う通り、俺はティアに頼ろうとしすぎてた。こんな様じゃあいつが怒るのも無理ない」
イミテルが倒れ、ユースティアの言葉を聞いて動揺していたといえばそれまでだが、そんなことは言い訳にもならない。そして過ぎてしまったことをいつまでも悔やむのも同様だ。
立ち上がったレインは思い切ってユースティアの部屋に行こうする。ちょうどその時、部屋のドアがノックされた。
一瞬ユースティアかと思って身構えたレインだったが、すぐに違うことに気づいた。ロゼの声がしたからだ。
「レインさん、居ますか?」
「ティーチャルさん? は、はい、います!」
レインが返事をするとロゼが部屋の中に入って来た。
「……どうやらちゃんと休めたようですね。先ほどまでよりもすっきりした表情をしています」
「あ、はい。すみません。休ませてもらっちゃって」
「構いません。さっきのままいられても面倒なだけですから。ですが、寝癖は直してくださいね」
「あ……」
ロゼに指摘されて初めてレインは寝癖がついていることに気づく。慌てて直したレインを見てロゼはクスリと笑う。
「そこまで慌てなくてもいいんですけどね。夕食の時間です。それを伝えに来ました」
「ありがとうございます。あ、でもその前にユースティア様に少し話を」
「ユースティア様なら今はおられませんよ。少し前に帝都に戻られました」
「え?」
「その様子では本当に何も聞いていなかったのですね。全く、あの方にも困ったものです。どうしても必要な道具があるそうで。急いで戻られました」
「……そうなんですね」
「あなたとユースティア様の間に何があったかは知りませんが、まぁ大体の予想はできます。大方、あの方が癇癪を起したのでしょうが……」
「あ、いえ。違うんです。俺が悪いんです。少しユースティア様と言い合いになってしまって……それで」
「……どちらにせよ、一時の感情に動かされてしまっている時点でユースティア様もまだまだ未熟です。そしてあなたも」
「はい……」
「主だから全ての意見を汲まなければいけないということはありません。そうなってしまえばあなたはただの道具です。時には主に意見することも必要。ユースティア様も万能ではありませんから。しかし、その言葉は考えなければいけない。主と違う意見を、答えを出すというのであれば、説得できるだけの材料を。納得させることができる言葉を、あなたは尽くさなければいけなかった。それができなかったのはあなた自身の落ち度です」
「…………」
「イミテルさんを処分する、とでも言われたのでしょう。そしてあなたはそれに反対した」
「っ!? どうしてそれを」
「当たりですか。イミテルさんの力を目の当たりにして、ユースティア様の考えそうなことは私にもわかります。あの方は大胆なように見えてリスクを嫌いますからね。そしてあなたが反対する理由もわかります。昨夜、イミテルさんと会ったのでしょう。今日、イミテルさんとお会いした時、一瞬ですがあなたに視線を送っていました。彼女の視線は親しい友人へのそれと同じでした。あなたとイミテルさんに接触するタイミングがあったとしたならばそれは昨夜部屋から抜け出していた時間のみ。だからこそ、私は昨夜あなたとイミテルさんがなんらかの理由で出会い、そして仲を深めたのだと判断しました。違いますか?」
「……一瞬の視線でそこまでわかるんですか? 恐ろしいくらい合ってて怖いんですけど」
「ただの観察眼と考察です。慣れればあなたでもできます。と、言いたいところですが全部辻褄合わせです。あなたにイミテルさんからの言伝を預かった時点で何かあったと察するに決まってます」
「あ、なるほど…・・」
「私にはユースティア様やサレン様のような超能力の如き才能はありませんから。私のことは今はどうでもいいんです。大事なのはあなたはイミテルさんと関係を深め、そしてそれが原因でユースティア様と対立しているということ。意見を変える気は……その表情を見る限りなさそうですね」
「ありません。ユースティア様の言うこともわかりますけど、俺はそれでも……彼女のことを見捨てたくない」
「正しいのがユースティア様だとしても……ですか?」
「正しいことだけが全てじゃないですから。俺はもう決めたんです。何があっても、彼女のことを見捨てないって。助けるんだって」
「……それでユースティア様と対立することになったら、あなたはどうするつもりですか?」
「戦います。力じゃなくて、言葉で。ちゃんと話せばきっと伝わるはずだって信じてますから」
「……計画性もなにもない理想論主義ですね」
「わかってます。それでも俺は——」
「いいんじゃないですか」
「え?」
「幸いなことに、まだ致命的な何かが起こったわけでもありません。未熟なりに考えてみると良いでしょう。ふふ、ユースティア様があなたを選んだ理由……少しだけ理解できた気がします。まぁ、だからと納得はしませんが。ですが、未熟な主と未熟な従者。案外、相性は良いのかもしれませんね」
「はは……さっき従者に相応しくないって言われちゃいましたけどね」
「それが本音でないことくらい、あなたもわかっているでしょう。あの方は少し言い過ぎるきらいがありますから。ユースティア様は明日には戻ると言っておられました。その時、改めてあなたの思いを伝えると良いでしょう」
「……はいっ!」
「まぁ一度へそを曲げてしまったユースティア様はなかなか機嫌が直らないので、素直に聞いてくれるかどうかは別の話ですが」
「いやまぁ、そうなんですけど……」
「まだ時間はあります。しっかり考えることですね」
「わかりました!」
「さ。それではあらためて行きましょうか。思った以上に話しこんでしまいました。これ以上サレン様を待たせるわけにはいきません。私は先に行きますので、あなたはきちんと直してから来るように」
「わかりました。あの——」
「なんです?」
「ありがとうございます。おかげでのその……勇気が出ました!」
「それは結構。その勇気がユースティア様の前でも続くように祈ってます。ここで勇気があっても、本人を前にして何も言えなければ同じですから」
珍しく柔らかい笑顔を見せたロゼはそのまま部屋を出て行った。
「よしそれじゃあ俺も行くか。寝癖は……水で直るだろ。いや、ダメか。ちゃんとしとかないとまたティーチャルさんに言われるし」
ロゼの言葉で少し元気を取り戻したレインは寝癖を直してから夕食へと向かうのだった。
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