第25話 下される命令
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「う……ぁ……」
小さくうなされ、大粒の汗を流しながらイミテルは眠っていた。ユースティアは魔法を使ってそんなイミテルの状態を確認していた。
後ろではウダン達やサレンとレインがその様子を心配そうな表情で見つめていた。
「…………」
「ど、どうです? お姉さん、大丈夫なのです?」
「……そうですね。身体的異常は特に見られません」
「ほっ……良かったですぅ」
「ありがとうございますユースティア様……で、でもそれじゃあどうしてイミテルは突然気を失ってしまったんですか?」
「そこまでは流石に……力を使ったことによる副作用か、何か精神的要因があったか……イミテルさんが起きないとそこまでの事情は把握できません」
「そうですか……」
「申し訳ありません。私達がついていながら」
「いえ、ユースティア様が謝ることではありません!」
「今日は一度引き返します。イミテルさんがこの様子ではどうしようもありませんから。もし何かあった時のためにロゼをここに居させていただいていいですか?」
「えぇ、それはもちろん。そしてくださると私共も安心できます」
「それでは私達はいったん失礼します。ロゼ、後のことはお願いします」
「かしこまりました。何かあればすぐにお伝えします」
村長宅にロゼを置いてユースティア達は宿へと戻る。イミテルが意識を失ってしまったため、できることが無くなったからだ。村の中を散策するということも考えたユースティアだったが、イミテルに対する村人の反応を見てそんな気分でも無くなってしまった。これは単純にユースティアの我儘だ。イミテルに対する情報は少しでも多い方がいい。そのための行動を怠るのは決して褒められたものではない。
「……落ち着いたらにしよう。今のままじゃ気持ちが落ち着かない」
「ユースティアさん、ユースティアさん!」
「え、あ、はい。どうかしましたか?」
「サレン、村の中の散策をしたいです!」
「どうしたんですか急に」
まさに今ユースティアが考えていたことをサレンから提案されて驚きを隠せない。まさかサレンからそんな提案がされるとは全く思ってもいなかった。
「前からロゼに言われてたです。知らない土地に行った時はよく探索して、そこに住んでいる人の話を聞くようにって。だからサレンもそれを実行するべき時だと思ったです!」
「なるほど、そういうことですか」
サレンはサレンなりに考えているのだろう。今の自分にできることが何かということを。サレンは自分が役に立っていないということを理解している。だからこそ今の自分でも可能な村の散策をユースティアに提案したのだ。
(やってくれるって言うなら断る理由もない……か。私自身は気が進まないからやってもらえるならそれが一番だ。でも問題があるとしたらサレンの情報収集能力か。いつもそういうのはロゼがやってたんだろうし、あまり期待はできない。ま、ダメもとか。やらせるだけやらせよう。私もちょうどレインと二人で話したいことがあったし)
「わかりました。それではサレンは村の方達にイミテルさんのことを聞いておいてください。それと、イミテルさんがこの村に来る前後で何か気になる点は無いかどうかを。ただ、二時間で戻って来てください。それが条件です」
「わかったです!」
ユースティアから許可を貰えたサレンはパァっと表情を明るくして走って行く。
「良かったのか?」
「いつかはやることだからな。今回みたいな情報が得られなくてもさして困らない時にやらせるのが一番だ」
「お前……それ言ってること何気に酷いからな」
「やりたいって言ったのはサレンの方だ。私にとやかく言うな」
「まぁそうだけど……」
「それに私もレインに話があったからな。ちょうど良かった」
「俺に?」
「あぁ。イミテルのことでな」
「っ!?」
ユースティアはそれ以上何も言わず、さっさと歩いて行く。そしてレインはその後を黙ってついて行くのだった。
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宿の部屋に戻るなり、ユースティアはレインに正座させ自身は椅子へと座り高圧的にレインのことを見下ろした。
「さぁ、話してもらおうか」
「……何をだよ」
「レイン。この後におよんで白を切るつもりか?」
「白を切るも何も、ティアが何のことを言ってるかわからないし……」
「とぼけるな。私が気付いてないと思うなよ。隠せると思ったら大間違いだ。お前、昨夜イミテルと会ってたな」
「っ?! なんでそれを!?」
「イミテルがお前のことを「レイン君」と呼んでいた。ろくに話したこともない奴のことをそうは呼ばないだろ。お前自身もそれに対して何も言わなかったしな」
「あ……」
「夜に部屋を抜け出して何をしてるかと思えば女と逢引か。ずいぶんと良いご身分だなぁレイン」
ユースティアから怒りの気配が漏れていることに気づいたレインはビクリと体を竦ませ、慌てて言い訳する。
「ちが、違うんだ! イミテルに会ったのは事実だけど、会うために宿を抜け出したわけじゃない! 会ったのは偶然なんだ!」
「偶然? ほぉ、随分と都合の良い偶然があるもんだな。それとも何か。お前は女と出会う星の下に生まれでもしたのか? 考えてみればお前の周りは女ばっかりだもんなぁ」
ユースティアから始まり、カレン、フェリアル、カルラにサレンとレインと懇意にしている人物は女性ばかりだった。そこに最近は急に現れた幼なじみのフウカとイミテルだ。世の男達からすれば、あまりにも羨ましい状態だ。しかしレインからすれば喜べるような状況ではない。どの女性も一癖も二癖もある人ばかりでレインではとても手に負えないからだ。
「お前は私の従者なんだ。他の女に関わること自体が罪だと思え!」
「無茶言うなバカ!」
「私はバカじゃない。バカって言う方がバカなんだぞ。このバカ、馬鹿、大馬鹿め!」
「お前が連呼してんじゃねーか!」
「私はいいんだよ。私のすることは全て許される」
「どこの暴君だお前は!」
ギロッと睨んでくるユースティアをレインも負けじと睨み返す。そのまま睨み合いが少し続き……折れたのは意外なことにユースティアが先だった。
「……まぁいい。今さらだからな。お前の女運の悪さは」
「お前がそれ言うのか……」
「何か言ったか?」
「いえ、何も。で、結局なんなんだよ。そのことを追求したかっただけなのか?」
「それもある。お前、イミテルに記憶が無いのをいいことに変なこと吹き込んで妙なことしてないだろうな」
「しとらんわ!」
「……嘘はついてないか。ならいい。もししてたら本気で【失楽聖女】を使う所だった」
「怖いこと言うなよ……」
「ただ話してただけか?」
「まぁそうだな。普通に話してただけだ」
「ならいい」
「どういうことだよ」
レインがわけがわからないという表情をしていると、ユースティアがため息を吐いて言う。
「イミテルと仲良くなるな。これは命令だ」
その声音は、レインが思っていたよりもずっと冷たかった。だからこそわかった。ユースティアが本気で言っているということが。しかし、だからと言ってすぐに納得できるはずがない。
「……なんでだよ」
「私達がなんでここに来たかはわかってるな」
「イミテルの能力を調べるためだろ」
「そうだ。イミテルの力がどういうモノなのかを調べるために私達はここにいる。有用なモノなのか、悪しきモノなのかを判断するためにな」
「…………」
「はっきり言っておくぞレイン。私はイミテルの力が悪しきモノだと判断した場合、躊躇なく排除する」
「っ! それは——」
「酷いとでも言うか? はっ、なら好きに言えばいい。私は私の決定を覆さない。そして主人である私の決定に従うのが従者であるお前の務めだ。その時が来て、お前が必要以上にあいつに感情移入していたら面倒だからな。だから私はお前に命令するぞ。これ以上イミテルと接触するな。それはレインにとってもイミテルにとっても辛い結果しか招かないぞ」
「でもまだわからないんだろ。もしかしたらあいつの力が有用なものだっていう可能性だって——」
「私はそうは思わなかった」
「っ!?」
「確信がないからあの場では言わなかったが、イミテルの力には違和感があった。あの感覚は……魔人を相手にした時の感覚に近い」
「あいつは魔人じゃないだろ!」
「あぁ。違う。だが私もお前も、そしてイミテル自身も……誰も『イミテル』という人物のことを知らない。一つでも確証を得れば私はすぐにでも動く」
ユースティアの言葉に対してレインは何も言い返せない。今のレインにユースティアを説得できるだけの言葉は無かった。
そんなレインの様子を見たユースティアは椅子から立ち上がり、ため息を吐きながら言う。
「重ねて言うぞ。必要以上にイミテルと接触するな。これは命令だ」
ユースティアはそう言って部屋を後にするのだった。その場に残されたレインはただ一人、俯いていることしかできなかった。
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