第17話 サレンの思い出
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
レインとロゼの部屋の向かいにユースティアとサレンの部屋はあった。
「うわー! 狭い部屋なのですー!」
「サレン、あまり騒いじゃダメですよ」
「あ、ごめんなさいです。でもでも、サレンのお屋敷の部屋よりずっと狭いのです」
「それはそうでしょう。ここはあなたのために用意された家ではないのですから」
サレンの屋敷はサレンのために作られたものだ。その屋敷は聖女が快適に過ごせるようにと作られたものだ。生半可な貴族の屋敷よりも豪奢で、設備も整っている。村にあるような宿と比べるのは酷というものだろう。これでもロドルでは一番高級な屋敷ではあるのだ。
「でもでも、昔住んでた場所に比べればずっと豪華なので満足なのです。むしろこれくらいがちょうどいい気もするのです。お屋敷の部屋は広すぎて一人じゃ寂しいのです」
「昔……ですか?」
「聖女になる前の話なのです。サレンはお金のない孤児院で育ったのです。毎日お腹を空かせてばかりだったのです。サレンだけじゃなく、他の皆も」
「…………」
「あ、でもでもサレンが聖女に選ばれたおかげで孤児院にもお金が入りましたし、サレンもお金がいっぱいもらえて今は幸せなのです」
ユースティアが気づかわし気な表情をしていることに気づいたサレンは慌てて取り繕うように言う。
「あなたもあなたなりに苦労していたんですね」
「そんなことはないのです」
「え?」
「毎日お腹は空いてたですけど、孤児院の皆で過ごす毎日は楽しかったですし、ママも優しかったのです」
「……あなたは、優しい子ですね」
「え、な、なんですか急に。そんなことを言われたら照れちゃうのです」
頬を手で押さえてクネクネと身を捩らせるサレン。しかしユースティアは至極真面目な表情で言葉を続ける。
「自分の置かれた状況を悲観することなく、前向きに笑顔でいられる。そんなあなただから聖女の適性もあったのかもしれません。まぁ、聖女としてはまだまだ未熟と言わざるを得ませんが」
「あう、最後の一言は余計なのです……」
「ふふ、私は嘘は言いませんから。それに未熟とは言いましたが、あなたはまだ聖女歴一年です。これからですよ。私や他の皆から、吸収できるものはなんでも吸収していってくださいね」
「はいです! サレンはユースティアさんよりも強くなるのです!」
「おや、では私も負けないように頑張らなければいけませんね」
口ではそういうユースティアだが、もちろんサレンに抜かれるつもりなど毛頭ない。ユースティアにとって強さとは絶対の指針。たとえこの先サレンがどれほどの力を身につけたとしてもユースティアはその上を行く。ユースティアに敗北の二文字は許されないのだから。
「サレンが今より強くなったら、お兄ちゃんも喜んでくれるですよね」
「……そういえば、あなたはなぜレインのことをお兄ちゃんと呼ぶのですか?」
「? お兄ちゃんはお兄ちゃんだからですよ?」
「いえ、そういうことではなく……あなたとレインはつい先日会ったばかりだと思うのですが。急に兄と呼ぶほど懐く理由がありましたか?」
ユースティアからすれば、否、呼ばれているレインからしてもサレンのお兄ちゃん呼びは急な話で戸惑うものであったのだから。いったいどういう理由でレインのことをお兄ちゃんと呼ぶのか。それをユースティアは知りたかった。
「うーん……昔、孤児院にいた頃、帝都のお祭りに来たことがあったです。初めてのお祭りで、楽しくて、気付いたらママたちとはぐれてしまって」
その時のことをサレンはよく覚えている。初めてやってきた帝都。見たこともないほどの人の数。老若男女問わず騒いで盛り上がっていた。そんな時にサレンは孤児院の皆とはぐれてしまったのだ。心細くて泣くサレンだったが、誰も助けてはくれなかった。
「でも、そんな時に助けてくれた人がいたです。どうしたのって、大丈夫って声をかけてくれたです。それがとっても嬉しくて、ずっと心に残ってたです」
「それがレインですか?」
「わかんないです」
「わからない?」
「その人のことをお兄ちゃんって呼んでたですけど、名前は聞かなかったですし。その後ママたちを見つけて別れちゃったですから。結局どこの誰かは聞けなかったです。でも、この間お兄ちゃんを見た時、そのことを思い出して懐かしい気持ちになって。だからお兄ちゃんのことはお兄ちゃんって呼ぶことにしたです」
「うーん……納得できるようなできないような……。まぁ、なんとなく理由は理解しました。その助けてくれた人とレインを重ねているというわけですね」
「はいです!」
その言葉でユースティアは内心ホッと息を吐く。つまりサレンはその思い出の人とレインを重ねているだけで、本当の意味でレインに懐いているわけではないということなのだから。しかしだからといって油断はできない。今はまだ偽りでしかないレインのへの思いが、本物になる可能性だってあるのだから。
だからユースティアもしっかり釘を刺しておくことを忘れない。
「あなたがレインに懐く理由はわかりました。ですがレインも男です。あまりベタベタしてはダメですよ、勘違いしてしまいますから」
「勘違いってなんです?」
「それは……まぁ、色々です。知りたければロゼに聞いてください」
「? わかったです。でもでも、それならユースティアさんはいいんです? ユースティアさんもサレンと同じ女ですよ?」
「わ、私は大丈夫です。レインは私の従者ですから。むしろ一緒にいることが当たり前なんです」
「わぁ、じゃあユースティアさんもお兄ちゃんのこと大好きなんですね!」
「だいすっ——!?」
屈託のない、まっすぐなサレンの言葉にたじろぐユースティア。邪気の無い言葉というのはだからこそ厄介だ。サレンの瞳は、言葉は鏡のようにユースティアの心を映し出す。
「……だとしても、私にその言葉を口にする資格はありません」
「ユースティアさん?」
「あぁいえ、なんでもありません。今日は後は夕食をとって休むだけです。明日に向けてしっかりと英気を養いましょう」
「はいです!」
そしてその後、部屋にやって来たレインとロゼと共に食事をとりユースティアはロドルでの初日を終えるのだった。
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夜が更け、月が天高くまで上り詰める頃のこと。
「……あれが、聖女様」
村長宅、与えられた自室の中でイミテルは先ほど出会ったばかりである聖女——ユースティアとサレンのことを思い出していた。
ユースティアとサレンの姿を見た瞬間、ドクンとイミテルの胸が跳ねあがった。しかしそれは本当に一瞬のことで、ともすれば気のせいではないかと思ってしまうほど刹那の感覚だった。しかしその感覚は確かにイミテルの中に刻みこまれ、イミテルの心をざわつかせていた。
「ダメ、眠れない」
そのせいだろうか。イミテルはなかなか眠りに着くことができずにいた。
「……少し出かけよう」
眠れないのにベッドにしてもしょうがないと判断したイミテルはウダンとマヅマを起こさないようにそっと部屋を出て散歩に出る。少し栄えているとはいえ村は村。夜にやっているような店はなく、村を照らすのは月明りだけだ。しかしそんな静かな村がイミテルは嫌いではなかった。
人気の無い村の中を歩いているだけで、心が落ち着いていくのを感じる。しかしそれも長くは続かなかった。不意に響く足音。イミテルは音のした方に素早く視線を向ける。
「……誰」
「え、あ……イミテル……さん?」
「あなたは……誰?」
「えぇと。レインです。レイン・リオルデル。ユースティア様の……聖女様の従者をしています」
イミテルの前に現れたレイン。この夜の出会いがもたらす意味をイミテルも……そしてレインも、誰も知る由はなかった。
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