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罪喰らいの聖女  作者: ジータ
第二章 最強聖女と偽りの聖女
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第19話 イミテルとの語らい 後編

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

「話? 別にいいけど」

「ありがとうございます。そう身構えるような話ではないので、どうか気楽に聞いてください」

「そう言われると逆に身構えるけどな」

「そういうものですか?」

「いや、単純に俺が気にしすぎなだけ」

「なるほど。レインさんの気が小さいだけだと」

「言い方悪いな! いやまぁそうなんだけどさ」

「ふふ、レインさんとの会話は楽しいですね。こんなに楽しいのは初めてかもしれません」

「っ……」


 レインは一瞬言葉を失った。記憶がないとはそういうことなのだ。たとえ過去に楽しい記憶があったとしても、それが残っていない。だからこそレインからすればなんでもない会話ですら楽しさを感じてしまうのだ。

 だからこそレインはイミテルの言葉に寂しさを感じ——


「レインさんに初めてを奪われてしまいました。責任問題ですね」


 かけて次の言葉で台無しにされた。


「なんでそうなんだよっ!」

「違うのですか? 女性にとって初めての経験というのは大事なものだと記憶しています。それをレインさんに捧げたのですから責任問題になってもおかしくないのでは?」

「なんでそんな変なことは覚えてんだよ。ってか違うから! 違うのにその目で見られるとマジで罪悪感湧くから止めろ!」

「わかりました。では止めましょう」

「……もしかして今のもジョークか?」

「さぁどうでしょう。その判断はレインさんにお任せしますよ?」

「ジョークだと思っとく。じゃないと心臓に悪いからな。っていうか話があったんじゃないのかよ」

「えぇ、もちろん本題はあります。ですが今からする話は誰にもしたことがないので、少し緊張していたんです。気持ちを和ませるために雑談も必要でしょう?」

「そのために俺はだいぶ心臓に悪い思いをしたけどな」

「私に記憶が無いという話は聖女様にした通りです」

「無視かっ、俺の言葉は無視なのか!」

「ちなみにこうして何度もツッコまれるのも初体験で——」

「よし、本題に入ろうか!」


 これ以上はダメだ。直感的にそう感じたレインは話を本題に戻す。イミテルはそんなレインを見て小さくクスリと笑うとあらためて本題に入った。


「私には記憶については聖女様に話した通り。もちろんそれは嘘ではないです。ですが、まだ話していないこともあります。私の持つ力について覚えていますか?」

「罪を見れる力と……それを取り出せる力だろ。まるで聖女様みたいな力。その噂を聞いたから俺達はここに来たわけだし」

「私が見ているものが罪なのかどうかは知りませんけど、私には何かが見えて、それを取り出せる。それも事実です。でもその後について私は少しだけ話していないことがあるんです」

「それは?」

「取り出した黒い塊は私の中に消える。その時に私は……断片を見るんです。記憶の断片を」

「記憶の断片? イミテルの?」

「えぇ、おそらく。一瞬だけ見えるんです。ここじゃないどこかが」

「罪を吸収することで……記憶が戻るってことか?」

「……わかりません。私は私自身のことすら全く理解していない。なぜこんな力があるのかも、なぜ記憶が無いのかも。何もわからない。あるのはわけのわからない力だけ。この力だけが私の記憶を取り戻す手がかりなんです。でも私は……この力を使うのが怖い」

「怖いって……なんでだ? 記憶を取り戻せるならいいんじゃないのか?」

「私はこの力のことを何も知りません。危険なものなのかどうかも。あの聖女様の反応を見る限り決して良いと言い切れるものではないのでしょう」

「それは……」


 否定したかったレインだが、それはできなかった。イミテルの様子を見て、確証のない気休めの言葉を口にはできなかった。


「でも……悪いものだって決まったわけでもないだろ」

「そうですね。ですが私は最悪の事態というのを考えてしまうのです。もしこの力が悪しきものだったとして、その時私はどうなると思いますか?」

「どうなるって……」


 ユースティアがイミテルの持つ力を悪しきものだと判断した場合どうするか。想像するまでもない。ユースティアはイミテルを排除するだろう。聖女として、人を守るために。それが必要だと判断したならばユースティアは必ずやる。そこに私情は挟まない。しかしそれは最悪の場合の話だ。ユースティアの力で対処できるものであればそれで済む話なのだから。


「……マイナスなことばかり考えてたってしょうがないだろ。その力が村の人たちの役に立ってるのは事実だし」

「役に立ってる……それは本当でしょうか?」

「え?」

「以前、この村にいる贖罪官の方に聞きました。罪を浄化することになんの意味があるのかと。そしてこう言われました。罪を浄化することで、人が咎人となることを防げるのだと。でも、この村に咎人になるほど罪を犯した人はいません。ほとんどは生きていくうちに蓄積していった小さな罪。気に留めるほどでもないものばかりです。あってもなくても変わらないものです」

「……それは違う」

「違う?」

「自分が咎人になってしまうじゃないかってことは誰もが一度は考えるし。その恐怖は一生付きまとうものだ。でもイミテルがその力を使って、その人から罪を吸収したことでその人は決して小さくない安心を手にしたはずだ。自分は大丈夫だって安心を。だから決して無意味なんかじゃない。お前の力はちゃんと人の役に立ってるよ。だから、あんまり自分を卑下にするようなことを言うな」

「あ……ありがとうございます。レインさんは……優しいですね」

「別に優しいってわけじゃ……ただ思ったことを言っただけだ」

「それならきっと生来のお人好しです。きっと」

「やめろ恥ずかしいから」

「今の私にあるのはこの力だけです。だから、この力が何かの役に立つなら役立てたい。そうすれば私もここに居る意味があると思えるから」


 記憶がないイミテルが欲したのは居場所だ。何もないイミテルにとって、助けてくれた村長達も受け入れてくれた村の人たちも大切なものだ。記憶の無いイミテルの居場所になってくれるかもしれない人たちなのだから。


「でも……」


 力を使うたびに少しずつ、断片的に蘇る記憶。それがイミテルの一番の不安材料だった。知らない場所、知らない女性、檻の中にいる人。その記憶がイミテルの心をざわつかせる。過去のイミテルの記憶が、今のイミテルを縛り続ける。


「……レインさん」

「なんだ?」

「もし記憶を無くす前の自分が悪人だったらどうしますか?」

「悪人? いや急にそんなこと言われてもな」

「もしもの話です」

「悪人……ねぇ。でも普通の悪人なら咎人堕ちしているだろうしなぁ。何よりイミテルが悪人ってのがなぁ……想像もできねぇよ」

「はぁ、レインさんは想像力が欠如しているのですね」

「うっせ! だいたい過去のイミテルがどうとか関係ないだろ。仮にもし本当に悪人だったとしても。今は違うだろ」


 それはレインが贖罪官だからこそ言える言葉だった。


「咎人堕ちした人が聖女様に救われたら、そいつはもう悪人じゃない。そいつの中にあった悪の感情は罪と一緒に無くなったと俺達贖罪官は考える。罪を憎んで人を憎まずだ。だから俺達は一度咎人堕ちした人を差別したり、お前は咎人だったなんて責めたりしない。過去は過去、今は今だ。大事なのは過去を受け入れて進むことだ」


 レインはどの口が言っているんだと内心で自嘲していたがイミテルには思いの他響いたようで、目をぱちくりとさせていた。


「驚きました。レインさんは思ったよりも真面目なことが言えたんですね」

「俺をなんだと思ってるんだよ!」

「今回は本当です」

「ジョークじゃねぇのかよ!」

「ふふ、ジョークですよ」

「あーもうわけがわからん! しまいにゃいじけるぞ!」

「レインさんのそうやって律儀に反応してくれるところ、結構好きですよ」

「そりゃどーも! 嬉しくねーけどな!」

「ふぅ、人に話すとスッキリしますね。それじゃあ私は帰りますね」

「ホント自由人だなっ!」

「これ以上ここにいると朝に起きれそうにないので」

「それは……いや、確かにそうだな。俺もそうだ」

「でしょう? だから今日はここまでです」

「今日……は?」

「えぇ。レインさんがすぐに帰られないというのであれば、また一緒にお話しませんか?」 

「それはいいけど……いや、いいのか?」


 一瞬ユースティアの顔が思い浮かび思い悩むレインだが、イミテルの中ではすでに決定事項となったようで、心なしか嬉しそうな表情を浮かべている。


「では決まりです。それではお休みなさい、レインさん」

「あ、ちょ——」


 呼び止めようとしたレインだったが、イミテルはすでに歩き出してしまった後だった。その場に一人残されたレインは頭を掻くと深いため息を吐く。


「どうしようこれ、ティアに知られたら絶対怒られるよなぁ……想像したくもねぇ。でもだからって反故にするわけにもいかないしな」


 言葉を交わした時間はそれほど長かったわけではない。それでもレインはイミテルのことが気になっていた。


「……はぁ、しょうがない。明日のことは明日考える。なんとかなるだろ」


 疲労もあって考えるのが面倒になったレインは思考をさっさと放棄して宿へと戻る。

 そこで、ロゼが怒り心頭で待っているとも知らずに。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!

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