第20話 ロドルでの朝
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
翌日の朝。
ユースティアは腹部の辺りに妙な重さを感じて目を覚ました。
「ん……レイン?」
重りがついているのではないかと思うほど重たい目蓋を開き、腹部に目をやるとそこにいたのはレインではなかった。そこにいたのはすやすやと気持ち良さそうに眠るサレン。その姿を見てようやくユースティアは自分の状況も思い出した。
「……そうだ。サレン達とロドルに来てたんだっけ。それでサレンと同室になって……」
移動の疲れもあり昨夜は早めに就寝したことまでは思い出した。しかし、なぜサレンが同じベッドにいるのか。それがわからない。ユースティアの記憶が正しければサレンは隣のベッドで寝ていたはずなのだから。ちらりと隣のベッドを見てみれば、そこはもぬけの殻になっていた。
「……いいや、めんどくさい」
ユースティアはさっさと考えるのを止める。理由が分かった所で状況は変わらないからだ。それよりもサレンを退かそうと眠りこけるサレンの肩を揺らす。
「んみゅ……えへへ……」
「…………」
起きる気配のないサレン。そのあどけない寝顔はまるで天使のようで、見ているだけで癒されること間違いなしだ。しかし、ユースティアは例外だった。眠り続けるサレンに苛立ちを感じ、表情を引きつらせた。
(こいつ……一回叩きのめすか)
少し優しくし過ぎたかもしれない、とユースティアは若干後悔する。普通ならばそこまで優しくすることはないのだが、ロゼのこともあって少しだけ優しくしたのだ。その結果、サレンはユースティアが思ったよりもずっと懐かれてしまったのだ。
(ここまで懐かれるのは想定外だ。まぁレインにベタベタされるよりはマシだけど……これは単純にうざい)
さすがに手をあげるようなことはしなかったが、起こさなければ動くこともできないので少し無理やり起こすことを決める。【雷魔法】を発動させ右手にバチバチと雷を纏う。
「サレン、起きてください」
「あばばばばばばばばっ! なななな何事ですか、敵襲ですか!」
体に雷を流されてはサレンも寝てはいられない。一瞬で跳ね起きて臨戦態勢をとる。その速さはなかなか素晴らしいものがあった。【罪姫】を展開するまでの手際もユースティアが思っていたよりずっと早く、なかなかの練度を感じさせた。
「おはようございますサレン」
「え、はれ? ユースティア……さん?」
「はい。私です」
「なんでユースティアさんがサレンの部屋に?」
サレンはまだ若干寝ぼけているのか、ユースティアが目の前にいる理由がわからないようだった。
「ここはサレンの部屋じゃないですよ。ロドルの宿の一室です」
「ロドル……あ、あぁ! そうです! そうでした!」
ようやく得心がいったのか、満面の笑みを浮かべるサレン。
「はれ? でもじゃあなんで【雷魔法】が……サレンすっごくビリビリしたです」
「夢の中のことじゃないですか?」
「うーん、そうですね! きっとそうです! ユースティアさんがビリビリをするはずがないです!」
「ふふ、当然です。サレンを起こすために【雷魔法】を使うなんてするわけがありません。きっと起こすために私が肩に触れたのを勘違いしてしまったんでしょうね」
「あぅ、そんな勘違いをしてしまうだなんて、恥ずかしいです」
「慣れない環境で緊張していたのかもしれませんね。それでその……一つ聞きたいことがあるんですけど」
「なんです?」
「なぜ私のベッドで寝ていたのでしょうか?」
「……はえ?」
「もしかして何も覚えてないですか?」
「サレンがユースティアさんのベッドで……です?」
「はい。そうです。起きたらあなたがベッドの私のところで寝ていたので、なぜかと思いまして」
「えっと、サレンは昨日部屋に戻ってきた後、お風呂に入ってから自分のベッドで寝て……」
「そうですね。そこまでは私の記憶と一緒です」
「夜中におトイレに行きたくなって、起きて……寒いなって思って気付いたらフラフラと暖かそうなユースティアさんのベッドに近づいて……そこからは覚えてないです!」
「なるほど。そのまま私のベッドで寝てしまったと。そういうわけですか」
「えへへ、そうみたいです」
「今後はこういうことがないように気を付けてくださいね。私も起きてサレンがいたらびっくりしてしまいますから」
「はぁい、わかったです」
ホントにわかってんのかコイツ、と思ったユースティアだがそこは口には出さない。ただもし次に同じことがあればもっと強い電撃を流してやろうとユースティアは心に誓った。
「さぁ、それでは身支度を整えましょうか。あんまりぼんやりしているとそのうちロゼが起こしに来るでしょうし」
「ロゼは起こし方が優しくないのです」
「ふふ、そうでしょうね」
ロゼに怒られたくないサレンはそそくさと身支度を始める。そして、ユースティアとサレンが身支度を終えたちょうどその時、部屋の扉がノックされた。
「おはようございます」
「おはようございます。ロゼ一人ですか? レインも一緒かと思ったのですけど」
「……彼は反省中です」
「反省中?」
「色々とありまして。お二人が気にする必要はありません」
「気にする必要はないと言われても、レインは私の従者なのですが……」
「そして私のお兄ちゃんです!」
「サレンのお兄ちゃんではありません」
「えー、ダメなのです?」
「まぁ、そう呼ぶくらいはいいですけど」
「お二人とも、お話はそこまでで。朝食の用意ができていますので食堂に向かいましょう。リオルデルさんもすぐに向かわせますので」
「んー……わかりました。それでは行きましょうかサレン」
「はいです! ご飯♪ ご飯♪」
ルンルンとスキップしながらサレンは食堂へと向かう。ユースティアはその後をすぐには追いかけずロゼに話しかける。
「それで、結局レインは何をやらかしたんですか?」
「気にする必要はないと言ったはずですが」
「私はレインの主です。レインが何か不始末をしでかしたなら知っておくべきだと思いまして」
「……彼のこととなるとずいぶん心配性ですね」
「別に心配性というわけでは……」
「ユースティア様がそれだけ誰かに執着しているのを見るのは初めてかもしれません。わかりました、お教えします。彼がしたのは無断外出です」
「無断外出?」
「えぇ。夕食後、部屋に戻った後彼は私に何も言わずに外出し、戻って来たのは夜が更けてから。部屋の中に争った形跡もなく、私もそのような気配を感じなかったので事件性がないことは把握していました。ですが普通であれば一言あってしかるべきです。ということで、報告すること、連絡すること、相談することの重要性について先ほどまで説いていました」
「なるほど……って、さきほどまで? え、それじゃああなた達もしかして……」
「はい。寝ていません。しかしご心配なく。職務はしっかりと果たしますので」
「いや、そういう問題では……」
そこでユースティアは気付いた。ロゼが目の下に出来た隈を化粧で隠していることに。それだけではない、いつもはすらりと美しい立ち姿をしているロゼだが今は重心が少しずれていた。普段のロゼならば考えられないことだ。
ユースティアはそれを見て小さくため息を吐く。
「そう言ってあなたはいつもやり過ぎてしまう。次に差し支えるとわかっているのに一度説教を始めると止まらないその性格、昔と変わりないようですね」
「……申し訳ありません」
「これに懲りたら説教もほどほどにしてくださいね——『活力回復』『活力増加』」
ユースティアはそう言ってロゼに【回復魔法】を使う。その瞬間、倦怠感に包まれていたロゼの体が急に軽くなる。それどころか疲れも軽い眠気も吹き飛んだ
「っ! これは……」
「今回だけです。レインには私からも後で言っておきますが、あなたもあまり無茶なことはしないでくださいね」
「ありがとうございます」
「感謝されるようなことではありません。レインは部屋ですか?」
「はい」
「わかりました。それではレインは私が連れていきますので、あなたはサレンの元へ」
「ですが——」
「ユースティアさん、ロゼー、まだですかー? ご飯冷めちゃうですよー!」
「ほら、サレンが呼んでいますよ。今のあなたはサレンの使用人でしょう?」
「……そうですね。わかりました」
「私もすぐに行きますので」
そしてユースティアはロゼにこってり絞られたレインを迎えに行くのだった。
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