第15話 イミテル
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「えっと……この方たちは?」
「あぁイミテル。ちょうどいい所に。ちょっと前に話しただろう。この方たちがお前に会いたいって言ってた贖罪教の聖女様達だよ。お前のためにわざわざ来てくださったんだ。挨拶しときな」
「この方たちが……えっと、どうも。イミテルです」
イミテルと名乗った少女はいまいち感情の読みづらい表情でペコリと頭を下げる。
「こちらのお二人がユースティア様とサレン様、贖罪教の聖女様だよ。隣のお二人は従者のリオルデルさんと使用人のティーチャルさんだ」
「……そうですか。ユースティア様にサレン様ですね。覚えておきます」
そんなイミテルの物言いにレインは僅かな引っかかりを覚える。まるでユースティアとサレンのことを名前すら知らなかったかのような物言いだ。顔を知らないということはあっても、聖女の名前を知らないなどということはまずありえない。
サレン以外の二人も同じ疑問を抱いたようで、それに気づいたマヅマが慌てて弁明するように言う。
「あぁごめんなさいね。この子記憶がないみたいで。それでユースティア様達のことも知らないんです」
「記憶がない?」
「えぇ。私達が拾った時には名前以外何も覚えていなくて。そのせいでちょっと常識に疎い所もあるんですけど、悪い子じゃないんです」
「それじゃあどこから来たかもわからないんですか」
「はい。記憶を取り戻すために色々としているんですけど、どれも上手くいってないんです」
「なるほど……記憶がない、ですか。大変ですね」
「……いえ、ウダンさんもマヅマさんも、村の皆さんも私の良くしてくれますから。大丈夫です。それよりも、私に何か用があったのでは?」
「そうでした。あまり長居しても迷惑ですから手短に話すとしましょう」
「あ、それならどうぞこちらに。ずっと立ち話というのもなんですから」
そしてユースティア達はウダンに案内されて客室へと入る。マヅマが手早くお茶を用意し、ササっとユースティア達の前に置く。
そしてユースティアは挨拶もそこそこに本題をきりだす。
「私達がこの村に来たのは、あなたの持つ能力の真偽を確かめるためです。私達聖女と同じ力、罪を浄化する力を持っていると聞きましたが本当ですか?」
「……わかりません」
「わからない?」
「ただ……なんとなくわかるんです。見えるんです。人が心の中に持つ黒い塊が」
「つまり罪を保有している人がわかると」
「すごく黒くないとわかりませんけど。見えたら取り出すだけです。こう、胸に手を当てたら出てきますから」
「取り出すこともできる……取り出した後はどうするんですか?」
「消えます。私の中に吸い込まれるようにして」
「あなたの中に? 罪を吸収しているということですか?」
「さぁ、わからないです。そうかもしれないですし、そうじゃないかもしれないです」
「……自覚無き能力というわけですか。これは少々厄介ですね」
「どうして厄介なのです?」
「現状あるのは証言だけですから。本当かどうかもわかりません。もし本当だったと仮定して。なぜそんな能力を持っているのか、記憶が無ければそれすらもわかりませんから」
「……すみません。何も覚えてなくて」
「いえ、記憶が無いのはあなたの責任ではないですから。この村に来る前から記憶がないんですか?」
「はい。気付いたらこの村にいましたから」
「この子は森の中で倒れている所を村の若い衆が見つけたんです。それで私達の所まで連れてきて。起きた時にはもう記憶はありませんでした」
「なるほど……」
ユースティアはジッとイミテルのことを見つめる。言葉にはしないが、魔人が擬態しているのではないかと疑っていたからだ。しかしどれほど注意深く観察してもイミテルが魔人であることを示す証拠はない。それでもユースティアはイミテルにどこか違和感を覚えずにはいられなかった。
(こうして見る限りは普通の人だ。それなのに、なんだこの違和感)
しかし現状ではそれは違和感以上のものではなく、深く追求できるほどのものではなかった。イミテルに少しでも悪意を感じれば話は別だっただろうが、イミテル自身から感じるのは無垢さだけだ。何にも染まっていない白さをユースティアは感じていた。
(だからこそ危うい。記憶を取り戻すことがきっかけで暴走しないとも限らない。注意深く見ないと)
「あの……なにか?」
「いえ、なんでもありません。イミテルさん、申し訳ないのですがあなたの能力を使うのをしばらく控えていただけませんか?」
「? どうしてですか?」
「どんな能力か正しく把握できていない以上、私としては危険だと判断するしかありません。ですので、確かめさせてください。私が直接見て判断します。ですので、その力を使うのは私が近くにいる時だけにしてください」
「……わかりました」
「あの、危険な能力なんですか? イミテルの力は」
マヅマは不安げな表情でユースティアに問う。イミテルの面倒を見て、実の娘のように可愛がっているマヅマからすれば不安に思うのは当然だろう。
「あくまで可能性がある、というだけです。大丈夫ですよ」
「ならいいんですけど……」
「今日このあたりで。これ以上は遅くなって迷惑になってしまいますから」
「あ、すみません。たいしたお構いもできず」
「いえ、気になさらないでください。行きましょう」
「あ、はい。わかったです。お邪魔しましたです」
「失礼いたします」
「えっと、失礼します」
「イミテルさん、明日の朝迎えに来ますので、詳しい話はその時また。よろしくお願いしますね」
「……わかりました」
現状でこれ以上得られる情報は無いと判断したユースティアは村長宅を出る。ウダンとマヅマは最後までちゃんともてなせなかったことを気にしていたが、ユースティアは苦笑しながらも気にすることはないとだけ伝えて宿へと向かった。
その道中でサレンがふぅっと息を吐く。
「緊張したのですぅ」
「失礼ながらサレン様は何もされていないと思いますが」
「そうですけど、それでも緊張するものは緊張するのです。場の空気に当てられたのです」
「ただの顔合わせでそこまで緊張されるとなると、この先が思いやられますね。いつもユースティア様が一緒にいてくださるわけではないんですよ」
「あぅ、それもそうですけどぉ」
「ロゼ、慣れないサレンに多くを求めるのは酷ですよ。今回は私が主導で動きますから。まずは空気に慣れることから始めましょう」
「……少しは変わったかと思いましたが訂正します。変わりませんね、ユースティア様は」
少しだけ呆れを滲ませてロゼは言う。しかしこれは別にサレンを庇うために言った言葉ではない。その真意は至極単純だ。今の言葉を言い換えるならば「私が勝手にやるから、サレンを動かすな。下手ことをされる方が迷惑だ」である。その真意がわかったからこそ、ロゼは呆れたのだ。この真意に気づかなかったのはサレンだけだ。
「そうでした。一つ謝罪しなければいけないことがあります」
「謝罪?」
「はい。宿の部屋なのですが手違いで二人部屋が二つしか取れませんでした。他の宿も現状は空いていませんでしたので。今回はその部屋に泊まっていただくことになります」
「え? 二人部屋が二つですか?」
「はい。私の不手際です。申し訳ありません」
「わー、じゃあ今日は一人で寝なくてもいいですね! やったです!」
そう言ってロゼは頭を下げる。しかしユースティアからすればそんな謝罪などどうでも良かった。二人部屋が二つ。つまり、誰かがレインと同室にならなければいけないということなのだ。サレンだけは夜一人で寝なくていいことに喜んでいたが。
「し、仕方ないですね。誰にでもミスはありますから。それでは私がレインと——」
「サレンお兄ちゃんと一緒の部屋がいいです!」
「は?」
一瞬本気の殺気が出るユースティア。しかしそれをサレンに気づかれるよりも早く抑え込む。
「サ、サレン? レインは私の従者ですから私と同室になるべきだと思うのですが」
「え、でもサレンお兄ちゃんと一緒がいいです」
「ですからレインは——」
「いえ、お二人に同室になっていただきます」
「「え?」」
「部屋割りはユースティア様とサレン様。そして私とリオルデルさんです。お二人と一緒にして何かあってはいけませんから」
「何かって、レインはそんな人ではありません!」
「それは絶対ではありません。何かあってからでは遅いのです。あなた方はこの世界の希望そのもの。万が一があってからではいけないのですから」
「? 何かってなんなのです?」
「サレン様はまだ知らなくてよいことです」
ユースティアはそんなロゼに対抗しようと言葉を探すが、上手い言葉が見つからない。話の渦中にいるレインは言葉を挟めるわけもなく、黙って聞いているしかない。レインが従者だから一緒にいさせてくれと言うこともできたが、ロゼはそんな言葉では納得しないだろう。
ユースティアからの視線をひしひしと感じつつ、レインは心の中で謝ってそれを無視する。
「部屋割りは今言ったもので決定します。異論は認めません」
こうして宿の部屋割りが決定したのだった。
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