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罪喰らいの聖女  作者: ジータ
第二章 最強聖女と偽りの聖女
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第8話 ルーナルの考察

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 ルーナルが取り出した漆黒の腕輪。ナミルでユースティアが魔人から回収した腕輪だ。ユースティア達ではどんなものなのか解析できなかったので、発明家であるルーナルに解析を頼んだのだ。


「これはねぇ、実に興味深い代物だったよ。魔術回路からなにから、既存のものとはまるで違う。これの開発主はどんな頭をしているんだろうねぇ」

「あなたでもそう思うほどのものですか?」

「あぁ。これはすごいね。素直に感動したよ。でも勘違いをするんじゃあないよ。私でも同じものは作れる。だが、私はこんなものを作らない。どんな頭をしてるというのは、私より優れているというわけではなく、頭のネジが外れているという意味だ。まぁ確かに開発者などは頭のネジが外れている方がいいのかもしれないがね。そういう観点から見るならば私はこの腕輪の開発者に劣るかもしれない」

「具体的にどんなものなのですか?」

「これに組み込まれているのは条件術式だ。定められた条件を満たすことでこの腕輪に組み込まれた魔法が発動する。これに組み込まれているのは【影魔法】だった。まぁそれは使われた君達が一番よくわかっていることだろう」

「それはまぁ確かに……あれは確かに【影魔法】でしたからね。でもやはりあれだけの規模の魔法を展開できるということは相当優秀な腕輪なんですね」

「いや、そうでもない」

「……はい?」

「言っただろう。この腕輪と同じ性能のものならば私でも作れると。この程度のものならすぐに真似して作ることはできる。作るだけなら、という話に限るがね」

「話がよく見えないのですが」

「まぁそう焦ることはないじゃないか。と言っても、君は納得しないだろうね。単刀直入に言うならば、この腕輪の素材は魔人そのものだ。魔人の血、肉、骨、それらすべてを使って作りあげられている」

「……え、どいうことですか……それ。魔人が、魔人を使った道具を使ってるって……そんな」

「別にそれほどおかしな話じゃない。実はね、こういう魔道具というのは結局生き物を使うのが一番効率がいいんだ。魔力の伝達率というのかな? そういうものがグンと跳ね上がる。最近は優秀は金属も多いが、それでもまだ完全じゃない。人の体を使うことができればと私も何度か考えたものさ。昔の話だがね。人だって人を利用することがあるんだ。魔人が仲間の魔人を使ってもなんらおかしくないさ」

「そうかもしれないですけど……じゃあつまり、魔人の側にあなたと同程度の頭脳を持つ開発者がいると考えてもいいということですか?」

「私と同程度がどうかは知らないが、そういうことになるね。もしくは人間の側に裏切り者がいるかだけど……まぁこの可能性は低いだろう。魔人が人間の作ったものを使うわけないからね」

「えぇ。そうでしょう。予想はしてましたが、あまり嬉しくない結論ですね」

「まだ話は終わっていないよ。この腕輪は至極単純なものだ。先ほども言った通り、条件術式が組み込まれた腕輪。その条件は、人の血肉を捧げることだ」

「「っ!」」

「話を聞く限り、かなり広大な影の世界を構築していたそうじゃないか。いったいそれだけの規模の【影魔法】を使うのに、どれだけ生贄を捧げたんだろうねぇ。百や二百どころの話じゃない。もっと、もっとだ。それだけの命を使わなければこの腕輪は大した性能を発揮しないだろう」

「それはなんとも……胸糞の悪い話ですね」

「あぁそうだろうとも。私もそう思う。この腕輪は……面白くない」


 心底憤慨した様子でルーナルは持っていた腕輪を机の上に投げ捨てる。


「魔人の体などという高等な素材を使っておきながら、作りあげたのはこの程度の性能の腕輪。つまらない。全く持ってつまらないな。しかもこの腕輪を使うには人の血肉まで要求する。技術も頭脳を認めよう。でもそれだけだ。生贄なんてものを使うのは開発者として邪道だ。この腕輪の開発者にはそれがわかっていない。この開発者が求めているのは自分の発明品がどこまでの被害を生み出すことができるかってことくらいじゃないかな。もっと見た目とか、拘るところはいくらでもあったはずなのに。なんだいこのデザインは」

「怒るポイントが少し違う気がしますけど……」

「私にとっては大事な所さ。私が発明品に求めるのは面白くあること。それに性能がついてくればいいと思っている。それに対してこの開発者が求めるのは性能だけだ。きっと私とはそりが合わないだろうね」

「これを見ただけでそこまでわかるんですね」

「もちろんだとも。何年やってると思うんだい。それくらいはわかる。この腕輪に関して言うなら、もっと言えることもある」

「まだ何かあるんですか?」

「あぁ。この腕輪はおそらく試作品だ。組み込まれている魔術回路に粗が見える。これだけの物を作れる人がこの粗に気付かないはずが無い。私ならこれを完成品にはしない。まさに試作品でちょうどいい出来だ」

「なら、もっと完成度の高いものがすでにあると」

「そう考えるのが自然だね。それと量産できるかという話だけどね、魔人の体を用意できるなら量産も可能だ。コスパがいいとは言えないから可能性は低いけどね」

「つまりできなくないと……そういうことですか」

「そういう結論になるね」

「はぁ、面倒なことになりそうですね」

「私はがぜん東側に興味が出たね。魔人だらけの地獄だとは聞いていたけれど……これを作れる土台があるなら、他にどんなものがあるのか気になるというものさ」

「だからって興味本位で東側に行こうとしないでくださいね」

「もちろんそんな馬鹿なことはしないさ。命あっての物種。それに今の環境には満足しているんだ。好きに開発できるこの環境にね」

「だからといってゴミを増やし続けられるのも困りますけどね」

「これは手厳しい。まぁとにかく腕輪に関する解析結果はこの程度かな。満足いただけたかい?」

「えぇ。それだけわかれば十分です。それの開発者はルーナルのような変人だということもわかりましたし」

「変人と言われるのは慣れているが、同一視されるのは心外だな。おっと、そうだ。レイン、君に一つ話があったんだ」

「俺に話ですか?」


 それまで二人の会話を黙って聞いていたレインは急に声を掛けられてビックリしてしまう。


「ナミルで『魔人化』したんだろう。ユースティアの施した封印を解いて」

「えっと……はい」


 ルーナルはレインが『魔人化』できることを知っている数少ない人物の一人だ。そのせいでレインはルーナルから興味を持たれている。事あるごとに研究しようとするのだ。だからというべきか、レインはルーナルから話があると言われると若干身構えてしまう。


「ククク、そんなに身構えることはないよ。今までにも何度か同じことがあった。君がユースティアの封印を無理やり解いて魔人化したことはね。今回ほど深くまで堕ちたことはないそうだが。その方法は《憤怒》の罪弾を自身に撃ち込む、というものでいいのかな?」

「……そうですね。自分の中の罪を爆発的に増やすために……あんまり褒められた方法じゃないですけど」

「そう。褒められた方法じゃない。だが奥の手として魔人化というのは非常に有用なものだと思うんだ」

「ルーナル? あなた何を……」

「まぁユースティアは黙っていたまえ。これはレインの問題だ。今後、同じような状況に陥った時、君は同じ手段を選ばないと言い切れるかい?」

「それは……」


 断言はできなかった。もし命の危機に陥った時、誰かを守らなければならないとき。最後の手段として『魔人化』を使う可能性はあった。それが最悪の手段だとしても。


「そう。君は選ぶ。生き残るために。そこで私は考えたのさ。それならいっそ、魔人化をコントロールできるようになればいい、とね」

「魔人化をコントロール?」

「それができれば君にとって大きな力になるだろう。魔人の強さは君もよくしっているはずだ」

「でもそれは——」

「レイン、君は弱い」

「っ!」

「ユースティアを見ていればわかるはずだ。君の強さはユースティアに遠く及ばない。これからもユースティアと共にあるならば、今以上に強い魔物と、魔人と戦うこともあるだろう。その時使える手札は一つでも多い方がいい。そういう私の考えは間違っているかな?」

「……間違ってないです。俺は弱い。それもあなたの言う通りだ」

「君が魔人というものに嫌悪を抱いていることも知っている。それでも、その体内に宿る力は紛れもなく君の力なんだ。ならいっそ受け入れてしまった方が楽だと私は思うよ。すぐには無理でもね。というわけで作ったのがこれさ」


 そう言ってルーナルが取り出したのは、いくつかの錠剤だった。血のように赤いその錠剤をルーナルは半ば無理やりレインに手渡す。


「これは?」

「そうだなぁ、名づけるなら『罪丸』。それを飲めば好きなタイミングで魔人化できるはずだ。それには罪弾と同じように罪を込めてあるからね」

「はい!?」

「わざわざ銃を自分に向けて撃つ必要がなくなるということさ。画期的じゃあないか。それにそれだけじゃない。その罪丸にはユースティアの封印の力も込められている。それによってある程度は冷静さも保てるはずさ。あまり深く堕ち過ぎれば話は別だがね」

「なんでそんなものを」

「決まっている……その方が面白そうだからだ!! 制御できなかった力を制御できるようになる。その方が面白いに決まってるじゃないか!」

「だからって……」

「ま、使うか使わないかは自由さ。私としては使ってほしいがね」


 渡した後のことを知らないとルーナルは決断をレインに委ねる。レインは手の中にある錠剤をジッと眺めるのだった。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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