第26話 相応しくない
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「——っ!!」
イミテルは跳び起き、バクバクと脈打つ胸を抑えた。荒い呼吸を繰り返し、慌てて周囲を見渡す。
「ここは……家?」
「目が覚めましたか?」
「っ!?」
「そう怯えないでください。私のことはわかりますか?」
「あなたは……あなたは、えっと……」
「ロゼです。ロゼ・ティーチャル。サレン様の使用人です」
「サレン様……あ、聖女様の」
「そうです。まずは落ち着きましょう。深呼吸してください」
明らかに普通でないイミテルの様子を見て、ロゼは落ち着かせることから始める。イミテルはロゼに言われるがままに、数度深呼吸を繰り返す。
「落ち着きましたか?」
「……はい」
「ここはどこか答えられますか?」
「ここは……村長の、ウダンさんとマヅマさんの家で、その中にある私の部屋です」
「その通りです。だいぶ落ち着いたようですね」
「はい。すみません。でも……私なんでここで寝てるんですか? 他の皆さんは?」
「そこまでは覚えていませんか。わかりました。簡単に状況を説明させていただきます。あなたは力を使い、そしてその後私達と共にこの家に戻って来ました。そこまではいいですか?」
「はい。私もそこまでは覚えています。でもその後が……」
「その後、ユースティア様とあなたの力について話している途中であなたは倒れました。何か思い当たる原因はありますか?」
「原因ですか? そう言われても……」
「ユースティア様に診てもらった限りでは、あなたに身体的異常は見られなかった。つまり考えられる要因としては精神的要因だ、というのが私達の出した結論ですが……これはあくまであなたの話を聞かずに出した結論です。意識を失うというのが力を使ったことによる副作用だという可能性はありますか?」
「……わかりません。でも、今までは力を使った後に意識を失うということはありませんでした」
「なるほど。ではやはり精神的要因という可能性が高いですね。あなたが倒れる直前に話していたのは……」
「【魂源魔法】」
「……【魂源魔法】。そこにあなたが倒れた要因があると」
「はい。少し……思い出しました、自分のことを」
「記憶が戻ったのですか?」
「完全ではないですけど……少し。でも、すいません。自分でも少し戸惑っていて、上手く整理できていなくて……一人にしてもらっていいですか?」
ロゼはイミテルの様子をジッと確認する。ロゼはユースティアの魔法ほどではないが、見ることである程度の健康状態の把握はできる。そしてロゼが確認する限り、今のイミテルに問題がある部分は見て取れなかった。となれば、この場に部外者がいる方が落ち着かないだろうとロゼは判断した。
「……わかりました。その方が良さそうですね。また明日、もう一度来ます。それで大丈夫ですか?」
「はい。それまでには落ち着いていると思います。すみません、私の都合で」
「あなたのせいではありませんよ。今はゆっくりと休んでください。ウダンさんとマヅマさんには私から伝えておきます。何かあればすぐに私達の泊まっている宿に連絡をしてください」
「ありがとうございます」
「礼を言われるようなことではありません。それでは、私はこれで」
「あの——」
「何か?」
「レイン君……リオルデルさんに、言伝をお願いできますか?」
「リオルデルさんに? ……わかりました。なんとお伝えすれば?」
少し悩むような仕草を見せた後、イミテルは口を開いた。
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その頃、宿ではユースティアが若干イライラとしながら口を開いた。
「レイン、いつまでむくれてるつもりだ」
レインに対して命令を下し、一度頭を冷やさせるために部屋を出て戻ってきたらこの様だ。ユースティアが苛立つのも無理はなかった。
「…………」
「無視か。無視なのか。良い度胸だなぁおい」
「……なぁティア。さっき言ったこと……本気なのか?」
「当たり前だ。私は私の言葉を覆さない。そして私の……聖女の直感は絶対だ。それはお前もよく知ってることのはずだろう」
「そうだけど……でも、お前ならなんとかできるだろ」
「ちっ……このバカ、馬鹿、大馬鹿め!」
耐え切れなくなったユースティアは苛立ちを隠そうともせずレインのことを怒鳴りつける。
「なんとかできるだと? ならその方法を示してみろ。具体策をな。お前の中で聖女はどんな存在だ? なんでもできる神様か? 違うことはお前が一番よく知ってるはずだ。なんでもできるなら、お前の村のような悲劇は生まれてない! そうだろ!」
「でもっ!」
「確かに私達聖女は他の奴よりできることは多い。だがそれだけだ。バカみたいな幻想を言うな! なんとかしたいって言うならまずお前が動け。話はそれからだ。それもせずにすぐ私を頼ろうとするな!」
ユースティアが怒る理由はそこにあった。今のレインは思考を止めて、ただユースティアに縋ろうとした。しかし、そんな弱さをユースティアは認めない。従者であるレインはユースティアに相応しく強い存在でなければいけないのだから。
「もういい。今のお前は……私の従者に相応しくない」
「っ!」
絞り出すように言われた言葉。それは、ずっと過ごしてきて初めて言われた言葉だった。レインの衝撃は計り知れない。しかし、それでもレインは何も言わなかった。
無言のままのレインに再度舌打ちをしたユースティアはこれ以上同じ場に居たくないとさっさと部屋を出て行こうとする。その時だった。
「あっ」
「あぅっ!」
不意に開いた扉から入ってきたサレンとユースティアがぶつかる。まさかユースティアがいると思っていなかったサレンは衝撃に耐え切れずに転んでしまった。
「すみません、大丈夫ですか?」
「えへへ、ごめんなさいですぅ」
「サレン様、だから部屋に入る際はノックをするようにと何度も……ユースティア様、どうかしましたか?」
「何がです?」
「いえ、その……」
少し怖い顔をしていたので、という言葉は飲み込んだ。ユースティアの雰囲気を感じて言うべきではないと思ったから。
「ロゼも一緒だったんですね」
「はい。ちょうど宿の前で会いまして。イミテルさんが目を覚ましました」
「っ。そうですか。ですがその話は後で。今は少し……一人にしてください」
ユースティアはロゼの返事も待たず、部屋を出て行く。ロゼは呼び止めることもできなかった。
「ユースティアさん……何か様子がおかしかったです?」
「そうですね。ですが、今はユースティア様の言う通り、一人にして差し上げましょう。リオルデルさん、あなたに対してイミテルさんから言伝があります」
「言伝……ですか?」
「はい。一言だけですが……「約束通り」と。私には意味がよくわかりませんでしたが。これでわかりますか?」
「っ、はい……大丈夫です」
「ならいいです。本来であれば今後について多少話合っておきたかったのですが、ユースティア様もそしてあなたもそれどころではなさそうですね。今日はもう休んでください」
「え、でも」
「休んでください。拒否はさせませんよ」
「……わかりました」
「ユースティア様と何があったかは知りませんが、もう少しマシな顔をしてください。そんな状態では何も任せられません。サレン様、食堂へ行きましょう。少し時間は過ぎてしまいましたが、おやつの時間にしましょう」
「え! やったです!」
レインを気遣い、ロゼはサレンを連れて部屋を出て行く。再び一人となったレインは自室へと戻り、ベッドに身を投げる。
「……情けねぇ」
そんなレインの呟きは誰にも聞こえることはなかったのだった。
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