第28話 魔人の兄弟
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「んふふー、ドーナツ美味しいのです」
「サレン様は本当にドーナツがお好きですね。夕食のこともこともありますから、あまり食べ過ぎないでくださいね」
「大丈夫です。ドーナツは無限なのです!」
「この世に無限などあり得ませんから」
「えー、あるですよぉ……ん?」
サレンが食堂でおやつを食べていると、客室となっている二階から慌ただしい音とともに誰かが降りてくる足音がした。
「ユースティアさんが降りてくる音がするです」
「本当ですか? サレン様は相変わらず妙な特技を持っていますね」
「む、そんなことないのです。誰でもできるのです。耳さえよければ」
「残念なことに私の耳はそこまで良くないので」
サレンは耳が良い。足音だけでそれが誰かを判別することができるほどに。それだけではない。部屋の中にいる人数、男か女か、子供か大人か。全てを音だけで判断できるのだ。サレンだけが持つ大きな特技だった。
「ユースティアさん、少し焦ってるみたいです」
「焦っている?」
ロゼが聞き返すと同時、食堂にユースティアが入って来る。そしてサレンの言う通り、ユースティアは少し焦っている様子だった。
「あぁロゼ。それにサレンもここに居ましたか。少し話があるのですがいいですか?」
「どうしたんです?」
「一度帝都に戻ります」
「帝都に?」
「はい。先ほどルーナルと話していたのですが、イミテルさんのことで必要になった道具がありまして。誰かに届けさせるということも考えたのですが、私が取りに行った方が早いので」
「だからユースティア様が直接出向かれると? イミテルさんのことはどうするんですか?」
「……サレンとロゼがいれば問題ないでしょう。ですが、力はできるだけ使わせないでください。何があるかわかりませんから。もし問題が起きればすぐに魔導通信機を使って私に連絡してください。サレン、持ってますね?」
「あ、はい。持ってるです。使ったことはないですけど」
「持っているなら大丈夫です。私の魔力を登録しておきますので。それでは」
「待ってください。今から向かうのですか?」
「少しでも早い方がいいですから。本当ならこのタイミングでここを離れるのも良くないのかもしれませんが、サレンとロゼがいれば問題ないでしょう」
「……リオルデルさんには伝えたのですか?」
「っ! レインには……ロゼから伝えておいてください。今は私もレインも……会わない方がいいですから」
「あ、ユースティア様!」
「明日の夕方には戻ります」
ユースティアはロゼの呼びかけに答えることはなく、そのまま宿を出て行ってしまう。ロゼは深いため息を吐いてそれを見送った。
「成長したと思っていましたが、感情論で動くところは相変わらずですね」
「ユースティアさん、お兄ちゃんと何かあったですか?」
「……それは私達が気にしても仕方のないことです。リオルデルさんには私から伝えておきます。それよりもユースティア様がいないとなると明日の予定を組み直さなければいけませんね。その辺りのことも含めて夕食の時に話合うとしましょう。ですからサレン様、あまり食べ過ぎてはいけませんよ」
「……ダメです?」
「そこまでです。夕食が食べれられなくなりますよ」
「私なら大丈夫です。おやつは別腹なのです」
「別腹など存在しません。食事には限界量があります。罪と同じです」
「食事と罪を同列で語らないで欲しいのです」
「私からすれば同じものですよ。さぁ、おやつの後は軽い運動です。行きますよ」
「えー、面倒なのです」
「残念ですが、文句は受け付けておりません」
ロゼは文句を言うサレンを連れて運動へと向かうのだった。
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ユースティアがロドルから出て行くのを観察している二人組がいた。望遠鏡のようなものを使い、ロドルを観察していた二人組はユースティアが村を出たことに歓喜する。
「なぁ兄よ。聖女が一人いなくなったぞ」
「あぁ弟よ。聖女が一人いなくなったな」
その瞳は魔人であることを示す黄金色。しかし極力目立たぬようにとローブを深く被り、限界まで気配を殺していた。その体格はローブの上からでもわかるほど筋骨隆々だった。
「あの博士から貰ったこのローブはしっかり機能しているようだ。おかげでこれほど近くにいても見つかることはない」
「そうだな兄よ。悪魔のような聖女の目を欺くことができるこのローブ。非常に有用なものだ。これさえあれば我らも人間の目を欺くことができる」
「む。しかし弟よ。それでは我らがまるで人間を恐れているようようではないか。そんなことはあってはならん。ならんぞ! 我は人間など恐れておらぬ!」
「落ち着くのだ兄よ! 脱いではならぬ。脱げば見つかるぞ!」
ローブを脱ぎ去ろうとした兄を弟は慌てて引き留める。ここでローブを脱ぎ去り、聖女に見つかるようなことがあればこれまでの努力が水泡に帰すことになる。それを認めるわけにはいかなかった。
「この任務に失敗すれば後はないのだ。慎重に動かねば」
「……そうであったな。我らには後がないのだ」
東の大陸で多くの任務で失敗し続けたこの魔人の兄弟はとうとう西大陸送りという、処刑にも等しい宣告を受けたのだ。
「聖女さえいなければ脅威など一つもないものを……」
人類にとって魔人が脅威であるように、魔人にとっても聖女の存在は非常に厄介だった。魔人を滅する存在として恐れられている。聖女を恐れないのは上級へと至った一部の魔人だけなのだ。
「しかし弟よ、聖女が一人しかいないのであれば我らの力で勝てるのではないか? 残っている聖女は情報によればまだ聖女になってから一年しか経っていないと聞く。であれば我の力で——」
「それは早計というものだ兄よ。あの博士も聖女を侮ってはいけないと言っていた。我らは与えられた任務を忠実にこなすべきなのだ。あのイミテルという少女の監視し続けるという任務をな」
「そうだな。だがしかし、いつまで続ければよいのだ? もうかれこれ数日になるが……」
「博士が言うのには早ければ後少しであの女の記憶も完全に戻るだろうとのことだ。それまでの辛抱だ」
「そうだな。我らにチャンスをくれた博士に報いるためにも、任務を忠実にこなすとしよう」
西大陸送りが決まったこの二人に声をかけ、チャンスをくれた博士に対する恩義を果たすためにジッと物陰に隠れ続ける。
「全ては崇高なる魔族の世界を作るために」
「そして魔王様のために」
ユースティア達の気付いていない所で、魔族の思惑は少しずつ進んでいた。
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