第10話 来客
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
聖女会合の翌日、朝食を食べている時にふと思い出したようにユースティアが言った。
「あ、そういえば言い忘れてたけど、今日サレン来るから」
「そうか……って、は?!」
あまりに自然に言われてしまったせいでスッと流しそうになったレインだったが、さらっと飛んでもないことを言われレインは思わず手にもっていたスプーンを落としてしまう。
ユースティアはそんなレインの様子に気付くことなくモクモクとパンをちぎって食べている。まだ完全に目が覚めきってはいないのか、眠たそうだ。
「いやいや、なんでそんな大事なこと忘れてんだよ!」
「なんでって……忘れてたから忘れてた。それだけだ。今言ったんだからいいだろ」
「いや良くないから! 客人が来るなら用意しないといけないもんいっぱいあるだろ!」
「んー……まぁ、適当でいいんじゃないか? 後輩だし」
「だからよくねーよ! 何時だよ」
「お昼だったと思う」
「昼か。だったら昼食も用意しとかないとな。飲み物とかも全然ないし……サレン様は紅茶とか大丈夫な人か?」
「んー……大丈夫だったと思う。昨日も飲んでたし」
「じゃあ飲み物はそれでいいか。後は茶菓子とか適当に買ってくるか」
「今から買いに行くのか」
「行くしかないだろ。じゃないと今のうちには何もないんだ」
「大変だな」
「誰のせいだと思ってんだよっ!」
「? 誰だ?」
「お前だよ! とにかく買いに行って来るから、家で大人しくしてろよ」
「もとより家を出るつもりなんてない」
そしてレインは自分の朝食もそこそこにサレンを出迎えるための買い物に向かうのだった。
その後、買い出しを終えたレインは客間を整理し昼食の用意をした。雇っている使用人達に任せればいいとい話だが、ユースティアが家に居る日は使用人はやってこない。そして今日は本来一日何の予定もない休日だったので、使用人達が家にいなかったのだ。つまり必然、全ての用意はレインがすることになる。
バタバタと右往左往するレインを尻目にユースティアはのんびり本を読んでいる。
「暇なら少しは手伝ってくれよ!」
「嫌だ。断る。したくない」
「お前はそういう奴だよなっ!」
結局最初から最後までユースティアは何も手伝わず全ての用意が終わる頃にはサレンが来る時間が近づいていた。
「はぁはぁ……なんとかギリギリ間に合った……」
「おぉ、流石だなレイン。客間が綺麗になってる」
「あのなぁ……って、はぁ。もう言い返すのもしんどい。後はサレン様が来るのを待つだけだな。お昼も用意はしたけど……やっぱりコックに来てもらった方がよかったかな」
「ご飯なんて食べれたらなんでもいいだろ」
「皆が皆お前と一緒だと思うなよ」
「それに客人とはいえ、相手はサレンだ。私に対して何か言えるはずがない」
「確かにそうかもしれないけど、そんなとこで先輩の強権使うなよ」
ユースティアの先輩としてあるまじき言葉にレインが呆れていると、来客を知らせるベルが鳴る。
「来たか。じゃあレイン。私はここで待ってるから連れてきてくれ」
「はいはい。ほっとにお前人任せだよな」
「これも従者の仕事だ」
「俺がいなかったらどうするつもりなんだよ」
「死ぬ」
「そこまでかっ!」
「ふふ、冗談だ。ほら、サレンを待たせるな」
「はいはい」
部屋を出たレインはそのまま足早に玄関へと向かう。玄関の扉を開けると、そこには予想通りサレンが立っていた。相当緊張しているのか、桃色の髪が元気な下げに萎れ、ユースティアと同じ紅い瞳は不安に揺れていた。
「あああのあのあの、ユユユ、ユースティアさんのお家で間違いないでしゅか」
「(思いっきり噛んでるし……)えぇとはい。ここがユースティア様の家で間違いないですよ」
「はぁ……良かったですぅ。もし違ってたらどうしようかと思ったです。あ、サレンはサレンです。お初にお目にかかりますです。えっと、あなたはユースティアさんの従者さんです?」
「はい。ユースティア様の従者をさせていただいております、レイン・リオルデルです。好きに呼んでいただいて構いませんよ」
「えっと、それなら……お兄ちゃんです!」
「おにっ?! ……え、えぇと、なぜお兄ちゃんと?」
「? お兄ちゃんはお兄ちゃんですよ?」
ダメだ、全く話が通じてねぇ。とレインは若干ひきつった笑顔になる。しかしサレンはお兄ちゃんという呼び名がしっくりきたのか何度もお兄ちゃんと連呼している。そしてレインの立場上、サレンに強く言えるはずもなく黙って受け入れるしかない。
「ま、まぁわかりました。ユースティア様がお待ちですので、行きましょうか」
「はいですぅ!」
レインはサレンを連れてユースティアの待つ客間へと向かう。サレンは初めて訪れるユースティアの家の中に興味があるのか、キョロキョロと周囲を見まわしている。
「はえー……」
「どうかしましたか?」
「あ、なんでもないです。ただユースティアさんはあんまり高価な物に興味ないのだなぁと思ったです」
「あぁ、そうですね。ユースティア様はあまり物に執着される方ではありませんから」
「そうなのですねぇ。サレンはお金も高価な物も大好きなので、自分のお家を手に入れたら買いたい物がいっぱいあるのです」
「そうなんですね」
「キラキラしてる宝石と甘いお菓子が特に好きなのです。サレンはいっぱいのお金を稼ぐために聖女になったと言っても過言でもはないのですぅ」
「そ、そうなんですね……」
「お金いっぱい貰えて、聖女になれて幸せなのです」
お金のことを語るサレンは目をキラキラと輝かせていた。やっぱり聖女になるような人はアクが強いんだな、と今までで会って来た聖女達のことを思い出してレインは苦笑する。
「お兄ちゃんはお金好きなのです?」
「大事なものだとは思いますが、好きというほどでは……もちろん嫌いではないですが。生きていくためには必要ですからね」
「むぅ、真面目な答え過ぎて面白くないのです」
「あはは、すいません。着きましたよサレン様」
「は、はいですぅ。こ、この中にユースティアさんが……」
「そんなに緊張されることないとはないと思いますけど」
「あぅ、そう言われても聖女会合以外でユースティアさんに会うのなんて、初めての挨拶の時以来なのです……」
サレンからすればユースティアは年齢が四つしか離れていないとはいえ、大先輩だ。聖女としての実力も実績もかけ離れている。緊張するなという方が無理だろう。
「まぁ、優しい方ですから大丈夫ですよ」
あくまで人前では、と心の中で付け足してレインは部屋の扉をノックし、ユースティアからの返事が待って扉を開ける。部屋の中ではレインが先ほどまでのダラけた雰囲気とは違う、凛とした雰囲気を纏ったユースティアがそこにいた。
「来ましたね。待っていましたよサレン。どうぞ座ってください」
「は、はひっ!」
「ふふ、そんなに緊張することありませんよ。お昼ご飯は食べてきましたか?」
「い、いえ。まだです」
「ならちょうど良かったですね。レインが昼食の用意をしてくれていますから」
「お兄ちゃんがですか?」
「お兄ちゃん? レインのことですか?」
「そうですぅ。なんだかお兄ちゃんっぽいなって思ったので……えっと、ダメです?」
「ダメ……ということはありませんが。人前では避けた方がいいですね。よからぬ誤解を招きますから。ここでは問題ありませんよ」
「よ、良かったですぅ」
「それじゃあまずは緊張をほぐすためにも一緒に昼食をとりましょうか。レイン、持ってきてくれますか」
「はい。わかりました」
「あ、お兄ちゃん……」
部屋を出ようとしたレインを目で引き留めるサレン。ユースティアと二人きりになるのが不安なのだろう。そんなサレンの気持ちを感じ取ったレインは少しかがんでサレンと目線の高さを合わせる。
「すぐに戻って来ますから、大丈夫ですよ」
「……はいですぅ」
若干ユースティアから感じる視線がきつくなった気がしたが、それは努めて無視する。後で何か言われそうだなと思いつつレインは部屋を後にするのだった。
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